テイルズオブ・サモナーズ   作:柿田

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第二十四話「約束」

────風の聖獣の社。

 ここで、わたしと風の聖獣の試練が行われるはずだった。しかし、謎の乱入者が聖獣を攻撃し始める。乱入者は退けられたが、試練どころではなくなった。

 周囲に敵の気配は感じない。居なくなったと考えたいいだろう。

 物陰に隠れていた鈴子さんも、近くに戻ってきていた。

 

「これからどうする?時間を考えると、ワタシは戻らなきゃいけないんだが……」

 

 顎に手を置き、思案するアリアさん。乱入者である少年の言葉が気になるようだ。無理もない。自分の命が奪われている、なんていきなり言われれば悩みもするだろう。

 

「とりあえず、情報を引き出すしかない……」

 

「それはそうだが……風の聖獣もダウンしている。つばさ、どうするんだい?」

 

 風の聖獣に目を向けるアリアさん。回復術を使って傷は治したが、風の聖獣は目を覚まさない。息はあるようだから問題はないと思うけど。

 

「いますよね?情報をまだ隠してそうな人が。いや、人じゃないけど……」

 

「あっ……もしかして……」

 

 アリアさんが答えを言う前に、わたしは指輪を勢いよく外した。

 

「一光さん……?」

 

 弓月さんは、訝しげな顔をする。彼女には、今のわたしの行動はあまり意味の分からないものとして映っているだろう。

 そう思われてもおかしくはない。礼儀の良い行動とは言えないのだから。

 わたしは、ゆっくりと息を吸う。そして、指輪を空に掲げる。

 太陽に照らされた指輪に向かって、わたしは思い切り叫んだ。

 

「すぅ…………全員出てこぉぉぉぉい!起きてるだろ!?知ってること全部話せぇー!」

 

「い、一光さん……?」

 

 驚いたのか、弓月さんの声が裏返る。突然、わたしが聖獣に失礼な口を利いたからだろう。

 わたしは構わず続ける。

 

「出てこないなら今すぐ召喚士やめてやるからな!」

 

「一光さん!?」

 

「聞こえてるだろ!?全員出てこい!」

 

 わたしは指輪に向かって叫び続けた。たまんまりを続けるなら、どんな手を使ってでも引きずり出す必要があったからだ。こっちは命がかかっているのだ。

 

「一光さん!まずいですよ!」

 

 止めようとする弓月さん、それを見てゲラゲラ笑ってるアリアさん。

 客観的に見れば滑稽な光景かもしれないが、わたしは必死だった。

 

「……ふぅん、出ないんだ?よし、指輪、捨てちゃおっかなあ……」

 

「一光さん……?何を言ってるんですか……!?」

 

「さーん、にーい、いーち……」

 

「やめなさい!やめてください!一光さん!交渉には順序があるんですから!」

 

「離してください!弓月さん!こいつらに黙秘権なんてありませんよ!」

 

「だからって突拍子もありませんよ!やめなさい!」

 

 指輪を投げようとすると、弓月さんが羽交い締めにしてくる。流石に衛士だけあって力が強い。

 わたしは、何とか抜け出そうと藻掻き、弓月さんがそれを取り押さえる。

 彼女との攻防がいつまで続くかと思っていると、手をしていた指輪が光を放ち始めた。

 

「うわっ!」

 

 光は、雷のように一瞬で消え去る。

 この光には見覚えがあった。聖獣が指輪の内外を出入りする時の光だ。

 目をゆっくりと開けると、久しぶりだけど見覚えのある、白い着物の女性と丸い蛇の姿があった。

 

「氷の聖獣様、地の聖獣様……!」

 

 咎められると思った。仮にも敬わなければならない聖獣に、あんな無礼な態度を取ったのだから。

 しかし、氷の聖獣と地の聖獣は逆にバツの悪そうな顔をしていた。

 

「つばさ……」

 

「………何?」

 

 固唾を呑む。召喚士剥奪でも言い渡されるのだろうか?

