テイルズオブ・サモナーズ   作:柿田

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第十三話「氷の試練」

 ぶつかる刀と刀。鋼と氷。

 わたしと彼女の大きな違いは、人か人ならざる者か。

 だが、その違いはわたしにとっては大きいものだった。

 

「どうしたの?これで本気なの?」

 

「ぐっ……!」

 

 戦闘は、わたしの先制攻撃から始まった。

 そこから押し切ろうと攻め続けているが、わたしの刃はまるで届かない。どれだけ斬り続けても、受け流される。

 

「だったら……瞬迅剣!」

 

 斬りから突きに切り替える。瞬迅剣は高速で相手を突く技だ。刀の軌跡は、氷の聖獣のハラに向かって一直線に進む。

 

「甘い!」

 

 刀の切っ先が当たるかどうかという距離で、切り払われる。

 

「なっ……!」

 

 どうやっても、攻撃が当たらない。このままでは体力を消耗するばかり。

 こうなったら出方を見るしか無い……。

 

「あら、仕掛けてこないの?地の聖獣の力も使わないし、戦意喪失かしら?」

 

「その手にはかかりませんよ」

 

 刀を握る手を強める。氷の聖獣の言わんとすることは分かる。確かに、聖獣と渡り合うには聖獣の力を使う必要がある。

 しかし、聖獣の力は体力的な消耗が激しく、今のわたしでは気軽に使える力ではない。

 だから、あんな挑発に乗る必要はない。使い所は別にある。

 

「そう、残念ね……ならば!」

 

 氷の聖獣は、地面を蹴った。あっという間に、目の前には彼女の姿があった。

 そして、右手には当然ながら氷の刀。その刃は、わたしを仕留めんと鈍く光る。

 

「っ……!」

 

 首元に、殺気のようなものを感じる。恐らくは、彼女から発せられる殺意のようなものだ。

 首を狙いに来たということか?だが、この距離では斬撃を避けられない。

 首元を守るように、刀を前に出す。その直後、刀身に何かがぶつかったような音がした。

 

「防いだか……やるわね」

 

 氷の聖獣が刀を振るっていた。あまり見えなかったが、腕が動いていた。防げたのは、殆ど勘だ。

 攻撃が届かなくても、攻めに入られたらまずい。だが、まともに切り結んでも勝機はない。

 

「だったら……!魔神連牙斬!」

 

 三連続の衝撃波を氷の聖獣に目掛けて放つ!斬れないのであれば、遠距離攻撃に切り替えるまでだ。

 だが、氷の聖獣は動く様子を見せなかった。

 

「浅はかな作戦ね……はあっ!」

 

 氷の聖獣は、地面に刀を突き立てる。一体、何をしようというのか。

 

「あれは……!」

 

 彼女の周囲の地面から、何かが出てきた。それが氷の聖獣の周囲を包んだ。

 

「守護氷槍陣!」

 

 あれは、槍だ。氷の槍が無数に突き出てきた。彼女を守るかのように、現れた。

 わたしの放った衝撃波は、氷の槍にかき消されてしまった。

 

「嘘……」

 

 思わず呟く。彼女には、近接攻撃も遠距離攻撃も通じないのか……?

 氷の槍が消え、氷の聖獣は氷の刀を向ける。

 

「発想は悪くないけれど、想像が足りなかったわね」

 

 再び、氷の聖獣が駆け出す。一気に斬って勝負を決めるつもりなのだろう。

 

「くっ……!」

 

 氷の聖獣が近づくたび、どこに攻撃をしてくるか何となくだが分かった。首を狙われた時と同様に、氷柱で突き刺すような視線を感じる。

 それでも、斬撃は避けられない。狙われているのは、両手と両足。それに胸だ。合計五ヵ所を連続で斬るつもりなのだ。

 先程は首への攻撃のみだったから対応出来たが、今回は複数だ。話は変わってくる。

 

「全部は無理だよね……ならば……!」

 

 攻撃に備えて刀を握り直す。

 氷の聖獣は、そんなものは無意味だとばかりに足を止める気配を見せない。本気で、わたしを仕留める気なのだ。

 

「なにをしようが無駄よ!喰らえ!」

 

 氷の聖獣の腕が動く。目で追おうとするが、やはり見えない。

 見えないけど、斬撃の気配を確かに感じた。彼女は、その奥義の名を叫ぶ。

 

「凍てつきの刃に沈め!氷影連牙刃!」

 

 冷たい刃の連撃が、わたしに襲いかかる!来るのは分かっている。だが、やはり避けきれない!

 氷の刃は、わたしの両手と両足を鋭く斬りつけた!

