テイルズオブ・サモナーズ   作:柿田

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第十二話「氷の聖獣」

 夜明けと同時に、弓月さんや鋼太郎と共に試練の地へと出発した。

 氷狼と戦うつもりなら、聖獣の契約を早くに終わらせたほうが良いという弓月さんの考えだった。

 氷の聖獣は、降雪村から北側にある、白氷山に住んでいるという話だ。頂上に登ってきた者に姿を見せるが、目撃者は少ないらしい。

 

「つばさ。気持ちは分かるけど、体力の配分考えて歩けよ」

 

 後ろから鋼太郎の注意する声が聞こえた。無意識のうちに歩く速度が速くなっていたようだ。

 

「うん。ごめん……」

 

 歩く速度を緩めた。

 今日は雪は降っていないが、それでも雪山であることに変わりはない。少し歩けば雪が足を捕らえる面倒な道が続く。

 早く頂上に行きたいが、山道で焦りは禁物だ。心のなかで、自分に言い聞かせる。

 

「そう焦らなくても、そろそろだと思いますよ」

 

「えっ?」

 

 弓月さんが指さしながら言う。わたしは、流石にまだ続くだろうと思っていた。しかし、風が止んで視界が開けてきた。

 坂が終わり、平坦な地面が見えてきた。

 

「本当だ。どうして分かったんですか?」

 

「子供の頃に、一度来たことがあります。私の村では、大人と一緒に、この白氷山を登る儀式がありましたから」

 

 大人同伴とはいえ、雪山を子供の頃に登ったことがあるのか……わたしには考えられない世界だ。

 

「凄いッスね。俺とつばさは雪山とは縁のない生活でしたから」

 

「とはいえ、魔物は出てきませんからね。聖獣様あってこそですよ」

 

 でも、この山道は子供には辛いだろう。正直に言えば、わたしも体力をだいぶ持っていかれた。

 頂上に辿りついただけでも、達成感があった。勿論、目的は何も終わっていないのだが。

 

「熱っ……!」

 

 感慨に耽っていると、中指が熱くなった。熱はすぐに収まった。

 

「つばさ、大丈夫か!?」

 

「う、うん。何とか……指輪が何かを伝えたいみたい」

 

 熱くなったのは、中指にはめている召喚士の指輪だ。変化を知らせる時に、熱を持つ。どういう仕組みなのやら……。

 

「指輪が熱くなるのは何かの兆候。正直に考えるなら、氷の聖獣様でしょうね」

 

「ええ。その通りよ」

 

 びくっ、と肩が震える。弓月さんの声に、答えるように別の女の人の声が聞こえたからだ。

 この場には、わたしと弓月さんと鋼太郎しかいない。他の人が話に入ってくるのは物理的に難しいはずだ。

 そんな事ができるのは一人だけだ!

 

「氷の聖獣様ですか!?」

 

 わたしは、天に向かって叫ぶ。何も無いのは承知の上だ。

 呼び声に答えるように、吹雪が吹き荒れる。

 

「うわっ!」

 

 視界が雪で覆われ、目を瞑る。だが、吹雪は長く続かず、すぐに止んだ。

 

「ん……」

 

 目を開けると、見知らぬ女性の姿が見えた。

 その女性の立ち姿は、有り体に言えば、とても美しかった。

 白い着物に、黒く長い髪。まるで絵に描いたような美女だ。

 見惚れそうになる気持ちを抑え、弓月さんや鋼太郎と共に頭を下げる。

 

「氷の聖獣様!召喚士の一光つばさと申します!今回は、契約の儀式の為に参りました!」

 

 氷の聖獣は、近づきながら、わたしを見ていた。何だか品定めされているようで居心地が悪い。

 私の近くで足を止めると、話を始めた。

 

「……ふむ。地の聖獣と契約したの?」

 

「あっ、はい……分かるんですか?」

 

「嫌でも伝わる。あの脳天気な気配がね」

 

 脳天気ときたか……まあ、そう言いたくなる気持ちは分かるが。

 

────酷い!酷いよ!

 

 地の聖獣の、のほほんとした態度を思い浮かべていると、頭の中で地の聖獣の声が響く。

 そして、指輪が光った。一瞬のことだが、あまりもの眩しさに、目を瞑った。

 

「うわ!」

 

 目を開けると、太った蛇のような不思議な生き物……地の聖獣の姿があった。

 

「な、なんだっ!?」

 

 鋼太郎が叫んだ。いきなり地の聖獣が出てきて、面食らったのだろう。弓月さんも、声には出してないが少し困惑しているようだ。

 

「誰が能天気だ!君だって気を張り詰めすぎてて息が詰まっちゃうもんね!」

 

「事実でしょ?言われて悔しいなら改めなさい」

 

「何をー!君だって先々代の召喚士に怖がられてたじゃないか!」

 

 何だこれは……何を見せられているのか。

 聖獣同士で喧嘩をしているのか?それも、程度の低い言い争いだ。

 わたし達は、ひたすらに困惑していた。

 

「あのー……そろそろ良いですか?」

 

 はっ、と我に返る聖獣達。地の聖獣は指輪の中に戻り、氷の聖獣は咳払いをして、仕切り直した。

 

「悪かったわね。それで……契約の儀式、だったわね?」

 

「はい。お願いできますか?」

 

「やらないって言ったらどうするの?」

 

「えっ?」

 

 突き放すような物言いに、面食らった。何というか……とても冷めた反応だ。見下すわけでも、品定めするわけでもなく、興味がなさそうというか……。

 

「我々には、あなたの心中は分かりません。聖獣の皆様とは言葉をかわす機会がなく、想像するのが限界です。しかし、今は時間が無いのです。力をお借り出来ませんか?」

 

