テイルズオブ・サモナーズ   作:柿田

20 / 34
感想・評価お待ちしております。


第十七話「苦しみ」

 

「くそっ!解けねぇ……!」

 

 わたしの隣で地面に横になっている鋼太郎が忌々しそうに呟く。

 身体を何とか動かそうとするが、自由が効かない状態だ。

 わたしと鋼太郎だけでなく、召喚士部隊は全員動けなかった。

 何故ならば、手足を紐で縛られて拘束されているからだ。

 

「動くんじゃねぇって言ってんだろ!」

 

 手足を縛った張本人の男が、鋼太郎に激昂して蹴りつける。

 

「ぐあっ……!」

 

 腹に蹴りを入れられた鋼太郎は、痛みに顔を歪ませる。さらに、もう二、三回蹴られる。

 

「鋼太郎……!」

 

 手を伸ばしたかったが、出来なかった。

 叫び声が虚しく消える。悔しいが、わたしにできることは何もなかった。

 

 何故こんな事になったのか?

 それは、十数分前に遡る。

 

 

・・・

 

 

 降雪村を発って数日が経過していた。

 次の目的地は、オオトリ皇国の西側にある風鈴村。その名の通り、風鈴の生産地として有名な小さな村だ。

 風鈴村は、聖獣信仰が篤い場所と言われていおり、村人は風の聖獣と日常的に交流しているらしい。

 そんな風鈴村へ向かっている途中のことだった。外道を走っていると、馬車が突然止まった。

 明らかに、何かがあったのだろう。この辺りには魔物は殆どいないし、到着にも早すぎる。

 

「っと……何だ?」

 

 鋼太郎が片手持ちの斧を構える。言葉からは嫌な予感を抱いているのが垣間見えた。

 それも無理はない。何せ、降雪村に行く途中で行き倒れた子供・雪夫君を発見したからだ。

 

「私が出ます。何かあれば、対処法・参に従うように」

 

 そう言い残して、わたし達が返事するよりも早く、弓月さんが剣を抜いて飛び出した。

 外では何か話し声が聞こえるが、全く内容が伝わらない。

 今日は雲一つない快晴。周囲に魔物は少ない。障害物もほとんどない。馬車が壊れた様子もない。

 そうなれば、考えられる可能性は……。

 

「中の奴ら!外に出ろ!」

 

 思案していると、馬車を蹴る音と聞き覚えのない声が聞こえた。

 ……どうやら、悪い予感が的中したようだ。

 

「……意味ねぇかもだが、俺が先に出る。良いな?」

 

 わたしは無言で頷く。すると、鋼太郎も渋い顔をしながら頷き返す。

 小さく息を吐き、鋼太郎は外に出る。それに続いて、わたしも馬車を降りた。

 すると、眼の前の光景に対して、わたしは思わず声を出してしまった。

 

「くっ……」

 

 歯を噛み締め、叫びそうになるのを抑える。大きな声を出すと、状況が悪化してしまう可能性があった。

 

「……やっぱりか」

 

 鋼太郎も眉を顰ませる。

 想定はしていても、目の当たりにすると嫌な気持ちになったのは同じなようだ。

 

「暴れないか。状況は分かっているようだな?」

 

 馬車を降りると、笠を被った初老ほどの男がいた。他にも、似た格好をした男達が数人ほど。

 この笠を被った男が大将だろうか……?

 そして、その男の腕の中には小さな女の子がいた。間違っても親子ではないだろう。

 何故ならば、男は女の子の首に剣を突きつけていたからだ。

 

「……どういうつもりだ?」

 

 鋼太郎が静かに問いかける。震える拳からは、目の前の大将の男に対する憤りを感じた。

 男は何を今更、と言わんばかりに鼻で笑った。

 

「要求がある……が、その前に拘束させてもらおう。従わなかった場合、分かっているな?」

 

