テイルズオブ・サモナーズ   作:柿田

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第二十七話「帰還」

 風鈴村では、皇国と帝国の両方の召喚士護衛部隊で今後の方針や、情報の交換等を行われた。

 だが、風の聖獣の社と風鈴村の襲撃犯の正体は分からずに終わった。

 社や村を襲撃したり風宮を扇動した男を連れ去った理由も不明。予定が押しているのもあり、一旦解散することになった。

 さらには、程度はそれぞれだが双方共に怪我人も多く出ていた。これから首都へ凱旋するというには痛ましい様子であった。

 聖獣と契約に成功したにも関わらず、召喚士部隊の雰囲気は明るいものでない。

 それでも、立ち止まるわけには行かない。暗い気分を引きずりながらも都に戻ってきた。

 

 都に入ると、人々は賞賛の声を送ってくれた。彼らは、風鈴村での騒動を何も知らされていない。だから、明るく迎え入れてくれたのだ。

 隠すのは良いことであるとは言えないが、謎の襲撃があったとなれば騒ぎになる。それを避けたいという話だ。

 わたしは、馬車の中から笑顔を作って手を振る事しか出来なかった。

 

 そして、わたし達は皇王様とお話をする場所───謁見の間に足を運んだ。

 

「召喚士の一光つばさと護衛の者達よ。長旅ご苦労だった」

 

 皇王様が、わたし達に労いの言葉をかけてくれた。

 

「……もったいないお言葉です」

 

 わたしは、事前に考えていた言葉をぎこちなく返す。やはり、皇王様と対面するのは緊張する。

 

「謙遜するでない。想定外の事態にも対処して帰還を果たしたのだ。この場にいない負傷者を含めて、喜ばしく思う」

 

 この場にいる召喚士の護衛の衛士は、弓月さんを除けば四人ほどしかいなかった。

 残りは治療を優先するようにという皇王様の命令によって、医務室にいた。つまりは、半分も席を外していることになる。

 

「早速で悪いが報告を頼む。詳しく聞きたい」

 

「はい。それでは、私から……」

 

 弓月さんが、都を出てからの出来事を簡潔かつ丁寧に報告する。衛士部隊の隊長をやれるほどの人だけあって、手慣れた様子だ。

 道中の話はもちろん、地の聖獣には鋼太郎を入れて三人で挑んだこと、氷の聖獣とは一対一で戦ったことなどを話す。

 そして、風の聖獣や風鈴村での話になった。

 

「ふむ……風宮勘太郎に謎の襲撃者。そして、帝国の召喚士か……」

 

「はい。わたし達が聖獣との契約に行ってる間に、風鈴村では小野沢鋼太郎達が帝国の方々と共に帝国で反乱を起こした男の取り調べをしていました」

 

「さらには、帝国で反乱を起こし、風宮を唆した男がリィン・ベルリオか……」

 

 弓月さんは頷く。

 リィン・ベルリオ。風鈴村から戻る道中で聞いた名前だ。

 リィンは商人の家系の生まれで、帝国貴族にも顔の利く優秀な男だったらしい。

 しかし、いつしか召喚士への不信を口にし始めたらしい。最初は軽い愚痴程度のものが、段々と大きな政治的な不信の話に発展したという。貴族相手でも口論が絶えなかったという表現もあった。

 そして、帝国内で召喚士や国に不満を持つ人々を反乱に巻き込んだ。反乱が鎮圧された後は、皇国に逃亡。風宮を唆して、わたし達を襲撃させたらしい。

 

「リィン・ベルリオと風宮勘太郎は、交流があったのか?」

 

「はい。リィンは行商の仕事で皇国に入国することもあり、その際に勘太郎に接触していたという話です。風鈴村の人間には気取られないようにしていたとも言っていました」

 

「村の重役でありながら秘密の連絡とは器用なものだな……」

 

 皇王様は、ため息をつきながらぼやく。

 風宮家は、風鈴村では治安維持担当の家系だと言っていた。風宮勘太郎は、特に責任感が強いとも。

 言われてみれば、そんな人間が遠くの人間と秘密裏に連絡なんて取れるのだろうか?

