都市だと思ったら冬木だった(現在凍結中)   作:森の翁

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 今回長いよ。


それは貴方と言えるのでしょうか?

『安心して欲しい、別に危害を加えようというわけじゃない。

 ただ、君には認識して欲しいだけなんだよ...君の世界を取り巻く歪みをね』

 

「歪み?」

 

『そう、全ては87600時間と2190時間前から始まった

 

 この時はまだ、私たちもあの子の事を観測だけは可能であり、あの子がせめて次の世界では幸せになれる事を祈って見守っていたんだ。

 だが、その後すぐあの子のいる世界、すなわち君たちの世界に謎の空白期間が生まれ、そこから長らくの間私たちはあの子の事を観測出来なくなってしまった。

 

 私たちは様々な方法を模索しその全てを試したが、残念なことにあの子のいる世界を我々から観測することはついぞ叶わなかった...君があの子に出会うまでは』

 

 バチカルと名乗った男の手の中で、再び様々な光景を写し出す球体が生成された。

 

『それにより発覚したのは、そちら側の世界が急速に歪み始めていること。

 

 そして、あの子が今はアンジェルと名乗っていて何故か〝私たちの世界にしか存在しない筈の概念〝を扱いそれを世界中に定着させていることだ。

 

 その背後に、どうも人ならざる上位者の陰が見え隠れすることも含めて、私たちは酷く焦ったよ...せっかくあの子が全てを忘れて幸せになれると思っていたのに、あの子は己の持ち得る全ての力を...いや、それ以上の力を身に付け、最早私たちが干渉出来る存在ではなくなってしまった』

 

 その球体にはアンジェルが今までやってきた事であろう全てが映っている。

 

 俺が彼女に出会った後起こった全ての出来事、おそらくそれより以前のものであろう世界に与えた影響、功績、惨劇、その全てが目の前に球体には映し出されている。

 

 何故だ?何故今更こんなものを俺に見せた?

 

『やはり動じないか、早く自覚した方が良い..彼女と出会った事で、.君の価値観や思想は、既にこちら側へ傾き始めている。

 私たち〝都市〝の価値観に染まり始めてしまっているんだ』

 

「都市?」

 

『私たちの世界はそう呼ばれている、少なくともあの子はそう呼んでいた。

 

 あの子は、私たちの中で君たちの世界と都市の両方を知る唯一の存在であり、そして君たちの世界と私たちの世界を繋ぐ事の出来る唯一の人間だ。

 

 あの子だけなんだよ、その眼に鏡を宿し己の魂に門を内包出来たのは、皮肉にもそれが仇となってしまったようだけどね』

 

「何があったんだ?」

 

『君たちの世界で彼女の父親となった人物、狭間一(はざま はじめ)があの子の眼の中に存在する鏡の存在を知ってしまったんだ。

 よりにもよって、あの子がその眼によって母親を狂わせてしまったその日にね』

 

 アンジェルの母親、確かあの声が原因で命を落としてしまったと聞いていたが、父親の方も関わっていたのか。

 

『あの子の母親は、あの子の眼の中に別世界の己の成れ果てを見出だしてしまったんだね...それで彼女は狂ってしまった。

 そうして廃人のようになったあの子の母親を父親の方は何とかして元に戻そうとした。

 

 だが、それによって彼は絶対に手を出してはいけない禁忌に触れた...いや、或いは触れさせられたのか、とにかく彼は禁忌を侵した。

 

 あの子の眼の中に存在する鏡を元に、よりにもよって鏡技術と呼ばれる技術を再現してしまったのだよ...それによって、彼は別の世界から己の妻であり、あの子の母親である女性と同じ在り方を持つ人格を連れてきてしまったんだ』

 

「まさか...そんな、あり得ない!それじゃアンジェルの父親は、廃人になった自分の妻に他人の人格を被せて...うぅっ!」

 

 吐き気が止まらない、手が、体が、そして何より心が震えている。

 

 あまりにも惨い、あまりにも悍ましい、そして恐ろしくてたまらない、何で...何で自分の妻にそんなことが出来るんだ?

 

『良かった、その反応を見るに君がまだ完全には染まり切っていないようで安心したよ。

 だが、まだこれで終わりじゃないんだ...此処から先、あの子が君と出会った事で生まれた歪みについても語らなくてはいけない。

 

 まずは...そうだな、本来であれば君が辿る筈であった未来を見せよう。

 

 残酷なようだが、君が歪みを認識するには間違いなく必要なファクターだからね』

 

 バチカルは指を鳴らし、球体に映し出された場面を更に切り替える。

 例えそれが此方にとって致命的なものだったとしても、それが最善であるとして〝善意をもって〝その行動をやめようとしない。

 

『君が辿る筈だった未来、結末、それは全てが君の死に収束する世界だ』

 

 球体に映し出されたのは俺だった。

 

 蠢く蟲の中で、俺だった肉塊が蟲の海の中に沈んで行く。

 

 そして、それを見下ろす誰かが居た。

 

 それは幼い少女であり、その少女には見覚えがあった。

 

『そうだ、あれはかつて君が諦めた女性の娘、魔術師の家系たる遠坂の家に生まれ...そして君の生家である間桐の家に引き取られた。

 元々の運命、その道筋の君は必ずこの末路へと収束するのだけれどね、今の君はその道筋から明らかに逸脱し始めているんだ。

 私たちはこの現象を〝軸がずれた〝という呼称している、どうもあの子と関わった事で君は本来の道筋から完全に外れた存在となったようでね、そうなると君という存在自体が世界から見て許されざるものに成りつつある。

 

 けどね、そこは今重要ではない

 

 問題なのはそれを引き起こしたものが誰か?そしてそれはあの子では無理な筈なんだ』

 

