ワールドトリガー 帰還者の凱旋 作:みるみるみるみ
あの日から3ヶ月が経過した
「キッツ」
俺は今、ジャングルの中に人でポツンと立っていた。このジャングルは【アモス】の首都、ジャハラの隣にあるジャングル、のシュミレーション空間だ。ちなみに、【アモス】の恵みのほとんどがこのジャングルの副産物だ
ここにいる理由は、普通に訓練だ。訓練と言っても俺ではなく、他の3人の訓練だ
俺は、彼らとは違う訓練を受けており、そのおかげでかなりの差が生まれた。だから、3対1でようやく戦えるって感じだ
カサ
「はいそこー」
ズドドドッ!
俺は常に展開しているスフィアを微かにした音の発生源に向け撃ち込む。すると、そこから慌てたように千秋が転がり出てくる
追撃しようとすると、横から俺のじゃないスフィアが飛んで来る。そのスフィアをスフィアで相殺し、新しくスフィアを展開する
「クソがっ」
「千秋、油断しないで」
「うわぁ、アレ防がれるの?」
3人が固まって出てくる。おいおい、だからいつも勝てないんだよ。あー、でも、固まるのも悪くは無いのか? 俺は分散してる方が火力が上がるから、好きなだけかも
「コレは耐えれるかな?」
スフィアをいつもより多めに展開する。しかし、一つ一つが少し小さく、簡単に防がれてしまう
「はんっ! そんなひょろひょろ弾で倒せるとでも!?」
「フフ、なら、どうぞ?」
千秋が挑発してくるが、俺はそれに乗れるほどの意識を残していない。コレは彼らの訓練だが、俺も試したいことは山ほどある
意識を八割ほどスフィアに振りながら、スフィアを撃ち込む
ドドドドッ!!
いつも通り、詩音と仁郎がフルバーストで撃ち落とそうとするが、スフィアが不自然な軌道を描き、3人に炸裂する
千秋はなんとか少しだけスフィアを切り裂き、致命傷を避ける。が、2人は驚いた表情のまま換装体を蜂の巣にされる
「うん。思ったよりも上手くいったな」
「な、なに、それ......」
「え? 【スフィア】だよ。最近曲げる練習してるんだ。これがかなり難しくてね 。【スフィア】自体、曲げるように作られてないから、まだ違和感のある軌道だけど、これからもっと滑らかに動かせるようにするよ」
スフィアで千秋にとどめを刺す。千秋の換装体が消え、このシュミレーション空間も元の形に変わる。何回か、最初に連れていかれた部屋だ
ここはただの何も無い部屋で、こちらから操作することや干渉する事は何も出来ない。ただただ、出来ることをやるのみだ
「訓練終了。出ろ」
「りょーかい」
ディアドラが突然現れた扉から出てくる。最初は驚いたが、もう慣れた。千秋達の訓練は終わり、次は俺が扱かれる番だ
俺達は、普通の訓練場に移動する。俺だけならともかく、ディアドラが隣にいるし、これからジンやグレイがいる場所に行くから俺にはトリガーが渡されたままだ
グレイっていうのが、最初にいた男で、コイツがめちゃくちゃ強い。ジンやディアドラも俺からしたらかなり格上だが、グレイはその3歩先ぐらい強い
他にもトリガー使いは居るが、飛び抜けて強いのはこの3人。他のトリガー使いは俺よりも正直弱い。まぁ、トリオン量の差が大きいのもあるけど、才能もある
なんなら、既に千秋の方がそこらの兵士より強いまでもある。多分、10本勝負なら、4本以上は取られることは無い。まぁ、千秋以外の2人もそれくらい強い
そして、俺は今トリオンを用いた訓練が出来る訓練場に連れられた。そこには、数十人の兵士対ジンの模擬戦が行われていた
「ほらほらほらー!! あまいぞー!!」
「「「うわー!?」」」
「やっているな」
「いつも通りだねー」
