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『記録04-A-001R.A』
きょうはおかあさんのたんじょうび、おいわいのためにけんきゅうじょのみんながいったりきたりしています。
ぼくとおとうさんもおいわいのためにたくさんかざりつけをして、おりょうりもいっぱいよういしました。
でもおかあさんがなかなかかえってきません。
けんきゅうじょのみんながきゅうにしずかになりました。
---------------------------おかあさんはかえってきませんでした。
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「おいおい、そんなのありかよ!」
猛烈な勢いで突き出される致命的な凶刃を避けながら、雁夜は悪態をつきつつ眼前の相手を観察していた。
止まらなくなったシャーデンフロイデ、本来一度に1人しか、存在し得ない管理人が2人存在したうえに、その片割れが他でもないシャーデンフロイデ自身の目の前に現れたことで起きた所謂バグ挙動。
それ故に、このシャーデンフロイデを倒すには更なる条件が追加されている。
「こいつ相手に目を瞑りながら戦えって?無茶を言ってくれる」
そう、この状況を打開するにはシャーデンフロイデが暴走した原因、2人目の管理人たる雁夜が視線を外すしかない。
だが、みすみすそれを許してくれるシャーデンフロイデではない。
「俺が目を閉じる間もなく攻撃してくる!こいつ俺が目を閉じたら動けなくなるのがわかっていて攻撃頻度を上げているのか!」
その通り、管理人が視線を外さない限りシャーデンフロイデは動き続ける、動き続きられるのだ。
脱走したシャーデンフロイデはただ一点を目指して進軍する。
それが帰巣本能なのか、親を思う子の心ようなかものなのかは誰にもわからない。
だが、彼は目指すのだ。
いつか見た...己の生まれた場所を。
「これ以上暴れさせるわけにはいかないんだよ!」
『余裕がなかった』『自分には何もできなかった』そう言い訳するのは簡単だ。
多少シャーデンフロイデの攻撃に慣れ余裕が出来たことで、この廊下に広がる惨状を雁夜はようやく認識した。
引き裂かれた死体、さっきまで人だった肉片、そして大量の血溜まり。
己が対処に手こずっている間に、いつの間にか大勢の職員が巻き込まれ、次々とその命を落としていたのだ。
泣き叫ぶ者、逃げようとした者、隣にいた誰かを守ろうとした者。
全て等しく、皆死した。
この惨状は己が弱かったから起こったこと、それ故に雁夜は憤る。
いくら替えのきくものとわかっていたとしても、目の前で消えていく命を放っておける程、雁夜の心は落ちぶれていないのである。
故に、ここからは反撃の時だ。
「お前、視線が嫌いなんだってな?そんなに見られるのが気になるならお前が目を閉じろぉ!!!」
それは雁夜の己への憤りにして理不尽への怒りが籠った一射、EGOたる2丁拳銃より放たれた2発の弾丸は真っ直ぐにシャーデンフロイデの眼を貫いた。
『■...■■!?』
声にならぬ声をあげ、シャーデンフロイデは苦痛に悶える。
さぞかし痛かろう、己の存在意義の核たる眼を撃ち抜かれたのだから。
だが、都市を知るものならばご存知だろう。
彼の都市において、己の存在意義を砕かれた者が至る事象を...その恐ろしさを。
『ギギ...ギギギギギキッ...?』
「なんだ?こいつ体が割れ始めているのか?」
『雁夜!今すぐそこを離れて!』
「よくわからないが了解だ!」
残念ながら、その判断をするにはあまりにも遅過ぎたようだ。
『ギイィィィィイィィイィ!!!』
何かの部品を寄り集めたような機械の翼、体から生える複数枚の丸鋸が備わった4本の触腕。
そしてなにより、その巨大な体躯の中心に位置する肥大化し、幾重にも裂けた瞳孔を持つ赤黒い眼。
『システムによる解析完了...ねじれ現象を観測しました。
対象の羽化を確認...対処を開始してください』
シャーデンフロイデもとい、ねじれた幻想体...『止まることなき視線』がその巨躯に備わった流転する四枚の刃を軋ませ雁夜に迫る。
「こいつさっきより早くなっている!?」
雁夜に向けて伸ばされる無数の触腕には、先程までより更に鋭く益々厚くなった丸鋸が耳障りな音をたてて駆動している。
「明らかにさっきよりも攻撃が激しくなっている、このままだと捌き切れない!」
『ギギ...ギッ...ギィ?』
急速な体の変化というのは創作物では良くあることだが、ことシャーデンフロイデのそれはあるべき形により近づいた姿。
それ故に、変化した体へ慣れるのも尋常ではなく早い。
「...CEO」
『許可するよ』
短い、だがしかして確かな肯定、ここに裁決は下された。
「人格:『マキリ家当主』付与並びにEGO『黒蟲』出力最大で解放...下駄を履かせて貰うぞ」
可能性の世界、別の道を歩んだもしかしての自分。
そんな存在から譲渡された一冊の本は、都市において幻想体に有効とされる数少ない手段を複数内包した劇物であった。
『ギィィイィィィィ!!!』
「間桐家秘奥『蝕みの大顎』」
雁夜は1ヶ月前、初めて人格を被った日のことを追想する。
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『結局この本はどんなものなんだ?』
『EGOと人格の両立、それにプラスして本自体も頁によって支援を行う、凡そ最高と言って良い性能だよ、問題はその分体にかかる負荷が大きいってこと、単体でも十分強力な技術を3つも同時に使ってるからね』
『つまり?』
『今の君だと1度の使用につき3分が限度ってところかな』
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「翔べ『灼咬蟲』そして『黒蟲』よ!」
『ギィィィィィイィィイィ!!!』
間桐家という魔術家の秘奥にEGOを加え、それだけに飽き足らず本まで使う。
それだけのことをしてようやく同じ土俵に立てるのが幻想体というやつだ。
まぁ、世の中には最高危険度の幻想体複数を単身で鎮圧して国家権力級組織の最高戦力相手に相討ち決める化物もいるので一概には言えないのだが...まぁその人物についてはいずれ語ることもあるだろう。
今は眼前の敵、すなわち変異したシャーデンフロイデに集中すべきだろう。
雁夜とお前でどっちが喋ってるかわかりにくい?すまんな。
少なくとも私は間桐雁夜ではないしアンジェルでもない、ただただ語ることだけを許された存在でしかない。
謂わば脚注そのものと言ったところか。
だが、そんなものは今のところどうでもいい...それはそれで、これはこれというやつだ。
さぁ、そろそろ決着がつく頃合いだろう。
「これで終わりにしよう『月刃蝶の翅』」
『ギィィィ...ギギイィヤァァァァ!!!』
刹那、雁夜の手より放たれた煌びやかな翠の光が幻想体『止まることなき視線』を貫いた。
「鎮圧完了...ギリギリだったな」
自分の頬の真横に突き刺さる丸鋸を横目に見ながら、雁夜は溜め息をついた。
ちょうど稼働限界時間が来たのだろう。
EGOと被っていた人格が剥がされ、本の中に再び収納されてゆく。
最後に指先に残ったEGOの一部を名残惜しそうに見ながら、雁夜はひとりごちるのだ。
「ふぅ...先が思いやられるな」
間桐雁夜24歳、更なる努力を決意した瞬間である。
『黒蟲』EGOの性能は追々語るとして、人格のほうはもうちょいリンバスをお勉強しないとだなこれ。
どれが好き?
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黒蟲
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虫籠
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昆虫学者