 大将の男は、握った剣に力を入れてみせる。女の子は言葉こそ発してないものの、息を呑んだ。

 従わなかった場合、間違いなく殺すつもりだ。殺さなくとも、身体を斬るだろう。

 そして、要求を述べる前に拘束するのは仮に抵抗でもされたら困るからだろう。

 弓月さん達も、恐らくは捕まっている。助けを求めるのは難しいだろう。

 わたしと鋼太郎に選択肢はなかった。鋼太郎が、意を決して答える。

 

「分かった。だが、召喚士に傷をつけないで欲しい」

 

「それは、お前と嬢ちゃん次第だな」

 

 男は、顎でわたしと鋼太郎を指して部下と思しき人たちに拘束する指示を出す。

 部下らしき人達は、わたし達に動きを命令してくる。武器を置け、とか。手を上げろ、とか。

 

「最後に、指輪も外して投げ捨てろ。力を使われても困る」

 

 縛られるかと思ったら、指輪を外すよう言われてしまう。嫌だが、女の子の為にもやるしかなかった。

 

「……分かった」

 

 顎で、投げ捨てる場所を指定された。近くの川だ。川に捨てれば探すのも難しいという考えなのだろう。

 わたしは、召喚士の指輪を外して川へと力いっぱいに投げた。

 ぽちゃん、と音を立てて水の中へと落ちる。恐らく、今から急いで探しに行っても、流されているだろう。

 待っていたといわんばかりに、わたしの両手が掴まれ、縛られてしまう。

 こうして、わたしと鋼太郎は捕まってしまった。

 そこからはあっという間だった。

 他の人達と共に一箇所に集められ、男達に囲まれる。武器も馬車も取り上げられ、身動きが取れなくなってしまった。

 

 

・・・

 

 

 そして、今に至る。

 一人ずつ身分や名前を確認するとか言い出して、尋問紛いのことをやっていた。

 人質がいるからか、みんな大人しく答えていた。

 

「最後にお前だ。分かってはいるが、念の為だ。名前と役職を言え」

 

 大将らしき男は、わたしに剣を向ける。こいつの腕の中に女の子はいなかったが、別の部下らしき男が拘束していた。

 答えるしか無かった。

 

「……一光つばさ。召喚士です」

 

「召喚士、か……お前、何が目的で召喚士になった?」

 

 何を今更……と言いかけたが、男の眉間に皺が寄るのを見て思いとどまる。

 わたしは、ゆっくりと答えた。

 

「この時代を終わらせて、みんなを助けるためです」

 

 育ての親が苦労し、仲間が思い通りの人生を歩めないのを見た。

 わたし自身も、親無しの貧乏育ちと馬鹿にされたこともあった。こんなことは嫌だから、召喚士になった。

 自分が思ってることを、簡潔に言ったつもりだ。嘘をついても、解放されるとは思わなかったから。

 だが、男はため息をついた。

 

「欺瞞だな」

 

「えっ……?」

 

 ぴしゃり、と言い放たれた。あまりに突然の言葉に、思考が固まってしまった。

 男は続ける。

 

「貴様らは召喚士の力と聖獣の力を独占して私腹を肥やしいるだろう。やるべきこともやらずにな」

 

「はあっ?」

 

 あまりに心外な発言に、思わず怒りと困惑の混じった声を出す。

 わたし達が、のうのうと贅沢な暮らしをいているとでも言いたいのか。

 

「勝手なことを言わないで!この間だって降雪村で魔物の群れを倒したよ!」

 

 わたしは命懸けで戦った。衛士や村の人達だってそうだ。戦っていない人も、怖い思いをしていた。

 あの場で楽をしていた人間なんて、誰一人としていない。許し難い発言だ。

 

「あの豪雪地帯か……それだって、早くから討伐部隊でも組んで倒していれば済んだ話だろう。そのつけをお前が払ったに過ぎない」

 

「そんな言い方しないで!氷狼は逃げ足が早いのだって昔から言われてたじゃない!」

 

 だからこそ、行動の予測を立てられるようになったのも、研究を重ねてきたからだ。そこに至るまでも大変だったらしい、と弓月さんから聞かされた。

 この男の言ってることは、それを知らない人間の決めつけだ。

 

「これ以上、お前と話す気はない。所詮は都の言いなりの神輿に過ぎのだからな」

 

「なっ……!」

 

 わたしが言いなり……?