 しかし、答えは違った。

 

「ごめんなさい!」

 

「……っ!」

 

 地の聖獣が大きな声で謝る。氷の聖獣も頭を下げていた。本来であれば、人間に聖獣が謝るなんてあり得ない光景だ。

 いざ謝罪されると、少しだけ後ろめたい気持ちになる。氷の聖獣は続ける。

 

「最初に言っておきたいことがある。私は……いえ、恐らく地の聖獣もね。私達は召喚士の寿命の噂については聞いていたわ」

 

「……どうして、話してくれなかったんですか?」

 

 食い気味にならないように、気をつけながら問う。

 知っていたなら教えてくれても良かったのに……。どうしてもそう思ってしまう。

 

「言ったでしょ。私達が聞いたのは噂よ。何も確信のなかった」

 

 噂。氷の聖獣はそう断ずる。

 確かに、召喚士の良くない噂は誰かしらが面白がって流しそうだ。無論、そんなものに振り回されるのは良くないが。

 

「そうだね。でも、その噂もいつの間にか消えてたんだ……だから、何の根拠もなかったのかなって……」

 

「消えた?流れてた噂が?」

 

「うん……人間が噂してたのを昔は聞いたのに、今は聞こえなくなったんだ……」

 

 地の聖獣は、わたしの言葉におずおずと答える。確かには噂は無責任なものだ。どこからともなく出てきて消える。

 氷の聖獣は額に手を当てながらため息をついた。

 

「……というか、風の聖獣。あなたはどうして今になって噂を持ち出したの?」

 

 倒れている風の聖獣に向かって、氷の聖獣は呆れたように問う。

 倒れているのに聞いても仕方ないのでは?と思っていたが、風の聖獣はゆっくりと身体を起こした。

 

「大丈夫……ですか?」

 

「召喚士よ、迷惑をかけたな。すまなかった」

 

 巨大な狐を思わせる風の聖獣。彼は、わたしに向かうまで頭を下げる。やはり、聖獣に頭を下げられるのは慣れない。

 風の聖獣は続けた。

 

「氷の聖獣よ、前回の旅のことは覚えているか?」

 

「……それなりには」

 

「そうか。ならば先代召喚士との約束は?」

 

「覚えてる。でも、口約束じゃない。守られるとは限らないわ。人にとって、三〇〇年という時間はあまりに長い。口約束が消えるには十分ね」

 

「そうだな。だが、我にはどうしても奴が約束を違えるとは思えなかった」

 

 風の聖獣は目を細める。先代の召喚士との約束を懐古しているのだろうか。

 

「ふむ……ならば、ワタシから提案がある」

 

 聖獣達の話を聞いていたアリアさんが手を挙げた。

 

「こちらの聖獣も呼んで良いだろうか?どの道、聞く必要はあるだろう?」

 

「ああ。構わない」

 

 風の聖獣は頷いた。氷と地の聖獣も異論はないようだ。

 

「ありがとう。では、呼ばせてもらおうか」

 

 アリアさんが指輪がはめられた右手を天に翳す。聖獣を呼び出す準備をしているのだ。

 意外な形ではあるが、帝国の聖獣と出会える。少しだけありがたがった。

 

「契約に於いて具現せよ!いでよ!聖獣達!」

 

「っ!」

 

 分かってはいたが、アリアさんの指輪も眩いほどの輝きを放った。一瞬とは言え、目を瞑ってしまう。

 そして、光が落ち着く。ゆっくり目を開けた。

 眼前には、まったく見慣れぬ聖獣達の姿があった。

 

「……やれやれ、皇国の連中との対面がこんなんとはなあ」

 

 最初に言葉を発したのは、わたしの数十倍は大きい身体の聖獣だ。人の形をしているが、頭には二本の角、肩には車輪がついている。そして、一番の特徴は全身から溢れている炎。

 彼こそが、火の聖獣であることを示している何よりもの証だ。

 

「それは仕方ないでしょう。非常事態なのですから」

 

 次に喋ったのは、下半身が魚のような形をした大人の女性だった。手には楽器の琴が握られている。鈴を鳴らしたような爽やかな声と穏やかな口調が、聞いていて心地良かった。おそらくは、水の聖獣だろう。

 

「へへっ!困ったことが起こってるのはいつものことな気もするけどなっ!人間はドジだからなっ!」

 

 最後に、明るい口調の金髪の男の人。彼の周囲には、小さな太鼓が浮いていた。太鼓は、雷の聖獣の特徴と聞いている。

 聖獣というにはあまりにも親しみやすい口調だ。地の聖獣ともまた違った感じの俗っぽさだ。

 

「これがアリアさんの聖獣……」

 

 ぽつり、と呟く。

 眼前には、帝国の三体の聖獣が並んでいた。彼らは、わたしが契約することのない、別に契約者のいる聖獣だ。少しだけ変な感じがした。

 それぞれ、火、水、雷の強い魔力を感じる。それは、彼らが聖獣であることを強調していた。

 

「まあ、そう言わないでくれよ。聞いてただろうが、緊急事態だ。協力してほしい」

 

 アリアさんの口調は、親しい友人に対するものに近かった。わたしとは大違いだ。

 

「よう、久しぶりだな。地に氷に風の。元気してたか?」

 

