テイルズオブ・サモナーズ   作:柿田

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第二十八話「友よ」

 皇国の草原を、何台もの馬車が慌ただしく駆け抜ける。少なくとも十台以上はいるだろう。

    

 これは、皇国の召喚士部隊の馬車だ。召喚士部隊は再編され、二十名以上となった。衛士以外を入れると、もっと多い。その為、馬車の数も増えたのだ。

 召喚士の旅ももうすぐ終わりが近い。光と闇の聖獣との契約と創造主召喚の儀式を行う為に、帝国へと向かっている。予定通りに進めるかは不明ではあるが。

 それは良いが、一つだけ困ったことがあった。

 

「ま、まさか皇王様も同じ馬車に乗られるとは……」

 

 わたしの乗っている馬車の中には、皇王様もいた。それも目の前に。

 

「お前も私も要人だ。何も不思議はなかろう?」

 

「それはそうなんですが……」

 

 何を今更、と言わんばかりの笑顔の皇王様に困ってしまう。

 皇王様は細かい礼儀作法は気にするな、と仰っていたが難しい話だ。

 わたしにとっては、国で一番偉い人なのだ。無礼講なんて言葉の対極にいる存在だ。

 どことなく、わたしの反応を楽しんでいるように見える。気のせいだろうか?

 

「……皇王様、一光さんが困っています。その辺りでお辞めください」

 

 弓月さんが苦笑いしながら、皇王様を諌める。微妙な笑顔の弓月さんに対し、皇王様は口を尖らせながら抗議し始める。

 

「交流を持つのは別に良いだろうに。それにだな。我々以外は誰もいないというのに、お前こそ硬いぞ。一応、お前とは友達のつもりなんだが?」

 

「友達だからこそです。それに、馬や他の場所には我々以外の人間もいるでしょうに」

 

「と、友達!?弓月さんと皇王様が!?」

 

 しれっと凄い言葉が出てきた。わたしは、思わず軽く飛び跳ねてしまう。

 一体どういうことなのだろう?二人を見比べていると、弓月さんが説明してくれた。

 

「以前、衛士になってから皇王様に召喚士の護衛部隊に誘われた話はしましたね?」

 

「はい。降雪村の時ですよね」

 

 氷の聖獣の契約に行く前日のことを思い返す。

 故郷を離れた弓月さんは、生きていく為に衛士になる事を選んだという。

 衛士なった後に、皇王様と出会って召喚士護衛部隊を任されたという話だ。

 

「はい。召喚士の儀式を補佐する護衛部隊。それに将来的に関わってみないか?と皇王様から持ちかけられました。それも、新人の頃にですよ」

 

「え?そんな早くにですか?」

 

 実績を積んでから、弓月さんに護衛部隊の話が来たのかと思っていた。少し意外だ。

 

「昔、お忍びで出かけていたことがあってな。その時にこいつを見かけて、誘ったんだ。間違いなく有用な人材だと思ったからな」

 

「かなり強引な勧誘でしたけどね。しかも、隊長だなんて聞いてませんでしたよ」

 

 にやり、と笑う皇王様に対して呆れたような目をする弓月さん。普段とは違って気さくな間柄に見える。

 

「構わないではないか。現にこうして、私もお前も結果を出しているのだからな」

 

「まあ、長い目で見れば悪くない結果だとは思いますけど……」

 

「ふふん。だろう?私の目に狂いはなかったわけだ」

 

 腰に手を当て、得意げに笑ってみせる皇王様。

 私の中の皇王様の厳かな印象が崩れていく。彼女の意外な一面を見せつけられている。

 

「とにかく、だ。不安は色々と募るだろうが、私も弓月も他の者達も出来ることをやる。必ずお前の助けになってみせよう」

 

「皇王様……ありがとうございます」

 

 色々というのは儀式だけでなく、襲撃者の件も含めてだろう。

 人の命が関わるなら慎重に動くしか無い、と皇王様は言っていた。それを改めて皇王様が説いてくれるのは素直に嬉しかった。

 

「ところで、お二人はどのような経緯で友達になられたのですか?」

 

