「このゲームも折り返しとなりました。では、三戦目です。手札を選び、何枚公開するかをお選びください。制限時間は三分間です」
四枚のストレートフラッシュが二つ、そして役無しが一つ。
それが私のデッキの内訳。ナロさんのロイヤルストレートフラッシュには勝てないが、それは四枚組で作っていた場合の話。ナロさんが数当て勝利を目指している現状、残り二枠を適当にバラバラに作る為に三枚組の役しか作ってないと言うのは全然あり得る話だ。数を当ててもポーカーに負けている以上、数を当てられてしまえば勝負にも負けてしまう。その可能性を減らす為には当然の選択だ。
ただし、四枚組でロイヤルストレートフラッシュを作っている可能性も十二分にある。可能性を減らすと言っても減らせるのはたかだか二枚分だし、相手がポーカーに勝つ戦法を取っているのならば、ポーカーに勝てばその分相手も勝とう手札を公開する。それは選んだ数字を当てるのに重要な情報となる。それを考えれば、勝ちに行く手札を二組程度は作っておくと言うのもあり得る戦法なのだ。
ナロさんの公開されているカードは役無しの五枚のみ。これだけではナロさんがどのような組み合わせで役を作っているのか、と言う事を予想するのは無理な話だ。出来たとして、それは予想ではなく妄想だろう。それを考えれば、三戦目は様子を見ると言うのが定石に見える。
そう、定石。そうするのが当たり前で、当然で──ナロさんなら考えるまでもなく気づく選択。
仮にナロさんのロイヤルストレートフラッシュが四枚組以上なら、それに私が勝てる手札はない。つまり、私の四枚組の手札を、ナロさんのロイヤルストレートフラッシュ以外に当てる必要があるって事だ。もし、私が様子見で役無しを出して、ナロさんがロイヤルストレートフラッシュでなければ最悪の場合、私の負けは確定する。なんせ、ポーカーでも負けて、数当ても絶望的だ。勝てる筈がない。
私は一つでも択を外せば負けで、ナロさんは外しても数当ての保険がある。これ、対等じゃなくないか?
「……私、ナロさんを追い込んだ筈ですよね?なんでこんなに悩まなければならないんでしょうか」
「あははは!まあ、その為に切り札二枚切っちゃってるもんねぇ~。精々悩みなよ、それでも僕には勝てないだろうけど」
「本当に厄介ですね、このゲーム……」
もう少しだけ悩んだ後、私は結局様子見をする事にした。定石も定石の一手。ただし、私は勝負にも出る。
「三分経ちました。仕切りを外します」
「……へぇ、正気?歌八ハちゃん。それってぇ……ずいぶん危険な一手、なんじゃなぃ?」
「正気も正気ですよ。最悪を想定すれば、これは仕方ない一手です」
仕切りが外され、公開された私の手札は──
数当てを狙っている相手にカードを一気に公開する。なんともまあ、敵に塩を送る行為だが様子見でロイヤルストレートフラッシュ以外をぶつけられれば負けるのはこちらなのだ。ナロさんの残った手札が四枚組のロイヤルストレートフラッシュ二つになったとしても、ここで貰った"特権"で数を当てられる可能性を増やす。それが、私の一手だ。
最悪、
そんな私の勝負に対してナロさんの手札は三枚組のハートのロイヤルストレートフラッシュ。三枚組で、しかもここにロイヤルストレートフラッシュを使われたので私の一手は完全に裏目に出た事になる訳だけど……仕方ない。必要経費だと割り切るしかないだろう。そんな簡単に割り切っていいミスに入るか?これ。
「柊様は五枚公開の役無し。右吾様は三枚公開のハートのロイヤルストレートフラッシュ。勝負の結果、右吾様が勝利し、柊様に三つの"特権"が付与されます」
「ふぅん、私がポーカー勝負に勝とうとしてきた場合の牽制、ってとこかなぁ?でもでもぉ?無駄になっちゃったねぇ~」
「必要経費ですよ、ナロさん」
「あははは!負け惜しみでしか聞かない台詞だぁ!ふふ、もっと頂戴?そういう台詞」
「あり得ない……私のデータにないぞ!こんな状況!!いったい何をした!!言ってみろ、ナロ!!」
「あははは!!ふっ、ふふふ……いいねぇ、歌八ハちゃん。最高だよ、そういうの」
「……はぁ?じょ、冗談キツいって……マジ?本当にこの私が、負けたの……?」
「ふっ、ふふふ……あははは……!!」
私のボケの連発にナロさんは笑いをなんとか堪えながら、そして机をバンバンと叩いている。隣を見れば、本の少しだけではあるけど、凍先輩も少し笑っている。この勝負、私の勝ちだな(何が?)。
まあ、ナロさんのロイヤルストレートフラッシュが三枚組であった以上、残りのポーカー勝負については言うまでも無いだろう。
