時のよすがに導かれて   作:そういう日もある

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9話

★〈支援会話:ラファエル〉

 

 大修道院の食堂。

 各国の料理が作られる鉄火場であり、美味しい食事を提供している。

 料理人達は精鋭中の精鋭。

 地元と寸分違わぬ味が出て来た時はフロルも驚愕した。

 彼らの料理が日々生徒達を強くし、課題の成功に繋がるのだ。

 そして、士官学校生も調理場を借りて料理を楽しむことができる。

 

「うおおおおお!フロルくん、その大量の食材はどうしたんだ!」

「いや、贈り物なんだが……」

 

 フロルが悩んでいると、金鹿のラファエルがたまたま訪れた。

 フロルの身長もかなりの高さだが、ラファエルはそれを遥かに超えて、筋肉で身を覆っている。

 なぜか一人称がオデなのかは疑問に思っているが、聞けていない。

 

 フロルの目の前には王国から送られてきた山の様な食材が鎮座していた。

 賊討伐の件が大事になったため、王国の諸侯から戦勝記念として沢山の贈り物が届けられた。

 金品や武器ならいいのだが、特産品の食材も多い。

 王国の寒さと違って温かいガルグ=マク大修道院では直ぐに傷んでしまうだろう。

 

「青獅子の皆に振る舞うつもりだ」

「なるほどな!皆喜ぶと思うぞ!」

 

 自分のことのように喜ぶラファエル。

 しかし、口の端からこぼれる涎が隠せていなかった。

 

「……でもここまで多いと何を作ればいいか困るし、

 もし誰か手伝ってくれたならその人にもおすそ分け出来るんだが」

 

 ラファエルがにかっと笑みを浮かべて、力こぶを見せた。

 

「そういうことならオデに任せておけ!

 とっておきの料理、作ってやるからよ!」

 

 早速フロルとラファエルは料理に取り掛かる。

 王国といえばやはり煮込み料理だ。

 ぐずぐずになるほど解して臭みをなくしたイーニッド産の羊肉。

 米と香草を使ったおかゆに混ぜれば旨味が凝縮される。

 これさえあれば王国の冬を乗り切る元気を得られる。

 ただ、安物の肉を使い手間暇を惜しむと美味しさが酷く損なわれる欠点がある。

 孤児だったアッシュはその味を思い出して苦手らしい。

 

 フロルはアッシュのためにフィッシュサンドを作り始めた。

 フィッシュサンドには帝国流と王国流がある。

 どちらが優れているか長年議論の的だ。

 フロルは王国流が好きだ。

 ちなみにハピは帝国流が好きでよく喧嘩する。

 帝国ではアミッド大河に棲む淡水魚のアミッドパイクを使う。

 王国ではアルビネ近海で獲れる海水魚のアルビネニシンを使う。

 ソースにも違いがあり、トマトベースではなく、王国は塩とマスタードが主流だ。

 

 フロルがこうして料理が出来るようになったのは父のためだ。

 少しでも亡き母の料理を再現できないかと手を尽くした。

 父は喜んでくれたが上手くいったかどうかはわからない。

 

 フロルの手が空いてラファエルに目を向ければ、動きに迷いがない。

 

「ラファエルが料理できるの、少し意外だったな」

 

 石窯から取り出されたのはもわもわと煙を上げるキジの丸焼きだ。

 しっかりと焼き目がついていて焦げている様子もない。

 パピヨットで包んで余計な油を吸い取りながら肉を寝かせる。

 フライパンの上ではベリー、砂糖、レモンの輪切りがぐつぐつと煮込まれている。

 言うなればベリー風味のキジローストと言ったところか。

 

「おう!オデ、食うのは得意なんだけどよお。

 作るのはなかなか勝手がわからなくてなぁ。

 でもマーヤに親の味ってやつを、

 教えてやれるのはオデしかいねえから、練習したんだ。

 それにこれから食うって考えたら料理も楽しいだろ!」

「ああ、そういえば頭の良い妹さんがいるって言ってたな」

「オデと違ってな、だからオデが騎士になって助けてやりてぇんだ!」

 

 ラファエルが入学したのは妹のため、安定した職を得るのが目的だ。

 惚れ惚れするような男気だ。

 黒鷲のベルナデッタに爪の垢を煎じて飲ませる方法を真剣に考える。

 

「でもなあ。

 マーヤにもっと兄ちゃんを頼れって言うんだが、

 どうにも断られちまうんだ」

「わかる。俺もハピに最近断られて困っているんだ」

「ハピさんはフロルくんの妹なのか?

 全然似てないし、オデ初めて知ったぞ」

 

 勿論フロルとハピに血の繋がりなどない。

 ハピ本人は嫌がるだろうがフロルが勝手に思っていた。

 

「妹みたいに思ってるってことだよ。

 でも、心配しないで欲しいっていう愛情の裏返しじゃないかな」

「そういうもんか?」

「そうそう。ラファエルだって妹に心配して欲しくないだろ?

