都市だと思ったら冬木だった(現在凍結中)   作:森の翁

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 筆が乗りました、故に朝投稿です。


変われない

「随分と変わったのが出てきたねぇ、これは何だかキナ臭くなってきたかも」

 

「ですね、我々聖堂教会にあがっている報告ではあのような黒獣は確認されておりません、複数の特徴を宿した黒獣など前代未聞ですよ」

 

 聖堂教会が今までに確認しているどの黒獣とも合わない特徴を持った番外の黒獣。

 

 そんなものが現れたことで前線には大きな混乱が起こった。

 

「アルカは魔術において一番大事な物が何か知ってる?」

 

「どうして急にそんなことを?」

 

 アンジェルから唐突に投げ掛けられた問い、それは魔術の世界においては定期的に議題となる理論である。

 

 魔術において最も大事なものは何か?それは中華魔術連によって造り出された技術にも当てはまることだ。

 

「今回現れた謎の黒獣に大きく関わってくるからだよ、良い?魔術において一番大事なのは小難しい魔術式でも膨大な量の魔力でもない、それはこじつけと屁理屈だよ」

 

 そう、魔術において重要なのは『この原理で起こる現象ならこう解釈も出来る筈だ』など、魔術師ごとに異なる面倒なこじつけと屁理屈。

 

 それは言い換えれば、その魔術師限定の〝固定概念〝であり、これはこうあるべきだと思い込むことによる魔術の成立を助ける効果がある。

 

 では何故そのような事を今話すのか、それは件の黒獣もまた中華魔術連独自の魔術的こじつけによって造り出された怪物であるからだ。

 

「あの黒獣の体を良く見てごらん、使っている武器こそ様々な黒獣のものが混ざっているけど、肉体に見られる獣の特徴はごく一部の種類に限られる。

 あれはおそらく『特定の獣を組み合わせることによって成立するある種のこじつけ』多分それによって十二支から逸脱した新たなる黒獣を造り出そうとして、それは見事に成立した。

 

 でもね、それはおそらく中華魔術連の手には負えなかったんだよ、だって...そうやって成立させたものの正体は、多分彼らが想定していた以上に凶悪なものだった。

 

 そしてその正体は、あの特徴からしておそらく『饕餮』だね」

 

 饕餮、中国神話において恐れられる邪神四凶が一角にして神獣。

 

 日本における読み方は『とうてつ』だが、中国語においてはタオティエ、或いは上古中国語でタウテットと呼ぶ。

 

 この怪物は牛か羊の体に曲がった角、虎の牙と人の爪を持つ人面の獣とされ、今戦場に居るのはまさにその特徴を宿した者。

 

 故に、アンジェルは番外の黒獣を仮に『黒獣:饕餮』として呼称することにした。

 

「宿す特徴を丑、未、寅に絞ることで、この黒獣は饕餮であるとこじつけたんだね、そんなことをすれば暴走するのは目に見えていたろうに。

 

 だって、饕餮は四凶なんて呼ばれて化け物扱いされてるけどその実〝神獣〝だよ?人がどうこうできる存在じゃないのに、その特徴を無理矢理人の体に押し込もうとして彼ら中華魔術連はとんでもない化け物を造り出してしまったんだね。

 

 はっきり言って兵器運用の面から見た場合でも欠陥品も良いところだよ?兵器を造る時は自分の手に負える以上のものを造っちゃいけないの、いざって時に自分で制御出来ないようじゃ危なっかしくて使えたもんじゃないもん」

 

 さて、アンジェルによる説明も終わったところで、そろそろ戦場に舞台を戻すとしよう。

 

『指針は未だ止まること知らず、星よ、我を導く星の指針よ、次は何処へ我を連れゆくのか、我が剣先を向けるべきは何処にあろう?』

 

「なんだよあいつ意味がわからない!」

 

「雁夜殿、今は観察を続けましょう...あれはヤバい」

 

『番...外、貴様ぁ...あぁぁぁ!』

 

『指針の先が未だに消えぬ、星が定める指針の先は汝らにあり』

 

 番外の黒獣によって次々葬られていく黒獣たち。

 

 最早それは一方的な蹂躙に近い。

 

『消えぬ、まだ消えぬ、我を呼ぶ星の声が未だに消えぬ、星よ何故我を呼び叫ぶのか、我は最早そなたの知る我では無きと知らぬか、或いは最早それも些事と化したか、何れにせよ我はこの指針の元に悉くを塵殺するのみ』

 

 そうして、その視線がとうとう雁夜たちに向けられた。

 

 その日雁夜は、幾度目かも解らぬ挫折を経験する。

 