そこには、模擬戦と言いつつもジンによる圧倒的で一方的な模擬戦が行われていた。普通の兵士は、ジンの攻撃を受けることすら出来ずにトリオン体を次々に崩壊させている
「んー、もう終わりかー。あ、ディアドラとレン! そっちは終わったみたいだね! こっちも終わったよ! 僕の相手してよ!」
ジンは最後の一人を片付け、ゆっくりと振り返り俺たちを見つけると、すぐさま訓練に俺たちを誘う。ま、俺は強制参加だけどなー
「まず、お前はレンと3本勝負だ。次に私とレン、その次に私と3本勝負だ」
「了解」
「おっけー!」
ディアドラに言われた通り、ジンと3本勝負するためジンの前に立つ
「準備はいいか?」
「「トリガーオン」」
「始め!」
「「スフィア!!」」
俺は、シールドを展開しながらスフィアを乱れ打ちする。ジンも俺と同じ行動を取る。ジンは生粋の【
ココ最近、俺が使うバイパーもどきも形になって来てる。俺よりかはまだ曲げれてないが、これも限界はある。なので、先に俺が限界に達すると思うけど、ジンもそのうち追いついてくると思う
「流石! 僕よりも上手いスフィア使いはやっぱ君しかいないね!」
「......嫌味じゃないのが嫌になるぜ」
「なんて?」
「なんでもない!!」
このままじゃ、普通にジリ貧だ。トリオンが無くなれば、スパスで削られるだけだ
緩急をつけて、スフィアを打ち出す。スフィア自体の技術はジンの方が圧倒的に上だが、新しい俺の策にはまだ対応しきれていない。そのため、少しづつジンに被弾させる
「くぅ! やるな!! 流石にスフィアだけじゃ厳しいか!」
ガガガガガッ!
トリオンのシールドが展開され、容易に俺のスフィアが防がれる。まぁ、それは予想の範囲だ
流石にシールドの手前で避けて対象に当てるとかは出来ない。思ったよりも放物線は描けるけど、直角ほど曲がらない
「行くよー!」
シールドを展開しながら突っ込んでくる。距離を詰められれば負ける。20メートルぐらいの距離を数秒足らずで詰めようとしてくる
俺は全力で下がる。そして、拡散気味に放出していたスフィアを収束させる
「喰らえっ!!」
バリンという音を立ててシールドを破壊する。しかし、ジンは俺のスフィアを躱し、スパスで切りつける。それはもう、滅多刺し
俺のトリオン体は完全に破壊され、寝転ばされながら生身になる
戦闘自体はあっという間に終わる。そりゃあ、まだ戦闘を3ヶ月しかしてない小僧と戦闘が日常だった青少年。どっちが強いかなんて、見るまでもない
「ほら立って! 次行くよ!」
「はぁ、休ませてよ」
「? なんで? トリオン体は疲れないでしょ?」
「はぁぁ。分かったよ」
あ、ちなみに。【スフィア】は、ココ最近に開発されたトリガーらしい。だから使い手自体も少なくて、スフィアが普及してない
ジンもたまにしか使っていなくて、他の使い手も【スパス】に比べればかなり弱く、俺たちの方がよっぽど上手く使えているらしい
グレイなんて、俺のスフィア全部切り落とすからな。ついでに首も落とされる。毎回クビ。あいつ、首になんか恨みでもあるかってぐらい首を落とす
よっこいしょ、と体を起こし、所定の位置に戻る
次こそは殺す
◇
いやぁ、1回も勝てなかったw
ホント、マジで強い。ジンもディアドラもグレイも
あの後、4回ぐらいジンと戦って、5回ディアドラと戦って、3回グレイとやったけど、誰一人にも1回も勝ててない
ジン対ディアドラも2対3でディアドラ。ディアドラ対グレイは0対5でグレイ。グレイ強すぎ
「ふぃー、疲れたー」
シャワーを浴びながら、独り言ちる。週に1日休みをくれるけど、あの3人以外にも、詩音達や一般兵士さん達ともやってるから、1日が短い