 今まで言われたことのない言葉だった。確かに、指示には従ってきた。しかし、それだって正しいと思ったから従っているのだ。何も考えていないわけではない。

 

「隊長の弓月紗矢と言ったな。お前はどう思う?」

 

 今度は、剣を弓月さんに向けて問う。弓月さんは、特に動じる様子は見せなかった。

 

「それについては、申し訳なく思っています。我々の不徳のいたすところです」

 

 落ち着いた声で話す。眉間に剣が当たるかどうかの距離まで近づいても、変わらなかった。

 弓月さんは、さらに続ける。

 

「これからは、復興・支援に尽力するよう進言する予定です。もちろん、他の地域に関してもですが」

 

「ふん……貧民の苦しみを見て見ぬふりしてきた貴様らが?信用ならんな」

 

「今までのこともありますから、すぐに信用しろとは言いません。しかし、信頼を取り戻す時間をくれませんか?」

 

「馬鹿め。そんな時間があれば、我々もこんなことはしない」

 

 男は鼻を鳴らして笑う。弓月さんの言うことが、心の底から信用ならないといった様子だ。

 

「ならば、あなた達の目的は何なのですか?」

 

 弓月さんが問いかける。

 衛士の馬車を襲撃するなんて無謀だ。目的もなしに動くわけがない。弓月さんは、何よりも理由が知りたかった。

 男は、待っていたと言わんばかりに大声で答える。

 

「我々の目的はただ一つ……!召喚士制度の撤廃だ!」

 

 しん…と静まり返る。

 当たり前だ。あまりにも無茶な要求だったからだ。

 

「……はあっ!?」

 

 少しだけ遅れて叫んでしまった。

 金品でも要求するかと思ったら、召喚士そのものを無くせと言い出したのだ。抑える方が無理だ。

 

「そんなことしたら、誰が創造主を呼び出すの!?創造主を呼び出して魔力を安定させるのが召喚士の役目でしょ!そうすれば、みんな助かるんだよ!?」

 

 諭すように叫ぶ。この人達の言い分を信じるならば、わたしの目的と決して交わらないわけではないと思ったから。  

 そんな希望を嘲笑うかのように、再び男は剣を向けてきた。

 

「三〇〇年に一度の儀式を行わなければ、大地は荒れ、生き物は死ぬという言い伝えだが……その召喚士制度を餌に、貧民を従わせていたのではないか?これでは恐怖政治と変わらないではないな」

 

「何を……!」

 

 この男の言ってることがまるで意味が分からなかった。

 恐怖で従わせてる?そんな事……!

 

「そんな事ありませんよ」

 

 凛とした声が聞こえた。弓月さんだ。

 弓月さんの言葉に、男は眉を僅かに動かした。男の関心が、再び弓月さんへと向いた。

 

「召喚士の資格を政に利用することは、創造主との誓約で禁じられています。これはネイク帝国も同じです。信用できないなら、過去の文書を公開するように掛け合っても構いません」

 

「文書などいくらでも捏造可能だ。こちらに開示されたところで、我らの主張は変わらぬ」

 

 剣が、弓月さんの眉間ぎりぎりに向けられる。男があと少し前進すれば、斬られる距離だ。

 それでも、弓月さんは淡々と答える。

 

「そうでしょうか?政の世界は常に足の引っ張り合いですよ。召喚士関係での大幅な捏造など、相手を引きずり下ろすための手段に使われるでしょうね」

 

 旅の途中で、弓月さんに似たようなことを聞かされたことがあった。

 都の貴族や文官は些細なことで足を引っ張り合うと。同時に、それが皮肉にも相互監視の役割を果たしているとも言っていたが。

 

「……っ」

 

 男の剣を持つ手に力が入ったのが見えた。自分の主張が間違っていると気がついたのだろうか。

 その瞬間、弓月さんの目つきが鋭くなった。

 

「今です!術を!」

 

 弓月さんの声だ。これは、馬車を降りる前に言っていた対処法の合図だ!

