side 大和
「偵察機から入電!目標は変わらずその場から移動していない模様、あと五分ほどで射程内に突入します!」
「分かりました!全艦、砲雷撃戦用意!」
出撃準備中に深海棲艦からの接触がありひと悶着あったが、こちらに協力してくれるのであれば是非もない。相手はなんと言ってもあの提督だ。私達が束になっても勝てるか怪しい。戦力はいくらあっても足りないくらいだ。
「大和!そろそろ私達の射程に入るぞ!」
大和型二番艦、妹の武蔵がこちらに報告してきた。今回の作戦の指揮を取るのは私だ。なら先陣は私が自ら撃ちこんでやろう。
「大和、砲雷撃戦始めます!」
自分と隣りにいる武蔵の主砲が火を吹き僅かに見えていた提督に向かって撃ち込まれる。そのうちいくつかに至近弾と命中弾があったがあまり効いてなさそうだ。
「規格外とは聞いていたがまさか大和型の主砲を弾くとはな」
「なんて言っても私達の提督ですから、私も以前やられましたしね」
「だが、私達もあの時よりも強くなった。提督であろうと負ける気はない」
「それは私も同じです!」
掛け声と共に第二射の装填を急ぐ。背後からは空母艦娘達の艦載機が自分達を追い抜き、提督目掛けてさながら空爆の如く集中爆撃を行っている。他の戦艦や重巡艦娘も砲撃を始め、それに混ざって接近した軽巡、駆逐艦娘が酸素魚雷を絨毯の様に一斉発射する。
誰もが提督を助けたい気持ちは同じだった。
深海棲艦を撃破すると稀に艦娘がそこから誕生する。
原理ははっきりしていないが一部では、轟沈した艦娘に負の感情がとり憑いたものが深海棲艦という仮説と、なら深海棲艦を撃沈し負の感情を取り除けば再び艦娘として蘇るのではないかという予想が立てられている。
確証ではないが一応理論としては言い分が通っているため、殆どの提督がこの現象のことをドロップと言い認めていた。ならば、深海棲艦に堕ちた提督を撃沈すれば再び提督を呼び戻せるのではないか。仮説の域を出ないがそれしか方法はなく、それ故に出来ることに全力を尽くした提督奪還作戦は
「………………」
失敗した。
いくら砲撃を当てても、爆撃を行っても、魚雷を撃っても頑丈な装甲を突破することは出来ない。逆に何百という魚雷を撃ち返され、上空は味方の艦載機を落とされ攻撃機に好き放題にされる。外すことのない直接、間接、遠隔射撃を受け艦隊は轟沈者が出ていないのが奇跡の状態だった。唯一被害を免れた潜水艦娘達も攻撃が一切効かないと察してからは味方の援護に回っていた。
「………………」
「うっ…………くっ……………」
今提督に首を捕まれ宙吊りにされているのは皮肉にも鈴谷であった。何の因果か、他の艦娘の様に大破する事はなくこうして提督に捕まえられていた。大破していないが、主砲は砲身が折れ、艤装も服もボロボロでほとんど大破と変わらなかったがそれでも、作戦を押し進めたのは自分なのだから最後まで自分だけは何があろうと諦めない。
「………提……督…!…………さっさと起きな…さいよ……!」
「……………………」
「みんな…………待ってんだよ…あとは提督…………だけなんだから」
「…………………」
「黙ってないで…………何とかいいなよ!」
「…………………ャ」
「…………えっ?」
「……………ス…ズャ」
その時、提督の白い肌がひび割れた。
side ???
それは意識の奥底に眠っていた。もう二度と起きぬように、二度と誰にも合わないようにと。ふと懐かしい声が聞こえたような気がして、ほんの少しだけ意識を起こした。
「………………………」
やはり気のせいだったか。こんなところにあの子達が来ているはずかない。今頃は新しい提督が来て指示に従ってる頃だろう。あの子達と一緒に過ごした日々はもうほとんど覚えてない。この体になった時に頭の中がだんだんと空っぽになっていく感覚があったが、今の私にはどうすることも出来ない。だからみんなの声も顔も思い出せない。
「………………て……督……」
なのになぜだろう。遥か上の方から聞こえるこの声がどこか懐かしいと感じるのは。自分はこの声をどこかで聞いたことがあるのか?
