時のよすがに導かれて   作:そういう日もある

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8話

 

 王国内の闇に蠢く者の拠点を潰す、フロルは何年も前から計画を練った。

 問題はその場所だった。

 拠点を無双では発見できたが、正史では発見できない。

 

 士官学校の生徒を襲った賊の行く先が異なるためだ。

 無双では闇に蠢く者の拠点に移動したことで拠点が発覚する。

 原作では赤き谷へと逃げ込む。

 違いは闇に蠢く者と繋がるエーデルガルトが気の迷いを起こすかどうか。

 

 当然、気の迷いを起こさない可能性を想定しなければならない。

 王国分裂時の資料を漁り、アリアンロッド周辺の砦の情報を集めた。

 場所を絞ったあとは旅人に扮した傭兵騎士に探らせた。

 最終的には賊の逃げた方角が決定打となった。

 

 全てが思い通りになったわけではない。

 しかし、最善手を打ち切ったという確信がある。

 コルネリアを殺した時から、フロルと闇に蠢く者の対立は始まった。

 いずれフォドラを蝕む地虫を根絶やしにするつもりだ。

 

 第二軍のローベ伯が賊を捕捉して掃討しているとの報が届いた。

 第一軍は大きく西方に展開して、闇に蠢くものが潜む砦へと攻め込む。

 完璧な奇襲が決まった。

 闇に蠢く者達は統率が取れず、本来の力を発揮できない。

 

「ちくしょう!なんで獣共がここに!」

「知るか、焼き払え!ボルガノン!」

 

 本来、こんな序盤では見ることができない強力な魔法が降り注ぐ。

 兵達は数の差で魔法障壁の防御の中から矢の雨を返した。

 突撃したロナート卿が、一撃で指揮官らしき魔導士を槍で貫く。

 アネットの叔父ドミニク卿が城門を粉砕した。

 他にも貴族の名代としてきた紋章を持つ騎士が活躍を見せていた。

 

 しかし、全てが上手くいくわけではない。

 

 血気盛んに前進する最前列の兵が血をぶちまけて崩れた。

 

「何よこれ、信じらんない!あたしの根城をメチャクチャにして!」

 

 崩れ落ちる死体の影から、異形の女が現れる。

 その背中には三本の、自由自在に動く触手が生えていた。

 女は滑るように影の中を移動しながら、兵を切り裂いていく。

 

「遺言があるなら今のうちに言っとけば?

 あたしは聞かないけどさ!」

 

 邪悪に笑う女をフロルは知っている。

 闇に蠢く者の一人、クロニエだ。

 殺戮を阻止するべくロナート卿とドミニク卿が一歩前に出る。

 

「いやはやあれは手こずりそうですな」

「姪と近い年頃の娘と戦うのは気が引けるが、致し方ない」

 

 この拠点にクロニエがいるのはフロルもわかっていた。

 フロルはクロニエを潰しきれるだけの戦力を用意した。

 

「あれが敵の首魁だ。アッシュ、援護を頼む。

 俺も出なくては兵の後ろに隠れる臆病者と笑われる」

「はい!フロル様!」

 

 フロルが詠唱を開始し、アッシュが弓矢を構えた。

 

「このケモノとその末裔共がっ!

 あたしが相手してあ・げ・る!」

 

 クロニエはドミニク卿が振るった槍を身を屈めて避け。

 ロナート卿が投げた手槍を器用に掴み取る。

 身を回転させて触手を振り回し、ドミニク卿を吹き飛ばした。

 

「やるっ!」「おのれ小娘!」

「弱い弱い!血の薄れたケモノの末裔なんてこんなもの!」

 

 フロルの唱えた光の攻撃魔法が完成した。

 天より降り注ぐ多重の光がクロニエの肉体を焼く。

 

「ぎゃああああああああああ!!……なんて、ね」

 

 クロニエが気づけば光から抜け出して、ロナート卿に襲い掛かった。

 フロルは兵が見ているため、畏怖を口にはしなかった。

 わかってはいたが強さが人のそれではない。

 

 フロルは教会の禁忌を破って闇に蠢く者、コルネリアを解剖した。

 その肉体は内臓の配置に至るまで、人間の物とは大きく違っていた。

 女神の眷属に対抗するため彼ら闇に蠢く者は身体機能を弄ったのだ。

 

「その目!その髪!なんでケモノが今更生まれてくる!

