ハーフポーカーの勝利方法は二種類。
相手の選んだ数字を当てる。もしくは、相手に数字を当てさせずにポーカーで勝ち切る。
前者の勝ち方を狙うなら、少なくとも五つの"特権"を狙って行くべきだろう。相手が仮に四枚公開で勝利を三回したとして、公開されているカードは十二枚。そこから"特権"で五枚捲ったとしても、確率はあまり上がらなさそうだが、そこでカード並べのルールが重要となる。
『書く際は右から数字の大きさ順に並べること。そして、ポーカー勝負の際はここに書いた通りに並べること』。左から二枚はいくらでも並べかえて良いらしいが、右から三枚はそうはいかない。つまり、真ん中を開けば、残りの左二枚がその数字よりも大きい事は確定する。更に、相手がポーカーで勝とうとしていたなら、相手のデッキの並びも何枚かさえ見ればいくつか推測は出来る。
だがら、"特権"はたかだか一つであっても重要なのだ。それも、五つあれば相手の選んだ数字を当てることはそこまで難しくはない。
とは言え、ポーカー対決では最大でも三勝すれば十分。相手が四勝も狙うことはないと考えると、敗北で貰える"特権"は多くても三つ。そうなると、こちらのデッキを一つか二つは全て公開して、追加の"特権"を貰う必要がある。しかし、こちらの公開情報は増えるし、そんな分かりやすい動きをしてしまえば"特権"狙いだとバレて、二勝程度で相手がポーカー勝負は降りる可能性もある。更に、相手が全伏せの役無しで引き分けになってしまえば"特権"は貰えずこちらが手札を公開するだけになるリスクも無視は出来ない
少なくとも三勝出来るように見せかけつつ、相手が勝ちにくるタイミングを狙って追加の"特権"を貰う。これが難しいのは言うまでもない。
では、ポーカーで勝ち切る戦法はどうだろうか。
先程の想定と同じ状況だと考えれば、私の公開されている手札は十二枚。だから、相手が五つの"特権"を持っていればほぼ負けと考えて良いだろう。つまり、それを避けるには相手が手札を公開してくるタイミングを見極めて全伏せ役無しを狙うしかない。そもそも、相手もポーカーでの勝利を狙っていたならその読み合いも普通に発生する。
ナロさんが強敵であることは分かっている現状、こちらも楽ではないのは間違いない。
ふむ……今からでも対戦相手が比台先輩になったりしないか?
「いやぁ、こうしてトランプのカードを並べてみると考える事が多いねぇ。実に悩ましいなぁ」
「そうですね。"特権"のルールは実に嫌らしい物だと思いますよ。これのせいで雑に勝利が狙えない訳ですから」
「んん?いやいや、だから楽しんじゃないかなぁ?適当にやって適当に勝つなんて面白くないよね?ねぇ、凍先輩」
「そうですね。やはり、見るからには面白い勝負を期待したいものです」
「野次馬は嫌われますよ、凍先輩」
「いやいや、歌八ハちゃん。この人、当事者当事者」
無駄に凍先輩に当たりつつ、私は少しだけ考えて紙に組むべき手札を記入し始める。
このゲーム、相手がどう来ても対応出来るように手札を作ると言うのは恐らく無理だ。あまりにも想定する事態と考えるべき事が多すぎる。だが、結局の所は最終的に勝利する方法は二種類。ならば当てずっぽうでも、相手の取る戦術を予測して、手札を決めると言うのが最善だろう。それが裏目に出るリスクというのはもう仕方ない。これもカードゲームである以上、自分の組むデッキに苦手なデッキがあるのは当然なのだから。
そうして、自身の組んだデッキを紙に書いて、凍先輩に提出。それから二分後にナロさんも提出した。
「では、お二人共提出したようなので、実際のカードもそれぞれ五枚五組にまとめてください。余った一枚は机の左角にでも置いて貰いましょうか」
「そう言えば、ポーカー勝負で公開されたカードってどこに置けば良いのかなぁ?結構場所取っちゃうだろうし……隣の机でも借りちゃう?」
「そうですね。一勝負終わり次第隣の机に紙に書かれた順番通りに私が並べるようにしましょう。少し机を寄せますね」
「……あと、一応聞いておきますが"特権"で選んだ一枚を公開する事は不可能ですよね?」
「はい、そうですね。"特権"はあくまでも選ばれた一枚を推測する為のヒントとなるの。流石に答えそのものを見せる訳にはいきませんからね。"特権"で選ばれたカードは私が先に内容を確認し、それが選ばれた一枚であればそのまま伏せさせて貰います。その場合の"特権"は無駄になることに注意してください」
「おお、そんな所もしっかり聞いちゃうんだ。流石歌八ハちゃん、聞いていた通りだよ」
「……凍先輩、私の事なんて言ったんですか?」
「内緒です」
そんなやり取りがありつつ、隣の机は寄せられて勝負の準備は完了と言った所だろう。
いよいよ始まるのだ。一ヶ月分の昼食代を賭けた大勝負が……そう考えると、あまりやりたくなってきたな。やっぱり、