 

「ぐああああああああああああああああああっ!!!」

 

 手足が斬られ、血を流す。痛みと熱さが、わたしの身体を駆け巡る。

 ふらふらとする足腰に力を入れ、踏みとどまる。

 まだ、最後の一撃が残っている。倒れるわけにはいかない。

 

「とどめだ!」

 

 最後の一太刀が振り下ろされる。間違いなく、心臓を狙った一撃!

 一回の攻撃であれば、受け止めることだって可能だ!

 

「うわあああああああああああああああああっ!」

 

 胸の部分にちくり、とした視線を感じる。恐らくは、氷の聖獣が、わたしの心臓を狙っているのだろう。

 全力で地面踏みしめ、刀の手を握り、振るった!

 

「なっ……!?」

 

 わたしの鋼の刀が、氷の聖獣の氷の刀を受け止めた!

 この一撃で仕留めるつもりだったのだろう。氷の聖獣は、驚愕する。今までからは考えられない程に、目を見開いていた。

 

「ぐぅっ……!」

 

 刃の刃を相手の肉体にに押し入れようとぶつかり合う。鍔迫り合いの状態になっていた。

 だが、これも長くは持たない。長引けば長引いただけ、わたしが不利になる。次第に力負けするだろう。

 

「まだだぁっ!」

 

 腰に差していた鞘を引き抜く。そこで終わるつもりはない。これは、その為の策だ。

 

「天昇打!」

 

 氷の聖獣の手元を狙って、鞘を振り上げた。鞘に打ちつけられ、氷の聖獣は刀を手放した。

 宙を舞う刀を掴もうとするが、遠くへと飛んでいった。

 

「ちぃっ……!」

 

 刀を弾き飛ばされ、氷の聖獣は顔を歪ませる。これで、彼女の武器は無くなった!

 氷の聖獣が防御の構えを取るには、少しだけ隙があった。今が好機だ!

 

「取った!」

 

 鞘を投げ捨て、氷の聖獣の首を掴む。氷の聖獣は、首を取られると思ってなかったからか、驚愕に顔を歪ませる。

 

────地の聖獣!力を貸してください!

────任せて!

 

 地の聖獣に呼びかける。彼の力が、左手に流れてくるのを感じた。

 光が、わたしの掌に集まる。地の聖獣の力が、光になっているのだ。

 氷の聖獣は、わたしの手を離させようと、手刀で放とうとしていた。

 手刀に貫かれる前に、自身の掌に溜まった力を爆発させる!

 

「くらえ!爆岩掌!」

 

「──────っ!」

 

 光が弾け、岩が砕け散るような、激しい爆発音が起こった。

 氷の聖獣の身体が、空高くへと吹き飛ばされた。

 

「ぐあっ……!」

 

 そして、彼女は地面へと叩きつけられる。その顔は、痛みに歪ませていた。

 だが、わたしは攻めの手を緩めない。

 

「くらええええええええっ!!!」

 

 左手を前方にかざし、岩の弾を氷の聖獣に向かって飛ばす。

 一発だけではない。二発、三発と撃てるだけ撃ち続ける。

 雪が砂埃のように舞い、氷の聖獣の姿が隠れる。だが、間違いなく手応えはあった。

 

「はぁはぁ……どうだ!」

 

 動き続け、聖獣の力を一気に使ったので流石に息が上がる。

 刀の切っ先を氷の聖獣の方へと向ける。倒したのを確認するまでは、油断できない。

 

「ふっ……今のは効いたわよ」

 

「くっ……!」

 

 氷の聖獣は、倒れてはいなかった。彼女の目の前には、半身ほどの氷の壁のような物が広がっていた。あれを盾にして、わたしの攻撃を防いだのだろう。

 

────つばさ!攻撃自体は効いてるよ!もう一度、僕の力を使う機会を狙うんだ!

 

「分かってます!」

 

 地の聖獣の助言に、思念ではなく直接言い返し、地面を蹴り上げる。効いているのであれば、このまま押し切れば良い!

 

「無駄だああああああああああああああああっ!」

 

「なっ……!」 

 

 氷の聖獣は地を蹴り、一気に距離を詰める。

 あれだけの攻撃を受けて、まだこれだけ動けるというのか?