 これからはお前たちの時代じゃないのよ!」

「口調に余裕がなくなっているぞ!」

 

 瞬きの瞬間、気づけばフロルの目の前にクロニエが迫る。

 小剣と触手の乱舞を捌ききれず、フロルの左腕が力を失う。

 歯を噛みしめて痛みに耐えるフロルを、クロニエが嘲笑った。

 

「キャハハハ!いい気味ね!」

 

 それが、騎士の逆鱗に触れた。

 

「……合わせてください、ドミニク卿」

「やる気だな、ロナート卿!」

 

 ドミニク卿とロナート卿が挟み込むように踏み込んだ。

 猛烈な連撃がクロニエを防戦一方にする。

 銀の残光が空間を埋め尽くし、クロニエの触手を二本ねじ斬った。

 

「乙女に傷をつけるなんてっ!」

「乙女というより化け物ですな」

 

 ロナート卿が突如体を捻る。

 丁度そこをアッシュの矢が通り抜け、クロニエの肩に突き刺さった。

 言葉すら不要な、息の合ったコンビネーションだ。

 

「あ、当たった」

 

 自分でも少し驚いているアッシュに、クロニエの額に青筋が浮かぶ。

 

「このクソガキがっ!」

「私を忘れて貰っては困る」

 

 クロニエがアッシュに視線を向けた瞬間、ドミニク卿が深く踏み込む。

 旋風槍が最後の触手を斬り飛ばした。

 

「あたしの……あんたたち! 絶対に許さないわよ!」

 

 クロニエが器用にも突き出された槍を踏み台に跳躍する。

 予想外の曲芸に両騎士の動きが止まった。

 

「面妖な!」

 

 宙で一回転しながらアッシュの矢を避け、フロルへと迫る。

 クロニエの顔に薄気味悪い笑みが広がった。

 片腕を失ったフロルに防ぐ手段はないと考えたのだろう。

 

「キャハッ!主を守れない騎士なんて笑えるわ!」

 

 だが、激怒していたのはフロルの愛馬、ヴァレリアも同じだ。

 くるりとその場で向きを変える。

 二度目はないとばかりに後ろ蹴りが、浮くクロニエを撃墜した。

 

 人間であれば真っ二つに即死する一撃。

 

 改造されたアガルタの民でも内臓がぐちゃぐちゃに破壊される。

 膝をついたクロニエが血の混じった胃液を口から撒き散らした。

 禍々しい短剣が手の中から零れ落ちる。

 

「ごひゅっ……げほっ……」

 

 茫然自失となったクロニエを影が覆った。

 冷たい翡翠色の瞳が、その無様な姿を見下ろす。

 

 ようやくだ。ようやくこれで二人目を殺せる。

 

 ヴァレリアに乗ったフロルが日光を遮り、片腕で槍を構えた。 

 

「冥府で待っていろ、直ぐに次を送ってやる」

「……お願い殺さな……」

 

 あれほど強かったクロニエの最期はあっけないものだった。

 クロニエの絶望した顔が、くるくると宙に舞う。

 首から上を失った身体から、噴水のように血が噴き出した。

 

 フロルが一呼吸置くと、声を張り上げた。

 

「首魁は打ち取った!残党を根絶やしにせよ!

 主が我らの勝利を約束している!」

 

 歓声を上げる兵たちが、残った魔道士に襲いかかった。

 

 

 1180年、竪琴の節

 ローベ伯の起こした軍は、当初の予想に反して大きな被害を出しつつも賊討伐を成し遂げた。

 被害の多くは賊が不審な魔道士集団を引き入れていたことが原因である。

 ただちにローベ伯は調査を開始した。

 そして西方教会が、王位継承権第二位のフロリアヌスの暗殺計画を企てていたことを発見する。

 兵を挙げた執政リュファスとロナートは中央教会に伺いを立てることなく、西方教会へと進軍。

 暗殺計画の首謀者として多くの司祭を処刑し西方教会の解散を要求した。

 間接的に計画に関わったとして、西方諸侯の数少ない国王派であるエリデュア子爵には蟄居が命じられた。

 力強く迅速な対応は王国の民から支持を得て、王国の実権が誰にあるのかを内外に示した。

 しかしこの動きはディミトリを支持する国王派からは強く非難され、水面下での対立が激しさを増した。

 