「それではハーフポーカー、スタートと行きましょうか。それでは一戦目です。手札を選び、何枚公開するかをお選びください。制限時間は三分間です」
三分間と言う時間。私はその時間をフルに使うことはなく、開始数秒でデッキを選んで四枚だけ公開する。何も分からない序盤も序盤。変に悩むことはなく、取り敢えず一発かます。それが私のやり方だ。
ナロさんもあまり悩む様子はなく、比較的早くデッキを選んだように見える。仕切りで顔以外隠れているのでわりと推測ではあるのだけれど。
「それでは三分経ちましたので、一戦目と行きましょうか。仕切りを外します」
そして、公開された私の手札はスペードのA-K-Q-Jの四枚。つまり、四枚のスペードのロイヤルストレートフラッシュだ。それに対してナロさんの手札は
四枚のロイヤルストレートフラッシュ。四枚公開の中で最強の手札を役無しで受け流されてしまったのだから。負けなかっただけマシだと考えるしか無さそうだ。
「柊様は四枚公開、スペードのロイヤルストレートフラッシュ。右吾様は零枚公開の役無し。勝負の結果、一戦目は柊様の勝利となりました。その為、右吾様に一つの"特権"が付与されます。それでは、二戦目に行きましょう。お二方、準備をお願いします」
再び仕切りが私とナロさんの間に置かれ、凍先輩が先程公開されたカードを隣の机に並び始めたタイミングでナロさんが口を開く。
「成る程ねぇ……いやいや、歌八ハちゃん。最初から大盤振る舞いだぁ。僕、ビックリしちゃったよ」
「それに対してナロさんは大人しめですが……こちらとしては一杯食わされましたね」
「そうだね。そっちはもうロイヤルストレートフラッシュを一組使っちゃった。けど、そっちはなんの情報も得られていない。最悪では無いにしても、良い方では無いんじゃない?」
「そうですね。とは言え、一勝は一勝。勝利に一歩近づいたと考えておきますよ」
「ふふ、ポジティブだねぇ歌八ハちゃんは。僕も見習わないといけないかも、勝った訳ではないんだし」
なんにせよ、二戦目だ。ナロさんは何も公開しなかった以上恐らくあれはいらないカードの詰め合わせと言った所だろうか。何枚分かはともかく、ロイヤルストレートフラッシュの様な強い手札はまだ残っている筈。とは言え、何も情報が得られなかった以上次の一手が悩ましいのも事実。
一勝はした現状、更なる勝利を求めるか。それとも、ここで一度様子を見るか。うーん、どちらも非常に悩ましい。
やはり、ポーカー対決としてカードを伏せられてしまうと言うのは厄介だ。本来なら公開される筈の情報を意図的に秘匿出来る。そして、互いに使う手札がランダムではなく互いが勝利する為に考え抜いた手札。一度の選択ミスが敗北に直結する事は言うまでもない。
少し考えて、私は更に詰めていく事にした。早く勝利してナロさんにプレッシャーをかける。そんな手札を私は選んだ。
そんな風に思考を回していれば、三分と言う時間はあっという間だ。まるで機械かのように決まった時間に、決まった通りに凍先輩が口を開く。
「三分経ちました。仕切りを外します」
仕切りを外され、公開された私の手札はクローバーのA-K-Q-Jの四枚。つまり、クローバーのロイヤルストレートフラッシュ。四枚公開としては一番の強さだ。そして、対するナロさんの手札は──
「ふふ、開いた口が塞がらないって感じかな?歌八ハちゃん」
「……いえ、想定内ではありますよ。このタイミングか、とは思いますが」
「まあね。僕って性格は分かりやすい所があるからね、勝負のタイミングは読ませないようにしてるのさ」
──ハートとスペード交じりの8-7-6-5-3の五枚。つまりは役無し。
私が勝利を狙った行動に合わせて、"特権"を狙い、そしてしっかり取られてしまった形になる。勝利は勝利だが、これまた最善ではない。
ナロさんが数字当てる事による勝利を狙ってくる事は読んでいた。なんせ、ナロさんは自分よりごらランが高い私を呼び出して、直接勝負を挑んで来るような傲慢さだ。数字を当てるゲームなら数字を当てなければ勝ったとは思わない、そんな思考をするだろうと言うのが予測と言うか予想だ。
だからこそ、後がない二敗状態になる前に勝利を狙ってくると思ったのだが、そこを逆手に取られてしまった。
そして更に問題なのはナロさんはまだロイヤルストレートフラッシュを二種類残していると言う事だ。それはつまり、だ。まだナロさんはポーカー対決も諦める必要がない程の手札であるって事だ。
このゲームは数当てゲーム。しかし、ポーカー対決もある以上、ポーカーにも勝ってこそ完全勝利だ。そう、
「柊様は四枚公開、クローバーのロイヤルストレートフラッシュ。右吾様は五枚公開の役無し。勝負の結果、右吾様に二つの"特権"が付与されます」
「それじゃあ、勝負を続けよっかぁ?歌八ハちゃん」
「……全く、三十ポイントの事を考えると、無かった事にしたくなりますね。できませんけど」
楽しそうにニコリと笑うナロさんに私はただそう返した。