よし。シャワーも浴びたし、あっちに行くかー
こっちの寝巻きに着替えて、
「お呼びでしょうか」
「いつもの所に行きます」
「かしこまりました。では、コレを」
渡されたのは、チョーカーみたいな物。まぁ、簡単に言うと爆弾だな。この爆弾が、異常を検知すると、ドンッ、って事らしい
「あざす」
いつも通り、手早く付ける。まぁ、最初は流石に怖かったがもう慣れた。間違ってドカンは無いらしい。なんでかは知らないけど
メイドさんもいつものバゲットを持ってきてくれてる。いやー、本当に助かるわ
「いつもありがとうございます」
「いえ、私がしたいのです。......私も、あまり言えた立場ではないことはわかってますが」
「いえいえっ! やめて下さい! 本当に助かってるんです、ミニーさんには本当に感謝しかないんですよ」
バケットの中身は、余った堅パンを薄切りにし、砂糖を少しまぶして焼いたラスクもどきが入っている
コレは、俺の給料から支払われている。流石に、ミニーさんに支払ってもらうのは申し訳ない。ミニーさんにもチップを渡そうとしても、断られたので、多めに作ってもらって余りを持って帰ってもらってる
ちなみに、姫さんもたまに来る。このラスクもどきは、姫さんにも好評で姫さんの分は別で作って持って帰っているらしい
「そう、思ってもらえているなら、私もレンさんには感謝しているんです。私は、何も、出来ないので」
ミニーさんは、良識のある人物だ。子供の拉致。コレは立派な犯罪であり、良識を持っている人物ならそんな犯罪を犯すことすら頭にないだろう
しかし、ココは、【アモス】。『近界(ネイバーフッド)』におけるこの国はただの弱小国。なりふりなど、構っていられないのだ
そうして出た試みが、さらに弱小の国【玄界(ミデン)】のトリオン能力が少しでも優秀な子供の拉致。そして、再教育
そうでもしないと、この国が辿る運命は、破滅。誰もが心の中で分かっており、口にしないことだ
「おっ、今日も元気にやってんじゃねーか」
「あ!」
「蓮くん!」
「ミニーさん!」
「こんばんは。皆さん。お菓子を持ってきましたよ。今日も一日お疲れ様でした」
そこには、積み木や粘土など、かなり広い部屋に10人ぐらいの子供がその玩具で遊んでいた。その何人かは、俺たちに気付き駆け寄ってくる。お菓子を求めて
なんて現金な奴らだ。俺たちは、人数分のお菓子を少し多めに与えて、ミニーさんに子供たちを任せる
俺は、駆け寄って来なかった子供たちのもとに向かう
「よお。今日も大人しいな」
「......、こんばんは」
「おう、こんばんは。ほら、約束通り持ってきたぜ?」
いつもの口調ではなく、本音の口調で喋る。子供は敏感だ。少しでも違和感を感じると、すぐに不信感を覚える
普通の環境だったらその不信感は微量で、何ら人間関係に影響はない。が、ココは、拉致された場所で、何も知らない人間で、子供からしたら怖い環境だ
だから、嘘偽りなく話す
「数学?」
「そうだ。あ、算数の方が良かったか?」
「......いい、コレで」
「答えがわからなかったら、最後に書いてあるから。多分、合ってるはずだ」
俺は、小学生向けの教育資料を夜な夜な作っていた。コッチに拉致された時に持っていた算数の教科書と、漢字のドリルを写して、少しいじったものだ
社会もあったが、これを写すのはキツイ。まだ、十分の一も写せてない。国語もキツイ。いやぁ、めんどいから全教科いつも持っててよかったわ
「ここが答え。......はい」ビリビリ
「ふぁ?」( ᐛ )
