わたしと弓月さんとアリアさんと鈴子さんの四人は、風の聖獣の住む地へと向かった。
例によって、風の聖獣の居る場所は村から離れていた。魔物を倒しながら、少しずつ進んでいった。
その間に、わたしは鈴子さんにある事を尋ねることにした。
「鈴子さん、貴方から見て風宮勘太郎はどんな人でしたか?」
風宮勘太郎については、都まで護送された事を伝えた時に概ねは聞いていた。だから、大局的にはこの質問に意味はない。
だが、わたしは村の人から見た彼個人が気になった。それを知ることが、召喚士としても、一光つばさとしても大切になるのではないかと思った。
「そうですね……言うなれば野心家、でしょうか……」
ちらり、とこちらを見て答える鈴子さん。何となく、言葉を選んでる気がする。
「召喚士様は我ら風山家と、勘太郎達の風宮家の関係を覚えていらっしゃいますか?」
「あっ、はい……確か村は両家が纏め役で、風宮家が治安維持、風山家が経済と聖獣信仰関係を担当している……でしたよね?」
「その通りです。まあ、話だけ聞くと偉そうに見えるかもしれませんが……実際は矢面に立たされてるだけで大した権力があるわけではありません」
鈴子さんは苦笑いする。先程までの騒がしさはどこにいったのか、くたびれているように見えた。苦労が見える。
「風宮勘太郎は、昔から良くも悪くも家の役目を大事にしていました。風山家は代々、自警団を取りまとめる一族ですから、使命感に燃えていたのでしょう」
「風宮が、ですか?」
「ええ。召喚士の儀式が近づく前は、村は平和でした。それこそ、自警団の出番が殆ど無いほどに。それでも、村の為に見回りや自警団の訓練を積極的に行っていたのが風宮勘太郎です。村の中でも正義感のある男だと評判でしたよ?」
「正義感……」
思わず反芻する。使命感に正義感。あまりにも風宮勘太郎に似つかわしくない言葉だった。
しかし、嘘や冗談を言ってるようには見えない。彼女から見たありのままの勘太郎なのだろう。
「今でもそう思いますか?」
「思います。あれは、やり方はともかく理不尽に怒れる人間です。それを止められなかったのは、村を取りまとめる立場である私の責任でもあります。勘太郎にどんな判決が下るにせよ、誹りを受ける覚悟はできています」
「誹りだなんて……」
そこまで言いかけて言葉が止まった。何を言っても慰めにもならない。いや、慰めなど必要ない事が分かった。
確かに、襲撃が知られれば彼女の言う通り、風鈴村は非難されるだろう。
鈴子さんもそれは分かっている。彼女の瞳からは、それを受け止めようとする強い覚悟を感じられた。
「もちろん、実花……孫を連れ去ったことは許すつもりはありません」
勘太郎の連れ去った女の子……実花ちゃんは、鈴子さんの孫だった。つまりは、風宮の言っていた召喚士を支持する人達の一人が、鈴子さんを指していた。
仲間が罪を犯して孫が連れ去られても、こうして協力してくれている。とてもありがたかった。
「しかし、彼が罪を償う手伝いはしたいと思っています。一応、あの男も村の一員ですからね。」
そう言うと、鈴子さんは微笑んだ。反対されるかもしれませんが、と付け加えて。
何と言うか……凄く強い人だと思った。現実を受け止め、やるべき事をやって、今もこうして聖獣の場所へと案内してくれている。尊敬する。
もう少し話を聞こうと思っていると、弓月さんが口を開いた。
「鈴子さんは、風宮は何を思って我々を襲撃したとお考えですか?」
「彼自身が話していたように、召喚士や聖獣関係への義憤でしょう。これは昔から聞かされていましたから」
「儀式を盾にして市井の人々を従わせている……ですか?」
ええ、と鈴子さんは弓月さんに頷く。
この世界では、三〇〇年周期で魔力は枯渇して異常気象や不作が起こる。それを安定させる為の儀式が、召喚士による聖獣との契約と創造主召喚。それらを取りまとめるのも政治の役割の一つになっている。
