テイルズオブ・サモナーズ   作:柿田

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第三話「決断」

────魔物が現れた。

 外から来た衛士の一言で、試験会場の騒然とする。わたし達も、先程まで戦っていたけど手を止める。

 あまりに突然のことに、皆が動揺しているようだ。試験を見守っていた衛士達も「一体どういうことなのか」と話を始めた。

 

「冷静に!とにかく、確認に行きます!ついてきなさい!」

 

 弓月さんの一言で、衛士達は落ち着きを取り戻す。彼女の背を追って、全員が外へと出ていった。

 

「これ、どうするんだよ……」

 

 梅田さんが周りを見渡しながら零す。試験会場だった衛士訓練場は、すっかりもぬけの殻だ。

 わたし達は、逃げろとも一緒に戦えとも言われてない。ここに置いていかれてしまっただけだ。各々の判断で動くしか無いのだろうか……。

 何にせよ、どうするか方針を決めるべきだ。

 

「わたし達も行きませんか?」

 

 正直に言えば怖いが、宮廷に魔物が現れたということは、街でも暴れている可能性も高い。街にはお世話になった人や、戦えない人も沢山いるだろう。見捨てたくなかった。

 

「行ってどうする?衛士には衛士で連携しているも思うが?」

 

 反論してきたのは竹林さん。他の二人も、わたしの案には乗り気でないようだ。

 待つのも間違ってはいない。だが、外の様子が把握出来ないのが気がかりだった。

 

「様子だけでも把握したいんです。手伝って貰えませんか?」

 

 沈黙。三人とも、外に行く気はないらしい。それなら仕方ない。

 

「分かりました。わたしだけでも行きます。皆さんはここで待っててください」

 

 松本さんが呼び止める声が聞こえたが、振り返らなかった。

 宮廷の外には出ていませんように────それだけを祈りながら訓練場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 魔物(若しくはモンスター)とは、人間や動物とは別の凶悪な生物を指す。猪型だったりオットセイ型だったりと種類も多い。

 それらが、外へと出ると群れをなし、建物や人々に噛みついたり、突撃したりしている。只事ではない。

 

「何なのこれは……」

 

 落ち着きながらも華やかな宮廷は、魔物が我が物顔で出歩く地獄と化していた。

 魔物は村や街に突然現れるような存在ではない。他の動物と同じく人里離れた自然の中で生きているのが普通だ。この状況は明らかに異常だった。

 

「衛士の人達は……」

 

 戦っている人は疎らに見えるが、肝心の弓月さんは見えない。

 何にせよ、彼女と接触したい。幸い、街の方には魔物は出ていないようだ。

 

「はあっ!」

 

 近くに居た猪のモンスターに斬りかかる。刀による一閃で、地に伏した。

 強くはないみたいだが、街に出たら間違いなく混乱の種になる。ここで倒しておくべきだろう。

 

「君は一光(いかり)つばささんか!」

 

 戦っている衛士の中の1人が、こちらへと駆け寄ってきた。

 

「はい!わたしも手伝わせてください!」

 

 わたしの申し出に衛士の人は力強く頷いた。断られる可能性も考えていたので、少しだけ安心した。

 

「それはありがたい。弓月隊長が中央の広場に向かったから、君もそちらを頼む!」

 

 やはり、弓月さんも戦っているようだ。

 弓月さんに会いたかったので、衛士直々に頼まれたのはありがたかった。

 衛士の人は「頼んだぞ!」と言い残して魔物の対処に戻る。他の人達も闘ってはいるものの、数が多い。確実に倒しながら進むしかないだろう。

 深呼吸して気持ちを整え、魔物の群れへと飛び込んだ。

 

 

 

 

「はあ……はあ……いくらなんでも多すぎでしょ!」

 

 中央広場へ行くだけなら難しくはない。宮廷に入って真っ直ぐに大通りを進めば、自ずと見えてくるからだ。

 残念ながら……魔物がうじゃうじゃ出てくる今は違う。刀で斬っても斬っても、どこからともなく出てくる。まるで枯れない井戸の水を抜いているようだ。

 そんな事を考えていると、鳥の魔物が頭上から体当たりを仕掛けてくる!

