テイルズオブ・サモナーズ   作:柿田

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第二部 少女召喚編
第六話「鋼の街」


 聖獣は八体いる。火、水、地、風、氷、雷、光、闇の八種類だ。

 それに対して、召喚士はオオトリ皇国とネイク帝国に一人ずつ。

 つまりは、一人四体の聖獣と契約する必要がある。

 しかし、契約は一体ずつ行うことになっている。聖獣達との約束らしい。

 

 わたし達が最初に向かったのは、錬鉄街と呼ばれる鉱山の近くにある街だ。近くに、地の聖獣がいるらしい。

 錬鉄街は、職人の街と呼ばれていた。鉄の加工を得意とする職人が何人も住んでおり、オオトリ皇国内の武具や細工の多くは、この街で作られている。

 わたしも、この街に向けて薪を出荷する事もあった。鉄を加工する際に使用する火の燃料として、それなりに買い手がいたのだ。

 

「相変わらず賑やかだね」

 

 馬車から降りて出てきた一言目がコレだ。石畳の街を多くの人々が忙しなく歩いていた。都も賑やかだけど、こちらは大半の人々が鬼気迫る顔で仕事をしているので、賑やかさの方向性が違った。

 既に日は傾き、時刻は夕方。茜色の空を気に留めずに、人々は一日の仕事の追い込みに邁進していた。

 

「勝手に行っては駄目ですよ。ご挨拶がありますからね」

 

「あ、ごめんなさい」

 

 付近を歩いていたら、弓月さんに呼び止められる。遠くに行くつもりはなかったのだが、心配させてしまったようだ。もう少し彼女の近くで行動することにしよう。

 

「隊長!お見えになりました!」

 

 鋼太郎が弓月さんに声をかける。街の奥の方から一人の男性が歩いてきた。

 それを確認した弓月さんは、馬車の近くにいる衛士達を招集した。

 

「全員、整列!」

 

 鋼太郎を含めて十名の衛士が、馬車の前に横一列に並ぶ。さらに、衛士達の前に弓月さん。その隣には貴族と文官が一人ずつ。

 迅速かつ丁寧な整列は見惚れそうになるが、わたしも急いで弓月さんの隣に並ぶ。

 

「オオトリ皇国召喚士護衛部隊です。私は隊長の弓月紗耶です。よろしくお願いします」

 

「これはこれは召喚士御一行様。お待ちしておりましたよ」

 

 弓月さんと男性が握手を交わす。どちらもにこやかだが、何処となく線引きをしているような気がした。

 男性の年齢は四十歳程だろうか。ニコニコと笑顔を浮かべ、恰幅の良い身体を真紅のスーツで包んでいた。一見すると優しい紳士だが、その穏やかさの裏に底しれぬ威厳を感じさせた。

 

「自己紹介させてもらいます。私は、この街の職人組合長の玉山廉。以後お見知りおきを」

 

 軽く頭を下げて見せる。弓月さんや貴族を前にしても物怖じ一つ見せていない。数多くの修羅場を潜って来たのだろうか。

 

「ほっほっほ。こちらが召喚士殿ですか。未来を感じさせる若者ですな」

 

「一光つばさです。この度はお世話になります」

 

 挨拶をして頭を下げる。召喚士といえど謙虚に礼儀を重んじるようにと、馬車の中で弓月さんに言われた。旅を出来る限り穏便に済ませたいらしい。

 偉ぶるつもりは無いが、そういう事ならば礼儀に一層気を遣わなければならないだろう。

 

「こちらこそ、お願いしますよ。貴方に全てが委ねられてますからな」

 

 玉山さんは笑いながら丸いお腹をポンポン、と叩いて見せる。その動作は狸を思わせる。

 

「さて、落ち着ける場所まで案内しますよ。私としても万全の状態で聖獣様と相対してほしいですからな」

 

 そう言うと玉山さんは、自分についてくるように指示する。

 

 馬車四台と十数人がいっせいに街の中を移動することになった。当然、街の人々の視線は集まった。玉山さんは、街の人々に挨拶しながら宿まで先導してくれた。

 

 その後は、宿屋に案内された。今日は貸し切りとのことで、わたし達と玉山さん以外の人々は居なかった。

 街でも高級の宿屋らしく、食事は宴会場で行われた。机に並べられた料理は鯛の刺し身や豚の丸焼きなど豪華な物が多かった。

 貴族や文官の人達は組合の幹部と飲み交わし、衛士はお酒で酔っ払って浮かれていた。

 鋼太郎は食べすぎたのか、抜けてトイレに向かっていってしまった。

 わたしはといえば、弓月さんと共に玉山さんと話をしていた。

 

「なるほど。では、明日から地の聖獣様と契約に向かわれると?」

 

「はい。この街の北東に聖獣様の洞窟があると聞いていますので、そちらに向かいます。私達、護衛部隊も一光さんと共に発ちます」

 

「早速、向かわれるのはありがたい。我々としても、一日でも早く穏やかな暮らしがしたいですからな」

 

