EGO、アンジェルCEOに散々聞かされた通り幻想体の自我の殻を抽出し人が扱えるようにしたものだが、これがかなり曲者だった。
「確かに持っただけで使えるようにはなったが、少しでも気を抜くと振り回されるな」
「でしょ?それがEGOの魅力であり厄介な所、どんな人でも装備さえしてしまえば勝手に扱えるようになることと引き換えに、ただ使うだけでは使う側が使われる側になって振り回される」
確かにその通り、俺はCEOに渡されたEGO『懺悔』を振るえはしたものの、まるでEGO側が自分の体を動かしているかのようなそんな不思議な感覚を覚えた。
アンジェルCEOによると、EGOは武器など扱ったことすらない一般人すらある程度の戦力に変えることが出来る魔法のようなものだが、その便利さと引き換えに使いこなさないと持ち主をEGOに内包された記憶の中の動作をただ繰り返すことしか出来なくしてしまう厄介なデメリットが存在するらしい。
だから俺がEGOを振るった時に体に不思議な感覚が走ったというわけだ。
「EGOを完全に使いこなすためにはそのEGOの本質を理解する必要がある、EGOは幻想体の自我の殻...つまりは自分以外の誰かの在り方そのもの、だからこそEGOを深く理解することで完全に使いこなせるようになるというわけ」
「本質を理解すると言ってもこれがただ敵を殴るものということ以外なにも思い付かないんだが」
「1つ簡単な方法があるよ」
物凄く嫌な予感がする。
「そのEGOの抽出元になった幻想体に会うんだよ、彼らと相対することでもしかしたら何か掴めるものがあるかもしれないね、僕の場合は大体そうだったし」
今さらっととんでもないことを言わなかったか?
「それも無理なら後二つほど方法を提示できるよ。
・1つ目、EGOの抽出元である幻想体と殴り合うこと、これは幻想体とEGOに自分の実力を見せて認めさせるって方法。
・2つ目、鏡を使ってそのEGOを使っている世界線の人格を被る方法、こっちは既に扱い方を習熟してる自分から技術を先取りする形になるよ」
「ちなみにお勧めは?」
「殴り合い、一番わかりやすくて簡単でしょ?生きてさえいればうちの機密指定技術で治せるし」
やっぱり殴り合いなのか。
「でも雁夜にはまだちょっと早いかな~それこそEGO使って戦場にでも突っ込むくらいしてから試した方が良いと思う」
「なんで戦場なんだ!?」
「...だってそっちのほうが安全なんだもん」
嘘だろ、幻想体と殴り合うより戦場のほうが安全なのかよ。
そんなこんなでEGOの取り扱い訓練をしている中、俺はふと気になっていたことを思いだしCEOにとある質問を投げ掛けた。
「そういえば、なんであんたはずっと〝目を閉じて〝いるんだ?」
「あぁこれ?一応開けてるんだけど物凄くうっすらで目線を支障のない程度に下へ向けてるから閉じてるようにしか見えないんだよね」
「いやそうしてる理由を聞いたんだが」
そう聞いた瞬間、アンジェルCEOの纏う雰囲気が変わった。
「開けたら死ぬから」
部屋の空気の一変し、明らかに怒気のようなものが伝わってくる。
「死ぬって誰が?」
俺は若干の怯えを覚えながらも、抑えきれぬ好奇心のままに質問を続けた。
はっきり言おう、これが完全に間違いだったんだ。
「大勢...ごめんね、これ以上はお母さんとの約束を破ることになるから話せない」
「あっ」
一変した部屋の空気が元に戻り、アンジェルCEOから漂っていた怒気のようなものが消えてすぐにCEOは謝りながら部屋の外へ出ていってしまった。
アンジェルCEOが部屋を出るあの一瞬、少しだけだがあの人の顔が見えた。
それはとても悲しそうで、何かに怯えるような表情で、そして殆ど閉じたその眼からは〝黄金の光〝が漏れ出していた。
俺はもしかして、あの人にとって絶対に聞かれたくないこと、本当に聞いてはならないことを聞いてしまったのか?
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「どうしよう、怖がらせちゃったかな?嫌われてたらどうしよう」
ぐるぐると思考が回り感情の振れ幅が乱高下する、僕と私が行ったり来たりしてどうにかなってしまいそう。
「でも雁夜が悪いんだから!僕が聞かれたくないことばかりピンポイントで言い当てちゃうんだもん!」
お母さんともお父さんとも違う色をした蒼白の髪を指先で弄くり回す。
私が悩んでる時にやってしまう悪い癖だ。
「...いつかは話さないといけないよね」
『...』
「うん、ごめんねいきなり押し掛けちゃって、君は静かなほうが好きなのに」
『...』
「心配してくれてるの?ありがとう審判鳥!」
アンジェルが話しかけている存在、それは黒き森の守り手たる三羽の鳥が1つ、裁きの天秤を持つ鳥『審判鳥』である。
ちなみにだが、アンジェルがこうして審判鳥の収容室に駆け込んで話しかけている間、間桐雁夜は再び罰鳥につつかれていた。
だが今度は微動だにもせず、その罰を受け入れた。
己がやってはならないことをしたと自覚したからだ。
心なしか、罰鳥の啄みはいつも以上に強いものであったと施設の記録には残されている。
なお少し後に記録を見てその事を知ったアンジェルが慌てて私室に戻り、つつかれ過ぎて血まみれになった雁夜を手当てしながら仲直りしたのを見て、何体かの古参幻想体たちが暖かい眼をして見守っていたのは内緒である。
審判鳥は子を見る親みたいな目でアンジェルを見ています。
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