テイルズオブ・サモナーズ   作:柿田

3 / 34
感想・評価お待ちしております。


序章・その三「旅のはじまり」

「おやすみなさーい!」

 

「はい、おやすみー」

 

 葛城孤児院では、就寝の時間になった。子供達は大部屋の寝室へ向かう。子供達を見送ると、わたしは別の部屋へと向かう。

 わたしは、みんなとは別に個室を与えられていた。子供達の中でも年長者は別室で寝るルールとなっていた。孤児院から出ていっても寝られるように練習するためだとか。

 

「ま、広くはないんだけどね」

 

 元は物置として使っていたらしく、お世辞にもひとり部屋とは言うには少し狭い。

 襖にも私物は一切入っていない。部屋の中も蝋燭を除けば、勉強道具を乗せた机に、布団、自慢の刀があるくらいだ。

それでも、今日は一人になれるのがありがたかった。

 

「…………はあ」

 

 思わずため息が出る。

 衛士が居なくなった後、桂子さんに怪我の治療をしてもらった。説教のおまけつきで。

 桂子さんが心配してくれたのが、嬉しくも情けなかった。

 

「どうするんだろうな……」

 

 桂子さん曰く「あの男達は金貸しを生業にしていたけど、回収率が悪くて焦っていた」らしい。

 借金を返済する人が減っていったのも、作物の不作による影響だとか。お金を借りた人が逃げたり、亡くなってしまったりと理由は様々だそうだ。

 

「お母さん、お父さん……」

 

 壁に立てかけている刀を手に取る。この刀は、わたしの実の両親が残してくれたものらしい。その両親も、わたしが幼い頃に山道の事故で失くなったらしい。

 

 この孤児院の仲間にも、似たような境遇の子供は多い。

 飢えや貧困で親と離れてしまった子。

 親に酷い目に遭わされて逃げるしかなかった子。

 盗賊やモンスターに家族を殺されてしまった子。

 孤児院の多くの子どもの境遇は、大なり小なり異常気象が原因だった。

 

 何年も前から、世界中で異常気象が起こっている。

 具体的にいえば、日照りによる作物の不作、頻発する地震や嵐、人を襲うモンスターの活発化などだ。

 その影響も、年々広がっている。物の値段は上がるし、流通も滞っているらしい。

 さらには、食うに困って犯罪に手を染める人も増えてきている、という話も聞く。

 きっと、生活はこれからも苦しくなる。召喚士の儀式が上手くいったとして、今回のようなことが起こらないとも限らない。わたし達の生活が良くなるのは、先の話になるだろう。

 

「桂子さん……」

 

 立派な人だと思う。女の人がひとりで孤児院を切り盛りするなんて並みの覚悟では出来ないはずだ。数が多くても、わたしたちに対してそれぞれ気を遣っている。

 それでも、いつかはズルい大人に潰されるんじゃないかって思う。自分達が生きるために下から搾取し続けるのが世の理だ。その限りなく一番下に近いのが、後ろ楯の少ないわたし達だ。

 

「後ろ楯、か……」

 

 味方がいないわけではないが、それにも限界はある。

今日の一件で、改めてそれを感じた。

 孤児院の子供が地位のある仕事に就き、此処を守るというのも、現実的に考えると難しい。

 何度も未来に思いを馳せても、桂子さんが疲弊する未来しか見えなかった。

 

「やっぱりダメだよね。このままじゃあ」

 

 蝋燭の火に息を吹き掛けて消すと、刀を持って立ち上がる。

 そっと、襖を開ける。目の前には暗闇が広がっているが、問題ない。そのまま、ゆっくりと歩みを進める。

 寝ている子供達や桂子さんを起こさないように。音を立てないように。

 桂子さんの部屋の前へと辿り着く。襖に耳を当て、少しだけ開けてみる。

 

「………ん」

 

 灯りは見えないが、月の光で桂子さんの姿は確認できた。布団で良く寝ている。眠りは浅い方ではないし、問題ないはずだ。

 

「ごめんね」

 

 誰にも聞こえないほどの、か細い声で謝る。そして、部屋に入る。

 桂子さんの部屋も、わたしと同じく最低限の物しか置いてない。少しは好きな物とか買ってもいいのにな。

 いや、こんなこと考えてる暇はなかった。頭を切り替えて、部屋を見渡す。

 

「あ……」

 

 机の上に、封筒が置いてあった。声が出そうになったが、我慢してそれを手に取る。

 横目で桂子さんを確認する。まだ寝ているようだ。今のうちに部屋から出てしまおう。

 ゆっくりと部屋の外へ出て、襖を閉める。

 

「ふぅ……」

 

 手にした封筒を見て、胸を撫で下ろす。これは、召喚士試験の招待状だった。これがなければ、都に行っても門前払いだ。

 難関の桂子さんの部屋を超えれば、後はどうにでもなる。早く外に出てしまおう。

 

 

 

 玄関に辿り着き、誕生日に買って貰ったブーツ(隣の国の履き物らしい)を履いて、外に出た。

 月明かりのお陰か、家の中よりも明るかった。

 

「大丈夫、かな」

 

 周囲を見渡し、呟いた。誰もいないのを確認したら、孤児院の裏の倉庫へ回る。

 外でも音を立てないように歩く。緊張してるのもあってか、長く感じた。倉庫の前へ着くと、短くため息をつく。

 

「よし……」

 

 安心ばかりしていられない。すぐに倉庫の中に入り、シャベルを取り出す。

 向かう先は、薪割り台に使っている切り株だった。その切り株の近くをシャベルで堀始める。

 

「んっ……ふっ……」

 

 土が固く感じるが、止めるわけにはいかない。地面を力任せに掘り進めていく。

 暫くすると、木箱が姿を見せた。わたしは、箱を引っ張りあげた。

 

