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「召喚士及びニジル騎士団長、入室します!」
扉の向こうの帝国騎士の人が、叫ぶのが聞こえた。わたし達が入るのを知らせているようだ。
扉が完全に開ききる。部屋の中心には、長い机が置いてあった。それを囲むように十人程の人が座っていた。
机を間に挟むように、オオトリ皇国とネイク帝国で分かれて座っていた。
皇国側は見知った顔ばかりだ。弓月さんや皇王様もいる。逆に、帝国側は当然ながら誰か誰だか分からない。
「失礼します。召喚士のアリア様とつばさ様をお連れしました」
ニジルさんはゆっくりと頭を下げる。わたしとアリアさんも、それに続いて挨拶した。
「帝国召喚士のアリア・アズルローズです。皇国の皆様とお会いできて光栄です」
アリアさんがゆっくりと頭を下げる。次はわたしだ。
「……っ。皇国召喚士の一光つばさです。帝国の皆様のおもてなしに感謝しております。よろしくお願いします」
事前に考えた挨拶を口にする。出来る限り平静を装っているが、緊張してしまう。
「つばさ、待っていたぞ。お前は私の隣だ」
「はっ」
皇王様に促され、彼女の隣の椅子に座る。左には弓月さんもいた。わたしが座ると、弓月さんは軽く会釈してくれた。
対面にはアリアさんが座っていた。その両隣にはニジルさんと、髭を蓄えた男性の人が座っていた。
髭を蓄えている方の男性は、青を基調としたケープを着ている。さらには、頭に王冠を乗せている。間違いない。この人が皇帝だ。
「帝国の人々よ、改めて挨拶をさせてもらおう。私は、ネイク帝国の皇帝のイズン・ネイクだ。帝国まで来てくれたことに感謝する」
皇帝であるイズン様が凛とした声で挨拶をする。丁寧でありながらも堂々とした態度だ。
「時間も押している。早速だが、本題に移ろう」
その一言で、場の空気が一気に引き締まった。この会談の一番の理由だ。
「頭の痛い問題は様々だが……まずはリィン・ベルリオと風宮勘太郎の件について話し合いたい。構わないか?」
皇王様の言葉に、イズン様が頷く。彼としてもリィン達に思うところがあるらしい。
「ありがとう。改めて確認しよう」
そこからは現状確認が始まった。
行商人のリィンが帝国内で反乱を起こし、皇国へと逃亡を図った。風宮勘太郎を頼りに風鈴村に逃げ込んだが、アリアさんと帝国騎士団に捕まる。
その後に、わたし達が風鈴村を訪れる。わたし達を襲った風宮勘太郎がリィンの仲間であること、帝国で反乱があったことを知る。
それからはリィンを尋問する組と、風の聖獣との契約に向かう組で分かれて行動する。わたしは風の聖獣と接触するが、謎の少年の襲撃を受けた。退けはしたが、召喚士は命を失うという忠告を受ける。
同じ頃、風鈴村でも謎の女性から襲撃を受ける。その時にリィンを連れ攫われる。行き先は未だに不明。
ここまでが、わたし達の認識だった。
「それで、リィンの行方だが……皇国側でも探しているが不明だ。帝国も同じだな?」
皇王様の問いに、イズン様は苦々しい頷く。
「ああ。ヤツに加担した人間全員に尋問しても知らぬ存ぜぬの一点張りだ。まともな手掛かりを寄越そうともしない。嘘をついている様子もないがな」
小さくではあるが、イズン様はため息をつく。気を揉んでいるのが伝わる。
少しだけ沈黙が続く。リィンの問題を話し合うのは良いが、何も分からないので停滞してしまう。
すると、弓月さんが口を開いた。
「リィン・ベルリオもですが、彼を攫って我々を攻撃した襲撃者も問題です。風宮もリィンの関係者も情報を出さない、出せない以上は次の襲撃に備える必要があります」
弓月さんが、次の議題である襲撃者についての話を出した。彼女の一言で、場の止まっていた時間が動き出した。
「しかし、いつ襲ってくるかは分からないでしょう?どこに身を潜めているかも分からない以上は対策は立てようがないのでは?」
帝国側の人が疑問を述べる。青色のゆったりとした格好をしている。貴族の人だろうか?