 どっちも同じ気持ちってことだ」

「なるほどな!フロルくんは頭がいいな」

 

 素直に感心するラファエルに、フロルが食材を指さした。

 

「よければ日持ちする魚の干物や干し肉は妹さんに贈ってくれないか?」

 

 同じく親を亡くした身として、せめてなにかしてやりたくなる。

 金品を贈ってもいいのだが、ラファエルは断るだろう。

 

「良いのか!マーヤはまだチビだからよ。

 もっと食って大きくなってもらいてーんだ!」

 

 二人の作った料理は青獅子の生徒に歓迎された。

 がっちり胃を掴むことに成功する。

 問題はベレスが暇さえあれば、料理を命じてくるようになったことだ。

 

★〈支援会話:ベルナデッタ〉

 

「ぎゃぎゃっ!?どうして居場所がわかるんですかー!」

 

 大修道院の人がめったに寄り付かない部屋。

 フロルが気弱そうな女子生徒をついに追い詰める。

 薄暗い部屋で、窓から差し込む光に、一歩フロルが前に出た。

 

「いやそりゃ……お前が全然外に出ないせいで、

 俺の方が大修道院に詳しいからだよ」

「ベルはこれからフロルさんに、

 酷い目に遭わされるんですうううう!」

 

 部屋の隅でガタガタと震えるベルナデッタはまるで今から狼に捕食される小鹿だ。

 対するフロルは怒りを通り越して呆れを顔に浮かべている。

 

「あのなぁ、そんなことしない。諦めて課題協力に来るんだな」

 

 学級間の交流として課題協力というものがある。

 他学級の戦闘や護衛に参加したりと、親密な交流を深めるのが目的だ。

 フロルも何度か呼ばれたことがある。

 そんな中、要請があっても拒否しまくる生徒がいた。

 引きこもりのベルナデッタ=フォン=ヴァーリである。

 黒鷲の学級に所属するベルナデッタはなかなか部屋から姿を見せない。

 ヴァーリ伯に無理矢理士官学校に連れて来られた経緯は同情する。

 するが限度というものがある。

 

「びえええええええええ!」

 

 フロルは幼い子供に言い聞かせるように、ベルナデッタを説得する。

 

「いいかーベルナデッタ。

 お前が青獅子の学級だけじゃなく、

 金鹿の学級の要請まで拒否するせいで問題になっているんだ。

 帝国ヴァーリ伯の娘は国家間の交流に非協力的だってな」

 

 ベルナデッタはぶんぶんと首を振って拒絶した。

 

「そ、そ、そ、そんなことを言われてもお!

 無理、無理ですうううう!」

 

 女性ということで最初は丁寧に接していたフロルも段々扱いが雑になってきた。

 ベレスに要請されて誘いに行っても、居留守を使われる。

 三度目の居留守を使われたところで、借りたスペアキーで開ければカクレンボだ。

 今度こそ逃げられないようフロルは後ろ手に部屋の鍵をしめて逃げ場をなくした。

 

「というかなんでそんな嫌なんだ。

 一回目は嫌々ながらに来ただろう」

「フロルさんのせいじゃないですかああああ!」

「俺?俺なんかしたか?」

 

 ベルナデッタの魂の叫びに、フロルが思考を巡らせても記憶にない。

 

「ええ!?ひどいですよお!

 フロルさんがベルのこと居なくなれって、

 言ったんじゃないですかあ!」

「言ったか?」

「あれ以来いつフロルさんが、

 ベルのこと殺しに来るんじゃないかって怖くて怖くて!

 ちょっと漏らしちゃったんですよおおおお!」

 

 漏らしたのかよ。それは言わないで欲しかった。

 確かにあの時つんとする臭いが、という嫌な経緯で思い出す。

 

「いや、お前、あれはお前が悪いだろう」

 

 記憶を掘り起こす。

 学習でいつものように賊討伐をしていた時のことだ。

 賊討伐が日常になるフォドラの治安の悪さに嘆くばかりだが。

 

 そんな時、なぜかベルナデッタがのこのこフロルに近づいてきたのだ。

 フロルは敵と前線でぶつかりあいながら味方の回復をする役割だ。

 防御力のない射手のベルナデッタにとって危険地帯。

 直ぐにその場を離れるように強い言葉を使った記憶がある。

 勘違いしていそうなベルナデッタに、ありのままを説明することにした。

 

「だから、お前に傷ついて欲しくなかったんだよ。

 他の学級から来てもらっている立場だから、

 いっそう気をつけるべきだし。

 この世から居なくなれって意味じゃない。

 というか普通はそう思わないけどな?」

「そ、そんな~。

 じゃあベルの勘違いだって言うんですかあ」

 

 ベルナデッタがほっと一息ついた。

 

「まあな。ところでなんであの時近づいて来たんだ?」

「そ、それはですね……。

 フロルさんの前に罠があったのに気づいて……」

 

 そういえば確かにあった気がするとフロルは思い返した。

 わかっていて強引に突破できる罠だったため踏み込んだ。

 ただ、初めての連携では判断出来ないのも当然だ。

 

「悪かった、いやここはありがとうか。

 でも何時もみたいに、

 耳に痛いくらいの大声で知らせてくれれば良かっただろう」

「フロルさんひどいですう!

 ベルの声そんなに大きくないですよおおおおおお!」

「……まあいい」

 

 よく通る声で嘆くベルナデッタに、色々と言いたいことはある。

 あるが誤解がとけたのなら構わない。

 下手に言葉を重ねてまた引きこもられてはいけないと判断した。

 

「それじゃあこれからは課題協力に参加してくれるんだな」

「そ、そ、それは無理ですうううう!」

 

 ベルナデッタが、俊敏にフロルの後ろに回って、逃走しようとする。

 だが扉の鍵が閉まっていて一瞬の遅れを生んだ。

 フロルが背後から襟首を摑まえる。

 ベルナデッタが、親猫に咥えられた子猫のように持ち上げられた。

 

 青ざめた顔で振り返るベルナデッタに、にっこりと笑顔を向ける。

 

「ふ、フロルさん……?」

「仕方ない。これは仕方ないことなんだ」

 

 額に青筋を立ててフロルは決意した。

 ベルナデッタを容赦なく簀巻きにして、課題協力に連れていくことを。

 

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