「いらない」
このバカが。お前殺すぞ^^
「このバカが、殺すぞ」^^
「だって、いらないもん」
「いらなくてもな、作ってくれたやつの目の前で破くな。あほ。俺だからいいけど、普通は怒られるぞ」
「? 怒ってたじゃん」
「このガキ、口が減らねぇな」
破られたページを仕方なく受け取り、丁寧にたたむ。これだけでも、数十分はかかってたんだからな。コイツがガキじゃなかったらボコボコにしてたぜ
「どうすんだよ」
「......きてよ」
「は?」
「毎日、来てよ。ここに。少しづつ、解くからさ」
俯きながら、少し顔を隠して、顔を赤らめながら上目遣いで話す、目の前の少女。思わず、ドキっとしてしまう己の弱さが嫌になる
俺は、なんて弱い人間なんだ。本当なら、この子は、ここにいては行けない人間だ。学校に通って、友達と遊んで、女友達と恋バナをして、健やかに成長できたはずなのに
なのに、彼女は、ここに拉致された。そして、俺と言う希望に媚びている。コレは、計算されたものでは無い。本能的に、行っている行動だ
なのに、少しでも、期待してしまった、自分が憎い。ウザイ、くそ。クソが。そんなに嬉しいか? クソ野郎が、くそ
「......ふぅ。分かったよ。その代わり、他のガキにも教えてやってくれよ。帰った時に、少しでも役に立つように」
「気が向いたら、ね」
その後、勉強に励む彼女と、少し興味がありそうにしていた年下の女の子と男の子に教えながら時間を潰した
人に教えるのは難しい。けど、少し楽しい。あと、自己満もある。この、罪悪感から逃げたい。辛い。コイツらの方がもっと辛いのにな
すこし、ナーバスになってるな。時間が過ぎるのはあっという間だ。もう、消灯前だ。俺は自室へと帰り、明日の支度をして寝る。帰る前に、あいつらの分のトリオンはキチンとチャージしてきた
ミニーさんは、いつも通りラスクもどきを持って帰ってくれた。彼女には、2人の子供がいるらしい。なのに、夜遅くまで毎日来てくれているのは、本当に感謝しかない
◇
約1年後
「おいおい、隠れるのが上手くなったじゃねーか」
いつも通り、あの3人組をしばく時間だ
だが、今回は違う
先月まではいつも通り、簡単にしばけた。まじで成長しねーなとか思いつつ、片手間だった
「おーい、雑魚どもー。寝てんのかー?」
煽り文句にも手を付けない。なんだ、きちんと成長してんじゃねーか
アイツらの成長の上がり幅は正直、異常だった。なぜなら、3ヶ月で普通の兵士より強くなってんだぜ? 普通におかしいだろ
ここで何年も務めている兵士より、3ヶ月で強くなるなんて、常識では考えられない。まぁ、俺の事は一旦置いといて
それが、最近までは、全然成長が見えなかったからな。少しだけ嬉しい気持ちがある
「少しだけ、ズルでもするか」
俺は、
内容はシンプル。空間把握能力が、拡張される。自分を中心に、半径を設定して使用する。キチンと処理しようとしたら、今の所の限界は10数メートル。大まかでいいなら、20ぐらいは行ける。50ともなると、人すら判別はできない
とりあえず20メートルを設定して歩く
「おっとと」
木に躓く。まぁ、無理もない。半径20メートル以内の全てに集中しながら歩いているんだ。究極のマルチタスクだ
前世では最も出来なかったことだな。この体、まじで優秀
そんなことを呑気に考えながら数分が経過する。流石に、頭が痛くなってきた。これが発現してから、3年年ぐらい。もっと使ってこればよかったな。慣れてないから、少し辛い
「......解除」
こりゃ、一筋縄じゃ行かな──────────
──────────ズドンッ!!
