「それではペンをお渡しします」
どうやらカードに手を書くのはゲームが始まってからのようで(良く良く考えなくてもそらそうである)、私と日室先輩の間に仕切りが立てられ、ペンが手渡された。ボールペンだ。なんでボールペンなんだ?画用紙に書くのだから普通にマジックペンとかで良いだろうに……ボールペンだと細すぎるだろ。何ミリだこれ?ふむ、1.5ミリ……1.5ミリ!?
「柊様、何か道具に問題でもありましたか?」
「いえ、問題はありませんが……でもそうですね。試し書きができる紙はありますか?」
「勿論です。では、こちらをお使いください」
カードに使われているであろう小さな厚紙を手渡されたので、それにボールペンですらすらと線を引いていく。おお、確かに太い。これなら相手のカードの文字を見間違えるということはないだろう(そもそも凍先輩がしっかり確認するだろうが)。
ということで、カードの手を考えていこうと思う。時間制限はないのでいくらでも考えられる訳だが……正直な所こんな所でどれだけ悩んでも仕方ないのだ。情報も少ない序盤も序盤。ゲームのセオリーや相手の性格についてある程度は分かれど、それで作る組み合わせが読みきれる訳でもあるまい。どの手にするかは適当に決めてしまっても構わないかな。とは言え、リスクを加味すれば
「日室先輩はどんな手の組み合わせを作りますか?」
「……それ、普通対戦相手の俺に聞く?」
「勿論。私は初心者ですから。娯楽賭博経験者である比台先輩の話は是非聞きたいですよ」
「うーん……まあ、セオリーを話すだけなら良いよ。君も少し考えれば分かるだろうからね」
「と、言いますと?」
「カードは四枚。じゃんけんの手は三つ。だったら、全部の手を選んだあとどれを一枚増やすかって話になるよね。下手に偏らせると、手を読まれるリスクもあるし」
「確かにそうですね。教えて頂きありがとうございます」
「これぐらい教えたに入らないよ。これで準備は終わりそうかな?」
「ええ、今すぐにでも」
その言葉が強がりでないと示すように、私は残りのカードにサクサクと文字を書き、準備が完了した。そして、それぞれが決めたカードを凍先輩が確認していく。互いの文字に特に問題はなかったようで、仕切りが外され、いよいよゲーム開始と言った所か。
「親は私が先で構いませんか?カードゲームはだいたい先手が強いので」
「これをカードゲームというかはちょっと分かんないけど……じゃあ、譲ろうかな。俺も後が良かったし」
「親が決まったようですので、それでは第一ラウンドスタートです。では、柊様。賭けるポイントの数をお決めください」
「そうですね、では一ポイントで」
私がそう宣言すると、比台先輩はあからさまにがっかりとした表情を見せた。なんなんだこの人、賭けを仕掛けてきたのに、顔が分かりやす過ぎるだろ。少しは隠して欲しいものだ。
「歌八ハちゃん……それはちょっと怖がり過ぎじゃない?」
「娯楽とは言え賭博な訳ですから、最初に様子見するのは鉄板ですよ。比台先輩はそんな鉄板はお嫌いですか?」
「そうだね、嫌いだよ。どうせ賭博をするなら派手にやらないと……まあ、決まったならこれ以上言っても仕方ないかな」
「第一ラウンドに賭けられたポイントは一ポイントです。それでは
その言葉を聞いて、私はなにも迷うこともなく二枚のカードを伏せる。比台先輩も同様だ。
さっきも言ったが、ここは様子見。相手の手持ちのカードを出来るだけ把握する為のラウンドだ。そして、なんだかんだ悪態をついていた向こう側としても同じ様に思っているのだろう。じゃあ、大人しく納得していて欲しいとは思ってしまうが。
「では、
「こちらは"グー"です」
「おっ、幸先が良いねぇ。俺は"パー"だよ
「
「賭けられたポイントは一ポイントだからね。ここは表向きにせず交換しようかな」
「承知しました。それでは両者、方向のカードを伏せたまま交換してください」
私たちが伏せたカードは凍先輩の手によって交換され、それぞれゲームの邪魔にならないような隅っこにぽつんと置かれた。もしあのカードが揃っていれば、相手のカードをあまり把握できずに第二ラウンドに入ってしまうことになる。比台先輩はそれをリスクとして捉えたのだろう。
いや、それは別に構わないのだけど。第一ラウンドを様子見のターンとしている私としても助かることではあるのだけど。それはそれとして、その行動は鉄板の鉄板じゃないかと言う気持ちがある。うん、別に構わないのだけども。本当に構わないんだけどね?なんにせよ、私の中の比台先輩の評価は下がる一方だ(マントルの下である。つまり……どこだ?)。
そんな下らないことを考えていれば、二度目の
「では、二回目の
「俺は"チョキ"だけど……」
「私は"グー"ですから私の勝ちですね」