 そう言うと玉山さんは、お猪口に入ったお酒を一気に飲み干す。お酒なら、もう何杯も飲んでいるだろうに。

 

「この街でも異常気象が起こっているのですか?」

 

 私の質問に「ええ」と肯定しながら、お猪口にお酒を入れる。少しの間それを見つめ、再び飲み干す。

 

「ふう……街の外の魔物の活性化、付近の鉱山での落盤事後、長期的な台風……年々酷いが、今年は特に酷い。それでも、ここ一週間はマシですがね」

 

 流石に酔ってきたのか、口調が愚痴っぽい気がする。桂子さんが酔ったところを見たこと無いので新鮮だ。

 玉山さんの愚痴は、もう少しだけ続く。

 

「魔物が強ければ武器を消費する。ならば武器の需要は高まるものの、出荷するには運搬作業が必要となります。しかし、運搬を行う商人達は武器を届ける過程で魔物に殺される。武器が届かないから魔物への対抗手段が減ってしまう。そして、魔物は縄張りを増やす。近年は、その繰り返しです……」

 

 玉山さんは、一気にまくしたてる。落ち着いた人だと思っていたけど、意外と感情的なのか?

 魔力の流れが安定しないから、魔物が凶暴化したり異常気象が発生する。誰もが知っていることだ。問題なのは、それによって人々が貧しくなっているという事実。

 召喚士の儀式によって魔物が大人しくなっても、経済の立て直しには時間がかかる。玉山さんが弱気になるのも無理はない。

 

「どうか儀式を無事に終わらせてください……この街の人間の未来の為にも……」

 

 玉山さんは、深々と頭を下げる。その姿は、この街に到着したばかりの時とは違い、壁を感じさせないように思えた。

 

「あ、頭を上げてください。少しだけ、気持ちは分かるつもりです。わたしも、家族の負担を減らしたいから召喚士を志したので」

 

「そうでしたか。ご家族の為に……立派な方だ」

 

「いえ、そんな……」

 

 底がわからない人だとは思ったけど悪い人ではないのか……?良く分からないや。

 そんな事を考えていると、玉山さんは席から立ち上がった。

 

「それでは、この辺りで失礼します。旅の無事をお祈りしてます」

 

「あ、はい……ありがとうございます」

 

 玉山さんは、頭を下げて部屋の外へと出て行く。組合の人々も、それに続く。衛士も数人が玉山さんに付き添って行った。

 それを見ていた弓月さんは、ため息をついた。

 

「やれやれ、やっと終わりましたね。一光さんもお疲れ様です」

 

「上手くやれたかは分からないですけどね」

 

 肩を竦めて見せる。愚痴っぽい玉山さんに思うところがあったのか、弓月さんも苦笑いする。

 そろそろ部屋に戻ろうかと立ち上がると、鋼太郎が戻ってきた。

 

「あら、お帰りなさい。どうでした?」

 

「問題無いですね」

 

「そう。なら良かったです。心配し過ぎだったみたいですね」

 

 何の話だろうか。鋼太郎がお腹を壊した事と関係あるのだろうか?

 わたしが首を傾げていると、鋼太郎が説明をしてくれた。

 

「悪い悪い。周辺に怪しい奴や不審物がないか調べてたんだよ」

 

「え?何で?」

 

「いや、要人の警護してるんだぜ?当たり前だろ」

 

 あ、そういうことか。

 ここには貴族と文官がいる。さらに、わたしは召喚士だ。儀式を終えなければならないのだから、身の回りの安全の確保が必要なのだ。

 わたしは、そんな可能性すら考慮せずに呑気に構えてたというのか……。

 

「ありがとう、鋼太郎」

 

「気にすんなよ。これも仕事だしな」

 

「そうですよ、一光さん。彼、召喚士試験の時に、一光さんが怪我しないように毎日のようにお祈りしてましたからね〜。それに比べれば、自分の手で脅威を排除できるのですから気楽なものですよ」

 

「たっ、隊長!?」

 

 え?そんな事をしてたの?過保護過ぎないか?それは……。

 

「つ、つばさ!そんな事ないからな?」

 

「本当に?」

 

 慌てて弁明する鋼太郎の目を見つめる。嘘をついてるかはこれで分かる。目を逸らせば嘘。目を逸らさなければ本当だ。

 

「え、ああ……」

 

 やはり目を逸らす。相変わらず嘘が下手だ。

 照れくさくなったのだろう。鋼太郎は、わたしの背中を押して部屋に行くように促し始める。

 

「もう良いだろ!寝ろ!寝なさい!酔っ払った他の連中の介抱もあるんだからよ!」

 

「ああ!もう!分かったから押すな!弓月さんも笑ってないで止めて!」

 

「はいはい」

 

 弓月さんは、笑いながら鋼太郎を宥める。過保護な兄貴分にも困ったものだ。

 でも、明日は地の聖獣と契約しなければならないのに緊張していない。そこだけは、感謝している。

 この日は、虫の鳴き声を聞きながらゆっくりと身体を休めた。

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