都市だと思ったら冬木だった(現在凍結中)   作:森の翁

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 備考:この作品を書く前に作者名はリンバスの一部ストーリーを履修している。

 つまりどうなる?


すれ違いはかくも悲しきかな

 ...此処は何処だ?俺は...いつの間にか眠ってしまったんだな。

 

 直前の記憶を必死に手繰り寄せるが、アンジェルCEOにソファーへ寝かされて以降の記憶がない。

 

 辺りを見渡す、何もない...ただひたすらに何処までも続く暗闇があるだけの虚空。

 

 俺は何故こんなところにいる?

 

 思索を巡らせ思考を絶えず回し続けるが結論は出ない、何せ一つとしてこんな場所に訪れようとした覚えがないのだから。

 

 だが、そんな停滞した思考を切り裂くように一つの声が響く。

 

『お前は直視しなければならない』

 

 暗くて何もない虚空に鳴り響く唐突な声、誰だこの声は?

 

 何故だろう...どこか聞き覚えのある声だ。

 

『覚悟が出来たなら、この先の門を開くが良い』

 

 さっきまで暗闇しかなかった空間に輝く黄金の装飾が施された門が現れた。

 

「これを開けば良いのか」

 

 いつの間にか声は消えていた、この門の先にいったい何があるというのか。

 

「一応ノックしてみるか」

 

 コツコツコツと門を三回ノックする、反応はなかった。

 

 仕方がないのでゆっくりと門を押してみた。

 

 するとどうしたことだろう、その門は大きさから想像出来ない程に容易く開き、その奥の空間にはなにやら祭壇のようなものが見えた。

 

 近づくと祭壇には一冊の本が置かれていた。

 

 タイトルは『独りよがりの昆虫学者』

 

「あの声はこれを読めと?俺にこんなものを見せて何になるっていうんだよ」

 

 半信半疑で最小限の頁を捲る。

 

 気付けばまた辺りの景色が変わり始めていた。

 

「何だ?此処はもしかして...」

 

 見覚えのある町並み、もしや此処は...

 

「冬木なのか?」

 

 そこは己のよく知る冬木の町...によく似ているが、何処か違和感を感じる。

 

 そして気づいた、微妙に細部が異なるのだ。

 

「まさか此処は...」

 

『覚悟は出来たんだな』

 

 再び声がした、今度は近くではっきりと。

 

『ならば始めよう、苦痛に満たされた記憶の追想を』

 

 目の前を1人の黒いコートを来た男が歩いている。

 

 頭にはつばの広いフェードラ帽を被り、首回りは元が何であったのかわからない素材で出来た黒と玉虫色の混じったファーで覆っている。

 

 そして男が歩く先には巨大な屋敷が建っていた。

 

「この屋敷は?」

 

 返事は帰ってこない、気づけば男は消え俺は再び1人になっていた。

 

「入れということか」

 

 あの男はしきりに〝覚悟〝という言葉を強調していた。

 

 それだけの何かがこの屋敷にはあるのか?疑問は尽きないが、今はただ進み続けよう。

 

 玄関扉を潜り屋敷内に入った俺を出迎えたのは、再び暗闇が広がる虚空だった。

 

 だが今度は少し勝手が違う、暗闇に何やら人影が浮かび上がっている。

 

「もしや、これはあの声の男の過去なのか?」

 

 だとすればあの声の主はまさか...

 

 暗闇に浮かび上がる人影は四つ、そのうち3つは明らかに小さく、おそらく子供であろうことが理解出来た。

 

 そうして観察しているうちに人影が動き始めた。

 

 成る程、追想とはこういうことか。

 

 つまり此処は、あの声の主の人生を追体験する劇場なのだ。

 

-------------------------

 

『俺の最初の記憶は、あの忌々しい家を抜け出したことから始まっている』

 

 見覚えのある、しかし細部の異なる屋敷が目の前に写し出された。

 

『俺はとにかくあの家を抜け出したかった、あの爺の思い通りになってたまるかと必死だったんだ』

 

 屋敷から1人の少年が駆け出してくる、その体はボロボロで、明らかに人の手によるものではない傷が目立つ、これが声の主の幼少期か。

 

『逃げ出した先で俺は1人の男に出会った、傷だらけの俺を見て男は何を思ったのか、俺を自身の家に連れて帰った。

 

 これが、全ての苦痛を生み出す元になり、大切なものを全て壊してしまう厄災の始まりであるとも知らずに』

 

 再び場面が切り替わり、何処かの屋敷の中が映された。

 

 その屋敷の玄関扉には見覚えがあった、先ほど俺が通ってきた扉だ。

 

 そして声の主は自分を拾った男に連れられ、おそらく男の子であろう2人の子供に引き合わせられている。

 

『あの男は何を思ったのか、あの2人の前で俺を養子として迎えると言った。

 

 当然周囲の反対もあった...曰く「何処のものともしれない得たいの知れないものをこの屋敷に引き入れるのは良くないと」はっきり言って、この言葉には俺も同感だった。

 

 初対面のガキを養子として迎えるだなんてどうにかしてる、絶対に無理だしどうせ俺は家に連れ戻されるのだろうと、そう思っていた』

 

 声から伝わってくる二つの感情、片方は郷愁だと思うがもう片方は、もしやこれは後悔か?