★〈支援会話:レア〉

 

 フロルは全てが終わった後、ガルグ=マク大修道院に戻っていた。

 幸いにも腕は回復魔法でくっついたので五体満足だ。

 レアを茶会に誘うと了承された。

 今回フロルが用意したのはカミツレの花茶、レアの好みだ。

 事前調査はぬかりない。

 給仕担当の司祭に尋ねると快くレアの好みを教えてくれた。

 レアは紅茶の香りを楽しんで喜んだ。

 

「嬉しい……!私の好きなお茶を用意してくれるなんて。

 どこで聞いたのですか?」

「偶然俺の好みとあっていたようです」

「まあ!ふふっ、人を喜ばせるのが上手いのですね」

 

 この反応は給仕に聞いたのを含めて知っていたと思われる。

 フロルの一枚も二枚も上手だ。

 

「まずは謝罪と弁明を。

 父上の行いは全て俺のため起こしたこと。

 直ぐに兵を挙げねば、

 西方教会は証拠を隠蔽していたことでしょう。

 しかし、父上の行動は短慮であったことも事実。

 本来ならば中央教会に伺いを立て、沙汰を待つべきでした。

 父上にかわって謝罪致します」

 

 フロルがレアに頭を下げた。

 西方教会が闇に蠢く者と繋がっていることはわかっていた。

 しかし、誰が何処まで闇に蠢く者と繋がりがあるか分からない。

 西方教会の上層部は皆殺しにするしかなかった。

 たとえ罪なき人々が死んだとしても必要な犠牲だとフロルは判断した。

 

 元からあった西方教会のレア暗殺計画を偽造。

 対象をレアからフロルに差し替えた。

 父の怒りは凄まじく、ロナート卿の誘導もあり、西方教会が壊滅した。

 これが闇に蠢く者の拠点と西方教会を同時に潰す、計画の全容だった。

 

「よいのです。

 それにわたくしも謝らねばなりません。

 元より西方教会に不穏な動きがあったことは掴んでおりました。

 主の導きに従う者と、

 心にどこか信じていたい気持ちがあったのでしょう。

 主に認められた王権を揺るがしたことは、

 聖職にある者にとって、万死に値します」

 

 茶の温かさが、底冷えするレアの雰囲気をかき消してくれる。

 レアの冷徹な側面もフロルは嫌いではなかった。

 むしろこれからを考えれば頼もしい。

 謝罪が済んだので、フロルは話題を変えることにした。

 

「ならこんな暗い話はおしまいにしましょう」

「では……大修道院での暮らしには、もう慣れましたか?」

「まだ王国の雪景色を懐かしむことはあります」

 

 フロルは王国が好きだ。

 空を飛ぶペガサスの群れ、雪に足跡を残す野ウサギ。

 凍えるような寒さも暖炉の火が癒やしてくれる。

 雪かきは面倒だが父とやったのは一生の思い出だと懐かしむ。

 

「ただ、こちらも暖かくて悪くないと思いますよ。

 対抗戦に出られなかったことも残念ですね」

 

 対抗戦はフロルとアッシュが不在でも無事に青獅子の学級が勝利した。

 ベレスが傭兵らしい手段を使ったようだ。

 騎士道に拘るイングリットは文句を言っていた。

 

「飛竜の節ではまた今度は鷲獅子戦があります。

 その時の活躍、楽しみにしておりますよ」

 

 フロルは言われて思い出した。

 正史において五年後に行われるグロンダーズ平原の戦い。

 その前哨戦とも言うべき戦いが、五節後にあるのだ。

 

「それが、どうにも頭打ちというか。伸び悩んでいるところです」

「でしたら私が手ほどきをいたしましょうか?」

「俺としては、是非ともお願いしたいところですが……」

 

 想定していなかった提案にフロルは驚く。

 

「そう長くは時間を取れませんが、

 貴方の敬虔さであれば、上位の魔法にも手が届くことでしょう」

「もしや、見られていましたか」

 

 信仰と言われても、幼子のソティスの印象が足を引っ張っている。

 フロルは主への祈りではなく、犯した罪の懺悔のため礼拝堂に通っていた。

 ただ傍から見れば信仰心が厚いようにも見えるだろう。

 

「ええ主は常に私達を見守られておいでです」

 

 フロルを慈しむ瞳で、レアは女神への祈りを口にした。

 

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