鈴白ポイント──それがこの鈴白高校特有の制度。
単位を取得した際の褒美として。あるいは学校内での労働に対する対価として。はたまた、学校側の不備で生徒にトラブルが発生した場合のお詫びとして。
そんな風に様々な形で生徒へ支給されるこのポイントは、なんと
とは言え、この鈴白ポイント。なんと、それだけでない。
一ポイントが百円換算になってしまうが、なんと
売り切れ続出の大人気のゲームを取り寄せるのも良し。巷で流行りの化粧品を揃って取り寄せるのも良し。私のような寮生徒は休日の為の食事を取り寄せるのも良しだ。
しかし、そこまで聞けば疑問だって生まれる。
基本的に一学期で何ポイント貯まるのかまでは分からないけれど、私立であることを加味しても学校側としては生徒全員に一万円ぐらい出されても困るだろう。このポイントはあくまでも学業に対する支援。一人につき、三千円分ぐらいが関の山。実際の所はその半分である千五百円(つまり、十五ポイント。こう換算すると凄い少ない)というのが妥当な所だろう。
一学期につき千五百円。そんなものでは、欲しい物を買うには学業のついでに貰えるポイントだけでは到底足りない。
では、そこのギャップをどう埋めるのか──その疑問は、支給されるものとは別に
鈴白ポイントを賭け、ゲームによってそれを取り合う、学校公認の賭博。これならば、賭けに勝った一部の生徒は欲しい物が買え、それは負けた生徒から補填されているので学校側としても大きな出費は発生しない。賭博は賭博でも、賭けるものが現金でないからセーフと言う訳だ(法律は詳しくは知らない。アウトであって欲しい)。
そして、娯楽賭博を取り仕切るのが生徒会役員──と言うのが、先程聞いた話だ。
確かにこの情報は、入学以前から今ににおいてまで全く知らなかった情報だ。知らなければ、悪質な先輩に知らず知らずの間に娯楽賭博に巻き込まれて鴨にされていただろう──うん、
やれやれ、こんな可愛い美少女を見つけてやることがナンパではなく、鴨として出汁取りとは見るべきものを見れてないと言うべきだ。これだから田舎民は……別に私も都会出身って訳でもないけど。
なんにせよ、娯楽賭博に参加する事を決めてしまった(楽しいパーティーゲームと聞いていた。欺瞞だ)私が今から逃げれば、少なくとも三十ポイントは罰金として払わされるらしい。
……私、入学祝いの十ポイントしかないよ?
まあ、と言うわけで嵌められた割には私は大人しく先輩のお二方と会話していると言う訳だ。
人を鴨にするのは良くないということをなんとかこの先輩に教えてあげたいものである。
「このゲームはその名から分かる通り、あっち向いてホイに近しい物となっています。じゃんけんをし、勝者は指を指し、敗者は顔を振ります。指が指された方向と顔を向けた方向が一致すれば指を差したプレイヤーの勝ち。基本的にはそれだけです。ただし、先程言った通りにじゃんけんも、指差しも、顔振りも、全てカードを使って行います」
「それがこのカード、という訳ですか」
凍先輩の「ええ、その通りです」というお墨付きを貰いながら私は配られたカードを見る。よく見るまでもなく百均のトランプだ。ただ、数字や絵がある表面に真っ白な画用紙がセロハンテープで貼られて絵が見えなくなっている。ここにじゃんけんの手と方向を書くのだろう。
凄い手作り感がある。画用紙の分段差もあるし、画用紙のサイズもカードごとに少しだけズレてる。流石にトランプからはみ出ているものはないみたいだけど。道具さえあれば誰でも作れてしまいそうというのが、私としてはちょっと気になる所かな。多分、ゲームに支障はないから許されてるんだろうけど。
「さて、ゲームの流れを説明しましょう。まず
「いくらでも悩んで良いのがルールだけど、個人的には十分ぐらいが限度かなと思ってるよ」
「奇遇ですね、私もそう思いますよ。一つ一つに何十分もかけていれば、無駄に長引くでしょうから。凍先輩も今日はお忙しいでしょう?」
「私の事はお気になさらず。思うがままに悩み、最善手をお願いします」
「……そうですか。では、御言葉に甘えて」
「いや、甘えないでよ」
比台先輩のその言葉はこらこら、みたいな軽い様子ではあったが、表情の方はそれとは違う焦りが含まれた物だった。この人、私を鴨にしておいて案外忙しかったりするのだろうか?それとも、あまりに長引けば私以外の新入生を鴨にできなくなることを危惧してるのだろうか?