四戦目は互いに零枚公開の役無し(役無しにナロさんの五枚公開役無しをぶつけようとしたけど、普通に読まれた。悲しい。)。
五戦目は私が四枚組のスペードの8から始まるストレートフラッシュ。対してナロさんはハートとスペード交じりのA-K-Q-4-6だ。これで更にナロさんに二つの"特権"が加わった形となる。
「五回のポーカー勝負の結果、柊様が三勝。右吾様が一勝となりましたので、ポーカー勝負の勝者は柊様となります。つまり、両プレイヤー共に数を当てた、または数を当てられなかった場合の勝者は柊様となります」
「いいよいいよ、柊先輩。そんな当たり前の確認は。早く本番といこうよ」
「別に今までも本番でしたけどね……」
「では、早速始めましょうか。このハーフポーカーの真髄。数当て勝負へと」
凍先輩のその言葉に合わせて、私たちは隣の机に並べられた五十二枚のトランプを見る。
| 裏 | 裏 | 裏 | 裏 | 裏 |
|---|---|---|---|---|
| ♡8 | ♡7 | ♢6 | ♢5 | ♢3 |
| ♡A | ♡K | ♡Q | 裏 | 裏 |
| 裏 | 裏 | 裏 | 裏 | 裏 |
| ♢A | ♢K | ♢Q | ♡5 | ♡6 |
| 裏 | ||||
| ♤A | ♤K | ♤Q | ♤J | 裏 |
|---|---|---|---|---|
| ♧A | ♧K | ♧Q | ♧J | 裏 |
| ♧10 | ♤5 | ♤4 | ♧9 | ♤6 |
| 裏 | 裏 | 裏 | 裏 | 裏 |
| ♧8 | ♧7 | ♧6 | ♧5 | 裏 |
| 裏 | ||||
互いに持つ"特権"の数は私が三つ、ナロさんが五つ。つまり、私はともかくナロさんはほぼ数を当てる事が出来ると見て良いだろう。こちらの公開されていないカードは九枚。そこから五枚も見れるとなったら、手札を作る際のルールを全く考慮しなかったとしても当てられてしまう可能性がある。
つまり、私がこのハーフポーカーにて勝つためにはナロさんが選んだ数字を当てる必要があるのだが、これが難しいのは言うまでも無いだろう。ナロさんの公開されていないカードは十三枚。対して、こちらの"特権"は三つ。普通に考えれば、私が数を当てると言うのはもう運だ。ただし、いつだって運でなんとかなるのならば私は人生最大の賭けに負けたりしない筈なのである。
私が勝利する希望はたったの一つ。それは、ナロさんが数を当てられずに外してしまう事。そんなこと、どう考えたって不可能なのだが──まだ私には最後の保険がある。ナロさんが数字を外す、その可能性は十二分に残っている筈だ。
「それでは、両プレイヤーとも"特権"で好きなカードを捲る事が出来ますが……どちらから捲りましょう?」
「はーい!僕、僕!どうせ数当てで勝利を狙ってる訳だしねぇ~!さっさと勝負を決めに行きたいって感じかなぁ?歌八ハちゃん、良いかな?」
「良いですよ。これに関しては先にやった方が有利などありませんからね」
「わーい!それじゃあ、早速──その隅っこにある一枚のカード。まず、それからだ」
ナロさんが指定したのは、私のカードが並べられた机の隅っこにあったカードだった。凍先輩は言われた通りにそのカードを手に取り、内容を確認し──
「"特権"にて公開されたカードはクローバーの4でした。右吾様の"特権"は残り四つとなります」
「ふーん、まあごらラン一位だもんね?気づいてて当然かぁ~!いや、いいね歌八ハちゃん。目敏くて、とても良いよ」
「……気づいてて当然、とは?」
「んん?やだなぁ、歌八ハちゃん。分かってる癖にぃ~、隅っこのカードが"特権"で捲れたのが何よりの証拠でしょ?」
「……そうですね。凍先輩は作った手札の左から二枚は自由に入れ替えて良い事。そして、机の左角に置くカードの事を選んだ一枚ではなく、余った一枚と言いました」
「つ、ま、り~?選んだ一枚も右から二枚の内いずれかであればポーカー勝負の手札に入れられちゃうってぇ、訳だね。気づかずに"特権"で捲ろうとしたら、一つ無駄にしちゃう訳だから、数当て勝利を狙う私にとっては随分危険なトラップになっちゃう、って訳だ」
「ただし、それが分かっていればいくらでも回避方法はあるって事ですか」
「そゆこと~」
ナロさんは非常に楽しそうにこのゲームをやっている。対して、私はどうだろうか。鈴白ポイントが三十ポイントかかったこの勝負を楽しめているだろうか。
そんな自分の思考に「楽しめてる訳無いだろ!」と内心突っ込もうとして──ほんの少し。ほんの少しだけ、楽しんでいる自分の気持ちに気がついた。