「どういう事だ」

 

『この軸において本来であれば今さっき見せた光景は確定事象、絶対に避けられない未来の筈であり、その未来において君は死んでいなければならない。

 だが、その軸の間桐雁夜は今の君のような力を持っていないし、そもそもあの子との出会い自体が存在しない。

 

 わかるかな?世界によって定められた道が何者かに意思と干渉によって無理矢理ねじ曲げられている、それは本来一個人には不可能な所業だ。

 

 世界の理と言うのは往々にして理不尽であり、絶対的なものだというのに、今回の事象を引き起こした存在はあまりにも強力過ぎるのか、君に本来あり得ない要素を上書きすることで強引に自分の思い描いた筋書きを押し通しているんだ。

 

 それも、世界の理をねじ曲げる形で叶えてしまったからなのか、この世界そのものが他の世界とは分離し、全くの別物として存在している状態にある。

 

 あの子が内包する力の中にそのようなものは存在しない、何故ならあの子は...これはまだ語るべきではないか。

 

 そうなると、それだけの力を持った何者か...例えばアルテミット・ワンやアーキタイプと言った星の意思決定権を持つ存在があの子に手を貸しているということになる』

 

「それがどういう問題を引き起こす?」

 

『全てだ、これから先の道筋全てがその存在の描いた道筋に添って進み続ける。

 とはいえ、動き出してしまったシナリオを止める力は私たちにも存在しない、此処から先は君自身の選択次第だ』

 

 選択だと?

 

『このまま描かれた筋書きのままに進み続ける事を選ぶのか、それとも〝私たちに協力して定められた筋書きを破却する〝かだ』

 

 あぁ...そういうことか、ようやく理解した。

 

 要するに、こいつらも結局のところ同じなのだ。

 

 他者に選択を強いる者、他者を一方的に規定する者、あの声と同じ...俺が抗うべき敵だ。

 

「悪いが俺はお前たちのような奴らが一番嫌いなんだ...俺を在るべき形にすると言った奴がいた、奴が齎したのは何だったと思う?望まぬ形で得た歪で醜悪な怪物としての俺だったよ。

 そして、今目の前に立っているお前は、限られた情報だけを俺に与えて俺の心を揺らし、選択を強要し、あいつを...俺を唯一認めてくれた、唯一俺の事を欲しいと言ってくれたアンジェルを裏切らせようとしている!

 

 そんなお前のような奴の甘言に、俺が乗るとでも思ったか?そうならば、もしそうであるならば!お前はこの時をもって間違いなく俺の敵だ!!!」

 

『ふむ、残念だよ...君は私が提示したどちらの道も選ばないという選択をした。

 私としては君と手を組んでみたかったのだけれどね、あの子が気に入るだけあって今の君はとても興味深く、そして面白い存在だ。

 

 私たちのような存在にとって、君はさながら誘蛾灯のようなものだな、つまりこれからも私たちのような存在に絡まれ続けるということだが...まぁ君なら乗り越えられるだろう。

 

 次元の果てで期待しているよ、間桐雁夜』

 

 バチカルと名乗った男は消えた。

 

 まるで其処に居なかったかのように、其処にあった事実が消えているかのように、その姿はもう何処にも見えない。

 

 しかし、あの男はアンジェルの事を知っているようだった。

 

 それもかなり親しい間柄であるかのような口振り...いや、やめておこう。

 

 何故だかこの話はアンジェルに聞かない方が良いと俺の感が言っている。

 

「...ん?これは羊皮紙、何故こんなものが此処に?」

 

 戸惑い警戒しつつも、俺はゆっくりとその羊皮紙を開いた。

 

『選択を間違えなかった君に対する報酬だ、君たちが求める人差し指の指令に関する痕跡を一つ纏めておいた。

 今頃因果律の中から現実世界に戻ったあの子が君を待っているだろうから、それを持ってすぐに戻ると良い。

 

 そうそう、一つアドバイスを残すとしよう。

 

 もし進むべき道に迷ってしまった時、その時は原初に立ち返ると良い、そうすれば君の求める答えは見つかる筈だ』

 

 やっぱりあいつ前に会ったサイコロ頭の同類か、やり口までそっくりだ。




【人物紹介】

『バチカル』
・38話でサイコロ頭こと前話で名前が判明したプロヴィデンスさんに白いのって呼ばれてた方、存在に関する力を持っているらしい(早速読者にろくでもないやつ呼ばわりされてて哀れだけど残当過ぎるので仕方ないね)

・雁夜に悪質な○✕クイズ仕掛けたやべぇやつ、なお選択の場面で少しでも雁夜が迷いを見せたら、雁夜に出会わなかった軸のアンジェル上映会が始まっていた模様(鬼か貴様)

・こいつに関しては、あんまりコメントすると後が色々と面倒になるので、今はこれ以上は語るべきではないだろう。

・ちなみにイメージCVはスタレのアヴェンチュリンとかで有名な川西健吾さん、実のところ作者がビナー様をエミュする過程で喋り方が凄い複雑になってしまったという経緯があったりする。

『雁夜おじさん』

・クソリプお姉さんのトラウマを想起させる悪質○✕クイズお兄さんに声をかけられたので反抗した(これにはスパルタクスもニッコリ)

・なお悪質○✕クイズお兄さんことバチカルさんは話し方に含みがありすぎるせいであらぬ誤解を招きまくる為、サイコロ頭ことプロヴィデンスさんが通訳しないとクッソわかりにくいうえに真意が絶対に伝わらないのでプロヴィデンスさんは毎回胃を痛めている(まさかの苦労人属性持ちだったサイコロ頭のプロヴィデンスさん)

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