「……良いのかい?早速、四枚目を使っちゃって」
「構いませんよ。使いたい時に使えない方が問題ですから……あっ、
「では、言われた通り方向のカードを確認しましょうか。柊様のカードは"右"。対して、比台様のカードは"左"。一致とはなりませんでしたので、このラウンド最後の
「このラウンドは様子見じゃなかったのかな、歌八ハちゃん」
「様子見ですよ。とは言え、勝つことを怖がる必要もありませんからね」
もしかすると早く勝ってしまって手札を確認できないかもしれない、というリスクは私の中でリスクの中には入らない。それぐらいのリスクは踏み倒して進むのが私だ。変にカードを交換し続ければ、最初に選んだ手札から大きく変わってしまう。私としてはそちらの方が怖い。
さて、最後の
続いての
最後に残った方向カードを交換し、第一ラウンドの終了。これで互いのじゃんけんの手が三枚、方向カードに至っては全てが分かることになる。
私から貰った方向カードを確認して、比台先輩はぽつりと呟いた、
「……人は見かけによらないと言うけどさ。意外と酔狂なんだね、歌八ハちゃんって」
「そうですかね?わりと鉄板の選択肢だと思いますよ」
「そう、かもね……これはこれで、確かに鉄板だ」
私の手札にある方向カードは"右右右上"の四枚。そして、向こうは"右右右左"と、殆んど同じ品揃えだろう。
そう、私が作った方向カードの内容は"右"が四枚だ。特定のカードだけを増やしておけば、方向のカードが一致する可能性は高まる。勝負に勝ちたければ、方向カードを揃えられる確率を上げておくのは一つの戦法としては誰でも思い付くものだろうものだろう。とは言え、最初にじゃんけんの手と同じく、偏らせた手札は読まれやすいリスクを持つ訳だけど。
「それでは第二ラウンド開始となりますが、比台様。賭けるポイントはいかがなさいますか?」
「そうだね……想定外のことはあったけど、さっき言ったように派手なのが良いからね。上限の十ポイントだ」
「第二ラウンドに賭けられたポイントは十ポイントです。それでは──」
「
「──、
私はサクッと"右"のカードを差し出したが、比台先輩の動きは止まっていた。悩んでいる、という訳ではないのだろう。私の行動に呆気に取られて、そしてその真意を探っているという所か。まあ、止まっていたのはほんの十数秒で、そこまで時間がかかることもなくカードの交換は終了した。ちなみに、帰ってきたのは"右"のカードだ。交換する意味あったか?
「そこまで不思議でしたか?私の
「……随分と好戦的な手札を選んだようだったからね。賭けたポイントは少なかったけど、一戦目のじゃんけんの手の出し方も好戦的だ。なのに、第二ラウンドは様子見もせずにすぐに降りた。俺には君の考えが読めないね」
「私の目は隠れてますからね、当然です」
「本当に君の考えが分からないな……!!」
どこに分からない要素があるんだと思いつつ、第三ラウンドは三ポイントを賭けると凍先輩に伝える。つまり、最低値。早くもゲームの折り返しが来ようが(主に私が
「第三ラウンドに賭けられたポイントは三ポイントです。
私は迷いなくカードを伏せたが、比台先輩はまだ少し悩んでいるようだった。互いの方向カードは三枚が"右"。つまり、このラウンドでは必ずどちらが勝利する。それを考えれば、出すカードに慎重になるのも仕方のないことだった。派手にとか言ってたのに、情けない先輩である。
結局、一分ぐらい悩んでから比台先輩はカードを伏せた。
「"右"を出すと思いましたが、意外でしたね」
「……君の"グー"が一枚多い以上、危険な"チョキ"を安全に減らすのは当然だよ」
「それで勝てなければ意味がないのでは?」
「言ってくれるな、歌八ハちゃんは……そうだね、もう安全策はないんだ。勝ちに走らさせて貰うよ」
「それは楽しみですね、期待してますよ」
「それでは、第三ラウンド二回目の
今度も私は迷わない。さっき、比台先輩を煽っておいてあれだけど、安全策となる"上"と"グー"を出し
「歌八ハちゃん、それ安牌じゃない?」
「私の"グー"がお役御免になりましたので安全に処理しようかと思いまして」
「……俺の似たような言葉に、勝てなきゃ意味ないって言ってなかった?」
「過去の発言で逐一言われましても困ります。思考というのは時間の流れ出自然に変わるものですよ?」
「たった数分では変わらないだろ!!」
「……、それでは第三ラウンド最後の
私たちのやり取りが面白かったらしい。最初に少しだけ笑い、その笑いを押し殺しながら凍先輩がそう告げた。
当然、私はここでも迷わない。実際の所、第三ラウンドで私が伏せるカードは最初から決めていたのだ。比台先輩も少しだけ迷った様子を見せて(多分演技だ。私には分かる)。カードを伏せる。
確実に勝者が決まる三回目の
──