「…………み…な………待っ…んだよ…………とは…提……く…だけな……から」
頭が痛い。何かを思い出そうとすると痛みが更に激しくなる。まるで思い出すことを拒むように。でも分かった、この声は彼女の声だ。
「だま………いで…………なん…か言いなよ!」
なぜこんな場所まで追ってきたのか、なぜ私を見捨てなかったのか。不思議に思ったが痛みのせいで何も考えられない。これ以上痛みが酷くなったら意識も持ちそうにない。だからせめて思い出せる間に彼女の名前を言おう、絶対に忘れないように。
だから、ごめんね。
「……………ス…ズャ」
その瞬間痛みがオーバーフローし意識が落ちた。
が、意識が落ちたはずなのに気づけばまた意識が覚醒していた。不思議だが起きてしまったものは仕方ない。素直に目を開けて現実を見るだけだ。
「…………………ん?」
起きてすぐにわかった。周りがやけに生ぬるく湿ったような暑さがすると思ったら、ベッドで寝かされていた。さっきまで海の中にいたはずなのに、一体いつから自分は瞬間移動でも覚えたのか。それに寝かされているベッドもよく見れば自分が毎晩寝ていたベッドに似ていた。
「ここ……たしの…………鎮守……府?」
寝起きなのか、はたまたしばらく喋るということをしていなかったせいかうまく喋れない。辿々しくつっかえるように確認すると部屋のドアが開いた。開いたドアの向こうにいたのはあの時語りかけてくれた彼女だった。
「…………すずや」
「………………………き」
「……き?」
「きゃああああああああああ?!」
いきなり鈴谷が叫びだすと瞬間移移動もかくやという速度で近づいてきた。
「?!?!」
「て、提督?!大丈夫?私のこと覚えてる?!」
「えっ………うん……すずや、だよね?」
「…………でいどぐー!!」
「えっ、ちょと、なんで泣くの」
突然泣きだした鈴谷の声に釣られるように部屋の中に次々と他の懐かしい面子が入って来た。
「ほんっとうにスイマセンでした!!」
あの後鈴谷たちから事情を聞かせてもらい、大本営から様々なことを補足してもらってようやくだいたいのことが分かり、現在元帥のところまで足を運びこうして謝っている所だ。何があったとはいえ大将に憲兵を殺したのだ。その罪は謝った程度で消えることではない、なのだが
「あの者達は前々からなにか怪しい動きがあると知らせがあっての、じゃがワシが直々に動けば奴に感づかれ二度としっぽは掴めないだろえ。そう考えるならばお主のやったことは褒められるようなことではないが、別段謝るようなことでもない。殺すというのはいささかやり過ぎな気がしなくもないがの」
元帥はあろうことから今回の事件に関して私を無罪とし、二週間ほどの謹慎処分で終わらせてしまったのだ。拍子抜けというか、器が大きいのかよくわからない人だが悪い人ではないのだろう。実際話している最中に何度もこちらのことを気遣ってくれていた。
「それで?なんで私達に何も話さずにどっか行っちゃったわけ?」
そうして待ち受けていたのは、今度は艦娘みんなからの説教だった。てかみんなの顔が怖くて直視できない。いつも無表情な弥生ですらいまははっきり怒っていると分かるし、夕張や加賀さんや鈴谷なんて目が笑ってない。
「えっと……みんなに迷惑かけちゃうし、それに私が消えればみんなに迷惑もかからな」
パァン!
「ふざけないでよ!!」
「………えっ?」
「私達と提督はそんな薄っぺらい関係だったの?私はそうは思わないよ!だって毎日一緒に過ごして、一緒にお風呂に入って、たまに一緒に寝て……みんなで一緒に今日まで暮らしてきたんだよ!それを迷惑かけるから?ふざけないでよ、そんなの今更でしょ?私達、仲間でしょ?家族でしょ?そんな偽りの、吹けばすぐ消えちゃうような関係じゃなかったはずだよ!」
「!!」
「痛いなら痛いって教えてよ……辛いなら辛いって教えてよ……。助けて欲しいなら………助けてって思いっきり叫べばいいでしょ!黙って一人で抱え込まないで少しは、仲間を頼りなさいよ!」
「…………ヒグッ……グズッ…………ごめんなざい」
「…………分かればいいのよ、提督」
「…………グスッ…………なに?」
「…………お帰りなさい」
これにてやっと二章が終わりました!
謎シリアスが終わったためまた例のあれが始まります
この二章流れで入った割にはあっさり終わってしまいましたが、作者の文才で皆さんにうまく伝えられたでしょうか?
それではまた新しい章で会いましょう!