テイルズオブ・サモナーズ   作:柿田

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第十六話「弔い」

 氷狼を倒した後、村に戻って報告した。それを聞いた村の人達は、お祭り騒ぎになった。村の人達が押しかけてくるから、暫くは動けなくて困ってしまった。今まで自分たちを苦しめてきた氷狼がいなくなったのだから無理もないが。

 しかし、いつまでも村に滞在するわけにもいかない。本来であれば、既に村を出ている予定だ。

 まだ日も落ちていないので、わたし達は出発する準備を終えて、村の近くで出発の挨拶をしていた。

 

「未だに信じられません。奴が討たれたなど……」

 

 降雪村の村長である雪彦さんが、感慨深そうに言う。村で報告してから何回も聞いていた。

 

「確かに討ちましたよ。こうして、お墓も作りましたし……」

 

 わたしが目線を向けた先には、人一人分ほどの歪な形の岩があった。

 氷狼の墓石だ。村長の希望で、氷狼と狼の群れの墓を作ることになった。

 流石にちゃんとした物を用意する時間はなかったので、岩を持ってきただけだが。

 

「繰り返しになっちゃいますけど、本当に良かったんですか?連中、この辺りの村の仇……みたいなもんじゃないですか」

 

 鋼太郎がおずおずと尋ねる。村長は首をゆっくりと縦に振る。

 

「良いのです。死んだ以上は何も求めません。求めることも出来ない。それに、彼らとてある意味ではこの時代の犠牲者と言える。辱めようとは思いませんよ」

 

 村に報告で戻る途中、弓月さんも似たようなことを言っていた。

 弓月さん曰く『異常気象や飢餓で村を襲うしかなかったのかもしれませんね』とのことだ。許した訳では無いが、同情はするといった感じのようだ。

 何というか……自分には出来ない割り切り方だと思った。これが大人なのだろうか……?

 

「……化け出たりしないよね……?」

 

 雪彦さんの近くにいた雪夫君が、不安げな顔をのぞかせる。お墓を怖がっているようだ。

 

「これっ!またお前は……縁起でもないことを言うなっ!」

 

「だって……」

 

 叱り飛ばす雪彦さんと、困り顔の雪夫君。何だか、その様子がおかしくて笑いそうになるのを抑える。

 小さく息を吐くと、わたしは中腰になって雪夫君と目線を合わせる。

 

「大丈夫。ちゃんとお墓に入ってもらったから、出てくることはないよ。ずっと眠ったままだから」

 

 墓石に目を向ける。あの下には、火葬された氷狼や狼達の骨が入っている。

 オオトリ皇国では、死体を燃やして、残った灰や骨を専用の壺に収め、墓に入れる。

 村長の提案とはいえ、ここまで丁寧に弔うとは思わなかった。

 

「そうだ。死者を悼み、忘れないことこそが、我らに出来る最大の手向け。だから、恐れるな。雪夫」

 

「うん……」

 

 頭を撫でられた雪夫君は、頷いて見せる。恐る恐る中に近づいて、手を合わせた。

 死んだ者であれば味方であれ敵であれ敬意を示す。それが、この村の考え方らしい。

 厳しくも優しい思想だと思った。雪夫君もいつかは、この考えを受け継ぐのだろうか。

 

「これで、大丈夫かな?」

 

 次第に顔を上げて、雪彦さんに問う。雪彦さんは、小さく頷いた。

 それを見た雪夫君の顔がほころんだ。とてもいい笑顔だ。

 

「……さて、そろそろ行きましょうか。予定もありますから」

 

 弓月さんが、出発を促す。名残惜しいが、仕方ない。本来であれば、既に出発していたはずなのだから。

 

「皆様。本当にお世話になりました。儀式の成功を祈っております。」

 

 雪彦さんが深々とお辞儀する。

 それを見た弓月さんが頭を下げる。わたしと鋼太郎も慌てて頭を下げた。

 

「我々もお世話になりました。これから大変でしょうが、出来る限りの支援を約束します」

 

「ありがとうございます……」

 

 雪彦さんは再び頭を下げた。

 氷狼は確かにいなくなったが、降雪村はこれからが大変だ。

 厳しい寒冷地であるという点に加え、長年に渡って氷狼が暴れた影響で、村の周囲には人も少ない。さらには、魔物自体もいなくなったわけではない。襲撃される可能性は未だに残っている。

 弓月さんは、広い分野での継続的な支援が必要になると言っていた。それを都にも提案するつもりだと言っていた。

 

「あの……つばささん」

 

 馬車に乗り込もうとすると、雪夫君が呼び止めてきた。振り返ると、こちらに向かって叫んできた。

 

「また……来てください!」

 

 雪夫君は、出会った当初は悲しそうな顔をしていた。今にも消え入りそうだとも思った。

 でも、今は違う。太陽光画照り帰った雪のような、明るい笑顔だった。

 

「またね!」

 

 だから、わたしも大きく手を振って、とびっきりの笑顔で返した。

 次に訪れる頃には、きっと今よりも良い村になってるだろう。

 

 

・・・

 

 