 

「くっ……真空……!」

 

「遅いっ!獅子戦吼!」

 

 眼の前に獅子が現れ、吠える。

 実際に獅子が出てきた訳では無いが、獅子の咆哮を思わせる程の速さの掌底が、放たれた。

 

「ぐああああああああああああああああっ!」

 

 身体が大きく後ろに吹き飛ばされる。壁にぶつかり、地面に身体を打ち付けた。

 

「ぐっ……うぅ……」

 

 肉眼で追うのがやっとな速さだ。明らかに刀を振るうよりも速く感じる。これに対して、どうやって斬り込むべきか……。

 

「あっ……」

 

 右手に違和感を覚える。

 刀が無かった。恐らくは、吹き飛ばされた時に手放してしまったのだろう。

 何とか立ち上がるが、次の攻撃を防げる自信は、正直無かった。

 

「つばさ!大丈夫か!?」

 

 後ろから声が聞こえた。振り向くと、鋼太郎と弓月さんの姿があった。

 氷の聖獣によって二人は閉じ込められていた。これは、二人を取り戻すための戦いでもあった。

 そうか……わたしがぶつかった壁は二人が幽閉されている壁だったのか。

 

「心配しないで!必ず助けるから!」

 

 弱気になるな。防げなくても、攻撃する手段はいくらでもある。

 ここで挫けたら、それこそ全てを失う。弓月さんと鋼太郎だけではなく、世界を救う手段もだ。

 

「だから……負けない!」

 

 地面を蹴る。一直線に、拳を握りしめて氷の聖獣へと向かって走る。

 刀を取りに行きたいが、間違いなく背中を狙われる。ならば、このまま格闘で戦うしかない。

 対する彼女は、先程までの動きが嘘かのように微動だにしない。

 

「あれは……!」

 

 あれは動けないのではなく、敢えて動かないのだろう。わたしを試すつもりだ。

 それでも構わない。わたしに選択肢は無いのだから。

 

「うおおおおおおおおっ!」

 

 拳を氷の聖獣の顔に向けて振り抜く。だが、氷の聖獣は表情一つ変えない。

 効くとは思ってなかったが、ここまでとは思わなかった。距離を取ろうと後ろに下がる。

 

「逃さない」

 

「なっ……!」

 

 ぼそり、と呟いた氷の聖獣は地面を蹴り上げ、一気に距離を詰める。

 

「はあっ!」

 

 腕が動いたのが見えた。防御しようと顔を腕で守るが、遅かった。

 氷の聖獣の拳が、顎に直撃する。視界が激しく揺れる。

 

「ぐあっ……!」

 

 鈍い痛みに、思わずうずくまる。顎だけじゃない。頭も痛かった。

 氷の聖獣は、攻めの手を緩めなかった。

 

「輪舞旋風!」

 

「……っ!」

 

 今度は、回し蹴りが右肩に当たる。横に大きく体が投げ出される。

 

「ぐっ……うぅ……!」

 

 よろけながら立ち上がる。視界がぼやけているし、利き手の右腕も痛かった。

 正直、戦える状態ではないと思う。それでも、やめる気にはなれなかった。

 

「しつこいわね。まだやるの?」

 

────つばさ。これ以上は危ないよ……。

 

 氷の聖獣と地の聖獣。二人の忠告が頭の中でこだまする。

 自分でもそう思う。分が悪いなんてものじゃない。誰から見たって彼女の勝ちで、わたしの負け。 

 多分、鋼太郎達もそう思ってるだろう。近くにいたら、命を優先するように言うに違いない。

 それでも、嫌だった。ここで投げ出したら、自分が自分でなくなる気がした。

 

「ごめん、なさい……続けさせてください……!」

 

 ただの意地なのは分かってる。それでも、止まる気はなかった。

 奥歯を噛み締め、拳を握る。視界は少し見にくいけど、氷の聖獣の場所はわかった。

 

「ぐぅ……!うおおおおおおおおおお!」

 

 氷の聖獣目掛けて、一直線に駆け出す。場所が分かるならば、そこに向かえばいいだけだ!

 

「そう……ならば、終わらせるわ!」

 

「……っ!」

 

 氷の聖獣が、拳を後ろに引くのが見えた。

 

────つばさ!

 

 地の聖獣が頭の中では叫ぶ。言いたいことは分かる。

 あれは、秘奥義の構えだ。彼女の右手に、魔力が集まっているのを感じる。

 逃げるのが正解かもしれない。だが、それでも氷の聖獣は、追いかけてくるだろう。

 ならば、正面からぶつかったほうがましだ。

 

「うおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 氷の聖獣の顔面目掛け、拳を振り下ろす。

 だが、やはり彼女は全く動じない。まるで氷でも殴っているようだ。

 拳を引き、距離を取ろうとしたが、遅かった。

 

「絶・氷神拳!」

 

 氷の聖獣が、拳を振り上げた。その先には、わたしの胴体。

 凍てつく拳が、わたしの腹を穿った。

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