 

『結局、あの男は周囲の反対を押し切り、俺を引き取ることに決めたらしい、そうして俺は...禅城の家の末子として迎え入れられた』

 

 禅城、それは確か葵さんの。

 

『予想に反して、俺は案外早く禅城家の人々に受け入れられた、他の者が嫌がるようなことも率先して行い、それはもう必死に溶け込もうと努力したことが功を奏したわけだが、そうしているうちに俺はこの家の一人娘である禅城葵と仲を深めていった』

 

 やっぱりそうだったんだ。

 

『きっかけは本当に些細なことだった、彼女が本を取ろうとして転びそうになっていたところを助けた、ただそれだけの話だったが、それをきっかけに俺は彼女と良く話すようになっていった。

 

 だが、その小さな幸せは決して長くは続かなかった』

 

 いったい何が...

 

『俺の出自が禅城家の人々にバレてしまったのだ、忌々しい蟲使いの家系たる間桐の血を継ぐ者であると、そこからの日々はもはや筆舌に尽くしがたいものに変化した。

 

 食事に針が入っているくらいは当たり前、屋敷内を歩けば影から穢らわしいものを見る目でこちらを見つめる使用人たち、そして極めつけは禅城の長男、彼は特に俺を忌み嫌い...悍ましい蟲使いがいつまで禅城家に居座るつもりだと、会う度に心を抉るような罵声を俺に浴びせかける。

 

 もはや俺の味方は葵しかいない、そう思っていたんだ』

 

 場面が更に切り替わり、映し出されたのは使用人の1人と会話する葵さんの姿。

 

『お嬢様、貴女があの穢らわしい蟲使いの子を好いているという噂がたっております、このままでは禅城家の沽券に関わる由々しき事態になりかねません、噂が事実かどうかお嬢様自身の言葉で確認させていただきたく存じます』

 

『あの人はそんなんじゃないわ、ただの友達みたいなものよ、好いているなんてあるわけないじゃない』

 

『彼女のこの言葉が決定打になり、俺は禅城家を去った。そして、見苦しくもあの忌々しき間桐の家に戻った』

 

 成る程、全てが重なり限界が来てしまったのか、引き金にはずっと指がかかっていた。

 

 それを引いてしまった最後の決定打が葵さんの拒絶。

 

『何をしに戻って来た雁夜よ、お主は禅城の家に拾われたのだろう?せっかくこの家から抜け出せたと言うのにまさか帰ってくるとはのぉ』

 

『臓硯、俺に間桐の魔術を教えろ』

 

『ほぉ?いったいどういう風の吹きまわしじゃ?』

 

『力がいる、誰にも見下されない程に強い力が、その為なら間桐の魔術だろうが何だろうが全て利用してやる、だからあんたの知識を俺に寄越せ!』

 

『呵呵、逃げ出した臆病者が言い寄るわ...良かろう、間桐の魔術を存分に啜るが良い』

 

『こうして俺は臓硯のもとで間桐の魔術を学び、やがて間桐の奥義、蟲を扱う魔術の秘奥まで至った俺は、間桐の当主となった。

 

 たが、心に空いた穴はそれでもなお埋まることはなく、絶えず俺を苛み続ける。

 

 魔術を極めるうち、己の体に植え付けられた臓硯の本体のことも知り、みっともなく命乞いをするあの妖怪爺を始末した俺は、最早唯々日々を浪費する脱け殻となった』

 

 魔術を極めてなお、この声の主は満たされたなかったというのか。

 

 嗚呼、どうしてこの声はこんなにも寂しげで、そして悲しげなのだろうか?