 

「それに関しては手がかりがありました」

 

 部屋の片隅から男性の声が聞こえた。外海様だ。

 外海様が目配せをすると、文乃さんが懐から折りたたまれた紙を取り出す。

 紙を広げると、中から意外な物が出てきた。

 

「鳥の羽……?」

 

 紙の中から出たのは黄色の小さな羽だった。黄色い鳥といえば、わたしの中ではひよこしか思いつかない。だが、ひよこの物とは思えなかった。

 

「その通りだ、つばささん。これは帝国領に生息しているシルフモドキという鳥の羽だ。風宮勘太郎の家の周囲に数枚ほど落ちていたんだ」

 

 外海様が頷きながら説明する。風の聖獣と契約に向かっている時に回収したんだろうか。

 

「風宮の家……つまり、それが連絡手段の手がかりなのか?」

 

「その通りでございます、陛下。私も確証は無かったので、早急に調べさせました。その結果、シルフモドキと判明しました」

 

「シルフモドキ……!そうか、確かにシルフモドキなら……」

 

 皇王様が目を見開いて驚きを示す。他の衛士達も動揺してるように見える。

 しかし、わたしにはその意味が分からなかった。手紙をくくりつけた鳥を使って連絡をするのは、皇国でもやってるから分かる。しかし、風鈴村から皇国は距離が長いのではないだろうか?

 

「あの、申し訳ありません。シルフモドキとは……?」

 

 思わず尋ねてしまった。シルフモドキなんて鳥を、わたしは聞いたことも見たこともない。だから、シルフモドキと言われても分からなかった。

 わたしの質問に、皇王様が答える。

 

「ああ、すまない。お前は知らないのも無理はないな。シルフモドキとは、皇国に生息する鳥だ。基本的に伝書鳩は特定の場所同士でしかやり取りできない。それは分かるな?」

 

「はい」

 

 飼い主であっても、伝書鳩が認識している場所にいないと手紙を受け取れない。これは子どもでも知ってる一般常識だ。

 

「しかし、シルフモドキは少し違う。雛の状態から育てれば、どこにいようと特定の人間同士の間を飛ぶんだ。それも世界中のどこにいてもな」

 

「……っ!?そうなのですか?」

 

 どこにいても飛んでくるということは、知能だけでなく飛行能力もかなりのものだ。確かに、そんな鳥が使えるなら皇国にいながらも帝国と密かにやり取りも出来るだろう。

 

「ああ。だから、帝国の騎士団や貴族は苦労しながらもシルフモドキを育成してると聞く。数も少ないから取引も高値で行われてるらしい。まあ、使い物になるまで育てるのが難しいみたいだがな」

 

 そう言いながら皇王様は苦笑いする。

 風宮勘太郎達はそんな希少な鳥を悪用してたのか……。とんでもない男だ。

 わたしが納得した様子を見せると、外海様が脱線した話の続きをする。

 

「ですから、リィンが貴族とも繋がりのあった行商人であるなら、シルフモドキを入手出来てもおかしくはないのです。村の人間が寝静まった時間にシルフモドキが到着するように飛ばせば、誰かに見られることもないでしょう」

 

「仮に見られたとしても、鳥が飛んでるのを大して気にする人間も少ないというわけか。手紙の受け取りさえ見られなければ、いくらでも誤魔化せるな」

 

 皇王様は小さくため息をつく。風宮勘太郎達のやり口に、心底呆れているという感じだ。

 外海様も同じ気持ちなのか、深く頷く。

 

「ええ。その辺りは風宮の取り調べで裏取りをする必要がありますが、現時点で考えられる連絡手段としては有力です」

 

「なるほどな。ところで……弓月隊長、襲撃者は風の聖獣の社と風鈴村の両方に現れたという話だったな。それぞれの襲撃者と風宮勘太郎が繋がっていた可能性はあるのか?」

 

 今度は弓月さんに質問を投げかける皇王様。それは、わたしも気になっていた。

 

「本人は否定していますが、態度が反抗的ですので隠している可能性もあります」

 

「そうか……引き続き、慎重に取り調べをさせろ」

 

「はっ」

 

 弓月さんは、頭を下げる。

 改めて考えても、分からないことが多くて気味が悪い。それを明らかにするのが他の衛士達の仕事だが、手がかりが少ない。

 

「そういえば、襲撃者は二人か。村を襲撃した女の方はリィンを連れ去り、社を襲った少年の方は不吉な事を言い残して消えたのだったな。確か、儀式を行えば召喚士の命がなくなる……だったか」

 

 今度は、召喚士の命が吸い取られるという話に移る。わたしとしても、避けられない話題だ。

 弓月さんが答える。

 

「ええ。私達が戦った相手が言っていました。皇王様はそのようなお話を耳にされたことは?」

 

「無いな。言い伝えも記録もない。第一、そのような話があれば改善案を探しているだろう。どうすれば信じてもらえるかは分からないがな」

 

 皇王様は、わたしの目を見つめながら話す。あまりに力強い視線に、少しだけ身体が強張った。悪意や敵意は無いだろうが。

 皇王様は、さらに続ける。

 

「出鱈目と切り捨てたいところだが、あまりにも色々な事が起きすぎた。それに、私達の聞いていた話と儀式の内容が違うのであれば、見直せねばならないだろう」

 

「……っ!予定を変更されるのですかっ?」

 

 まさか、儀式を中止するつもりだろうか。少しだけ声がうわずった。

 