「おっしゃる通りです。しかし、我々の予想では彼らは召喚士の契約の妨害をしたいわけではないという結論に至りました」
「弓月隊長、それは何故ですか?貴方達やアリア様は襲撃を受けたのでは?」
ニジルさんが片眼鏡を触る。続きを促しているように見える。
「ええ。ニジル団長の仰る通りです。確かに、我々は攻撃された。しかし、契約の妨害が目当てなら今までも襲撃の機会は沢山あったはずです。我々の日程は決まっているのですから」
誰が発したのかは分からないが「あっ……」という声が聞こえた。
弓月さんも言っていたが、召喚士部隊の動きは広く公開されている。旅で回った各地に価値や泊をつけるのも召喚士の役割だ。危険はあるが、それによって経済効果も期待されるからだ。
だから、契約させたくないのならもっと早くから動けば問題ないのだ。
「それだけではありません。風鈴村との同時襲撃も疑問が残ります。私達を潰したいのなら、村を襲撃した女も少年と共に風の聖獣の社へと行けば良かったはず。だから、我々は契約の妨害が目的ではないと考えました」
「……なるほど。召喚士側から見れば、そのように考える他ありませんね」
ニジルさんは顎に手を当てながら頷く。
思い返してみると、襲撃者の少年はとても強かった。アリアさんがいなければ追い返せなかっただろう。風鈴村を襲った方の女の人が一緒に来ていたらと考えると恐ろしい。
「当然ながら過信はできません。あくまでも推測で、間違っている可能性もある。しかし、今の状況下で彼らの行動に理由を付け加えるなら、今の結論が一番高いと考えています」
弓月さんが言い終える。すると、イズン皇帝が腕を組む。思案しているのだろう。少しすると腕組みを解いて、こちらに目を向けた。
「……そちらの言い分は承知した。それでどうするつもりだ?このまま怯えるわけにもいかないだろう」
やや挑発的というか挑戦的な口調だ。弓月さんは淡々とそれに答える。
「はい。しかし、こちらから攻撃は不可能です。なので、戦力を出す機会を伺います」
「ふむ……具体的には?」
ニジルさんが顎に手を当てながら続きを促す。
「召喚士関係で襲ってきたのにも関わらず、契約の妨害が目的ではない。ならば、より召喚士にとって大事な場面を狙うと思われます。創造主召喚の儀式か、その後の可能性が高いでしょう」
またもや帝国の人々がざわつく。
それも無理はない。創造主が召喚されることで、次の儀式まで世界の魔力が安定する。それによって世界は栄えるのだ。だから、創造主召喚の儀式を妨害しようなんて普通は考えられない。
そんな中で、ニジルさんは落ち着いた様子を見せていた。
「創造主召喚の儀式……なるほど、可能性はありますね。私としても、そこの警備は厳重にしたい。弓月隊長の考えには賛成です」
頷くニジルさん。意外ではあっても不満などはないらしい。イズン皇帝も、ニジルさんに続いた。
「私としてもニジルが言うのであれば不満はない。どちらにしても、儀式は是が非でも守らなければならないからな。そういうことであれば、帝国は喜んで協力する。無論、騎士団にもな」
「陛下の迅速な判断に感謝いたします。ニジル団長、後の事は打ち合わせでよろしくお願いいたします」
弓月さんが深々と頭を下げる。ニジルさんも「ええ」と快く返事をする。
思ったよりも早く話し合いは進んでるように見える。皇国と帝国の関係は良好と聞いていたが、こうして見ていると安心する。
「さて……再び襲撃者の話に戻るが、風の聖獣の社を襲撃した者はつばさ達に召喚士は命を奪われる存在だと言っていたらしい。帝国側はどう考えている?」
再び皇王様が話を始めた。今度は、襲撃者の言っていた召喚士の命の話だ。わたしとしても頭の痛いが、避けられない話題だった。
皇王様の質問にはニジルさんが答えた。
「半信半疑、というのが正直なところです。いきなりそんな事を言われても、我々としては受け入れ難い。そもそも、儀式で世界の魔力を安定化させなければ命に関わりますからね。無論、話が本当であれば慎重に対応はしたいと考えています」
「まあ、そうだろうな。簡単に信じろという方が難しい。私もどうしたものかと頭を悩ませている」
ニジルさんの返答に納得するように、皇王様は頷いた。
召喚士の儀式は、この世界の人間にとっては当たり前の存在。やらないという選択肢は、本来は存在しないのだ。
皇王様は、さらに続ける。
「だが、我々も儀式や聖獣に関しては知らない事のほうが多く、そのまま三〇〇〇年も聖獣信仰を続けてきたのも事実だ。違うか?」
「………………」
皇王様の言葉に、イズン皇帝の眉が僅かに動いたのが見えた。その胸中は不明だが、彼にも召喚士に対して思うところがあるらしい。
「理解していない力に頼っていたのは事実だ。しかし、どうするつもりだ?このまま指をくわえて死ねと言いたいのか?」
「そうは言わない。だが、無視できない事実。ならば、知っている人物に話を聞くしかあるまい?」
皇王様の口角と眉が上がる。それを見たイズン皇帝が息を呑んだ。
「ま、まさか……」
「そうだ。襲撃してきた奴らを捕らえる。そして、知っていることを吐かせる」
「っ……!」
再び、帝国側はざわつき始めた。「本当に捕らえられるのか?」「やるだけの価値はある」「兵の損耗が大きすぎる」等、賛否ある声が聞こえてきた。
「静粛に!」
皇帝が手を叩きながら叫ぶ。すぐに帝国の人々は黙った。
皇帝は、少しだけため息をつく。皇王様を見据えて口を開いた。
「……仮に、召喚士の問題が事実とする。我々としても、召喚士が生贄のようになるのは本望ではない。だがな、聞いた話では人間離れした強さを持っているという話ではないか。捕縛は討伐より難しいぞ?」
抵抗する敵を倒すよりも生かす方が難しい。それは、わたしも旅を始めてから感じた。
だが、皇王様の意思は揺るがない。
「しかし、やらなければ我々は未来の者たちにも犠牲を強いることになる。仮に嘘だとしても不安は広がる。どちらにしても、敵を知る必要があるのではないか?」
「それはそうだが……」
召喚士はあくまでも世界を安定させ、人々を救うためのものだ。それが生贄であってはならない。もしも、そうなったら、今の秩序は崩壊してしまう。だから、何としても情報を得るためにも敵の捕縛は必要なのだ。
「……安易に賛成はできないが、検討はさせてもらおう。幸い、時間は少しだけあるだろう。構わないか?」
「ああ。前向きな返事を期待している」
皇王様は、満足そうに頷く。不安だった襲撃者問題も、一先ずは大丈夫なようだ。
会談はその後も続いたが、特に問題もなく進んでいった。