時のよすがに導かれて   作:そういう日もある

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5話

★〈支援会話:シルヴァン〉

 

 無事にベレスが青獅子の学級に着任した。

 流石にないとは思いつつも、他の学級に持っていかれないかドキドキしていたので一安心だ。

 軽い自己紹介を終えた生徒たちは早速新任教師の実力を見るため、訓練場に向かった。

 王国は騎士の国。

 女性とはいえ教師ならば武の腕を求められる。

 

「いやー眼福眼福。あんたもそう思いますよね」

「ああ、そうだな。俺のこと避けてなかったか?」

 

 ベレスとイングリットが制服のまま剣を交わし合うので、スカートがひらひらと舞っている。

 そんな様子をフロルが眺めているとひと汗かいたシルヴァンがやってきた。

 

「面白いことを言うもんだ。

 俺はフェリクスと違ってどっちが王様になってもいいと思ってますよ」

 

 フロルは、嘘つきめと心の中で呟いた。

 フェリクスもディミトリに重い感情を抱いているが、シルヴァンもなかなか負けていない。

 スレンに対し、隣接するフロルのイーハ領とシルヴァンのゴーティエ領は互いに協力することがある。

 その際に何度か顔も合わせたが明らかにフロルを避けてきていた。

 

「一つ言えるのは俺よりはディミトリの方が王に相応しいってことだ」

「アンタも面倒くさい立場みたいですね」

「どうだろうな……あ、負けた」

 

 ベレスが綺麗に足を刈り取った。

 イングリットが尻もちをついたところで剣先が喉に触れる。

 傭兵ならではの技を見て感心する。

 既に青獅子の学級で一二を争う剣技のフェリクスも負けている。

 シルヴァンは戦うつもりがなさそうなので、残る強者はディミトリだけだ。

 

「ありゃ分が悪いですね。戦いに相当慣れてる手合いだ。

 おかしなことに年の割に戦術の深さを感じる」

「そこまでわかるならお前もあっち側だよ。

 まったく王国は誰も彼も戦いの才能があって困る」

「それじゃ俺と戦いませんか?」

「なんだ、雑魚狩りか?」

 

 先ほどシルヴァンとディミトリが肩慣らしにやりあっているのを見ていた。

 どう考えてもフロルに勝ち筋がなかった。

 

「いやいや、あんたが避けられてるのって皆知らないからだと思うんですよね」

「戦えばわかる、王国流だな」

 

 シルヴァンが奇襲気味に振るった槍を、フロルは咄嗟に槍で弾いた。

 

「へぇ、悪くないじゃないですか」

「強引な奴め!」

 

 三度槍を合わせた時点でフロルは勝ちを諦めた。

 挟まれるフェイントに引っ掛かり、対処に遅れが出始める。

 槍の基本にして全ては突きと薙ぎの二つ、つまり才能の差が顕著に出るのだ。

 そしてフロルに才能はない。

 

「そういえばハピちゃんとはどういう関係で?」

「馴れ馴れしいな。

 粉をかけるのは良いが火傷するなよ」

「ははっもう振られてますよ」

「そりゃ残念だ。

 ハピに恋人が出来たなら嬉しいんだがなっ!」

 

 やはり勝てないことを再確認したので、悪あがきに移る。

 

「ゼイ!」「ッ!!」

 

 振り下ろしたフロルの手刀がシルヴァンの槍の穂先を粉砕する直前。

 シルヴァンは大きく距離をとった。

 

 ディミトリと長く付き合っているだけあって無理か。

 

「それ、ずるくないですか」

「ずるいと思うならシルヴァンもやっていいぞ」

 

 正直なところ義務感で鍛えた槍より、格闘の方が得意なくらいだ。

 槍同様、才能があるわけではない。

 ただし、ただの拳もブレーダッドの紋章を通して用いれば、岩を素手で粉砕できるようになる。

 勿論、兵種に縛られる必要なんてないので、槍を持ちながら、拳を振るうし、魔法も使える。

 

「まじですかい!」

 

 驚いたような口調は軽く、シルヴァンの動きに焦りはない。

 

 フロルはこれは無理だなと内心諦めた。

 定石通り、光の攻撃魔法で逃げ場を潰して踏み込む。

 踏み込んだ先に旋風槍の構えが既に置かれていた。

 それを確認して、フロルは槍を手放した。

 

「降参、降参」

 

 フロルが見出した勝ち筋は、シルヴァンが攻撃魔法を対処する隙をつく以外にない。

 しかしシルヴァンは読み切って攻撃魔法を無視した。

 踏み込んでいたら槍を巻き取られていただろうし、踏み込まなければ突きで終わり。

 つまり詰みだ。

 

「……いやー勝った気がしないんですけど」

「俺は勝てる気がしなかった」

 

 地面に落ちた訓練用の槍を拾い上げ、歪みがないかを確かめる。

 

「でもこれであんたって人がなんとなく解りましたよ」

「どうだった?」

「わかんないってことがわかりましたね。

 まあ、悪い人じゃあなさそうだ。

 今まで失礼な態度をとったこと、謝罪します」

 

 シルヴァンは巫山戯た態度をやめて、頭を下げた。

 

「気にするな。俺がお前の立場ならそもそも謝ってない」

 

 ゴーティエ家はディミトリを次の王に推す派閥だ。

 フロルの父とは将来的な敵になる。

 指摘されて、シルヴァンはそれでも笑顔を見せた。

 

「俺はあんたと殿下が仲良くなれると思いますよ」

「あいにく玉座は一つしかないんだよ」

 

 フロルはつれない態度で答えた。

 ちょうど、隣ではディミトリがベレスに負けていた。

 

★〈支援会話:マリアンヌ〉

 