 忘れそうになっていたが、二人は友達らしい。せっかくだし聞いておきたかった。

 皇王様は、悪戯をする子供のような笑みを見せる。

 

「そんな大した話ではない。さっきも言ったが、お忍びで出かけてたら、こいつを見つけた。その時に暴れている魔物を倒した時の動きが気に入った。だから、味方に引き入れたいと思って護衛部隊に誘った。それがきっかけだ」

 

「あんなの他の衛士でも出来ますよ。私だけではありません」

 

「そうかな?倒すだけならともかく、泥臭く民間人を守る姿は良かったぞ?」

 

「未熟だから必死にやってただけですよ。変に持ち上げないでください」

 

「照れてるのか?」

 

「照れてません。大体、貴方も協力しましたよね?勝手に武器まで持ち出して……」

 

「仕方ないだろう。人が襲われている以上、放ってもおけまい」

 

「助かったのは事実ですが……しかしですね……」

 

 弓月さんは、皇王様と舌戦しながら半目になりながら少しだけ顔を赤くしている。照れているのだろうか?いつもと違って、何だか子どもっぽい。

 いや、それよりもまた聞き逃しちゃいけない台詞が出てきたぞ。

 

「えっ。皇王様は戦いの心得があるのですか?」

 

「うむ。凄いだろう?」

 

「は、はいっ……」

 

 凄いし、驚いた。為政者が自ら剣を取るとは思っていなかった。

 

「上に立つ者は力を示せなきゃ意味ないし、何よりも自分の身を守れる力は必要だ。まあ、流石に今は弓月の方がずっと上だろうがな」

 

「当前です。こちらはそれが仕事ですから」

 

「つばさ、弓月が下手をしたら私に言え。思いっきり叱り飛ばしてやる」

 

「私は今、貴方を叱り飛ばしたい気分です……!」

 

「あはは……」

 

 漫才のような軽快なやり取りが目の前で繰り広げられている。

 これが、皇王と護衛部隊の隊長のやり取りであるとは誰も思うまい。

 わたしは、苦笑いするしか無かった。

 

「繰り返しになるが、私も弓月も力を尽くすつもりだ。儀式は大事だが、お前や帝国の召喚士を犠牲にするつもりはないからな」

 

「はい。ありがとうございます……!」

 

 わたしを励ます為に話をしてくれていたようだ。何だか申し訳ない。

 都に戻った際に身体を調べてもらったが、今のところは体調に問題は無かった。自分自身でも変化は無いように思うし、今のところは問題はない。

 

「それと、一光さんに朗報があります」

 

「朗報?」

 

 弓月さんが唐突に切り出してくる。一体なんだろう?

 

「鋼太郎の怪我は順調に治ってきているようですよ。少し後にはなりますが、合流出来ますよ」

 

「っ!本当ですか?」

 

「ええ。医者からも、お墨付きを貰っています。報告が遅くなって申し訳ありません」

 

「いえっ。そんな……教えてくれただけでも嬉しいです」

 

 弓月さん、頭を下げられると困ります。でも、気を遣ってくれたのは嬉しい。

 

「そういえば、小野沢鋼太郎は弓月が新人の頃から気にかけてたな。お前の力になれているか?」

 

 新人の頃から……そういえば、そんなことを言っていた気もする。

 わたしにとって鋼太郎は、間違いなく頼もしい存在だった。彼がいたから精神的にも楽になってた面はある。

 

「はい。鋼太郎が一緒に来たのは驚きましたけど、道中は心強かったです」

 

 まさか衛士になってるとは思わなかったし、いきなり同行すると言われて戸惑った。だけど、鋼太郎は人間としても戦う仲間としても頼りになった。礼を言っても足りないくらいだ。聖獣の力を使う訓練にも付き合ってくれたし。

 

「そうか。ならば良かった。出来ることなら今回も来てほしかったがな」

 

「わたしも同じ気持ちです。だからこそ、鋼太郎に笑われないように全力を尽くします」

 

「うむ。それを聞いて安心したよ。無理しない範囲で頼んだ」

 

