テイルズオブ・サモナーズ   作:柿田

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第二十話「疑念」

「アリア……」

 

 わたしは、彼女の名前をつぶやく。何故かは分からないが、言いたくなった。

 

「では、こちらも挨拶をしましょう」

 

 弓月さんの言葉で、挨拶を返すのを思い出す。ぼうっとしていたのを見抜かれていたらしい。慌てて立ち上がった。

 

「わたしは、オオトリ皇国の召喚士の一光つばさと申します」

 

 とりあえず挨拶をする。いきなり立ち上がったので、変な感じになっていないか、少しだけ不安だった。

 わたしに続いて、弓月さんと鋼太郎が挨拶をしていく。

 

「召喚士護衛部隊隊長の弓月紗矢です。よろしくお願いします」

 

「護衛部隊の所属の鋼太郎です」

 

 二人共淀みなく挨拶する。流石に、わたしよりも慣れている様子だ。

 わたし、弓月さん、鋼太郎の順でアリアさんと握手を交わす。

 

「よろしく。さて、早速だけど本題に入ろうか」

 

 わたし達は、座りながら話をする準備に入った。ようやくか、と内心でため息をつく。きっと、弓月さんと鋼太郎も同じ気持ちだろう。

 

「まずは、ワタシが皇国に入国した理由から話そう。これが厄介でねぇ……」

 

 アリアさんは、腕を組みながら苦い顔をする。これ、絶対に只事じゃないよね……。

 

「話しにくいけど……実は、帝国では召喚士反対運動なるものが起こっているんだ。それも無視できない規模でね」

 

「ええっ?反対運動?」

 

 知らなかった。だって、こちらには何も情報が出ていないのだから。

 弓月さんと鋼太郎も同じく驚いている。アリアさんは続けた。

 

「国と召喚士は、儀式を盾に利益を独占している……というのが反対派の主張だ。利益独占はともかく、召喚士の存在は秩序維持の役割を担っているからね。召喚士の偶像性に頼っているのは事実だ」

 

 孤児院を出る前に聞いたことがある。国や社会は、そこに住む人々を纏めたりする為にある。秩序がなければ、力だけが支配する世界になってしまう。だから衛士も召喚士も、それらを守る為にある、と……。

 オオトリ皇国とネイク帝国は建国してから数千年が経過している。創造主召喚の儀式が出来てからは、一度も国同士の戦争が起こっていない。三〇〇年に一度の儀式をやらなければ魔力が乱れて異常気象続きになってしまう。だから、秩序の維持には召喚士の存在は必要なのだ。

 

「ワタシは一週間ほど前に火、水、雷の聖獣との契約が終わった。後はあなた達が終わるのを待つだけだったんだが……先程話した反対派が内乱を起こし始めたんだ」

 

「な、内乱!?」

 

 大変じゃないか。アリアさんはあっさり話すが、とんでもない事だ。

 皇国内にも話が広がれば、混乱は避けられない。それも、召喚士絡みともなれば、帝国だけの話では済まない。

 

「それとアリア様の皇国入りがどう繋がるのですか?」

 

 弓月さんは、落ち着いているが凛とした声で続きを促す。楽観的ではないが悲観的にも見えない。覚悟はしている、といった感じの顔つきだ。

 

「紗矢さん、だったかな……?問題はそこなんだ。実は内乱を起こした首謀者が皇国に逃げたらしいんだ。ワタシはそれを追ってきたんだ」

 

「なっ……!」

 

 皇国の中に帝国で内乱を起こした人間が逃亡した……?ただでさえ、こちらでも召喚士に反発する人間が出てきたのに、帝国では召喚士を巡って反乱が起こり、反乱の首謀者は逃亡。まるで悪い夢でも見ているようだ。

 ここに来てさらに問題が重なるとは思わなかった。どうするべきか弓月さん達から指示を仰ごう……そう思った瞬間だった。

 

「……何でそんな情報を黙ってた!」

 

 声の主は鋼太郎だった。先程から黙っていた鋼太郎が怒りを見せた。今にもアリアさんに飛びかからんとするほどの勢いだ。

 

「やめなさい!鋼太郎!」

 

「だって、召喚士絡みで内乱ですよ!?帝国だけの話ではないでしょう!俺達だってどうなるか……!こんなの帝国の怠慢でしょう!それに、鈴子さんだって実花ちゃんを……!」

 

 襲撃の際に人質に使われた女の子……実花ちゃんは、鈴子さんの孫娘だった。つまり、勘太郎の言っていた召喚士を支持する一派とは鈴子さんの事なのだ。

 鈴子さんは、わたし達の歓迎や帝国の召喚士を呼びに行ったりで忙しく、実花ちゃんが戻ってきたのを喜ぶ間も殆ど無かった。今も、実花ちゃんの側にいたいだろうに、わたし達に協力している。

