『星、星ねぇ、その名を冠するものにろくな覚えが無いが、あんたの言うそれは恐らく俺の考えるものとは全く違うものだろう。
いったい何を星に例えているのか解らんが、これ程迄にあんたを惹き付けると来ればきっと相応に恐ろしいものであることに違いあるまい』
『否、我を導く星は魔なる者に非ず、我を人に戻した者の名残なれば』
『喋り方が古風過ぎるうえに解りにくいから何を言いたいのか全然理解出来んな、いっそ此方の世界の俺が支えている女が此処に来でもすれば楽なんだが、ん?何だこの音は...ちょっと待て!何か飛んできてないか!?』
マキリ・雁夜が素に戻る程の衝撃的な光景。
それはオルフェウスから聞き出した情報によって、中華魔術連が逆さ摩天楼の地下に黒獣たちの根源的技術とそれを埋め込む器を保管していると知って飛び出して来たアンジェルであった。
ビルからビルへ飛び移りその度に廃墟を量産するアンジェルは、最早人の形をした災害のようである。
「やっほ~来ちゃった♪」
『うわ出たよ...ンンッ!何故此処に来たアンジェル・狭間!!!』
「ん~?今すっごい失礼な反応された気がするけどまぁ良いや、細かく説明してる暇無いから色々省略するけど、今から僕がこの逆さ摩天楼の最奥まで一直線でぶち抜くから時間を稼いで!」
『ちょっとまっ!あぁ...行っちまったよ』
『...!まさかあの御仁は...我を導く星の御母堂殿か!?』
各々が驚きの声をあげる中、アンジェルは既に逆さ摩天楼内部への侵入を果たしていた。
侵入というか、襲撃に近いものではあるが。
「やっぱりこういう時は便利だよねぇ~黄金狂ワープ」
黄金狂、とある少女の成れ果てた姿たる幻想体『貪欲の王』より抽出されるALEPHクラスのEGO。
通常であればその力は純粋な物理的破壊力なのだが、それはあくまでも使いこなせていない場合に限る。
よりEGOの本質を理解し使いこなした場合の黄金狂は、装着者に思った場所へワープする力を与える。
だがアンジェルの場合はそこから更に他の技術を組み合わせて〝通った軌跡に存在する全てを破壊する〝効果を付随させる為、はっきり言ってもう只の広域殲滅破壊兵器である。
これにより外から入り込もうとする者に対し、絶対的と言って良い程の堅牢さを誇っていた逆さ摩天楼の封鎖用隔壁は全て破壊された。
「さて、僕の可愛い子どもたちが遺した忘れ形見ちゃんたちは何処かな?」
かつて中華魔術連により拉致されたウサギ部隊の面々。
彼女らは廃人となってアンジェルに発見されたが1人だけ姿が何処にも見当たらず、彼女たちが産んだ子供たちも見つからなかった。
「さてさて怪しい扉があるね、これもぶち抜いてみよっか?せーの!!!」
けたたましい音をたてて扉は砕け散った。
その向こう側にあったものは...
「ははは、本当にあの子たちの事を物としか思っていなかったんだね中華魔術連は...やっぱり全部滅ぼすしかないか」
夥しい数の機械とそれに繋がれた哀れな小さい命たち、そしてコポコポと音をたてて薬液の中で眠る幾多の生き物を組み合わせたような姿の巨大な怪物。
そう、此処は...この逆さ摩天楼は、黒獣を黒獣足らしめる根源、その元になる丸を培養する為の施設であった。
「ごめんね遅くなって...痛かったよね、苦しかったよね、今解放してあげるからもう少しだけ待っててね...僕の可愛い娘」
薬液の中で眠る怪物の正体、それこそが番外の黒獣たる饕餮が求める星にしてアンジェルが探し続けていた〝消えたウサギ部隊最後の1人〝であった。
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アンジェルが地下で黒獣の根源を見つけたのと同じ頃、地上では血相を変えて地下へ行かんとする番外の黒獣とそれを止めようとするマキリ・雁夜が争っていた。
『おい!?お前あの女の事をなんて呼んだ!まさかお前の言ってる星っていうのはあの女が造り出した創造物の事じゃなかろうな!?』
『然り、我を此処に導いた星はかつてこの手より零れ落ちた者、救うことの出来なんだ未練であるが故に』
『もしそうならえらいことになるぞ、何せあの爺さんから聞いた通りなら...』
「ねぇ」
頭を抱えたマキリ・雁夜へかけられる声は、今一番聞きたくなかった相手のものであった。
『アンジェル・狭間...地下での用事は済んだのか?』
「いいえ、ちっとも終わってなんかいないわ、でもちょっと其処の人に聞きたい事があって上がって来たの」
『我に如何なる御用が?』
「単刀直入に聞くよ、地下の子供たちは君の子?」
『...子らを見たのか』
その言葉を返答と見なしたのだろう、アンジェルの表情が酷く悲しいものへと変わった。
「そっか、君があの子たちが言ってた『たった1人だけ自分たちを助けようしてくれた人』なんだね」
『我はあの者たちを守れ切れなんだ、この身の弱さと未熟さが故に...それ故に我は誓ったのだ。
我を導くあの者らが...星の指針が思うままに全てを葬ると...!!!』
饕餮の顔を覆う漆黒の包帯の隙間から溢れ出す涙。
そう、これは番外の黒獣たる饕餮にとって弔い合戦なのだ。
かつて己が守ろうと志し、しかして救えなかった者たちを弔う為の戦い、それに己の全てを投じると誓った饕餮にとってこの場は非常に好機である。
何せこの地は彼女らを苦しめた中華魔術連の根幹たる場所。
それに加えこの場所を守らんと集まった全ての黒獣と中華魔術連関係者たち。
全てを清算するには絶好の機会である。
「黒獣に纏わる全てを葬り去る、それが我の
役割を演じるのは案外楽なものだが、演じ続けるとやがて本当の自分がわからなくなってくる。
だから偶には己を許してやって、思い切り自分を解放する事も必要なのだ。
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