 

「もう!しつこい!」

 

 これも斬っては地面に落とす。が、いつまでも体力が持つとも思えなかった。

 

「もうっ!広場に行くだけだってのに!」

 

 刀を振る度に愚痴が出てしまう。人生をかけた大舞台を台無しにされた怒りや、状況に対する焦りがそうさせているのだろうか。

 

「見えてきた……って!何あれ!?」

 

 中央広場だ。他の場所と同じく魔物が多い。

 だが、わたしが驚いたのは、魔物の数ではなかった。

 

「どういうこと……?」

 

 思わず唖然としてしまう。それも無理はなかった。

 だって、中央広場には建物と同じくらいの大きさの、牛の魔物がいたのだから。

 

「う、嘘でしょ……」

 

 固唾を呑む。突然現れた大量の魔物だけでも精一杯なのに、あんな大きなのが現れるなんて……!

 一応、見覚えのある魔物だ。名前はベヒモスと言ったか。一歩ずつ、確実に後宮へと歩みを進めている。それを食い止めんと弓兵や魔導兵が攻撃を仕掛けているが、気にも留めていない。

 

「一光さん!」

 

 どうするか、と迷っていると聞き覚えのある女性の声がした。振り向くと、そこには弓月さんがいた。

 

「弓月さん!これはいったい……?」

 

「私にも説明は出来ません。ですが、あの魔物への策はあります」

 

 弓月さんにも説明が出来ないとは、どういうことなのだろうか。魔物の発生源が分からないなら、状況を収めようがないのでは?

 だが、今はベヒモスを何とかするしかない。疑問を飲み込み、弓月さんの話を聞く。

 

「まず、あの魔物を足止めします。他の前衛の衛士は他の魔物の対応をしているので、一光さんにお任せすると思います」

 

 つまり、囮をしろってこと!?あの、巨大な牛の魔物を相手に一人で斬りかかるということなのか?

 

「わ、わたしがやるんですか!?」

 

「無論、私も手伝います。弓兵ですが、前衛での戦闘も出来ますので」

 

 思わず叫んでしまった。それを宥めるように、弓月さんは穏やかに答える。

 腰に剣を下げているので、前衛も出来るのは間違いないだろう。それでも、囮をやるのは不安だが。

 ……とにかく、続きを聞こう。まだ説明は終わってないのだから。

 

「ベヒモスが足を止めたら、魔法を使える衛士総出で強力な魔法を一気に叩き込みます。こちらも数はいますから、ベヒモスも無事では済まないでしょう」

 

「な、なるほど…」

 

 たしかに、強い魔法を使うならば確実に当てたいだろう。その後の被害や復興を考えれば、足止めをしてほしいというのは切実な願いなのかもしれない。

 周囲に散らばっている魔法担当の衛士の姿を見ていると、こちらに期待しているようにも見える。

 

「何か質問は?」

 

 作戦への質問は無いが、気がかりな事があった。

 

「街の人々や、戦闘出来ない人達の避難は終わってますか?」

 

「全員ではありませんが、順調に進んでいます」

 

 ホッ、と胸をなでおろす。都には地下に避難施設があると聞く。そちらに逃げているのだろう。

 

「ありがとうございます。それが聞ければ十分です」

 

 つまり、後は魔物の大群をどうにかするだけだ。幸いにも衛士はまだまだいる。一体ずつ倒していけば何とかなる筈だ。

 刀を構えると、弓月さんも続いて剣を引き抜く。

 

「それでは、行きますよ!」

 

「はい!」

 

 弓月さんが合図すると、わたしもベヒモスに向かって一直線に走り出した。

 

「グオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 近づくにつれ、大牛の魔物の雄叫びも大きく聞こえてくる。耳を塞ぎたくなる喧しさだ。

 こちらの苛立ちを察したのか、ベヒモスの視線がわたしたちに向けられる。

 弓月さんは、立ち止まって矢を射る体制に入る。

 

「一光さん!」

 

 弓月さんの放った矢は、走るわたしを追い越してベヒモスの後頭部に向かっていく。

 弧を描いた矢が、背中に刺さった。ベヒモスの足も、ピタリと止まった。

────チャンスだ!今なら攻撃を当てられる!

 ベヒモスの近くまで走り、刀を横に薙いだ。

 

「真空破斬!」

 

 刀を真一文字に振るうと、風の刃が周囲に広がる。ベヒモスの足を風の刃が切り裂く!