 予定からは少し外れたものの、わたし達を乗せた馬車は次の目的地へと向かっていく。

 毎度のことながら、移動中は弓月さんや鋼太郎と話すか考え事する以外にやることがない。特に今回は、出るのが遅くなったから、場所での移動時間も長くなるらしい。

 そういうわけで、わたしは暇を持て余していた。揺れる馬車の中で刀の手入れをするわけにもいかないし……。

 

「はぁ……」

 

 寝転がり、手のひらを見つめる。そして、小さくため息をつく。

 それに気がついた鋼太郎が、近くにやってきた。

 

「どうした?どこか痛むのか?」

 

「そういうのじゃないけど……」

 

 出発前に治療は受けたから、別に怪我が残ってるわけではない。どちらかといえば、内面的な話だった。

 話すか迷った。だが、隠してどうにかなるものでもない。鋼太郎と弓月さんなら良いかと思い、起き上がって話すことにした。

 

「なんていうかな……召喚士の力ってすごいなって思った。最初は何やるにしても苦労したのに、今は大きな魔物を捕えるくらいなら出来るようになっちゃったし……」

 

 最初は岩を何回か飛ばしただけで疲れてた。普通の人からすれば、それでも常識から外れた力だとは思うけど。

 力が強くなり、使い方を覚えた今は違った。敵を捕える柵を作り、相手を殺す武器を作れる。それも、何年も悩まされた魔物に通用するのだ。

 

「それでさ、氷狼を倒して色々と考えちゃったんだ」

 

 鋼太郎も、少し離れたところに座っている弓月さんも何も言わない。だが、目線で次の言葉を促しているのがなんとなく伝わってきた。

 

「……もっと聖獣と契約したり、修行していったら……人でも魔物でも今以上に簡単に殺められるようになるんじゃないかって……まあ、氷の聖獣様には負けちゃったけど……」

 

 形見の刀を握りしめる。物心付く前からの付き合いらしい。あまり覚えてはないけど……。

 孤児院にいた頃は、自衛の為に剣術を学び続けてきた。流石に人を殺したことはない。

 だが、魔物は別だ。何度も斬り殺した。

 生きるためだから。みんなを守るためだから。そう言い聞かせて戦った。だから、魔物相手であれ、殺してるということは深く考えてないようにしていた。

 でも、氷狼と狼の群れと戦い、彼らが異常気象の被害を受けていると聞いて、少し考えてしまった。

 

「正直に言うとね、個人が持ってて良い力なのかなって思った。だって、わたし一人の力にしては強すぎるし……」

 

 確かに、聖獣がいて成立する力だ。しかし、人が使える力としては、あまりにも強大だ。

 聖獣の力で生み出した岩の槍は、氷狼を一刺しで瀕死の状態にした。あの岩の槍を手にした感覚が、今も残っている。

 

「ごめんね、弱気なこと言って。でも、大事なことだと思ったんだ」

 

 最初の地の聖獣の試練の時に、弓月さんが言っていたことを思い出す。わたし達の行動が、民衆の召喚士の儀式への理解や好感度に繋がるのだ。

 だから、行動するなら慎重にならなきゃいけない。改めて、それを実感した。

 

「つばさ」

 

 鋼太郎が、わたしの肩に手を置く。

 なんて言われるだろうか。幻滅されるか、怒られるか……どちらにしても、これが今のわたしの気持ちだった。

 

「安心したよ」

 

「え?」

 

 意外な答えが返ってきた。

 安心した。鋼太郎は、確かにそう言った。まるで予想していない反応だった。

 

「力をつけると、調子に乗ってしまうのが人間ってもんだ。増長して周囲に迷惑かけたり、油断して死んだり……ってのを何回か見たことがある」

 

 鋼太郎は衛士だ。その仕事は、危険な場面と巡り合うこともある。人の死を目の当たりにしても、おかしくはない。

 

「だからな……お前が色々と考えてるのを見て、ちょっと安心したんだ。お前となら、この先に何があっても大丈夫だってな」

 

 何というか……その言葉が嬉しかった。

 鋼太郎はわたしにとっては兄みたいなもので、鋼太郎にとっても、わたしは妹みたいなものだったと思う。

 そんな鋼太郎から、信頼を得られた。それが、わたしにとって励みになった。

 

「鋼太郎……ありがとう」

 

 鋼太郎が、再び肩を優しく叩く。その顔は、とても穏やかなものだった。

 

「愚問だとは思いますが、お聞かせください」

 

 見守っていた弓月さんが口を開いた。鋼太郎と共に、弓月さんの方へと身体を向ける。

 

「召喚士、続けますか?」

 

 言葉とは裏腹に、やめるとは思っていなさそうな顔だ。わたしは、はっきりと答えた。

 

「はい。危ないと思ったからこそ、わたしが儀式を終わらせるべきだと考えています」

 

 危ない力だ。だからこそ、安易に他の人に渡してはいけないとも感じた。

 この力を安心して手放せるのは、召喚士の役目が終わった時だ。その時が来るまで、わたしは召喚士であり続けたい。

 

「ですから、弓月さんも最後までよろしくお願いします」

 

 頭を下げる。弓月さんも「こちらこそ」と短く返した。

 改めて、わたし達の気持ちが一つになるのを感じた一時だった。

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