言ってて思ったけど、多分後者だな。私の中で比台先輩の好感度がどんどん落ちていく音がする。カツーンだ、カツーン。つまり、底だ。地の底、そうマントルだ。マントルって底なのか?
「両プレイヤーが全てのカードを伏せ終えたら、次に
「表向きにしなければ?」
「その場合は互いに方向を指すカードを裏向きのまま交換して貰います。あとは同様に、ラウンド続行となりますがそのラウンド中は交換したカードは確認できないことに注意してください」
どうやら方向カードは相手と交換ができるらしい。まあ、互いに書いた方向が全て違う可能性だってあるだろうし、当然といえば当然のルールなのかもしれない。
ルール説明はまだまだ続く。
「
「俺はないよ。歌八ハちゃんはどうだい?」
「そうですね。流れ、ルールについての質問は現状ありませんが……これは賭けなのですよね?
「勿論です。では、その説明と共に親と子の説明もさせて貰いましょう」
そう言うと凍先輩は一枚の紙を出す。そこには分かりやすく、このゲームの構成と親と子の説明。賭け金……ならぬ賭けポイントの詳細が載っていた。さっきまでのルールの流れも書いてある。最初からこれ渡して欲しい。説明は説明でちゃんと聞くから。
「このゲームは全四ラウンド構成のゲームです。各ラウンド毎に清白ポイントを賭けて貰い、賭けの最低ポイント数はそのラウンドの数、最高ポイント数はそのラウンドの数を五倍した数とさせて頂きます」
「ラウンド数の五倍……つまり、四ラウンド目は最大二十ポイントという訳ですか。持ってるポイントでは、到底足りなさそうですね」
「ご安心を。清白ポイントにはマイナスまで換算できます。利子もありません」
何をそれで安心しろって言うんだ、と言うのが本音だったが流石に口にせず「御教授ありがとうございます、凍先輩」とだけ返しておいた。借金できるんだ、清白ポイント。学校のシステムとしては欠陥品の最悪だろ。なんで学業の支援の一環で借金ができてしまうんだ。
「そして、その賭けるポイントを決められるのが"親"となります。公平を期す為に各ラウンド毎に親は変わりますが、どちらが最初のラウンドに親となるかは話し合いで決めてください。次に、子についてですがご想像の通り、親ではないプレイヤーが子となります」
「しかし、賭けるポイントは親が決め、あいこも親の勝ち。そういうものではありますが、随分と親が有利ですね」
「ええ、とはいえ子にだけ認められている権利があります。それが、
「少数点以下は切り上げですがね」という情報も聞きつつ、少しだけ頭を働かせる。
私がそんな甘えた考えを見越したのか、凍先輩が最悪のルールを発言した。
「そして、両プレイヤーはこのゲーム中に一度だけ
ほな、十七ポイントでは済まないか……。
賭け金を二倍にする、と言うのはチャンスになり得るだろうが、リスクがあるのはどう考えても丸分かりだ。一度しか使えない以上、相手もそう簡単に切らないだろう。とは言え、切っても問題ないタイミングが生まれてもおかしくないルールではあるのは確かだ。そうなると、
それに気づいた私は早速質問をする。実際に行って駄目だったら普通に私が可哀想になるだけだからだ。確認は大事なのである。
「そう言えば、各ラウンドでは
「次のラウンドに持ち越しとなります」
ほな、負けは減らせないか……。
持ち越しか。それって、
そんな私の気持ちは他所に、凍先輩は最後のルールを説明する。
「禁止行為は伏せられたカードを決められたタイミング以外で確認する事。既に伏せてあるカードのすり替え。相手の手札の確認。そして、常識に背く行動や発言。以上の四点です。禁止行為が確認され次第、すぐさまゲームを修了し、禁止行為を働いたプレイヤーには残りラウンドから算出される最大ポイント数を払って貰います。最後に、何か質問はあるでしょうか?」
「……私はありませんね」
「俺もないよ」
比台先輩、この説明中「ないよ」しか発言してないんじゃないか?もっとまともに話を聞くべきだと私は思う。コミュ症なだけなら、私としては面白いけど。
「両者共にルールは問題ないようでなによりです。では、"あっち向かずホイ"スタートです」
ゲームのスタート合図を聞きながら、私は手元のじゃんけんカードと方向を指すカードを見る。それらの内容は──当然、白紙だった。書く時間、あったかな?