 

 この先にいったい何が。

 

『そうして空虚な毎日を送るうち、聖杯戦争が近づいていると知った。

 

 御三家の血を引き、あまつさえ当主にまでなった俺にも当然令呪は現れた。

 

 興味はなかった、だがこの戦いを乗り越えた時、もしかすれば俺を蔑んだあの家の人間たちを見返してやれるのではないかとそう思ってしまった』

 

 まさか、いやそんな....あり得ない。

 

『そうして聖杯戦争に参加した俺は順調に勝ち上がり、マスターは俺を含め残り2人になった』

 

 もうやめてくれ。

 

『最後に残った敵のマスターは、何処か俺の知っている女に似ていた...顔は仮面で隠されていて見えないが、纏う雰囲気が何処か彼女に似ていて、だが俺はその疑念を振り払い、最後の敵を討ち倒した。

 

 その勢いのまま、俺は禅城家に向かった。

 

 これでようやく彼らを見返すことが出来る、葵に面と向かって胸を張れる、そう思ったんだ。

 

 だが、現実は違った...禅城の家に着いた時、俺は彼女の、葵の死を告げられた。

 

 理解していた、わかっていた筈なんだ...最後に殺したマスター、その仮面が戦いの中でひび割れ、最後にくだけ散った時見えたその顔は、間違いなく彼女そのものだったのだから、俺はどうか間違いであってくれと強く願っていたが、結局の所その願いは叶わなかったのだ』

 

 嘘だ...俺が葵さんを殺した?あり得ない...絶対にあり得ない!

 

『風の噂で彼女が魔術師の家に嫁いだことは知っていた、だからこそ俺の中には既に彼女への想いも消え果て、残っていたのはただ彼女を見返したいという願いのみ、その筈だった。

 

 だが、彼女の夫だと言う魔術師に聞かされた彼女の願いによって、俺の心は強い苦痛と後悔に満たされたよ、彼女は俺のことをずっと愛していた...愛していたんだ。

 

 それなのに俺はその事を知らずに彼女を手にかけた。

 

 彼女の聖杯にかける願いも聞かされたよ、曰く「あの日、彼が出ていってしまったきっかけを作った己の言葉を取り消したい、全てをなかったことにしてやり直したい」と、そう言っていたそうだ。

 

 俺は激しく自分を憎悪した。

 

 何故こんなにも彼女に愛されていながらこの身は気づかなかったのか、何処かで気づけた筈だろうに、ひねくれた己の愚かしさで全てを台無しにしてしまったのだ』

 

 何てことだ、つまりあんたは...

 

『間桐家第5代目当主マキリ・雁夜、これが俺の苦痛に満ちた記憶の全てだ』

 

 気づけば、いつの間にか男が目の前に立っていた。

 

「あれが、違う世界のこととはいえあれが!俺の末路だって言うのか!」

 

『そうだ、間違った道をゆきながらそれに気づかず...いや気づいていながら引き返せなかった男の末路、それがあの記憶...そして俺の正体だ』

 

「どうしようもなかったのか?他にも道はあっただろう!」

 

『あぁ、きっと他にも道はあっただろう、だが俺にはそれが受け入れられなかった...ただ彼女の元へ行きあの時の言葉の真意を訪ねる、それだけて全てがうまくいった筈だろうにな。

 

 俺は結局のところ何処までも間違えた愚かな男だった。

 

 だが、お前はまだ違う、お前にはまだ可能性がある』

 

 男は続ける、間桐雁夜という男の行き着く先...その末路、マキリ・雁夜は言葉を止めない。

 

『俺は駄目だったが、お前にはまだそうならない道が残っている。

 

 俺とお前で明確に違う点...お前はそれを活かせ。

 

 決して、俺のようには...なるな」

 

 男がそう告げた瞬間、今まで映し出されていた光景は消え、闇に包まれた虚空もまた崩壊を始める。

 

『受け取れ、お前がこの先に待ち受ける試練を乗り越えるために』

 

 完全にその体が消え果てる前のその一瞬、男が笑ったような気がした。

 

 俺の手元には、真っ黒な表紙をした一冊の本だけが残された。

 

【人格頁:『独りよがりの昆虫学者』】

 

「ありがとう...マキリ・雁夜、もう1人の俺」

 

 俺は、絶対あんたの辿りつけなかった道の先へ、後悔なんてしない道を歩めるよう努力するよ。

 

 そのために、あんたは俺の前に出てきたんだろう?




 はい、読者層の皆様方が言いたいことはわかっております。
「てめえやりやがったな!?」ですよね、わかっておりますとも、ワザリングハイツを履修したらとてもとても型月ナイズしたくなったのですよハイ。

 わたくし、ああいう物語が大好物でして...その、一応物語好きの愉快な隣人としてやらせていただいているのであの、あっお客様困ります、どうか石をぶん投げるのは辞めてくださいませ、これはあくまで別世界、本編とは異なる歴史を辿ったIf世界でございますので...後複数残ってるけど。

どれが好き?

  • 黒蟲
  • 虫籠
  • 昆虫学者
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