 男は、それを問いただそうと弓月さんに近づこうとしたが、遅かった。

 わたしは、天に向かって術の名を叫んだ。

 

「降り注げ!氷の槍よ!氷槍降陣(ひょうそうこうじん)!」

 

 上空に魔術で作られた円陣が広がった。

 皆が、手を止めて円陣を見つめる。無視するには、あまりにも存在感がありすぎた。

 円陣からは、氷の槍が次々に降り注いでいった。

 

「うわっ!」

 

「なんだこれは!」

 

「ぐうっ……!」

 

 氷の雨に晒された男達は、苦悶の声を上げる。次々に武器を落としていった。

 それだけではない。氷の槍は、わたし達の手足を縛っていた紐を引き裂いた。

 

「よっしっ!動けるぜ!」

 

 鋼太郎を初めとする衛士達も拘束から解き放たれていく。

 これこそが、わたし達の作戦だった。拘束され、目的を聞き出し、わたしの術で衛士を解放する。

 召喚士護衛隊の衛士は腕利き揃いだ。手足の自由さえ効けば、後はどうにでもなる。

 

「う、動くな!こいつがどうなっても……!」

 

 そんな状況も分からず、女の子を拘束している男がいた。しかし、それは無駄だった。

 

「うるせえっ!獅子戦吼!」

 

「ぐああああっ!」

 

 鋼太郎は女の子を人質にしていた男に向かって、獅子の形を模した闘気を放つ。男のみが、吹き飛ばされた。

 

「大丈夫か!?」

 

 鋼太郎は女の子を抱きしめる。女の子は、安心したのか、頷きながら少しだけ涙を浮かべる。

 良かった、と胸を撫で下ろす。他の人達も、それぞれ応戦している。

 

「貴様あ!よくも!」

 

 後ろから怒声が聞こえた。召喚士制度の撤廃を求めてきた、集団の大将の男だ。

 男は、剣を思いっ切り振り下ろしてきた。対するわたしは丸腰だ。

 しかし、こちらにも武器はある!

 

「現われろ!氷刀!」

 

 わたしの呼び声に答えるように、氷で出来た刀が手の中に現れた。氷の刃は、男の剣を受け止める。

 

「なにっ!?」

 

 予想していなかったのか、男の顔がさらに歪む。

 無理もない。丸腰の相手を斬り伏せようとしたら、唐突に武器が現れて鍔迫り合いになったのだから。

 

「巫山戯るなあっ!」

 

 男が剣を振り回し始めた。動揺しているのか、軌道も姿勢も酷いものだ。

 斬撃を受け流すのに大した力はいらなかった。剣戟の体すら成してなかった。

 

「指輪は捨てさせたはず!何故だ!」

 

 男は、わたしの中指の指輪を見て叫んでいた。男にとっては、あるはずの無いものが存在していたのだ。叫びたくもなるだろう。

 しかし、わたしにとっては不思議でもなかった。指輪は、召喚士が念じればどこからでも現れる。

 拘束されて、わたしから意識がされたのを確認してから密かに呼び戻した。 

 つまりは、この男たちの作戦は初めから破綻していたのだ。

 

「召喚士と指輪は常に一心同体!離れることは……決してない!」

 

 男の剣を氷の刀で弾き飛ばした。剣は、男の手を離れて遠くに飛んでいく。

 すかさず、男の喉元に刀を突きつけた。

 

「なっ……!」

 

 男の顔は驚愕に歪む。先程までの勝利を確信した顔とは大違いだ。

 他の人達も、各々で男の部下たちを捕まえていた。

 

「わたし達の勝ちだよ。大人しくして」

 

 ぎり……と、男の歯軋りが聞こえた。悔しさを噛み締めているようだった。

 

「くっ……」

 

 男は、次第にゆっくりと手を挙げる。彼らの士気は、完全に落ちた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。