「は?」
──────────左腕が、弾け飛んだ
「......おいおい、やるじゃねーか」
トリオンが左腕から溢れ出る。このままいけば、俺はトリオン不足でアウトだ。ニヤリと笑いながら、吹き飛んだ左腕を右手で抑える
出ないはずの冷や汗が額に滲む。この緊張感は、初めてだ。今までは、格上にボコボコにされてこんなの傷、日常茶飯事だが、コイツらに追い詰められてるこの状況は、少し、楽しい
「スフィア」
スフィアを左腕に固定。トリオンの出血を止める。久我のスコーピオンと同じだな。蓋をしただけ
もう、スフィアで俺に勝てるやつはいないってぐらいに極めたからな。スフィアで大抵の事はできるようになった。スフィア万能
なので、スフィアを大量にばらまく。また狙撃されたら、たまらないからな
「一気に叩くよ!」
「分かってるわよ!!」
「なるほどな」
千秋と仁郎が襲いかかって来る。この2人を陽動に詩音が狙撃か。初めてのパターンだ。なんなら、狙撃自体が初めてだけど
俺だって、狙撃自体はできる。だが、思いのほか難しい。100メートル以上離れている物に対して、どうやって照準する? ゲームの銃器みたいにスコープなんて無いんだぜ? だから、俺は早々に狙撃から手を引いた
けど、詩音は違ったらしい。アイツはこれに目を付けた。やっぱ、コイツら優秀だわ
「死ねぇっ!!」
「うわ、絶対モテなさそう」
仕方なく、片手に【スパス】を展開する。そう、2個目のトリガーだ。コイツらは1個ずつだが、俺は2個持たせてもらっている。流石にね
本当なら、【スフィア】2個がいいんだけど、それだと俺の練習にならん
千秋の猛攻を何とか耐え忍ぶ。この女、隠してたな。先月までの動きなら、そんな動き出来ない。今日のために、ここまでやるのかよ
「行けっ!!」
仁郎による、スフィアの物量射撃
タイミングばっちしでスイッチする千秋。本当に強くなったなコイツら
【拡張空間把握能力】を使う。そして、致命傷になる軌道を描くスフィアをたたき落とす
流石に、舐めてもらっちゃ困るよ。こんなんで落ちたら、アイツらにいつまで経っても追いつけるわけがないからな
「しぶといっ! ゴキブリかよ!!」
「口悪すぎるだろ。僕、悪くなくない?」
「猫被るな!!」
またもやスイッチして、千秋の猛攻が始まる。流石優秀なだけある。スパスじゃ捌ききれない。致命傷じゃないけど、少しづつ彼女の攻撃が掠っている。俺の攻撃は千秋にかすっても無いのにな
「千秋っ!!」
「っ!」
おいおい、芸がな──────────ズドンッッ!!
「それを待っていたんだよ!!」
展開していたスフィアが狙撃によって弾ける。そして、俺の脇腹を狙撃が持っていったが、構うもんか。コレからは、短期決戦だ
さっきは、流石に急過ぎた。音で大まかな方角は分かったが、移動されてしまった。が、今回は違う。スフィアの破壊された形跡から、方角を特定。次は、無い
千秋と仁郎が素早く動き、俺の邪魔をしようとするが、狙撃の邪魔にならないように動いたのが仇となったな。最初からスフィアを展開しておけば、もっと邪魔ができただろうに
「ガキッ! 待て!!」
「早い!? 詩音さんッ!!」
舐めるな。コレでも小学校では、一二を争う瞬足だったんだ。それがトリオンで強化されてる。並の奴らには負けん。が、コイツらは並じゃない。かなり食い付いてきてる
後ろからスフィアがばんばん飛んでくるが、俺もさっきまで待機させていたスフィアを飛ばしてやる。流石に止まって対処してたから、邪魔はもう、入ることは無い
「みーつっけた」
「......まさか、見つかるとはね」
「いやぁ、不意打ちとは。まさか、でしたよ。流石に死んだと思いました」
「その、まさかじゃないとアナタを殺せなかったからね」
「それじゃ、あいつらが怖いんで、さよなら」
素早くスパスで詩音に切りかかる。そして、最後の狙撃が放たれる
詩音ごと、ぶち抜いて
「......おみ、ごと」
