わたし達は、襲撃してきた男達を拘束した。
他の衛士に、最寄りの衛士の詰め所へと使者を出して、人を呼ぶことにした。それまでの間に、尋問をすることになった。
先程までとは、まるで真逆の状況。少しだけ、変な気分だ。
「風宮勘兵衛と言いましたね?あの少女、どこから連れてきたのですか?」
弓月さんは、わたしが戦った大将らしき男────風宮勘兵衛に問う。色々と聞きたいことはあるが、人質の身元確認が優先らしい。
「風鈴村だ。効率を考えれば、村の人間を使うのが一番だからな」
風宮は淡々と答えた。特に悪びれる様子もない。
何と卑劣な男だろうか。自身の主張を通す為に人質を取るなんて……。
他の衛士達も、眉を顰めている。到底、看過できることではない。
「次の質問です。あなたは、どこの人間ですか?出身や所属の組織などを教えなさい」
弓月さんも、淡々と質問を続ける。だが、握られている拳が僅かに震えている。内心、怒りを感じているようだ。
風宮は、渋々ながら答える。
「……風鈴村」
「え……?」
思わず声が出てしまった。
信じられない発言を聞いてしまったから。正直、耳がおかしくなったかと思った。
「風鈴村の出身と言った。俺も、部下達も風鈴村から来たのだ」
「なっ……!」
弓月さんの顔が、驚愕に染まる。衛士達も、同じく動揺が広がった。
風宮の言うとおりであれば、風鈴村の人間が同じ村の子どもを攫って人質にしてきた事になる。
「俺達の村では、召喚士を支持する者としない者がいる。人質に使った子ども……実花は支持派の家の者だ」
「うそ…」
ぽつり、と呟く。わたしには、とてもではないが信じられなかった。
無論、召喚士を支持しない人が風鈴村にいた事に驚いたが、それだけではない。
わたしは、大人は子どもを守るものだと言い聞かされて育ってきた。いつかは、自分も孤児院の子ども達を守れるようになろうと思っていた。
この男のやったことは、それとは真逆。自身の主張の為に、子供を危険にさらしたのだ。
「あなた、自分が何をしたのか分かっているのですか!」
弓月さんが、風宮勘兵衛の胸倉を掴んだ。平静を装っていた弓月さんが、遂に怒りを見せた。
だが、風宮勘兵衛の様子は何も変わらなかった。
「分かっている。都相手に反乱を起こし、負けた。それだけのこと」
鼻を鳴らして自嘲気味に笑う。まるで、自分が悪事を働いたという自覚がなかった。
「あなたと言う人は……!」
胸ぐらを掴む弓月さんの力が強くなった。衛士という戦いに特化した人間に詰められても、風宮は態度を変えない。
後悔、恐怖。この男からは、そのような感情が感じられなかった。
「弓月隊長、少し代わってもらえないかな?」
張り詰めた空気の中、穏やかな声が聞こえた。殺伐とした雰囲気など知ったことではない、といった感じの優雅な声色だ。
「外海様……」
黄色い着物に黒い烏帽子が特徴的な貴族の男性────外海冠様だ。
いくら拘束されているとはいえ、賊に近づくなんて無茶だ。
冠様の補佐をしている文官の文乃さんはといえば、困ったように、こめかみに手を当てている。止めても無駄。だから、諦めてるということだろうか。
確かに、外海冠という人は奔放で頑固なところがある。今回も、何やかんや言って譲らないだろう。
弓月さんは、冠様を近づけて良いか逡巡している様子だ。
次第に決心がついたのか、風宮から手を離した。
「……お気をつけて」
「うん、ありがとう」
冠様は短く礼を言うと、風宮の目の前で地面に座った。
「貴族様が何用だ。高価な服が台無しだぞ?」
「気にすることはない。既に汚れてるからね」
先程まで縛られ、地面に転がされた事を言っているのだろう。
即座にこんな言い返し方が出来るのは、流石は貴族と言うべきか。
面白くなさそうに舌打ちする風宮に対し、冠様は話を続けた。
「改めて聞きたい。君達は、召喚士についてどう思う?」
「何度も言わせるな。都の腐敗の象徴だ。貴様らの秩序は聖獣頼みの紛い物だ」
再び、風宮は召喚士への呪詛を口にする。どこまでも召喚士が許せないらしい。
「ふむ……これは、耳が痛いな」
「は……?」
呆気にとられたのか、風宮は怪訝な顔をする。
冠様は、風宮の主張に対して否定も肯定もしなかった。
「実を言えばね、我々も聖獣と召喚士に頼らざるを得ない状況を良く思っていないんだ。三〇〇年に一度とはいえ、確実に異常気象が発生するのは健全とは言い難いからね」
「あっ……」
言われてみれば、その通りだ。
わたしは、異常気象が原因で皆が貧しくなってるなら異常気象を収めればいいと思っていた。
しかし、一定の周期で異常気象が発生するのは確かにおかしい。もちろん、それに気がついてもすぐに何か出来るとも思えないが。
「ふん、都の人間がそんな事を言っても良いのか?」
「もちろん良くないね。お陰で一部から鼻つまみ者だ。困ったものだよ」
嘲笑う風宮に対し、冠様は困ったようにため息をついてみせる。
「しかしね、現に異常気象を動機とした犯罪や問題は増えている。回収率の悪さに焦った金貸しが、無理な条件を突きつけてきた……という話も聞いたことがあるな」