 

「グァオオオオオオオオオオオ!」

 

 痛みは感じているようだ。その瞳は、妨害してきた怒りに満ちていた。

 正直言えば、かなり怖い。全身から汗が止まらない。

 自分が狙ったとはいえ、巨大な魔物に睨まれているのだ。無理もない。

 

「……よし。魔法部隊、詠唱開始!」

 

 弓月さんの凛とした声が響く。彼女の指示とともに、周囲に居た魔法専門の衛士が詠唱を開始する。

 その内容は様々だ。とにかく、各々の最強の魔法で攻撃するつもりなのだろう。 

 とにかく、これで弓月さんの要求する状況に引き込めた。後は、足止めしながら魔法の詠唱を待つのみだ。

 

「グルゥ……!」

 

 流石に何かがおかしいと思ったのか、ベヒモスは周囲の衛士達を見渡す。

 詠唱に集中してるところを狙われたらひとたまりもない!

 すかさず、ベヒモスに向けて鞘を投げつけた。

 

「こっちを見ろ!」

 

 鞘が顎に当たり、手元に戻ってくる。大した威力はないが、意識をこちらに向ける程度の攻撃にはなる。

 続いて、弓月さんも矢を放つ。硬い皮膚に弾かれているので、こちらも効いてはいないようだが、衛士から目を逸らすのには成功した。

 

「グオオオオオオオオオオオ!」

 

 怒りに狂ったベヒモスは、こちらに走って来る。わたしたちを踏み潰そうとしているみたいだ。

 

「やばっ!」

 

 前足が、振り下ろされる。塗装された道は、粉々になる。

 だが、怯んでいる場合じゃない。こちらも、攻撃を仕掛けるんだ!

 

「はあっ!断空剣!」

 

 弓月さんの上空に切り払った剣が、ベヒモスの角二襲い掛かる!

 ベヒモスの角は傷つけられると、治るのに時間がかかるという噂だ。ベヒモスは、痛みのあまり首を振っている。

 

「一光さん!続いて!」

 

「はい!」

 

 返事と共にベヒモスの顔まで大きく跳躍する。目の前に巨大牛の怪物がいるのだ。つ間違えれば食べられる位置だ。

 それでも、今はやるしか無い!みんなの命がかかっているのだから!

 

「喰らえ!四丁回刃!」

 

 ベヒモスの角目掛けて、四回転する奥義だ。角は折れなくとも、傷つけた手応えは確かにあった。

 

「グアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 技が決まったが、わたしの心中は穏やかではなかった。手負いの獣は、傷を追えば負うほどに闘争心を燃やすから。

 

「グオオオオオオオオオオオ!!!」

 

「っ……!」

 

 地面に着地したばかりの、わたしに向かって走り出す。突進してくるとは思っていたが、その速度は予想外に速かった。避けようとするけど、間に合わない……!

 胴体を庇うように両腕を構える。その直後に、ベヒモスの巨体が、わたしの身体を投げ飛ばす。

 

「うわああああああああ!」

 

 地面に勢いよく身体を打ち付ける。これだけでも痛いが、さらに地面を引きずるように転がっていく。

 

「ぐうっ……!はあはあ……!」

 

 転がるのが止まる頃には、細かい生傷と砂埃で塗れていた。

 正直、歩くのも辛い。たったと一撃で、ここまでやられるとは……。

 

「グオオオオオオオオオオオ!」

 

 再び、ベヒモスの雄叫びと突進が始まる。完全にわたしを殺すつもりだ。

 また吹き飛ばされれば立てる自信はない。間違いなくタダでは済まない。最悪、死ぬのも覚悟するべきだろう。

 それでも、逃げるという選択肢はなかった。ここで逃げれば、こいつを倒す機会が無くなってしまう!

 ならば、やることは一つ!

 

「うおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

 突進してくるベヒモスに向かって、わたしも走り出した。後数秒でぶつかる、といった距離まで近づいた。

 

「だあっ!」

 

 地面を思い切り蹴りつけ、宙へと舞う。下には、そのまま通り過ぎようとしているベヒモス。

 だが、わたしの目的は回避ではない。

 

「捕まえた!」

 

 宙から地面に落ちようとしたわたしは、ベヒモスの背に掴まる。

 ベヒモスは、背にいる邪魔者を排除せんと、立ち止まって身体を揺さぶる。

 わたしは、これを狙っていたのだ。これで突進しようとは思わないハズだ。

 

「グオオオオオオオオオオオ!」

 

 正直に言えば、ベヒモスの巨大に掴まり続けるのも難しい。視界が上下左右に激しく揺れ動く。気を緩めば、今にも振り落とされてしまいそうだ。

 

「大人しくしろ!牛ヤロォーーーー!」

 

 背中に刀を突き立てる。硬い皮膚に無理やり突き刺された刃が痛かったのか、咆哮と共に激しく体を揺さぶる。

 視界は地震でも起こっているかの如く揺れ動く。もはや、周囲がどうなっているのか把握できなかった。

 

「一光さん!そいつから離れて!魔法を放ちます!」

 

 姿は見えないが、弓月さんの叫び声が聞こえる。魔法を使う準備着終わったのだ!