「んっ……しょっと……」

 

 その木箱は、小さな子どもが丸まれば入れる程度の大きさだった。蓋を開け、中身を確認する。

 

「……全部ある」

 

 箱の中には、日持ちする携帯食料、地図、傷薬、方位磁石などが入っていた。

 これらは、全て旅の必需品だ。孤児院から出る日に備え、昔から少しずつ道具を買っていたのだ。

 

「まさか、開けるのが今日になるなんてね……」

 

 呟きながら、風呂敷に木箱の中身を乗せていく。

 これは、召喚士になる旅に出る為の準備だった。

 

「みんな、心配するかな……」

 

 それでも、やるしかない。今、何かしたいのだ。

 桂子さんや孤児院の仲間には、味方が少ない。だったら、わたしが強くなって味方になるしかない。

 道具を風呂敷に包み、決意と共に口を固く縛る。

 

「……行こう」

 

 今から出発しよう。桂子さんに話しても反対されるし。

 桂子さんを助けたいのに、桂子さんに悲しい思いをさせるのは矛盾している気がするが、今はこれしか考えられなかった。

 それに、いつかは出ていかなければならない。遅いか早いかの違いだ。

 

 孤児院の正門へと歩く。人の気配は感じなかった。

 

「よし……」

 

 外へと歩みを進める。暫くは戻ることも出来ないのだ。躊躇う前に出ていってしまおう。

 

「えっ……」

 

 孤児院の庭から出ようとした瞬間だった。不意に、何者かに肩を捕まれた。

 誰か分からないせいか、胸の鼓動が跳ね上がった。

 すぐさま振り返り、距離を取る。刀に手を掛けるが、魔物や盗賊などではなかった。

 そこに居たのは、ある意味では盗賊より厄介な人間だった。

 

「桂子さん……」

 

 わたしの肩を掴んだのは、白い寝間着に身を包み、長い髪を束ねた女性──桂子さんだ。

 一番会いたくない人に、会ってしまった。

 桂子さんが突然現れたことによる混乱と焦りが、わたしの頭の中を支配する。

 そんな頭でも、ここに彼女がいる理由は何となく分かった。

 

「桂子さん。起きてたの?」

 

 桂子さんは答えなかった。否定する様子はない。肯定と見ていいだろう。

 わたしが部屋に入って手紙を持ち出すことを分かっていたのだろう。だから、敢えて自室の机に手紙を置いていたのだ。

 ここで止まるわけにはいかない。

 だが、走ろうにも足が動かなかった。竦んだわけではないが、ここで走って逃げるのは違う気がした。

 

「あの……わたし……」

 

 わたしの言葉なんて聞かないと言わんばかりに早歩きで近づいてくる。

 その顔は無表情だ。怒っているのか、泣いているのか分からなかった。

 

「つばさ」

 

 名前を呼ばれ、何を言われるのかと身体が強ばる。

 

「…………」

 

 そして、桂子さんは、わたしの額を人差し指で弾いた。

 

「いったあー!何するの!」

 

「何するのじゃないでしょ!このお馬鹿!」

 

 またデコピンだ。

 でも、どことなく元気が感じられなかった。

 

「何しに行くの?」

 

「え?」

 

「何しに行くのか聞いてるの」

 

 間抜けな声が出てしまった。素っ気ないけど、優しさを感じる声で聞かれたのもあってか、気が抜けたのだろうか。

 

「みんなが苦しむ時代を終わらせに行きます」

 

「あんた以外の誰かがやるしても?」

 

 昼にも言われたことだ。

 誰かがやるかもしれない。だから、任せておけばいい。確かに、その通りだと思う。

 わたしより剣が上手い人がいて、わたしより頭の良い人がいる。歴代の召喚士とは、そういう人達なのだろう。

 だとしても、納得できなかった。

 

「召喚士が世界を安定させたとして、必ず平和になるの?盗賊や借金取りのおじさん達は、わたし達を襲うと思うよ」

 

 さっきも考えていたことだ。今のままでは、わたし達は少しずつ搾取され続けるだろう。

 だったら、わたし達が戦うしかない。

 

「わたし、強くなりたい。大切な人達を守れるようになりたい。それが召喚士になることで叶うかは分からないけど。誰かに任せるんじゃなくて、自分で戦えるようになりたい」

 

 はぁ、とため息をつく桂子さん。再び顔を上げ、わたしの瞳を見つめる。

 

「……分かった、もう良いよ。チビ達には話しておくから」

 

 眉を寄せながらも、口角は上がっていた。悲しみと、喜びが混ざったような顔だった。

 さっさと行け──口には出してないけれど、そう言っているように見えた。

 家出同然で出ていくつもりだったのに、桂子さんは認めてくれたのだ。

 それが嬉しくて、わたしは大きく手を振った。

 

「桂子さん……ありがとう。それじゃ、行って来ます!」

 

「……行ってらっしゃい」

 

 桂子さんは、小さく手を振った。すると、すぐに後ろを向いた。

 最後まで見てくれないのが、少しだけ寂しかった。でも、震える桂子さんの肩を見ると、それはワガママだと思い、わたしも孤児院の外へと歩き出した。

 

 

 

 我が家である孤児院が見えなくなってきた辺で、空を見上げる。

 そこには、綺麗な星空が広がっていた。星のひとつひとつに名前がある、と数年前に孤児院を出ていった仲間から聞いたことがある。

 

「静かだなあ……」

 

 救済が必要なほど世界が疲弊してるとも思えない程度には、穏やかな夜だった。モンスターも盗賊もいない、異常気象も発生しない。昼間の騒動が嘘のようだった。

 だけど、これは嵐の前の静けさ。

 わたしはこれから多くの戦いに巻き込まれていくのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。