「いやいや、本当にまさかだよ。考えたけど、やる? 普通」
詩音のトリオン体がぶち抜かれ、詩音は転送される。俺は、間一髪で避ける。マジで、俺の知識に【
俺は、冷や汗を拭い、スフィアを展開する。もうそろ、俺のトリオンの限界が近い。さっきのは本当に運が良かった。何かアクションが起こる思った時に咄嗟に横に転がるって考えてたから何とかなった
急いできた2人は、詩音が転送されているの見て顔をしかめる
「くそ、まだ、足りてないのか」
「......チッ。ガキが」
「遅かったね。こんだけやっても、君達じゃ足元にも及ばないんだよ。ほんと、才能無いねw」
精一杯の強がり。コレで千秋が突っ込んできたら万々歳だが。そう簡単には行かないらしい
じろりと俺の体を見る。そして、ゆっくりと構える
ああ、通じない。時間稼ぎが1番、効くんだよな
「ふん。ガキが、強がりにしては、少し満身創痍なんじゃない?」
「いや、これくらいハンデですよ。だって、今まで、傷すら負わせられなかったのに」
「千秋ちゃん。乗っちゃダメだよ。ここまで来たんだ、確実に落とす」
「分かってるわよ。時間くらい、流石に稼げるわ」
「いやいやいや、舐めてもらっちゃ困るよ。だって、君達は今から、最速で死んでもらう」
彼らとの距離は約15メートル。ギリ、射程範囲外だが、ここでやらなきゃ男が廃るぜ
【拡張空間把握能力】を16メートルで設定。うん。仁郎まで入ってるな
目を瞑り、スフィアに集中する
「......なに?」
「あの数のスフィアを操るのは不可能だ。ここさえ凌げば、彼は自滅する」
その通り。これを凌がれれば、終わり。まさか、彼女達にコレを使う日が来るとは。考えてもみなかったよ
初見のグレイすらも防ぐことは出来なかった。あの、グレイですらだ
俺の、スフィアの、集大成だ
「鳥籠」
無数のスフィアが、描いた通りの軌道を飛ぶ。地面から這うように、空から降り注ぐように2人を囲う
もう、ここまで来たら逃げ場は無い。あとは、飲まれるのみ
「マジか」
「な、にこ、れ」
「すり潰せ」
2人のトリオン体は一瞬で粉々に砕け散る。蜂の巣より、穴だらけにして、それが人だったとは思わせない。それが、俺が求めた『鳥籠』だ
原作の『鳥籠』は、俺みたいな『溜め』は必要ないだろうが、俺には必要だ。それが、【スフィア】の限界だ。元々、こんなに曲げるために作られていない
俺が、ソレを限界ギリギリまで【バイパー】に近付けた結果がコレだ。その代わり、威力は桁違いに高いと思う。元々、原作のトリガーは、【緊急脱出】に大半のコストを割いている
そして、そこから、シールドやスコーピオンなどを入れていく。が、【スフィア】は、ただただ弾を射出するだけのトリガー。原始的で、文明的では無いが、その分の威力だけならアステロイドですらスフィアには、劣る。と思ってる
何より、自由度が高い。そこが気に入った。まぁ、メテオラみたいに爆発もさせたいし、合成弾も作ってみたいけど、そこは仕方無い
「......ふぅ、なんとかなった、な」
戦闘終了の合図が出る。そして、トリオン体が解除され、生身に戻され、いつもの部屋に戻る。ここ最近で、1番疲れた。あの3人組に対しては、勝つのが当たり前だった
ソレが、あとほんの少しで落とされそうになるのは緊張した。ジン達にボゴボゴにされるのは、慣れたが、コレは初めてだ。だが、もう学んだ。流石に、メタ読みで常に狙撃対策はしないけど、警戒はするようにしないと、一瞬で持ってかれるな
ジン達との訓練では、こういう形式でやらないからな。たまにはやって見てもいいかもしれない。今日は、実りのある1日だったな
side千秋
「......クッソ!!!」
自室のベッドに倒れ込みながら、腕を振り上げ、枕に叩き落とす。無い痛みに対して、無力感を覚える。ワザと柔らかいところに狙っている自分に腹が立つ
そして、さっきの1戦を思い出す
