テイルズオブ・サモナーズ   作:柿田

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第十九話「もう一人の召喚士と風の村」

「これ、いつまで待たされるんですかね……?俺等が探しに行ったほうが早くないです?」

 

「こらっ……もう少し待ちましょう」

 

 座布団の上で愚痴を零す鋼太郎を、弓月さんが宥める。鋼太郎が怒るのも無理はなかった。

 わたし達は、風鈴村の村長の家を訪ねていた。

 目的は三つある。風宮の一派、帝国の召喚士、聖獣の試練についてだ。

 色々と話しをしたいが、とりあえずは自分の家に来てほしいと村長から申し出があった。そして、帝国の召喚士を呼びに行くから待つようにとも言われた。

 質素だが、手入れの行き届いた客間に通され、数十分は経っていた。

 目の前に置かれているお茶も、すっかり冷めきっている。お茶の隣に置かれた羊羹も同様に手をつけていない。

 何となく、食欲が沸かなかった。弓月さんも鋼太郎も同じ様子だ。

 

「どうなってやがんだよ……」

 

 鋼太郎は頭を掻いた。苛立ちを抑えきれない様子だ。それも無理はなかった。

 風鈴村は、オオトリ皇国の西側にある小さな村だ。

 その名の通り風鈴が名産品で、庶民から貴族まで幅広い層に親しまれている。

 さらには、聖獣信仰が深く、召喚士に対しても協力的で有名な場所であった。

 しかし、わたし達は襲撃を受けた。それも一部の人達とはいえ、風鈴村の人達からだ。

 襲撃自体は切り抜けられたが、襲撃を受けたという事実自体が、召喚士部隊の士気を下げるには十分な出来事であった。

 

「気持ちは分かりますがね……」

 

 弓月さんも、ため息をついて鋼太郎に同意する。彼女も疲れ切っているのが表情に現れていた。

 襲撃を受けてから、風鈴村への訪問をどうするか部隊内で話し合った。休息も必要だったので、その日は野宿し、翌日に風鈴村を訪れようという結論になった。

 予定が押しているが、何があるか分からない。しかし、引き返してる時間もない。だから、出来る範囲で万全の態勢で臨もうという話になった。

 

 そして、今日の昼間に村に着いた。出迎え自体は村長と付き人数人程度だったが、優しく歓迎してもらえた……と思う。少なくとも、敵意のようなものは感じなかった。

 しかし、帝国の召喚士を呼びに行くと言ってから、それなりに待たされている。

 

「……大丈夫かな」

 

 ぽつり、と声が出てしまった。わたしの声だ。

 自分達の事もだが、外の衛士達のことも気がかりだった。

 他の衛士の人達は、村人との交流という名目で、村の中を案内してもらっている。冠様と文乃さんも、そちらで行動している。

 何かあれば片方が動いて助けに行く手筈になっているが、これでは動きようがない。

 

「足音くらい聞こえてもいいのになあ……」

 

 またぼやいてしまった。あまり良くないのは分かってはいるが、焦りから出てしまう。

 

「はあ…………ん?」

 

 そんな事を言っていると、何かの音が聞こえてきた。規則的に何かを叩く音だ。

 聞き覚えがある。これは、足音だ。しかし、走っているように聞こえる。何かあったのか……?

 

「二人共、念の為に構えて」

 

 弓月さんが小声だけど、はっきりとした声で指示する。戦闘になる可能性を考慮しろ、ということだ。

 鞘に収めた状態の刀を握る。足音が近づくと共に、手が汗ばむ。

 

「……来るなら来い」

 

 村の中で戦闘は気が向かないが、必要ならやらなければならない。

 身構えていると、扉が勢いよく開いた!

 

「……っ!」

 

 何かが部屋に飛び込んできた。人なのは分かるが、あまりの速さに誰かを識別出来なかった。

 刀は抜かなかった。いや、抜けなかった。油断してたわけではないのに、反応が追いつかなかった。

 

「うわっ!」

 

 謎の侵入者は、一気にわたしに向かって飛び込んできた。そのまま、衝突して倒れ込んでしまう。

 先手を取られた……!このままではまずい!

 

「くっ……!離せ……!」

 

 振りほどこうとするが、まるで歯が立たない。力は相手が上のようだ。このままではやられる……と、思っていたが、何かがおかしい。

 何者かは、わたしにくっついて離れなかった。首でも絞めるのかと思ったが、今の状態は、どちらかといえば抱きしめる形になっている。それに加え、殺意があるなら既にやられてもおかしくない。まるで何もしてこないのだ。

 何だこいつは、と困惑していると相手が腕を離して顔を見せる。

 

「やっと……やっと、会えたね!」

 

「え……………?」

 

 その人は、女の子だった。まるで会ったことがあるかのような口ぶりだが、わたしは彼女の名前を知らない。

 

「あっ…………」

 

