都市だと思ったら冬木だった(現在凍結中)   作:森の翁

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 バレンタインデーは書かないと言ったな、あれは嘘だ。

 というのは置いといて、作者あれから色々考えました。
 
 未来の世界ってことにするとネタばらし祭りになるのならパラレル時空ってことにして本編と違う世界でやれば良いじゃんと。

 つまりこれはパラレル時空で行われるバレンタインデーの模様である。


バレンタインデー特別回Ifの世界

今日はバレンタインデー、男女問わずあらゆる人が浮き足立つ日。

 

 特に女子たちの張り切り具合はヤバい。

 

 意中の相手に告白しようと限界ギリギリまで試行錯誤してチョコを作る者、最高のチョコを作ろうとしてカカオから始める者など多岐にわたる。

 

 一方、そんな女の子たちのウォーゲームと化した町で一人ウンウン頭を抱えて唸りをあげる者がいた。

 

 アンジェルである。

 

「うぅ、全部売り切れちゃってる」

 

 きっかけは雁夜にチョコを作ってあげようと思ったこと、でも自分は美味しいチョコの作り方なんて知らないからせめて店売りでも良いから少し豪華なチョコを買って帰ろうと思ったのに、なんと全て売り切れてしまったのである。

 

 この時期のチョコ争奪戦は凄まじいものであり、作者も毎年補充作業で地獄を見ている。クリスマス、年末に次ぐバレンタイン商戦である。

 

 それ故に経験から言わせて貰えば、この時期にチョコを買いたきゃ最低でも一週間、もっと言うなら二週間くらい前に余裕を持って買っておかないと手に入らないのだ。

 

 万年研究所に籠って外に出たことがなかったアンジェルにそんな知識があるわけもなく、当然の既決としてアンジェルはチョコを買い損ねた。

 

 だがそんなアンジェルに救いの手を差しのべる者がいた。

 

「おんやぁ?お困りですかなお嬢さん」

 

「うわっ!何か虎の着ぐるみ着た不思議なお姉さん!!!」

 

 そう、皆ご存じ藤村大河である。

 

 なんとこの日は知り合いに頼まれて、着ぐるみを着て客寄せと接客を行っていたのだ。

 

「うん、チョコ売り切れちゃってて」

 

「うんうんわかるわぁ、この時期チョコってすっごい勢いで売れるもんね、すぐになくなっちゃうのよ。

 でもそんな落ち込んでるお嬢さんに朗報です!お姉さんの知り合いが幾つかチョコの在庫を取っておいてくれたから、その中の一つを譲ってあげよう!」

 

「わぁ!ありがとう優しいお姉さん!」

 

 チョコを受け取ったアンジェルは満面の笑みを浮かべながら走り去っていった。

 

「うんうん、青春ですなぁ」

 

 スキップしながらご機嫌そうに歩くアンジェル、その姿は本当にただの可愛らしい女の子のようで、もはや目は恋する乙女そのものである。 

 

「チョコ♪チョコ♪雁夜にわったそぉ♪」

 

「やぁお嬢さん」

 

「ひゃあ!?誰?」

 

「僕かい?僕は花のお兄さんだよ」

 

 アンジェルを呼び止める胡散臭い声、それはフードを被った花の匂いがする男だった。

 

「いやぁ通りがかりで偶々君が目に入ってね、どうにも凄く楽しそうなものだからつい声をかけてしまったんだ」

 

「お兄さん変な人だね」

 

「そんなにバッサリ言われると少し傷つくなぁ...おや、その手に持っているのはチョコレートかな?もしかして、丁度今から誰かに私に行くところだったのかい?」

 

「うん!今から大切な友達の雁夜に私に行くの!」

 

 友達、その言葉に何処か引っ掛かりを覚えた花の匂いがするフードの男はアンジェルに一つの質問を投げかかける。

 

「その雁夜君という友人は、君にとってどんな存在なんだい?」

 

「どうって...一緒にいると楽しくて、心がポカポカして、とても大切な人かな」

 

「ふむふむ...それは友人ではなく恋人と言うのではないかな?」

 

「ふぇっ!?こっここ、恋人!?雁夜と僕が...えーっと~うわぁぁぁ!!!」

 

 顔を真っ赤にしたアンジェルはチョコを抱き締めながら凄まじい勢いで走り去ってしまった。

 

「うんうん、ああいう男女の青春も良いねぇ」

 

 さて、恥ずかしさで全速力を出してしまったアンジェルだが、とうとう雁夜が待っているLLLコーポレーション冬木支部に到達した

 

「雁夜~!起きてる?」

 

「どうしたんだアンジェル?俺ならちゃんと起きてるぞ」

 

「あのねあのね!雁夜に渡したいものがあるの!その、これなんだけど」

 

 アンジェルが懐からおずおずと取り出したものを見て、雁夜は絶句した。

 

 それは全力疾走したアンジェルの速度に耐えきれず割れて今にも袋が破けかけた何かである。

 

 この甘い匂い、もしや...