冠様は、わたしの方をちらり、と見る。いきなりの事に、少しだけ心臓が飛び跳ねる感じがした。
どうやら、わたしが孤児院を出るきっかけとなった、桂子さんの件を言ってるようだ。
試験を受ける際の面接で話したから、知っていても無理はないが。
「だから、我々は現状を打破しようと動いてるよ。労働や教育の改善にも動いているし、こうして召喚士の支援もしている。無論、まだまだ働きは足りないと思うがね」
「俺達の生活も、貴様は良くしようと言うのか?」
「ああ。人の上に立つ者は、それに相応しい働きをするべきだからね」
「くだらん!世界のどこを見渡しても、上の人間は下を不要になれば使い捨てる!皆、自分の事ばかりしか考えられんのだ!」
風宮は、吐き捨てるように怒鳴る。今にも飛びかかりそうな風宮に、皆が武器を構えて警戒する。拘束されているから手出し不可能だろうが、油断はできない。
冠様は風宮の主張を聞き終えると、ゆっくりと諭すように話す。
「そんな人間が多いのは否定しない。右も左も脚をの引っ張り合いだ。恐らくは、帝国側もそうなのだろうな」
やれやれ、とため息をつく。もう一人の、帝国の召喚士も苦労しているとは思いたくない。だが、あり得る話だ。
「だとしても、世界をより良くしたいと願い、動く者もいる。それは忘れないで欲しい」
風宮の目を見つめて、冠様は言った。とても真っすぐで、穏やかな瞳だ。
わたしも、少しでも皆の助けになると信じて戦ってきた。
弓月さんも自分なりにできる事がしたいと言っていた。
鋼太郎も、そんなわたし達を手伝ってくれている。
それを認められたようで、嬉しかった。
「…………ふん。勝手にすればいい」
風宮は、それ以上は何も言わなかった。
根負けしたのか呆れたのかは分からないが、元の落ち着いた顔へと戻った。
・・・
尋問から少しすると、三台ほどの馬車がやってきた。
馬車からは、鎧を纏った人達────衛士達が降りてきた。どうやら、彼らが最寄りの詰め所の衛士のようだ。
「弓月護衛隊長!護送部隊、到着しました!」
護送部隊を名乗る男の人が、数人の部下らしき衛士を引き連れて、弓月さんに挨拶した。
「ご苦労。都まで護送を頼む。くれぐれも不備のないように」
弓月さんが、凛とした声で護送部隊に礼と共に指示を出す。
口調がいつもと違うせいか、少しだけ違和感を覚えた。
「はっ!全員を馬車へ乗せろ!」
護送部隊隊長が指示を出すと、部下達は風宮達を連れて馬車の中へと入っていった。
全員、意外に大人しかった。誰も抵抗する気配がない。
「……よし、これで全員ですね。皆様に怪我がなくて安心しました」
「こちらも、迅速かつ丁寧な対応に感謝する」
「いえ、当然の事をしたまでです」
護送部隊隊長は謙遜しているという感じでもなく、本当に当たり前のことをしたといった感じで答えた。
これで出発……と思いきや、護送部隊隊長の話は続いた。
それも、少し気まずそうだ。
「実は……弓月隊長と召喚士に報告しなくてはならない案件があります」
「報告?」
弓月さんが、怪訝な顔をする。間違いなく、良い知らせではないだろう。
「ええ。詳細はこちらに」
護送部隊隊長は、一通の封筒を取り出す。今、話すわけにはいかないのだろうか?
弓月さんが封筒を懐にしまうと、護送部隊隊長は、頭を下げた。
「護送もありますし、直接話すのは少し難しい内容で……申し訳ありません」
「いや、こちらも気を遣わせたな。確かに受け取った」
「それでは、失礼いたします。ご武運を」
護送部隊隊長は再び頭を下げると、馬車に乗る。彼を乗せた馬車は、その場から立ち去っていった。
・・・
護送部隊の馬車がいなくなると、衛士達は出発の準備に取り掛かった。
一通り指示を出し終えると、弓月さんは護送部隊から受け取った報告書を読んでいた。
「なるほど、これは確かに……」
「弓月さん……?」
報告書を読み始めると、弓月さんは眉を顰めていく。読み終えたのか、報告者をしまって、ため息をついた。
良くないことでも書かれていたのだろうか……?
何と声をかければ良いのかと迷っていると、弓月さんから話かけられた。
「一光さん。申し訳ありませんが、また苦労をかけることになりそうです」
「えっ?」
突然の謝罪に戸惑っていると、弓月さんが集合を呼びかける。
「全員集まってください!大事な話があります!」
出発の準備をしていた衛士の人達が、即座にわたし達の前に一列に並び始める。冠様と文乃さんは、わたしの隣に来た。
あっという間に、報告時の陣形が出来上がった。
「先程の護送部隊から、風鈴村についての報告がありましたが、少しだけ複雑な事態になりました」
────複雑な事態ってなんだろうねー?
────黙ってなさい
頭の中で、はしゃぐ地の聖獣と叱る氷の聖獣。今まで黙っていたのに、いきなり騒ぎ出した彼らに、わたしは少しだけ苛立った。
弓月さんは、少しだけ間をおいて報告内容を簡潔に話し始めた。
「風鈴村に、ネイク帝国の召喚士が訪れているそうです」
「もう一人の召喚士が……!?」
思わず、わたしは声を上げてしまった。