 

「まだ話は終わっていないでしょう!大人しくしなさい!」

 

 弓月さんが鋼太郎の肩を抑えながら諭す。鋼太郎は怒鳴っても無駄だと悟ったのか、次第に座り直した。

 

「…………申し訳ありませんでした」

 

「いや、こちらにも非はある。悪かった。謝罪は改めて公式の場でやらせてもらいたい」

 

 互いに頭を下げ合う鋼太郎とアリアさん。一触即発の雰囲気だったが、まずは落ち着いた。

 

「話を続けよう……とにかく、ワタシは精鋭部隊と共に内乱を起こした人間を捕らえるために皇国までやってきた。この村の人間と通じているという情報があったからな」

 

「帝国の反対派と風鈴村の人がですか?」

 

 ここで風鈴村の名前が出てくるとは思わなかった。確かに、風宮勘兵衛のような人間はいたが……。

 

「どうにも帝国の反対派が風鈴村の一部の人間を扇動していたらしくてね。帝国で反乱を起こした主犯を、こっちで匿ってもらおうとしていたらしい」

 

「だから風鈴村に来ていたんですか?」

 

「そうなるね。少々無理を言って皇国への遠征部隊に入れてもらった。周りには苦い顔されたがね」

 

 それはそうだろう。召喚士が異国の地へならず者を捕らえに行くなんて良く思われるはずがない。

 

「えっと……それで、反乱の首謀者は?」

 

「何とか捕まえたよ。君達が昨日捕まえた風宮勘兵衛という男がいただろう?ヤツの部下達と逃げおおせようとしていたところを捕らえた。今頃、村の集会所で仲間が尋問してるところじゃないかな」

 

「なるほど……」

 

 とりあえず、反乱を起こしそうな人間は全員捕まえたということになる。彼女の言葉を信じるならだけど。

 これで、わたし達の知りたいことは概ね分かった。後は、風の聖獣含めた今後の方針だ。

 

「さて、これからだが……貴方達にお願いがある」

 

 アリアさんが座り直して、こちらをまっすぐに見据える。正直、嫌な予感がする。彼女の言うお願いとは、こちらからすれば半ば強制的なものだ。

 

「風の聖獣と契約に向かうのだろう?」

 

「そうなりますね」

 

「ワタシも連れて行ってもらえないか?」

 

「ええっ!?」

 

 アリアさんが、またとんでも無いことを言い出した。帝国の召喚士を連れて行くなんて聞いたことがない。弓月さんと鋼太郎に視線で助けを求めるが、二人共苦い顔をしていた。

 どうしたものかと困っていると、鈴子さんが話し始めた。

 

「つばさ様、私からもお願いします」

 

 迷っていると、さらに深々と頭を下げる。まさか追撃されるとは思わなかった。

 

「つばさ……頼む……」

 

 アリアさんも、続いて頭を下げる。とても切実な様子だ。

 わたし達の一存で決めて良いのか?しかし、相手は帝国の召喚士だ。要求を無下にするわけにもいかない。何よりも、話し合う時間は殆ど残されていない。出来れば早く風の聖獣との契約は終わらせたい。

 

「……鋼太郎、弓月さん。わたしに任せてくれませんか?」

 

「……分かりました。しかし、内容次第では介入させてもらいます。鋼太郎もそれでいいですね?」

 

「……はい」

 

 鋼太郎は眉を顰めて答えた。納得しきれないが、わたしに預けてくれる事を決意したようだ。

 

「ありがとう、二人共」

 

 心からの言葉だった。まだまだ未熟なわたしに判断を任せてくれるのだから、嬉しかった。だからこそ、皆に不利益のない選択をしなければならない。

 

「鈴子さんは、何故アリアさんの同行を勧めるんですか?」

 

 急に名前を呼ばれて驚いたのか、鈴子さんの肩が小さく跳ねた

 

「あっ、はい……実は、その事で風の聖獣様から召喚士部隊の皆様に言伝があります」

 

「え……?」

 

 まさかの風の聖獣から直接伝言とは。今日は予想外のことばかり起こる。

 

「歴代召喚士について話がある。帝国の召喚士────つまりは、アリア様と共に来てほしい、と……詳しい事までは分かりかねますが……」

 

「風の聖獣様が……?」

 

「ええ。何でも、召喚士の今後に関わる大事な話だとか……」

 

 内容までは聞かされていないのか、自信がなさそうな口ぶりだ。

 とりあえずは、聞くだけ聞きに行くしか無いだろう。どの道、風の聖獣とは会うのだから。

 

「アリアさん、召喚士が別の国の召喚士の契約の場に立ち会う事は基本的には無いとされています。それでも、一緒に来ますか?」

 