 フロルは必死になって愛馬のブラッシングをするが、そっぽを向かれたままだ。

 

「許してくれよ~」

 

 愛馬ヴァレリアはフロルと同じ日に誕生したらしい。

 父に贈られて以来、フロルとヴァレリアは共に育った。

 馬の、特に軍馬の平均寿命は二十年と言われているが未だに元気そのもの。

 飛竜もペガサスも群れの配下にし、魔獣を蹄で撲殺するほどである。

 そんな暴君に育ったヴァレリアは気位が高い。

 自分の物に対する執着心も強い。

 フロルが襲撃の際に他の馬に乗ったのが気に入らないのだ。

 気候の変化と群れから離されたストレスもあり、愛馬はより一層気難しくなっていた。

 

「……あの」

「おわっ!」

 

 急に背後から話しかけられて、ブラシを愛馬にぶつけてしまう。

 

「へぶっ!」罰としてヴァレリアの尻尾ビンタがフロルに襲った。

 

「ご、ごめんなさい」

「良いんだよ、マリアンヌ。

 元々の原因は俺にあったんだし」

 

 フロルが話しかけられた方に振り返ればぺこぺこと頭を下げるマリアンヌがいた。

 マリアンヌ=フォン=エドマンドはフロルとは別の金鹿の学級に所属している。

 儚げな印象の美人だ。

 ただ、目の下の影と笑顔を見せない表情が、その印象を欠けさせている。

 

「それで、初めましてだけど何の用かな?」

「その……先ほどから、

 お話しているのが聞こえたので。

 ……馬の言葉が解るのかなと」

「あー」

 

 小さく嘶くヴァレリアは、フロル以外と心が通じ合っていることに驚愕している。

 マリアンヌは珍しい紋章の力により、動物と話すことができるのだ。

 

「申し訳ないけど、他の馬の言っていることは解らないよ。

 ヴァレリアが特別なんだ」

 

 フロルが自慢げに胸を張った。

 

「特別?」

「そう。普通動物になにかを伝えたい時は、

 言葉の音と動作を繋げることで教えるだろ。

 止まれ走れ駆け足横歩き曲がれとかさ。

 ヴァレリアは違う。

 普通に話しかけても、初めて聞く単語でも理解するんだ」

「……そんなことができるんでしょうか……?」

「百聞は一見に如かずだな。

 ヴァレリア、後ろの右脚を使って二回床を叩いてくれ」

 

 ヴァレリアの返答は拒否だった。

 「なんでこんな小娘のために大道芸をしなければならない」とも言っている。

 馬相手に上下関係で負けているのがフロルだった。

 

「すごい……!本当に伝わってる」

 

 感動するマリアンヌにフロルは頬をかいた。

 

「まあうん。してくれなかったけど証明が出来たみたいでなにより。

 俺もヴァレリアの言葉がわかる人は初めてだよ」

「え、あ、あの……」

 

 一歩引いたマリアンヌに、フロルは首の後ろを掻いた。

 

「悪い。問い詰めたいわけじゃないんだ。

 人の詮索ができるほど俺も清い人間じゃないからな。

 それより、初めましてなのに自己紹介がまだだっただろ。

 ブレーダッド家のフロリアヌスだ。

 気軽にフロルって呼んでくれ」

「……はい。マリアンヌと申します……」

 

 フロルの差し出した手をマリアンヌが握り返すことはなかった。

 行き場のなくなった手で落ちたブラシを拾う。

 無礼なのは確かだが、触れては不幸にするとでも思っているのだろう。

 不快に感じることはない。

 

「できればたまにヴァレリアのことも構ってやってくれ。

 故郷から連れてきて落ち込んでるんだ。

 って痛い!やめろ!しゃれにならん!」

 

 ブラッシングを中断して、二人で話しているのが気に入らないのだ。

 ヴァレリアがモグモグとフロルの髪を引っ張り始めた。

 ハゲになるまでに髪の救出には成功したが涎でべちょべちょだ。

 

「ぷっ……!」

「まさかマリアンヌの笑顔を見たのがヴァレリアのお陰だとは」

「え、あれ……私、笑ってました……?」

「そりゃもうアロイスさんには負けるけどな」

 

 向けて欲しかった笑顔とは違うが、一歩前進とフロルは前向きに考えた。

 

「ヴァレリアとの相性も悪くなさそうだし頼むよ。

 俺は忙しくて構ってやれる時間もそう長くはとれないんだ。

 愚痴を聞いてくれるだけでも良い」

「でも……私なんかと一緒にいたら、きっと不幸に……」

 

 マリアンヌの言葉をフロルが遮った。

 

「よく見てくれ。

 髪の毛は噛まれたせいでべちゃべちゃだし、

 背中にはくっきり蹴られた痕が残ってるし、

 なかなか満足しないせいでブラシを持った腕が痛い。

 マリアンヌが来てくれたおかげで解放されそうなんだ。

 俺にとっては不幸から救ってくれる女神の遣いだ」

「えっと……」

 

 いきなり否定から入らないなら、押して押して押しまくるのが正解だ。

 フロルは芝居がかって両手を顔に当て、大げさに嘆きだした。

 

「駄目ならヴァレリアが脱柵して、

 大変な騒ぎになり、俺は反省文を何枚も書かされる。

 ペガサス達がヴァレリアの手で酷い目に合うだろう。

 そして大修道院は馬の支配下に落ちるのだ。

 毎日馬車一頭分の野菜を捧げなければならない。

 トマトを出したら処刑だ」

 

 ちらりと手の隙間から見ると、マリアンヌは観念して頷いた。

 

「……わかりました、少しだけなら……」

「よろしく頼むよ」

 

 今度こそフロルが差し出した手はおずおずと握り返された。

 

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