 ...なんだ?この重圧は、いつになく命の危機を感じて脳が逃げろ逃げろと叫んでいる。

 

 だが、直感的にわかった、わかってしまった。

 

 眼前の化け物をどうにかしない限り、俺たちに明日を迎える未来は来ない。

 

『汝らもまた我を阻むか、良かろう...指針には非ず切るに足る理由も無いが、汝らは戦士...剣先を向けるべき相手であろう。

 

 さぁ、抜くが良い。

 

 我は動かぬ、汝らが持ち得る最強を我に浴びせて見せよ、汝らはこの地を滅ぼさんとする戦士なのであろう?ならば証明して見せよ、汝らが我を打倒し得る強者であり、そしてまた黒獣たる我らを人の世たるこの理から排斥せしめる者たちであると』

 

「良くわからないが、要するに自分に挑んでこいって言ってるんだよな?」

 

「おそらくその通りかと、我らの持てる限り最大の力ですか、舐められたものですなぁ!ならばとくと見よ!我が研鑽と業の果てに身につけた妙技を!!!」

 

 その瞬間辺りの空気が一瞬止まったような感覚がした。

 

 ニムロッドの言う妙技、それは彼の武器を彩る三つの光輪として表れた。

 

「これぞワープ列車にて身につけた我が妙技、アンジェル殿曰く〝望〝というらしい、今の私が出せる最高の一撃しかと目に焼きつけるが良い!!!」

 

『良かろう...来るがよい』

 

 両者共に睨み合う、それが戦士の定め故に。

 

 交錯する視線が限界に達した瞬間、ニムロッドは動いた。

 

「シャオラアァァァッ!!!」

 

 望を纏ったニムロッド渾身の一撃、これが並みの相手であれば瞬時に木っ端微塵へなっていたことだろう。

 

 だがニムロッドの不幸は、相手がその並みではない異常寄りの存在であったこと。

 

 そして、此処までの戦闘で武器が疲弊し過ぎていたことだ。

 

 ニムロッドの武器と番外が持つ八角鉄棒が打ち合った瞬間、ニムロッドが持つ武器が根元からへし折れた。

 

 耐久限界である。

 

「そうか、ここまでしてなお届かないか」

 

『誇れ、汝は良い戦士であったぞ、故に...今は暫し眠るが良い』

 

 刹那の一閃、ニムロッドは砕け散った剣の中に倒れ付した。

 

 聖堂教会異端審問局第一機甲猟兵団隊長ニムロッド、初の入隊以降初の敗北である。

 

「ニムロッド隊長!!!」

 

「雁夜さんやめておいた方が良い!隊長でダメなら、あれは俺たちの手に負える存在じゃありません!至急アンジェル殿の指示を仰ぎ撤退を!」

 

『ごめんね皆、悪いけどそれは無理だ』

 

 無線より響く声、それはまさしくアンジェルのものであった。

 

「どう言うことです?」

 

『今そこにいる黒獣、仮称:饕餮の脅威度は凄まじいものでね、その男を此処から逃がすわけにはいかなくなった...だから撤退は許可出来ない』

 

「それではどうすれば良いのです!ニムロッド隊長すらやられたのですよ!?」

 

『...雁夜、お願い出来る?』

 

「...そうだよなぁ、この流れなら俺の方に話が回ってくるよな...やってやるよ、このまま全部掻き回されたまま終わってやるものか!」

 

『ごめんね』

 

 その一言と共に通信は途絶えた。

 

 ...かくして運命は動いた、これより先は命を削り血肉を断つ。

 

 間桐雁夜を取り巻く全ての因果が、そんな熾烈な戦いへと収束しようとしていた。

 

『次は汝か、迷いあらば我に挑むことあたわず、疾く離れるが良い、我は汝に刃を向ける理由無きが故に』

 

「ははは、全部お見通しってことか...苛つくし、なにより癪に障るなぁ!!!」

 

 こいつは俺を戦う相手として認めてすらいない。

 

 元々端から眼中にないのだ。

 

 そういう奴に俺という存在を刻みつけるのが俺という...間桐雁夜という男が持つ唯一の渇望なのだから。

 

 故に...俺はお前を殺す。

 

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 決意を固めた雁夜の眼にはそれ以外にもう一つ、明らかにあってはならない光が宿っていた。

 

 それが何を意味するのか、世界は知ることになる。

 

 この世界を蝕む最も悍ましい、そして...暖かい絶望の光の存在を。

 

 しかし、今はまだ知る者はいない。




 そろそろこの章も終わり近いかな。

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