 ならば、こいつに用はない。刀を握りしめながら、背中を思い切り蹴りつける。すると、どんなに揺らしても抜けなかった刀が抜け落ちた。

 そのまま地面へと落ちる。受けの構えもできずに硬い地面に叩きつけられたので痛かったが、そんなのは後だ。

 大量の魔法が撃たれるのだ。少しでも遠くに離れなければ……!

 

「魔法隊!放て!」

 

 逃げるわたしに構わず、弓月さんの指示が下される。周囲の魔法担当の衛士達は、一斉に魔法の名を口にする。

 使う魔法はバラバラだった。逃げるのに必死だから、どれだけの種類の魔法が使われたかは正確には分からない。

 だが、後方から激しい爆発音と共に熱気や寒気が、風に乗って伝わってきた。

 

 全てを焼き尽くす炎の魔法。

 あらゆるものを凍らせる氷の魔法。

 何もかもを吹き飛ばす風の魔法。

 色んなものを砕く地の魔法。

 

 これら全てが、一斉にベヒモスの頭上へと放たれたのだ。爆発音に次ぐ爆発音が、響き渡る。さらには、爆風によって背中を大きく押される。

 

「うわああああああああああああああ!!べふっ!」

 

 顔面を地面にぶつけたてしまう。泣きたくなるのを我慢して、即座に立ち上がる。

 爆発も落ち着いたようだ。ベヒモスがいた方向に目を向ける。

 

「どうだ……!?」

 

 目尻に浮かんできた涙を気に止めずに、刀を構える。

 爆煙が少しずつ薄れてくると、ベヒモスの姿が見えてきた。立ってはいたが、動く様子はなかった。

 

「っ……!」

 

 あれだけの攻撃を受けたのに立っていられるだけでも恐ろしかった。こうして刀を構えているのも、半分は強がりだった。

 

「…………」

 

 沈黙。巨大牛の魔物は何も言わずに、ただただ立っていた。

 痺れを切らしてこちらからの攻撃を打診しようかと思った矢先であった。

 

「あっ……」

 

 ベヒモスの身体がピクリ、と動く。しかし、それは攻撃などではなく、横から倒れていった。

 巨体が倒れ、地面を重く叩く音がした。ベヒモスが立ち上がる様子は、なかった。

 

「……弓月さん。これって……」

 

 普通に考えれば、わたし達の勝ちだ。しかし、わたしは確証が持てず、後ろから近づいてくる弓月さんに問う

 

「ええ。ベヒモス討伐完了です……そして……」

 

 弓月さんが、指を鳴らす。それは、手品師を思わせる動きと音だった。

 すると、信じられない光景が広がった。

 

「え?」

 

 眼の前が、雪に熱湯をかけたかのように、白い靄に包まれた。

 目を凝らしても何も見えなかった。何が起こっているのか、理解が及ばなかった。

 

「あっ……」

 

 ようやく靄が消える。眼前に広がるのは、わたし達がいた宮廷だ。

 しかし、おかしな点が多すぎた。

 

「なに、これ……」

 

 宮廷なのは間違いない。 

 だが、先程まで確かにあったベヒモスの死体が無くなっていたのだ。まるで煙のように消えていた。

 いや、それだけではない。

 沢山いた魔物も、ボロボロになった地面も、戦っていた衛士も。全てが、初めから存在しなかったかのように消え去っていた。

 

「弓月さん!」

 

 後ろを振り向く。弓月さんはどうなっているのか!?

 弓月さんは、確かに存在していた。様々なものが消えても、彼女だけは消えていなかった。

 困惑しきっているわたしに、弓月さんが告げる。

 

「一光つばささん。合格者は、あなたです」

 

 今、なんと言ったか?

 合格者という言葉が指すものは、一つしかなかった。

 

「おめでとうございます。今日から、あなたが召喚士です」

 

 試験管である弓月さんが、にこり、と微笑む。

 聞き間違いなんかじゃない。確かに、わたしが、召喚士の資格を得たと彼女は言った。

 

「え……ええっ!?」

 

 本日数度目の、間の抜けた叫びだった。

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