「うん、久しぶりー。火の聖獣達も変わらなさそうで安心安心ー!」

 

 地の聖獣は火の聖獣と世間話をしている。仲がいいのだろうか。呑気だなと思いながらも、関係が悪くないのは安心だ。

 

「風の聖獣様。噂と先代の召喚士についてお教えいただけますでしょうか?私も、召喚士である彼女達も噂や先代召喚士の約束については何も知らされていないのです」

 

 弓月さんが提案する。それに風の聖獣は頷く。異存はないようだ。わたしとアリアさんも反対はしなかった。

 召喚士の命が奪われる噂も、先代召喚士の聖獣との約束も知らない。衛士の弓月さんが知らなかったのなら、わたしが知る事はほぼ難しいだろう。まずはそこからだ。

 

「まずは先代との約束から話そう。これは単純な話だ。皇国側の先代召喚士から平和になったら会いたい、と申し出があった。役目を終えた召喚士は、聖獣と別れることになる。指輪も国に返還することになる。寂しいから顔を見たい、とな……」

 

「え……弓月さん、役目が終わった後って聖獣と会っても良いんですか?」

 

 召喚士の役割が終わった後、聖獣との接触は特に禁止にされてた記憶はない。

 だが、召喚士というものは国とは切っても切り離せない関係だ。わたしは、全部終わったとしても聖獣と気軽に会えると考えてなかった。

 

「問題はないでしょう。ですが、会いたいと申し出があったのなら記録に残すと思います。しかし、そんな記述は見た記憶がありません」

 

 弓月さんは、こめかみに指を当てながら答える。自身の記憶と照らし合わせているようだ。

 アリアさんが、弓月さんの言葉に補足を付け加えるように話す。

 

「こっそり会うのも難しいからね。役目が終わったら指輪は国に返還だから勝手は出来ないだろうが、強大な力を持つ聖獣と必要以上に個人が関わるのは政治的にも良いとは言えない。だから、皇国にしろ帝国にしろ、役割が終わったとしても召喚士は監視下に置くわけだ。召喚士には国との取り決めが色々とあるからね」

 

「召喚士退役後の定期報告……」

 

 わたしがぽつり、と呟くと、アリアさんは黙って頷く。

 召喚士には規則がいくつかある。その一つに、召喚士の役割が終わっても定期的に国に現状を報告する義務があった。移住や転職だけではなく、旅行であっても許可が必要だった。召喚士の影響力を考えて作られたらしい。

 聖獣と顔を合わせているという意味では風鈴村も同じだが、彼らは昔からのしきたりで一部の人間が定期的に顔を合わせる程度だ。

 

「何度考えても窮屈なルールだな。まっ、ワタシ達の立場を考えたら仕方ないのかもしれないけどね。」

 

 アリアさんは肩を竦める。愚痴を吐くというよりは諦めているように見える。

 弓月さんは、その言葉に少しだけ眉を顰めながら目を背けた。彼女の胸中は分からなかった。

 

「人間の世界って面倒だねー」

 

「だからルールなんて作るんだろうな!本当に仕方のない奴らだぜ!嫌いじゃないけどな!アハハッ!」

 

「そう言わないでくれ、地の聖獣に雷の聖獣。こうして力を借りるのも未熟さを自覚しているからこそだろう?」

 

 アリアさんが地と雷の聖獣を諌める。聖獣相手でも物怖じする気配がないのは流石だ。

 情報も出てきたし少しまとめよう。脱線されても困るし。

 

「つまり……先代召喚士は聖獣と会う約束をしていた。役割を終えた召喚士が聖獣と再び会うには、実質的には国の許可がいる。でも、先代召喚士は聖獣達の前には現れず、国に申請があった形跡も無い……ってことですか?」

 

「そういうことになるな」

 

 風の聖獣は頷く。

 先代召喚士の人柄は分からないが、確かに約束を果たされなかったのであれば気にもなるだろう。だが、それと召喚士の命が無くなる噂がどう繋がるのだろう?

 考え込んでも仕方ない。とにかく聞いてみよう────そう思った瞬間だった。

 

「あの……」

 

 戦闘が終わってから黙り込んでいた鈴子さんが、おずおずと手を挙げる。

 

「どうしたんだい?鈴子さん?」

 

 アリアさんは、鈴子さんに穏やかに答える。怖さは全く感じないが、鈴子さんは肩を小刻みに震わせている。

 まるで、何かを言い出したいけど恐れているように見えた。

 

「約束の件、もしかしたら知っているかもしれません……」

 

「……え?ええっ!?」

 

 アリアさんの間の抜けた声が、周囲に響いた。

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