 そうなると次の問題は、アリアさんだ。別に別の国の召喚士を契約に連れて行くなという決まりがあるわけではない。     

 しかし、帝国の召喚士ということは、つまりは帝国の要人だ。連れ回すとなると、口うるさい人達も出てくる。彼女の真意を聞いてみたかった。

 

「行くよ。聖獣に呼ばれてるとなると無下にも出来ない。それに、ワタシ自身も風の聖獣の言葉に興味がある。君達には……また迷惑をかけることになるだろうがね」

 

 自分の今後に関わるとまで言われたなら、興味を持つなというのが無理だろう。

 

「分かりました。こちらのお願いを聞いてくれるなら、一緒に行きましょう」

 

「お願いとは?」

 

「反乱を起こした人との取り調べを皇国側にもやらせてください。風宮と逃亡しようとした人ですから、都もより正確な情報を欲しがると思います」

 

 アリアさん達が皇国に入っているのは恐らくは秘密のはずだ。ならば、長居はしないだろう。

 しかし、帝国の反乱を起こした人間が、風宮勘太郎と繋がっていたのならば話は別だ。こちらとしても話を聞き出す必要がある。強引だとは思ったが、話を引き出す機会を作りたかった。

 都や皇国の為だけではない。わたし個人が気になったからだ。

 アリアさんは、顎に手を当てて思案する構えを見せる。少しすると、顔を上げて答えた。

 

「……分かった。ただ、風の聖獣の件が終わったら、すぐにでも出発する予定だ。時間はあまり取れないが構わないか?」

 

「はい。ありがとうございます。弓月さん達もそれで大丈夫ですか?」

 

「ええ。問題ありません」

 

 弓月さんに続いて鋼太郎も無言で頷く。

 アリアさんは、思ったよりも快く了承してくれた。一先ずは安心する。

 

「つばさ様。村に来たときにもご説明しましたが、風の聖獣の祠に入るには、風山家の人間の同行も必要になります。ですので、私もお供いたします」

 

「ええ。お願いします」

 

 理由は不明だが、風の聖獣の住処は色々と特殊な事情があるらしい。詳しい理由までは分からないが。鈴子さんの同行がなくては、召喚士でも中には入れてもらえないらしい。

 

「鋼太郎、あなたは取り調べの方に行きなさい」

 

「え?謹慎じゃないんですか?」

 

 鋼太郎が目を見開く。謹慎されると思っていたらしい。

 

「人手が足りません。悪いことをしたと思うならそちらで挽回しなさい」

 

「……っ!はい!」

 

 暗かった鋼太郎の表情が少しだけ明るくなった。それを見た弓月さんも安心したのか、苦笑いする。

 弓月さんは、アリアさんに向き直って確認を取る。

 

「アリア様。風の聖獣には私と両召喚士、鈴子さんの四人で会いに行くということでよろしいでしょうか?」

 

「ああ。それで良い。皇国の人々よ。本当にありが……」

 

 アリアさんがお礼を言おうとすると、言葉が途中で止まった。

 突然のことだった。何かが鳴く音が聞こえた。聞き慣れた音だ。

 正体は、腹の虫。つまりは空腹の音。発生源は明確だった。

 

「……すまない。朝から殆ど食べてないんだ。強行軍で村まで来たからな……」

 

 アリアさんが顔を赤くしながらお腹を押さえる。彼女のお腹が鳴ったのだ。

 それを見た鋼太郎は、後ろ首を掻きながら羊羹の乗っている小皿をアリアさんの目の前に置いた。

 あの動作は、照れている時にやるものだ。鋼太郎なりに、感じるものがあったらしい。

 

「……良いのか?」

 

「まあ……朝、食べすぎたんで……」

 

「……ありがとう」

 

 アリアさんは小皿を恐る恐る受け取ると、鋼太郎に深々と頭を下げた。

 アリアさんは菓子切で羊羹を小さく切って口に入れた。その動きは淀みなく、とても優雅だ。

 ゆっくりと噛んで飲み込む。すると、アリアさんの口元がほころんだ。

 

「……うん、美味しいね。故郷の皆にも食べさせたいくらいだ」

 

「ふふっ、ありがとうございます」

 

 その言葉に鈴子さんも微笑みを見せる。楽観視できる状況ではないが、二人が笑顔を見せたのは不幸中の幸いだ。

 鋼太郎は立ち上がって、アリアさんに頭を下げた。

 

「アリア様、つば……召喚士達をお願いします」

 

「ああ。必ず守り抜く」

 

「それでは、行ってきます」

 

 鋼太郎はそれだけ言うと、部屋から立ち去った。どうなるかと思ったが、鋼太郎もアリアさんと一応の和解は出来た。とりあえずは安心だ。

 鋼太郎もアリアさんも、それぞれ自分のやるべき事をやろうとしている。

 互いに歩み寄った二人のためにも、風の聖獣との契約は必ず成功させよう。

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