テイルズオブ・サモナーズ   作:柿田

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第二十五話「不自然」

「約束の件を知ってる!?鈴子、本当かい?」

 

「ひ、ひぃ……!」

 

 鈴子さんがアリアさんの肩を強く握った。お婆さんの肩を強く掴んで大丈夫なのだろうか……。とにかく止めなきゃ。

 

「アリアさん、落ち着こう?」

 

「あ、ああ……すまない」

 

 アリアさんは一旦離れると、帽子を被り直す。落ち着きを取り戻そうとしているようだ。

 

「それで、三〇〇年前の約束の件を何故あなたが知ってるのかしら?」

 

 氷の聖獣が鈴子さんに答えを促す。聖獣達が見つめる中で、鈴子さんはゆっくり答える。

 

「……幼い頃に祖母から聞かされたことがあります。先代召喚士様は、再び村に来て聖獣様とも再会の約束をした。でも、それが果たされることはなかった、と……子供の頃に聞いた話でしたから、その時は気に留めていませんでした」

 

「風山家には伝わっていたわけですか……風の聖獣様と時々会っていることを考えればおかしくはないでしょうね」

 

 弓月さんの反応に、鈴子さんは頷く。

 

「ええ。ですが、祖母の歯切れが悪かった記憶があります。理由は分かりませんが、言い難かったようです」

 

「先代召喚士が約束を果たせなかったのを良くないことだと思ったのか、それとも別に理由があるのか……とにかく、約束が交わされていたという証言はありました。では、風の聖獣様。それと召喚士の寿命の話がどのように繋がるのですか?」

 

 弓月さんが改めて風の聖獣に問いかける。

 召喚士の命が吸われる話と果たされなかった再会の約束……正直、ここまでくれば答えは出てるようなものだ。

 だが、聞くしかなかった。わたし達は覚悟を決めなければならないから。

 

「私は、先代は召喚士の力によって寿命を奪われて死んだと考えている」

 

「っ!」

 

 ……やはり。思っていた通りだ。何となく、言わんとすることは分かっていた。それでも、胸の鼓動が突き飛ばされたように跳ねた。

 驚いているのは、わたしだけてはない。弓月さん、アリアさん、鈴子さん、聖獣のみんな。それぞれ反応に差はあっても驚きを隠せていないように見えた。

 

「……何故、そのようなお考えに至ったのですか?」

 

 皆が黙ってる中で弓月さんが質問する。その声は、平静を装ってはいるが、やはり動揺が隠しきれていなかった。

 

「五代目の召喚士の頃の話だ。召喚士が苦しみながら息を引き取ったとの報せが届いた。それも皇国と帝国の両方の召喚士がだ」

 

 皇国と帝国の召喚士が同時に亡くなった……?偶然にしてはおかしい。

 

「そんな話は帝国には無かったと思うが……つばさか弓月さんは知ってるかい?」

 

「いえ。私も聞いたことはありません。それなら記録として残っているはずです」

 

 アリアさんも弓月さんも知らないようだ。一体、どういう事なのだろうか?

 風の聖獣は続きを話した。

 

「五代目の両国の召喚士が亡くなってから、人間たちは召喚士になるのは危険ではないかという噂話をするようになったらしい。私は風鈴村の風山家とは代々交流がある。嫌でも耳に入った」

 

「鈴子さん、そうなんですか?」

 

 ちらり、と鈴子さんを見る。彼女は、わたしと目が合うと肩を小さく震わせた。

 

「い、いえっ!私はそのようなお話は何も……」

 

 鈴子さんは、両手を振って潔白を示す。本当に何も知らないように見える。

 

「そうだろうな。私も少しずつ話を聞かなくなっていった。人間達の中で何があったかは分からないが、彼らが口にしないことを聞くのは憚られたのだ」

 

「まあ、最低でも一〇〇〇年以上前の話だからね。噂が消えるには十分な時間だ」

 

 召喚士は、わたしとアリアさんで十代目だ。召喚士の旅は三〇〇年に一度の行事。それは、人には長すぎる時間だ。その間に何があったとしても、おかしくはなかった。

 つまりは、襲撃者の少年の言葉を肯定も否定もできる根拠は何もないのだ。

 

「つまり、何も分からないって事かい?」

 

「そうなりますね……」

 

 ため息をつくアリアさんと、それを否定しきれない鈴子さん。残念ながら手詰まりとなった。

 

「弓月さん、どうしますか?」

 

「…………」

 

 仕方ないので弓月さんに指示を仰ごうと思い、声をかける。しかし、彼女は顎に手を当てて動かなかった。目もどこか別の所を見ているようだ。

 

「弓月さん……?」

 

 わたしが訝しげに呼ぶと、弓月さんは少し驚いた顔をする。

 

「あっ……ごめんなさい。そうですね、戻りましょうか」

 

 気がついたようだ。少し様子が気になるが、今は聞いても答えてくれないだろう。

 とにかく、今後の方針を決めなければ。そう思っていると、アリアさんが近づいてきた。

 

「つばさ、君はどうするつもりだ?彼の噂が本当だという確信はどこにもない。だが、否定もしきれない。ならば、いっそ逃げるか?」

 

「あ、アリア様……!?」

 

