もし自分を変えられるのなら、どうしようもなく愚かな己の弱さを超克できるのだとしたら、それはどんなに素晴らしいことなのだろうか。
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カレイドスコープ、中を覗き込むと幾つもの光景が重なって見える愉快な道具。
魔術の世界においては別の意味を持つが、今回CEOが見せてきたそれはどちらかと言えば後者のほうなのだろう。
「今、君には沢山の鎖が蠢いている光景が見えるはず、まずは魔術師になった自分を強く想起してみて」
CEOに促されるまま鏡を覗き込んだ俺を待っていたのは、大量の鎖と硝子片が蠢く謎の空間。
「魔術師になった自分を...」
魔術は俺にとって忌むべき記憶の象徴、それを己が物とした世界を強くイメージしろとはアンジェルCEOも中々に意地が悪い。
だが、これは俺にとって必ず必要になる力だ、絶対に一度でものにして見せる。
こんな俺に期待を寄せてくれたこの人に報いなければならない。
「鎖が少なくなってきた」
「そうその調子、そしてそのままこれだと思う1つを選んで引っ張るの」
「...これだ!」
引っ張った鎖の先には、青黒く光る一枚の硝子片が繋がっていた。
「成功したみたいだね...あっ気をつけてね、引っ張り出した可能性を取得する時にその世界線の記憶が大量に流れ込むから」
「へっ?ぬぉぉぉ!!!」
先に言ってくれよそういうことはさぁ!
硝子片が体に入り込む瞬間、頭の中で存在したかもしれない誰かの声がした。
『俺は結局、何処までも間桐の人間だった』
「これが違う世界の俺なのか?」
『愛した彼女を幸せにすることも出来ず、ただただ彼女からの愛を浪費するだけの日々、そして結局俺は間桐の宿命に逆らえなかった』
全てが〝理解できた〝
頭の中に流れ込む記憶の奔流が、俺に魔術の使い方を教えてくれる。
「間桐家第5代目当主マキリ・雁夜、この力を君の為に捧げよう」
「はいストップ!もぉ、人格に思いっきり引っ張られてるじゃん」
頭を襲う急な衝撃と痛みで俺の意識は浮上した。
「俺はいったい?」
「被った人格に引っ張られて完全にあちら側に〝成り〝かけてたよ君、それは駄目だよ雁夜、君にはあくまでこちら側にいて貰わないと困っちゃうんだから」
「だがコツは掴んだ」
「うん、君から魔術回路の胎動が伝わって来るよ、とても小さくて穏やかな鼓動だけど、それでもしっかりとそこにある、その感じだとものにしたんだろう?マキリの魔術を」
「あぁ、今ならおそらく素材さえあれば幾らでも戦力を作り出せそうだ」
間桐、ひいてはマキリの魔術の本質は生命をいじくり回すこと。
そして、そこから繰り出される無数の手数は十分に脅威と成り得る。
故に、その力をものにした今の雁夜なら、きっと本物の魔術師と遜色ない魔術を扱えるはずだ。
「それじゃ次のステップに進もう」
「EGOだったか、違う世界の自分の人格1つ扱うことにすら苦戦する俺に扱えるのか?」
「大丈夫!むしろEGOは使うだけなら簡単だからね、問題はその先なんだけど...それはまぁ追々身に付けていけば良いから、むしろ何でもかんでも一気に身につけようとするのは人間の悪い癖だよ」
確かにそうだ。
全てを一度に欲した者は、大体酷い末路を辿ることになる。
それはこれまで連綿と続いてきた人類の歴史が証明しているじゃないか。
「大丈夫だよ、聖杯戦争まで後3年あるんだから、それまでに魔術とEGOがうまく扱えるようにさえなっていれば最低限生き残ることくらいは出来るはずさ」
「勝つつもりはないんだな」
「そもそも参加する気がないんだよ、僕はあくまで聖杯戦争によって引き起こされる二次災害に巻き込まれてしまうことを警戒しているだけだからね、最悪の場合は聖堂教会と取引して協力者ポジションに落ち着くつもりだよ」
「成る程、生き残る為にも力は重要と」
「そういうこと、特に聖杯戦争中の冬木は一般人だろうと巻き込まれれば平然と死んじゃう治安わるわる状態になるからね」
確かに聖杯戦争は苛烈だ、聖杯を求め7人の魔術師とサーヴァントが盛大に殺し合う物騒過ぎる儀式、そんなものに巻き込まれれば一般人ならば余程の運がない限り生き残れないだろう。
二次災害ですらそれなのだから、参加などしようものならば...最早説明は不要だろう。
「それでも聖杯戦争の性質からして、雁夜はマスターに選ばれちゃうかもしれないね」
「何故だ?」
「だって、君は聖杯戦争を成立させた始まりの御三家の血筋じゃないか、聖杯はマスターを選ぶ時、特にその御三家の血筋の者を選びやすいと聞くからね、鏡によって別世界の自分から知恵と技術を受け継いだ君以上に相応しい魔術師なんて、今の間桐家には存在しないだろう?」
あぁ、そういえばそうか。
「その場合俺はどうすれば良いんだ?マスターに選ばれた瞬間棄権するか?」
「いや、そうするとサーヴァントが七騎揃わなくて儀式に問題が出るから、聖杯がランダムに他の誰かをマスターに仕立てようとするかもしれない、というか絶対にそうなる。
そうして選ばれた誰かが人格者であるという保証は誰にも出来ないからね、それなら雁夜を参加させてある程度リスクを減らした方が良い」
「やっぱりあんた不思議な人だよ、会ってからそんなに経っていないのに、俺は何故かもう既にあんたを信頼し惹かれ始めている」
「おや?それはプロポーズかな?」
「冗談はよせ、どちらかというとライクなほうだよ」
「そっか、それは残念」
その微妙に反応に困る顔はやめてくれ、なんだが居たたまれない感じになって心が痛むから。
「じゃあ今度こそEGOの取り扱い訓練に移行しようか」
この後、俺はすぐに後悔することになる。
なにせ、EGOの取り扱い訓練は想像以上に地獄だったのである。
A:ワザリングハイツする。
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