悪い滑り出しではなかった。なんなら、最高と言っても良かった。あの距離からの狙撃は、成功率で言ったら30%もなかったと思う。ソレが腕に当たったんだ、奇襲は成功していた
「......わたしの、せいだ」
私が、致命傷を与えることができなかった。相手は、片手のなのに、得意じゃないスパスなのに、かすることしか出来なかった
私かモタモタしていたから、詩音が2度目の狙撃を行った。そして、位置がバレて負けた
私が弱かったから
もっと強かったら、負けてなかったのに。この1ヶ月を、みんなの直を無駄にしてしまった
「今日は、もう何もしたくない」
最悪の気分だ。はぁ、なんか、気分転換がしたいな
今日は、早めにシャワーを浴びてる。本当は、外出したくないが最近になって、ある程度なら1人での外出も認められた。気分転換に少しだけ歩くか
本当に何もしたくないけど、やることもないから。ほんと、娯楽が少なすぎる。あー、御旗みたいに、全教科持ってきてたらなー
サンダルを履き、外に出る。トリオンで調整された室内とは違い、ぬるっとした気温が頬を撫でる。しかし、湿度が高くない為、あんまり不快では無い
「......はぁ」
思いの外、女々しい自分が嫌になる。いつもは、あんなに強気なのにここまで落ち込ませられた。あのクソガキに
分かってる。アイツは、私より才能がある。そして、私たちよりも努力しているのだろう。たまに食堂で食べながら寝ている姿を見る。それを周りの兵士達に笑われていた
思い出すだけでも腹が立つ。何故、この国の奴らと仲良くできるのか。不快だ。コイツらのせいで、私達はこんな思いをしないといけない。コイツらのせいで、仁郎や詩音がこんな事をしないといけない
ふざけるな
「ぁ」
アイツだ。それと、たまに見かけるメイドの人だ。まだ寝るのには早いけど、何してるんだろう、こんな時間......はっ!?!?
まさ、か。まさかまさかまさか!?!?
いや、いやいやいやいや!?!?
そ、そんなはずはない! だだだだって! え、まだ11とかじゃなかったっけ!? は、早すぎ、え、あや、えええぇぇ!?
お、追いかけないと!!
「いやー。メリーさんとの付き合いも、もう1年ですか。早いもんですね」
「ふふふ。確かにそうですね。まさか、こんなにも長く続くとは思ってもいませんでした。子供達ともですが」
こ、子供!?!? え! えええぇぇええ!?!?
で、出来ちゃってるぅ!? え!?
たち!? え、複数形!? 双子!? なんなら三つ子!?
「でも、大丈夫なんですか? 明日は、大切な日なんじゃ」
「んー、まぁ、大丈夫です。毎日のルーティンみたいなもんですからね。これをやらないと逆に調子が出ないんですよ」
大切な日っ!? え、誕生日!? もう!? え、あれ? もう分かんないっ!
とりあえずついて行こう、どこに向かってるのか
「............ま、いっか」
「? どうされましたか?」
「いや、大丈夫です。なんか、忘れてるなーって思っただけなんで」
「分かりました。どうぞ」
「あ、うーん。まぁ、なんだ、いっか! ここ、今日は開けっ放しでお願いします。換気もしたいんで」
「はぁ? 分かりました」
ラッキー! これで閉められたら、流石に分からないから良かった。このまま引き返すのは流石にモヤモヤするからね
て言うか、このガキ、私達がこんな目に遭ってるのに自分一人はメイドとイチャコラか。絶対、後で殺す。絶対殺す
少し扉を押す。あのまま隙間じゃ流石に通れないから。音は鳴らなかった、中の光景を見た。見えてしまった
「わぁ! お兄ちゃん!」
「今日は何持ってきてくれたの?」
「メリーさん! 遊んで!」
「遅い」
「おお、おお。今日も元気やな。ほら、メリーさんとこ行ってお菓子もらってこい。ほら、お前たちも」
「お菓子!」
「あまってる!? 今日あまってる!?」
「ほらー。順番。並んでね。はい、どうぞ」
「やったー! 今日ラスクだ!」
「やったね!」
な、に、これ?