 

「もしかしてそれチョコレートか?」

 

「...ごめんね、ちゃんとしたのを渡したかったのに、慌てて走って来たら割れちゃったみたい」

 

 悲しそうな顔をするアンジェル、そんな姿をみた雁夜はアンジェルをそっと抱き締める。

 

「かっ、雁夜!?いきなり抱き締めるのはその...!」

 

「すまない、ついやってしまった」

 

「うぅ、せっかく雁夜に美味しいチョコをプレゼントしようと思ったのに、これじゃ台無しだよぉ」

 

「いやそんなことはない、俺のために用意してくれたんだろう?だったらそれは俺にとって最高のチョコさ」

 

「良いの?本当に受け取ってくれる?」

 

「ああ!どんと来い」

 

「ありがとう雁夜、大好きだよ!」

 

 満面の笑みを浮かべるアンジェル、その顔を長めながら...

 

 そして、世界がひび割れる。

 

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 青空の下、椅子に座った一人の男が目を覚ます。

 

『久しぶりに美しい夢を見た...そうか、あいつはもういないんだったな、あいつって誰だっけ...?』

 

 男は椅子から立ち上がり、記憶の欠片だけを頼りに行く当てもなく歩き始める。

 

 可能性の芽は潰え、全ての鏡は砕け散った。

 

 この世界にはもはや争いもなく人類に訪れる危機も存在しない。

 

 本当に平和そのものだ。

 

 だが、この胸に残る絡みつくような焦燥感は消えることがない。

 

 男は埋めようの無い心の空白、消えない喪失感を抱えて今日も歩む。

 

 何を失ったのかも思い出せぬまま。

 

『俺は何を失った...何を忘れたんだ?』

 

『やぁ青年』

 

 己に話しかける何者かの声。

 

 男が顔をあげると、自分がいつの間にか見知らぬ道に入り込んでいたことに気がついた。

 

 そして、目の前には真っ白な男が一人紅茶を啜りながら此方に好奇の視線を向けている

 

『あんたは誰だ?...いや、何故かあんたのことは知っているような気がする』

 

『ふむ、無理矢理とはいえ存在の枝を辿って復元した甲斐があったようだね...さて、君は自分が誰なのか覚えているかな?』

 

『俺は...そういえば誰だったのだろう?』

 

『成る程、成る程、肉体を残し魂だけを抽出されたのか。

 そして魂が無くなっても肉体に残った記憶の残滓が体を動かしている...随分とまぁ興味深い事象だね』

 

 目の前の男を見たことがあるような気がするが、それがいつだったのか...そもそもその記憶が本当に自分のものなのかも俺にはもうわからない。

 

『さて、今日は君にある提案をしに来たんだ』

 

『提案?』

 

『もし君に心残りがあるのならば、そして未だに運命へ抗い続ける意志があるならば、その記憶と力...明日を目指し、今を歩み続けている君に託してみないかい?』

 

『託す、託すか...良いだろう、どうせ俺は残骸に過ぎない。

 俺の持ち得る記憶と力、その全てを明日への道を進み続ける者に託すとしよう。

 

 ...さあ、持っていけ』

 

 そう言って、男は煌めく硝子片のようなものを目の前の白い男〝ヴァチカル〝に手渡す。

 

 可能性観測完了『人格本:君はもういない』完成。




 はい、以上ラブラブハートフル時空に見せかけたバッドエンドIf世界でした。

 作者、見る分にはハッピーエンドが好きなんですよ。

 でもね、いざ書こうとするとバッドエンドしか作れないんです。
 だから、この作品だけはハッピーエンドにしたいので、所々こういう回でバッドエンド書きたい欲を発散させているのです。

どれが好き?

  • 黒蟲
  • 虫籠
  • 昆虫学者
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