「人命が関わる以上は今後次第だろうな。つばさ、この後の予定は覚えているな?」

 

「はい。帝国で光と闇の聖獣との契約。その後に創造主召喚の儀式です」

 

 聖獣は全て合わせて八体。残り二体の契約と創造主召喚は、帝国と一緒に行う。その為に、この後は帝国へと赴く予定になっている。

 

「そうだ。だから、その際に帝国側と儀式の内容の再確認と、今後の方針についての話し合いを行うことにする。帝国が関わるなら私の一存ではどうにもならない。だから慎重に動くんだ」

 

 悔しいが、その通りだ。わたしだけが儀式を続行したいと言っても、アリアさんが了承しなければ意味がない。

 それに、わたしだって死にたいわけではないし、アリアさんを死なせたいわけでもない。

 

「はっ……出過ぎたことを口にして申し訳ありません……」

 

 少し取り乱してしまった。わたし一人が騒いだところで何も変わらないというのに。

 

「良い。皆もそうだが、お前も色々あって混乱するのも無理はない。漸く区切りがつくと思ったら、今の事態だからな」

 

 皇王様にとっても悩ましいのか、彼女の眉間に皺が寄る。小さくため息をつくと、わたし達に改めて向き直る。

 

「改めて言わせて欲しい。今回の長旅、ご苦労だった。見事に三体の聖獣と契約を結んだことを嬉しく思う。だが、まだ召喚士の行事は終わっていない。残りも気を引き締めて務めてもらいたい」

 

 そう。まだ契約する聖獣は残っている。さらに、その先には召喚の儀式もある。本番はここからだ。

 

「聖獣の導きがあらんことを!」

 

 皇王様の締めの言葉が、凛とした声で響き渡る。

 その言葉と共に、この場はお開きとなった。

 

 

・・・

 

 

 報告が終わった後、わたしは都の医者達に身体の検査を行ってもらった。襲撃者達の言葉を無視するわけにもいかないからだ。検査は半日ほどかかったが、結果に問題は無かった。ひとまずは経過観察ということになった。

 

 それから、三日ほど都に滞在することになった。

 召喚士としての役割も次の段階に移るから準備の為だ。

 とはいえ、わたしは別に大したことをしているわけではない。

 最初の一日は礼儀作法の勉強、二日目は他の貴族の方々に旅の話をしたり、都の人々に挨拶をして回ったりした。弓月さんが言うには、これも大切な仕事らしい。召喚士の影響力を考えると、やっておいて損はないだろう。

 それに、三日目は余暇も貰えた。立場が立場なので自由に出歩くわけには行かないが、ある程度の要望なら聞いてもらえた。麻婆カレーが食べたいと言えば、お世話になったお店の麻婆カレーを取り寄せてもらえたし、国内の状況も丁寧に教えてもらえた。

 

 そして、あれよあれよと言う間に夜だ。

 

「後は、これだな……」

 

 わたしは、宮廷の離れの一室に居た。三日の間は、この部屋に寝泊まりしていた。

 蝋燭の明かりを頼りに、机に置かれた紙に筆を走らせる。

 

「うーん、手紙ってこんな感じで良いのかなあ。悩んでも仕方ないけど……」

 

 誰に向けてるわけでもない独り言をぼやきながら、葛城孤児院に向けた手紙を書く。

 孤児院を出て二ヶ月近くが経過していた。何回か手紙は出していたが、どれも生存報告の文章ばかりだった。だから、本格的に何があったのかを一から書くのは初めてだった。

 

「難しいな……」

 

 またまたぼやく。手は止まってないが、これで良いのか?という悩みは尽きない。それでも時間は有限なので手を動かすしか無いが。

 文章自体は書けるのに、いまいち納得がいかない。不思議な感覚だ。出来るなら直したいが、時間が足りない。それに、どんな文章に直せば良いか分からない。

 文章を書いて仕事してる人って凄い。改めてそう思う。

 

「まあ、足りないところは帰ったら改めて話そうかな……」

 

 とりあえずは書き終えた。相変わらず思うような文章にならなかったが、おかしなところは無いはずだ。

 何だか妥協に妥協を重ねたようで申し訳ないが、旅の様子を知らせる手紙としては悪くないと思う。

 召喚士の命の件は書かなかった。こればかりは、今は話すわけにいかない。知られたら怒られると思うけど。

 

「後は出し忘れないようにしないとな」

 

 部屋の窓を開ける。そこには星に照らされた夜の空が広がっていた。

 部屋に入ってくる夜風に紙を当てる。紙に書いた墨汁を乾かしている。

 もうそろそろ暑くなる頃合いだ。きっと、すぐに乾くだろう。

 手紙を読んで、少しでもわたしの気持ちが伝われば良い。そう思いながら、夜空を見上げた。

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