「早く、答え合わせして」
「待てって。お菓子もらって来いよ」
「......早くしてよ」
「今日は何教えてくれるのー?」
「今日は算数を教えようかな。得意分野だし」
「えー! 国語がいい!」
「物語が読みたいだけだろ!」
「あははー!」
子供って、まさか、私たちと一緒に連れてこられた、子達?
「メリーさん遊んでー!」
「今日は何をするんですか?」
「おままごと!」
「おい! それは昨日やったじゃん!」
「そうだ! 今日はツミキって約束だろ!」
「分かりました。それでは、ツミキで遊びますか」
「やったー!」
「ぶー」
ずっと、この1年、ずっと、この子達は、いたの? ここ、に?
わ、私達は、ずっとこの子達の為に何か、してこなかった。できるのに、分かっていたのに、なに、も
「ねぇ、蓮くん」
「ん?」
「私達って、どうなってるの?」
「......、もう少し、待ってくれ。いや、嘘付いた。正直、分からない」
子供達の中でも、最年長ぐらいの子が不安そうにクソガキ──────────蓮を見つめる
「このまま行けば、現状維持、もしくは、処遇の改善は確実だ。けど、それはこの1年がずっと平和だったからだ。もうすぐ、3ヶ月後ぐらいかな。この星よりも強い星との戦闘が予想される」
「え」
「俺達が、いや、俺が、絶対にここを守る。ここさえ凌げば【アモス】は、中堅国家だ。そうそう、侵略をする国はいない。死んでも、絶対守ってみせる。そこで、俺が活躍する。そして、王様に進言する予定だ。お前らの処遇の改善、そして、地球への帰還」
「......そこに、貴方は、いるの?」
「......本当に、お前は優しいな。頭も良い」
その声は、小さい筈なのに、はっきりと私の耳に届いた。周りの子は、メイドと遊んでて気付いていない
けど、私は、私と彼女は、気付いた
コイツは、蓮は、帰らない。多分、自分と引き換えに、この子達を助ける気だ
「......やめて、頭撫でるの、禁止。たった1個上でしょ」
「ははっ! だが、1個上だ。大丈夫だよ。心配すんな。そのうち、絶対帰る。父さんや母さん、妹も心配してると思うからね。あ、その時になったら連絡役頼むよ。その周期によるけど、絶対帰るから。部屋をさ、倉庫代わりにしないでよって。酷いんだぜ? 俺が修学旅行帰ってきたら、部屋にダンボールばっかでよ」
扉を軽く閉める。忍び足を維持し、足音が聞こえない位置にまで来るとダッシュで部屋に戻る
途中、何人かの人にすれ違ったけど、全部無視して、自室へと入る
私は、なんて間抜けなんだ。なんてッ!!!
「アアアッ!!!」
壁を思いっきり殴る。石の壁は、私の力を存分に跳ね返し、感じたことの無い衝撃が私の拳を壊した
いや、壊れてない。凄く痛いけど、少し血が流れただけ。本当に、無力だ。けど、この、流れた血の分だけ、強くなれた気がする
ジワジワと痛みが広がって行く。この痛みは不快で、少し気分が軽くなった。この痛みに、私は誓う
「全部、全部よ。私が救って見せる。詩音と仁郎だけじゃない。あのガキ、.........蓮と子供、全員を必ず地球に帰す」
私が目指すべきは、あの性悪女じゃない。アイツだ。あの根暗男だ
ベッドに横たわる。痛む拳を握り込み、痛みに意識を向ける。こんなんじゃ足りない。もっと捨てろ。捨てて、捨てて、残るのは、1つでいい
目を瞑り、未来像を描く。あの性悪女に勝つ未来像をいつも描いていた。けど、違った。間違ってた。無理だと思っていた根暗男に勝つ。イメージですら勝つ事が出来ない
だからどうした、舐めるな。私は、思ったよりも重い女だ。ふふ、少し、楽しみになってきたな