 いや、名前は知らないが見覚えはあった。正確には、たった今思い出したのだが。

 赤い三つ編みに青い瞳。それの、青い燕尾服。間違いない。わたしは彼女に会ったことがある。皇国では見ない格好だから印象的だった。

 

「もしかして、あの時の……?」

 

「そう!そうだよ!いやあ、忘れられたらどうしようかと思ったよ!あー!良かった!」

 

 赤毛の少女は、目を輝かせながら手を握って強く振り回す。痛いけど、文句を言う気力が沸かなかった。

 彼女は、都で一度だけ会ったことがある。召喚士の試験の前に偶然ぶつかっただけだが。

 

「ゆ、弓月さん!鋼太郎!助けてよ!」

 

「いやっ、助けろと言われてもなあ……」

 

 鋼太郎はバツが悪そうに頭を掻く。護衛担当が何を言ってるんだ……。

 呆れていると、弓月さんが近付いてきた。

 

「一光さん、彼女の指を見てください……」

 

 指を見ろったってなあ……弓月さんまで何を言い出すのやら。

 渋々ながら彼女の手に目を向ける。

 

「はあっ!?」

 

 思わず声を上げてしまう。

 赤毛の少女の右手の中指。そこには、わたしにとっては見覚えのある、ありえない物があったからだ。

 

「な、なんで召喚士の指輪をつけてるの!?」

 

 何度目を凝らしても、目の前の現実はは変わらなかった。

 彼女の指には、わたしと同じく召喚士の証である指輪がはめられていた。

 わたしの指輪は赤い石のはめられた黄金の指輪だ。対して、彼女の指輪は青い石のはめられた白銀の指輪。色こそ違うが、形はまるで同じ。一目見れば召喚士の指輪と分かる。

 

「何でって言われてもなあ。ネイク帝国の召喚士だから、かな?」

 

「なっ……」

 

 いや、それはそうなのだが……。

 喉まで出かかった言葉を抑える。

 とにかく、分からないことが多すぎる。今の状況は異常だ。ちゃんとした説明が欲しい。

 

「ゆ、弓月さぁん。鋼太郎ぉ……」

 

 もうわけが分からない。この状況を何とかしてほしい。そんな思いを乗せ、二人に目で助けを求めた。

 

「召喚士アリア……とりあえず、席につきませんか?」

 

「これは失礼。マナーがなって無かったね」

 

 弓月さんからアリアと呼ばれた赤毛の少女は、手を離して立ち上がり、座布団の上に座る。丁度、わたしの正面だ。

 

「さて、何からお話しましょうか……」

 

 弓月さんが、困ったように手を額に当てる。彼女も頭を悩ませているらしい。

 何から手を付けるかと考えていると、またまた遠くから叫び声が聞こえてきた。年老いた女性の声だ。

 

「召ぉ喚士殿ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 今度は何だ、と内心うんざりしていると、大きな足音が近付いてきた。叫び声の方は、聞き覚えがあった。

 わたしの予想が正しければ、この状況を説明できる人物だ。

 叫び声の主の足音が止まると、部屋に慌ただしく入ってきた。

 

「ぜぇぜぇ……し、召喚士様……早すぎます……!」

 

 部屋に入ってきたのは、長い白髪に藍色の着物を身にまとった老いた女性だ。走り疲れたのか、肩を上下させ、激しく息をしている。

 この女性こそが、風鈴村の村長である風山鈴子さん。わたし達を、この客間に放置した張本人だ。

 

「すまないね、鈴子。皇国の召喚士が来たと聞いて、居ても立ってもいられなくなったのさ」

 

 アリアさんは、謝罪しながら冷めきったお茶を優雅に飲む。それ、わたしのお茶なんだけどな。

 

「風山さん、お疲れ様です。大丈夫ですか?」

 

「ゆ、弓月さんでしたね……大丈夫です……」

 

 鈴子さんが呼吸を整えながら答える。かなりの距離を走ってきたようだ。

 その原因となったアリアさんはといえば、机においてある羊羹に舌鼓を打っていた。

 

「あー……鈴子、すまなかったね。置いていってしまって」

 

 アリアさんは、バツが悪そうに頬を掻く。一応、悪いとは思ってるらしい。

 

「あ、いえ……大丈夫……です……」

 

 ぜぇぜぇ、と息を上げながら答える。大丈夫には見えないけどなあ……。

 鈴子さんが席についたのを確認すると、アリアさんは立ち上がった。

 

「さて、皇国の方にもご挨拶を……ワタシは、ネイク帝国の召喚士のアリア・アズルローズ。以後、お見知りおきを」

 

 凛とした挨拶をすると、彼女は深く頭を下げた。とても綺麗な動きだ。まるで、舞台を見ているかのような感覚だった。ただの騒がしいだけの人ではない。堂々とした佇まいからは、召喚士の使命を背負った自負のようなものが感じられた。

 

 

 

 これが、彼女との出会い。

 わたしは彼女のことを忘れることは、絶対にないだろう。そのくらい、わたしにとっては大事な思い出となる人だった。

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