風宮勘太郎は都が儀式を使って人々を抑圧していると指摘していた。それが、わたし達を襲った動機ということになっている。
鈴子さんは、それに対して心当たりがあるようだった。
「風鈴村は他所に比べれば、経済面で安定していました。気候の変動が比較的少ないのに加え、名産品の風鈴が長年に渡って皆様に親しまれてきたおかげでしょうね」
「風鈴村の風鈴ですか。私も夏になったら自宅に飾っていますよ」
ありがとうごさいます、と鈴子さんは弓月さんに頭を下げる。
わたしの居た孤児院でも夏になったら飾っていたのを思い出す。桂子さんは、安くて珍しいから子供達の興味を引けるから便利だと言っていた。
「話を戻しますが……安定しているだけで被害がなかったわけでは有りません。風鈴は注文の少しずつ数が減り、農作物も質が落ちていきました。しかし、それでも他所の人々からは妬まれ、酷い時には盗賊の襲撃もありました」
「ふむ。襲撃か……ということは、風宮勘太郎が戦ったのかな?」
「その通りです、アリア様。先程も言いましたが、風宮は村を守る家系。有事には自ら剣を取り、仲間を率いて戦います」
風宮勘太郎には似つかわしくない言葉の羅列。あの男が人を守る、なんて上手く想像できない。鈴子さんが嘘をついているとも思わないが。
「年々、襲撃回数も増えていきました。当然ですが、皆が疲弊していきます。勘太郎自身、傷ついていきました。都の援助もありましたが、満足しない彼は都への苛立ちを見せ始めました。その……遂には召喚士様達を愚弄する発言も……」
そう言うと、鈴子さんは目を伏せた。申し訳無さで声が出ないといった様子だ。鈴子さんは悪くないと思うんだけどな……。
「鈴子さん……わたし達は気にしてませんから。ね?アリアさん、弓月さん」
「そうだな。大したことではない」
「その通りです。あまり気に病まないでください」
「ええ……すみません……ありがとうございます」
鈴子さんは謝ると、再び顔を上げた。
「とにかく……私は勘太郎のやった事を認めるつもりはありませんが、理解できないわけでもないのです。都に陳情しても中々聞き入れてもらえず、苛立っていたのは知っていましたから。だから、村を思ってあんな行動に出たのでしょうから……」
「村を思えば、か……」
ぽつり、と呟く。
話を聞いて、わたしが孤児院を出た理由を思い出した。わたしも、現状を変えたくて召喚士を志した。その点で言えば、勘太郎とは似た者同士なのかもしれない。
当たり前だが、実花ちゃんを攫って、わたしたちを襲撃したのは許せない。庇うつもりもない。
しかし、何かを変えたくて行動するのを非難する気にはなれなかった。きっと苦しい思いをし続けたのだろうから。
「……ありがとうございます、鈴子さん。少しすっきりしました」
「いえ、お力になれたのなら嬉しく思います」
分かってはいた事だが、皆の生活が苦しくなってきている。
そして、生活が苦しくなって治安が悪くなっている。治安が悪くなれば、再び生活が苦しくなる。負の循環が出来上がってしまっていた。
これを終わらせるのは、召喚士しかいない。それは間違いない。
「でも……」
本当にそうなのだろうか。わたしが儀式を終わらせさえすれば本当にそれで良いのか?何かが引っかかる……。
「つばさ?」
「あっ……」
アリアさんに呼ばれ、少しだけ驚いた。いつの間にか考え込んでしまっていたようだ。
「ごめんなさい。少し考え事してました」
「どこかで休みますか?」
「大丈夫です、弓月さん。調子は悪くないですから」
「なら良いですけど……無理はしないでくださいね?」
「ありがとうございます。気をつけます」
それだけ言うと、わたし達は風の聖獣の住処に向かって再び歩みを進めた。
とにかく今は風の聖獣との契約を終わらせることが最優先だ。そこから先は、その時に考えれば良い。