 弓月さんが、すかさず頭を下げる。その声には、少しだけ焦りを感じた。無理もない。契約した後に氷狼と戦う予定なのだ。ここで寄り道してる暇はないのだ。

 鋼太郎も、弓月さんに続いた。

 

「おれ……じゃない……!私からもお願いします!一刻を争うんです!」

 

 鋼太郎も頭を下げる。二人の必死な思いが伝わる。

 わたしも、さらに続けてお願いする。

 

「お願いします。苦しんでる人々を見捨てたくないんだす!」

 

 氷の聖獣は、ため息をつく。心底うんざりした、といった様子だ。

 

「真面目なことね。良いわよ。少し試しただけよ」

 

「それじゃあ……!」

 

「ただし、条件がある」

 

 氷の聖獣は、感謝を述べようとしたわたしの言葉を遮った。

 条件とは何なのだろうか。何となくだが、嫌な予感がする。

 

「試練で戦うのは召喚士、あなた一人よ」

 

「ええっ!?」

 

 今なんと言った?

 試練は、召喚士と同行者が一緒に行うとされている。理由は二つほどある。

 一つは、召喚士と仲間たちの力や、信頼関係を見極めるためである。

 もう一つは、人間である召喚士と聖獣では力に差がありすぎるから。

 だから、他者の力を借りるのを認められている。それなのに、わたし一人で戦えというのか?

 

「待ってください。人と聖獣には絶対的な力の差があります。彼女に勝ち目はありません!」

 

 弓月さんの言う通りだ。悔しいが、わたしに聖獣を一人で倒せる力は存在しない。召喚士側に勝ち目がないのであれば、儀式は公平なものにはならない。

 それでも、氷の聖獣の答えは変わらなかった。

 

「必ず勝てる戦いなど存在しないわ。そらに、試練の内容の細かい部分は、我々が決めて良い契約になってるはずよ」

 

「ええっ!?そうなんですか!?」

 

 驚きで大声をあげる鋼太郎。弓月さんは、静かに頷いた。

 

「ええ。大きく決まりから外れてなければ変わる可能性もあるとは聞いてました。しかし、千年以上は何も変わっていないという話でしたから、変わる可能性を考慮していませんでした……」

 

 弓月さんは、苦虫を噛み潰したような顔をする。千年も変わっていないのであれば、誰だって今までと同じと思うだろう。

 

「どうするの?やるの?やらないの?選ばせてあげる」

 

 じっ、と氷の聖獣はこちらを見つめる。雪山を象徴するような冷たい視線。

 だからといって、わたしも止まるわけにはいかないのだ。魔力の供給が止まって異常気象が悪化すれば、孤児院や、今まで会った人々だって無事では済まない。

 ならば、答えは一つしか無い。

 

「戦わせてください。不利な条件でも、あなたと戦わなければならない理由がわたしにはあるから」

 

 これが答えだった。

 負けるかもしれなくても、認められなかったとしても、みんなの命がかかっている。だから、戦う。

 そして、召喚士の使命は、わたしのやりたいことでもあったから。

 

 

「良いわ。でも、その前に……」

 

 氷の聖獣が、右手を上げた。何をするのかと構えると、近くで何かが落ちる音がした。

 こんな場所に一体何が……?

 

「えっ……」

 

 弓月さんと鋼太郎の立っていた場所を見る。何も無い……と思ったのも束の間。すぐに、異変に気がついた。

 

「うおっ?何だこれ!」

 

「くっ……!」

 

 何と、わたしと鋼太郎達の間に、氷の壁が立っていた。

 

「鋼太郎!弓月さん!」

 

 壁を叩くが、ぴくりともしない。刀で斬ってみても、結果は同じ。傷一つつかない。

 

「何をするんですか!」

 

 氷の聖獣に向かって叫ぶ。無礼なことかもしれないが、腹が立って仕方がない。あまりにも横暴だ。

 

「手を出されては困る。だから、大人しくしてもらうわ」

 

「だからってこんな……!」

 

 反論しようと思ったが、言葉を飲み込んだ。恐らくは、何を言っても無駄だ。

 わたしは、刀を構える。いつもよりも、手に力が入った。

 

「試練が終わったら、二人を開放してください!」

 

「ふっ、物分りが良くて助かるわ」

 

 氷の聖獣は、右手を天に伸ばす。すると、彼女の周囲が吹雪に包まれた。

 

「今度はなにっ!」

 

 苛立ちつつも、戦闘の構えに入る。いつ襲ってきてもおかしくない。

 吹雪が収まると、氷の聖獣の右手には、先程までなかったはずの武器が握られていた。

 その武器は、鋭く研ぎ澄まされた鋭利な刃物。つばさも良く知る武器であった。

 

「刀……?」

 

 刀。それは、敵を確実に斬ることに特化した近接武器。剣に比べれば折れやすく、こまめな手入れも必要となる。それさえ乗り越えられるなら、使い手の強力な味方になると、わたしは思ってる。

 それを聖獣が使うというのか?

 

「我が刀は山さえも真っ二つに切り裂く。お前に耐えられるかしら?」

 

「答えは変わらない!必ず勝って、二人を開放してもらう!」

 

 どんな相手であれ、やることは同じ。

 勝って鋼太郎と弓月さんを開放させる。そして、契約してもらう。

 逃げられないし、逃げるつもりもなかった。

 

「その意気やよし!来なさい!」

 

「うおおおおおおおおおっ!」

 

 氷の聖獣の宣言と共に、わたしは一気に駆け出す。刀を彼女に向けて振りかぶった。

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