 アリアさんの提案に鈴子さんは狼狽える。世界の命運を背負った召喚士が人を犠牲にする儀式であるかもしれない。違ったとしても、わたしが逃げるかもしれないのだ。無理もない。

 何にせよ、この問いに答えを出さなければならない。

 

「……わたしは、逃げません。風の聖獣様と契約します」

 

「っ!一光さん……よろしいのですか?」

 

 弓月さんが、わたしを見つめる。先程の話を聞いて覚悟があるのか、と言いたげな目をしている。

 

「ええ。まだ風宮のような召喚士をよく思わない人たちの犯行の可能性もありますから。それに、わたしが契約を拒否したら皆が混乱してしまいます。今は契約して、都で話し合うべきだと思います」

 

「そうですか……」

 

 再び弓月さんは黙り込む。先程と同じく目線が、わたしかれ外れる。

 

「弓月さん……」

 

 いくら召喚士が世界の命運を握ってるとは言え、護衛部隊の隊長の意向を無視することは出来ない。彼女の返答次第では、わたしは契約を諦めなければならない可能性も出てくる。

 考えがまとまったのか、弓月さんが顔を上げる。

 

「……分かりました。一先ずは一光さんの言う通りにしましょう。ですが、何かあったらすぐに教えてください。私も出来る限りの事はしますから」

 

「ありがとうございます」

 

 とりあえずは契約する方向で話が進んだ。穏やかな口調とは裏腹に、弓月さんの表情は明るくない。どことなく不安を抱えてるように見えた。

 

「そちらは方針は固まったみたいだね。ワタシも帝国で報告してみるよ。ややこしくなりそうだけど」

 

 アリアさんは、苦笑いしながら肩を竦める。彼女は既に火、水、雷の三体と契約している。どちらにしても帝国に帰るしか無いのだろう。

 

「アリアさん、お願いします」

 

 アリアさんは頷く。彼女も思ったよりも動揺していない。心強い限りだ。

 

「皆さんもそれで良いですか?」

 

 皇国の地、氷、風。帝国の火、水、雷の六体の聖獣に向かって問う。皆が首を縦に振った。彼らに異存は無いようだ。

 

「召喚士様……その……」

 

 鈴子さんが何かを言いかける。何となく言いたいことは分かる。本当に契約をして良いのか?わたしは大丈夫なのか?ということだろう。

 

「大丈夫ですよ、鈴子さん。ありがとう」

 

「……そうですか。ご武運を祈っています」

 

 鈴子さんは、ゆっくりと頭を下げる。彼女は敬虔な人だ。混乱しているだろうに、わたしとアリアさんの事を気にかけてくれているのが伝わる。正直、嬉しかった。

 

「それでは、風の聖獣様。お願いします」

 

「ああ」

 

 指輪を風の聖獣へと翳す。すると、風の聖獣の身体が光り始める。これは、契約を行っている証だ。

 光は、吸い込まれるように指輪の中へと入っていった。暫くすると、光は完全に消えた。

 

「契約完了……ありがとう、風の聖獣様」

 

────礼には及ばない。こちらこそ大した力になれなさそうで申し訳ない。

 

 頭の中に風の聖獣の声が聞こえる。最初は驚いたが、慣れたものだ。

 

「良いんです。それはこれから考えますから」

 

────そうか……これから宜しく頼む。私も出来る限り力を貸そう

 

「ええ。こちらこそよろしくお願いします」

 

 とりあえず、これで三体目の聖獣と契約完了だ。想定外の事態も起こったが、当初の目的は達成した。

 これからどうするべきか悩ましいが、立ち止まっても仕方ない。

 

「とりあえず、風鈴村に戻りましょう。取り調べも気になるし。アリアさんもそれで良いですか?」

 

「ああ。構わない。鈴子もそれで良いか?」

 

「ええ。もちろんです」

 

 アリアさんも鈴子も承諾した。弓月さんは、聞くまでもなく頷いていた。

 他の聖獣達も、それぞれの召喚士の指輪の中へと戻っていく。

 帰る準備が整ったのを確認すると、鈴子さんが鈴を取り出した。これがないと延々と階段で迷うことになる。

 

「では、皆様は私についてきてください。帰りも霧はありますから」

 

「さっすが鈴子!頼りになるね!」

 

「ま、まあ……代々のお役目ですから……」

 

 アリアさんは、鈴子さんを茶化す。鈴子さんは、困ったように笑う。先程までの暗い雰囲気はどこに行ったのやら。鈴子さんも、本気で嫌がってる様子はない。

 本当にアリアさんは鈴子さんを気に入ってるようだ。年の差はあるけど、それを感じさせない。まるで友達だ。

 私も年上とは言え、鋼太郎とは結構気が合うと思ってるので、少しだけ気持ちはわかるつもりだ。もちろん、彼女達ほどの年の差は無いが。

 

「あいつ大丈夫かな……」

 

 ぽつり、と呟く。鋼太郎には小さい頃からお世話になってる。だから信頼はしてるが、少しだけ心配もしてる。

 鋼太郎は帝国の反乱の主犯にして、わたし達を襲うように風宮を扇動した人間の取り調べを手伝っている。あまり安全な仕事とは言えない。無茶していなければいいな、と思う。

 今は少しでも早く風鈴村に戻りたい。そして、鋼太郎に会いたい。そう思った。

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