「はいっ」

 

 返事しながら、鋼太郎の顔を思い浮かべる。療養中のあいつはどんな顔をしてるのだろうか?泣きはしないと思うが、寂しい思いをしてないと良いな。

 

「……ふふっ」

 

「っ!な、何か……?」

 

 皇王様が、微笑みながらいきなり顔を覗き込んできた。頭の中を見抜かれてるみたいで少し驚く。

 

「いや、少し楽しそうだと思ってな?何か良いことでもあったか?」

 

「え?いや……そんなことは……」

 

 鋼太郎の事を考えていただけで、特におかしなことはない。とはいえ、考えていて悪い気分もしていないのも事実。

 見透かされたみたいで、少しだけ心臓の鼓動が跳ね上がった。

 

「あ、鋼太郎で思い出しましたけど……」

 

 とりあえず話題を変えよう。確認したいこともあるし……。

 ずっと微笑まれても困る。弓月さんも呆れるだけじゃなくて助けて欲しい。

 

「皇王様、襲撃者が襲って来たらどうされますか?わたしとしては弓月さんに守ってもらった方が良いと思うのです。もしくは、わたしが守るか」

 

 都にいる間、色んなことを考えていた。それは襲撃者の事も例外ではない。一人追い払うのに苦労したのに、風鈴村が襲われた話から二人目もいるのは間違いない。

 衛士部隊としての方針はある程度決まっているらしいが、それとは別に召喚士と皇王の間でも決めておいたほうが良いと思った。

 しかし、皇王様の返答は予想外のものだった。

 

「ああ。それなら心配ない。私は他の者に護衛してもらうから、お前は弓月と動け。戦うかどうかは時と場合によるだろうがな」

 

「えっ……でも……」

 

「そいつらは強いのだろう?被害を抑える為にも出来る限り撃退か拘束しなければならない。ならば、召喚士の力を持つお前と隊長の弓月の力は必要になるだろう。私だけを守っても市井の者たちが傷つけば意味はないからな」

 

「それは……」

 

 わたしが召喚士を志したのも、孤児院の仲間達の暮らしをよくするためだ。世界が安定すれば、わたし達の暮らしもよくなると思ったから。

 敵への対処だけを考えるなら、皇王様の申し出は確かにありがたい。

 

「よろしいのですか?」

 

「統治者に二言はない。それに、私はある程度戦えるし逃げ足も速い。心配するな」

 

 心配するなという方が無理だ。皇王様に何かあれば、創造主を召喚出来ても混乱が起こる。そうなればオオトリ皇国は滅茶苦茶になる。

 とはいえ、わたしも弓月さんも襲撃者の対処に回れるのはありがたい。それも事実なのだ。

 返事に困っていると、弓月さんがため息混じりに口を開くり

 

「一光さん。彼女は言い出したら聞きません。帝国に到着するまで問答が続くだけです。それに、下の者には有事の際の対処法は伝えてあります。一応の問題はありません」

 

「そういうことだ。私の事は気にするな」

 

「は、はあ……そういうことでしたら……まあ……」

 

 押し切られてしまった。でも、皇王様の申し出はありがたい。

 皇王様は、わたしの肩に手を置いて微笑む。それは、とても穏やかな顔だった。

 

「無論、理想はお前の力を使う場面が来ないことだがな。例の件もある以上は慎重に動きたい」

 

「……ええ。そうですね」

 

 せっかく手に入れた力を思うように使えないのは少し残念ではあるが、命を粗末にするつもりもない。

 だから、今は何事もないよう祈るしかないし、何かあれば戦うしかない。少しだけ複雑だが仕方ない。

 皇王様は、再び悪戯する子供のような笑みを浮かべながら、私の肩を掴む。

 

「さてと……堅苦しい話は終わりだ。私が帝国の美味い物を教えてやろう。私の一押しはだな……」

 

 そこから先は、明るい話題が続いた。わたしに気負わせたくないという、皇王様の気遣いだろう。

 帝国に辿り着くまで、穏やかな時間が続いた。

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