「あぁ間桐さん1ヶ月ぶりです!すいません、ちょっと助けて貰っても良いですか?アンジェル様が私の手を握ったまま気絶してしまいまして」
「何をしているんだあんたらは...」
呆れながら顔を押さえるしかない状況に、雁夜は苦笑いをしながら二人へと歩み寄る。
アルカからすれば1ヶ月ぶりに見るその顔には、相変わらず白い仮面が貼り付いていた。
「やはりその仮面と右腕は戻りませんか」
「あぁ...ちゃんと見えてるし物も食えるが、唯一他者から向けられる視線だけは感じられなくなってしまったよ。
右腕の方は...放っておくとあの蟲のような悍ましい鉤爪が勝手に生えて来てしまうんだ...だからアンジェルに貰ったこの義手で抑え込んでる。
全部受け入れて乗り越えたと思ったんだがな、そう簡単にはいかないらしい。
アンジェル、そろそろ起きてるんだろ?寝たふりをしても仕事からは逃げられないぞ」
「うぅ~、雁夜ったらそういう感ばかり鋭くなっちゃって可愛げがなーい!!!」
1ヶ月前のねじれ化とその克服に伴い、雁夜の顔にはねじれた時の名残か、或いは不完全なEGOの発露か、黒蝶の主と化した時の仮面の一部が顔に貼り付いて離れなくなってしまったのだ。
その仮面に実体はなく、触れようとすればその手はすり抜ける。
だがしかして其処に在る。
それにより、視線は感じられなくなった雁夜であったが、それ以外はより鋭敏に感じ取れるようになったのである。
「さぁしゃっきりしよう、仕事なんだろ?」
気絶した時の勢いでぼさぼさになってしまったアンジェルの髪を整えながら話しかける雁夜を見てアルカは『もしかしてこの二人ヤッちゃいました?』と一瞬思ったが、アンジェルのそっち方面に対する耐性の無さと雁夜のへたれ具合を思い出し、即座にそれはないなと考え直した。
というか目の前のアンジェルは儚げな少女のような見た目をしているがその実性別は無いに等しいのだ。
おまけに前話した時『そういうのじゃないから!』と強めに否定されているのだから絶体無い!と思い込みたいアルカ・セントリウス(30歳)行き遅れお姉さんであった。
「それで?オルフェウスは何て言ってるのさ?」
あっ、そんな急に切り替わるんすねハイ...よし真面目モード!
「奴が言うには『此度我々は、世界中に存在する都市の中から4ヵ所で大規模な行動を伴う指令を遂行し、盛大な祝祭を開く』とのことでして、その4ヵ所の都市とやらに関しては一向に喋ろうとせず...」
「それで連中の言う指令の大元『因果律調整織機』に詳しい、というか作った本人である僕を頼って来たと、それじゃやるべき事は指令の傍受かな」
「そんなことが可能なのですか?」
「出来る出来ないで言えば間違いなく出来るよ、あんまり気が進まないけどね」
苦い顔をするアンジェルであったが、一呼吸を置いて懐からいつものホワイトボードを取り出した。
「人差し指が使ってる『因果律調整織機』はね、ざっくり言うと大規模な演算器で、世界を取り巻く因果律を解析して無数の選択肢から結果を予測する。
その中から面白そうな結果に辿り着きそうな選択肢を特殊な印の押された布とか紙とかを織って無作為に選びながらデイリーミッション感覚でばら蒔くんだ。
最初はコーヒーを入れるとか、赤い花をお世話するとか可愛らしい指令ばかりだったんだよ?でもそのうちどんどん過激な指令しか織られなくなって...後は、わかるよね?」
成る程、それで廃棄処分しようとしたら聖堂教会からラブコールが来てしょうがなく渡したと...何かもうあれだな、出来の悪いコントみたいだ。
「なぁアンジェル、要するにその『因果律調整織機』とやらが因果律を解析する時に行った干渉の痕跡を辿って指令の内容を読み解くってことであってるか?」
「大正解!花丸あげちゃう!」
アンジェルは再び懐に手を突っ込んで、目的のものを探り当てたのかそれを引っ張り出した。
「んでこれがその指令傍受装置(仮称)人差し指が此処まで馬鹿なことやらかさなきゃ、ずっと僕の異次元ポッケの中でカビてく予定だったんだけと」
「思ったより小さいな、手回し式の編み機?」
「とても可愛らしいデザインですね、アンジェル様にもこんな趣味があったとは驚きです」
皆も小さいころ可愛らしいデザインの文房具とか道具入れ良く見ただろう?あぁゆう枠だよ。
※作者はエプロンを迷彩柄にしてクラス内で仲間外れになりました。
「見た目通りハンドルを回して使うんだけどね、一つ大きな問題がある」
「なんだ?」
「これを使ってる間、使用者の頭の中には絶えず因果律に内包された少し先の結果が流し込まれるんだよね。
あまりにも流れ込む情報が多すぎて、僕でも一瞬フリーズしちゃうの。
そして一度に辿れる痕跡は一つだけ、一応同じものは複数あるけど...」
「アンジェル様だけでは四つの指令全てを傍受出来ないと、ではうちからは馬鹿ニムロッドを出します。
あいつの耐久力なら余裕で耐えるでしょうから」
「では俺も協力させて貰おう、問題はあと一人をどうするかだ。
少し先の結果を見てしまうと言うのなら、下手な奴に使わせたら何か悪事に利用される危険性が高い、そうなればかなりまずいことになる」
「う~ん...アルカ、頼める?」
「私ですか、構いませんがよろしいので?確かアンジェル様は私の事があまりお好きではないと覚えておりますが」
「僕そんなこと言ったっけ?アルカは普通の取引相手だし別に嫌ってないんだけどなぁ」
この後、アルカは前に自分がアンジェル様を化物扱いしたことを根に持たれてたらどうしようと思っていた事が発覚し、恋ばなネタで弄られた仕返しとしてアンジェルにたっぷりとからかわれるのであった。
『脚注さん』
・何人かいる脚注さんの一人、前にも説明したかもしれないが、アンジェルでも登場キャラでも作者でもない脚注は大体この人たちのコメントである。
何らかの理由でアンジェルからお前いらないされた人たちが洗礼詠唱?のようなもので脚注に幽閉された末路、力も思考出来る程度に残してほぼ奪われ、口調なんかもかなりねじ曲げられているが自我が強い脚注さんは主張が激しい(特にジェスター)
ちなみに洗礼詠唱擬きの概要は前にも説明したと思うが改めて説明すると『世界っていうでっかい括りの物語内からその外である脚注に登場人物を追放する』である。
どれが好き?
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黒蟲
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虫籠
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昆虫学者