奇跡も魔法もあこがれも   作:Hallo!

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Episode 2

 

 

 カチリ、と硬質な音が脳裏に響く。

左腕の盾が刻む時の中に、また一つ、新たな失敗の記録が積み重なる音だ。

 

 目を開いた『彼女』は病室のベットから上体を起こして……もう一度枕に頭を預ける。

随分勢いが付いていたのか、枕からくぐもった音が響くが、今はそのことを気に止める気分にもなれなかった。

 

 再び瞑目すると、彼女……『暁美ほむら』は前周の記憶のことを思い返し始める。

 

 

 ――今回で、15回目のループ。

 

 例え、『鹿目まどか』の契約をワルプルギスの夜が襲来するまで阻止できたとしても、あの魔女に負ければあの子は『インキュベーター』と契約して魔法少女になってしまう。

だから、前回はこれまでに組み上げたチャートを一度切り崩してでも『ワルプルギスの夜』を越えることだけを目指し、見滝原の魔法少女と佐倉さんの力も総動員して、全力の総力戦を展開した。

 

 ……結果として、ワルプルギスの夜を倒すには及ばなかったけれど、これまでのループの中でも最良の条件下で戦うことができたのは間違いない。

 

 それに……みんなとまた肩を並べられたのは、悪い気分でもなかったし。

 

 

「……無限の可能性、ね」

 

 ――あのインキュベーターの言葉に乗せられたわけではないけれど、今回は前回の経験をもとに、ワルプルギスの夜を確実に越えられるだけの戦力を用意できるフローチャートを確立するのも一考の余地があるかもしれない。

 

 あの子が契約している以上、例えワルプルギスの夜を越えられたとしても、その先に待っているのは、あの子が『最悪の魔女』と化して世界を滅ぼしてしまう未来だけ。

 

 最後には……必ずやり直す必要に迫られるでしょうけど。

 

まどかが魔力を使い果たして放つあの一撃に代わる何かを見付けられなければ、どの道、運命を切り開くことなんてできないのだから。

 

 

 ――こうして、『暁美ほむら』は『この世界線の鹿目まどか』を魔法少女にすることを選ぶ。

それが、一度切り捨てた可能性を焼き増しするだけになったとしても……今の彼女には、もう足を止めて考える心の余裕すら、ありはしなかった。

 

 

 

 ループの起点である退院の日から2日が経過し、暁美ほむらは今回のループにおけるターニングポイントとなる瞬間へと立ち会っていた。

 

 それは、鹿目まどかが最初にキュゥべぇへ願いを託す原因となった、魔女の『使い魔』により暴走した乗用車が黒猫エイミーを轢く凄惨な事故。

その事故は、本来彼女が最も回避すべき破滅への入り口でもあったが、過去の統計上、このタイミングでの契約こそ鹿目まどかが魔法少女として最も長く生存し、かつ魔女化までの猶予を稼げることも……確かであった。

 

 しかし――ビルの屋上からフェンス越しに道路を見下ろす彼女の『ソウルジェム』は、この事故の先に鹿目まどかを待ち受ける運命を思い、密かに濁り始めていく。

 

 

 ……少しだけ、胸の奥が痛む。

どんな理由で飾り立てようと、私がこの世界線のまどかを切り捨てようとしていることには変わりなくて。

こんなふうに、徐々にまどかとの別れに鈍感になっていく自分自身のことが……私は、嫌だった。

 

 

 ――自身の内面に浸る彼女が見下ろす先で、ついに悲劇の幕は降りる。

 

 

一匹の黒猫が車道へと飛び出し

 

遅れて響くクラクション。

 

ドライバーの反応は遅れ

ブレーキもまた、間に合わない……。

 

 

(……ごめんなさい)

 

 盾に手を掛け、目を伏せる。

この事故を見逃すことが、鹿目まどかの運命を少しでも長く引き伸ばすための代償だというのなら……

私は、この先に響くまどかの悲鳴を、記憶に焼き付けておかなければならないから。

 

 

 ――だが、予想していた衝突音と、あの子の悲痛な声が往来に響くことはなかった。

 

 

キキィー……!

 

「みゃう!?」

 

 

 代わりに聞こえたのは、ほんの小さなブレーキ音と、突然の事態に驚愕する猫の鳴き声だけ。

 

「―――えっ?」

 

 目を見開いた視界の先では、信じられない現象が起きていた。

 

 真っ直ぐに突き進んでいた乗用車が、子供の手で静止された玩具のように――あるいは『最初から運動エネルギーなど持っていなかった』かのように、不自然なほどの静寂を保って停止していたのだ。

 

黒猫の鼻先、わずか数センチの距離で。

 

 時間停止? ――いいえ、私は時を止めていない。

『巴マミ』の拘束魔法? ――違う、彼女のリボンの形跡も見当たらない。

 

 

 じゃあ……誰が?

 

 

「あっ……だ、大丈夫!?エイミー!」

 

 車道へ駆け寄り、猫を抱き上げるまどかの姿が見える。

黒猫に微笑みかけて安堵の息を漏らす彼女の姿を見て、私は、ほっと息を吐いていた。

 

「……」

 

 エイミーが怪我をしなかった以上、今のまどかがキュゥべぇに縋る動機はない。

少なくとも、3日後の工場見学で『美樹さやか』が魔女結界に惹き込まれるまでは、接触することはあっても契約を交わすことはないだろう。

 

 ……これで、良かったのかもしれない。

あの子がこのまま契約することを見届けてしまったら、私は、何か大切なものをなくしてしまっていた気がするから。

 

 「――けれど、無視できない要素も見つかったわね」

 

 巧妙に隠蔽され、魔力の残滓すら見てとることはできなくても、『本来の筋書き』を知るからこそ気付くことができる違和感。

 

 使い魔の影響下にある車の減速が間に合ったのは、おそらく何かしらの魔法による干渉があったから。

――なのだけれど、もしこの仮説が正しいとすれば、この町にはまだ、私の知らない魔法少女が潜んでいるということになる。

 

 これまでの周回には見られなかった不確定要素の存在。

どこの誰かは分からないけれど……今のようにまどかの運命に干渉される可能性がある以上、その正体は必ず確かめないといけないわね。

 

 ――可能なら、ラルプルギスの夜と戦うための新たな戦力として数えることも検討したいところではあるけれど……これまでの周回で影も形もなかったことを考えれば、戦力としては望み薄である可能性の方が高いかもしれない。

 

「正体を探るのもそうだけれど……

鹿目まどかに害をもたらす存在なのか、見定める必要がありそうね」

 

 暁美ほむらは風に靡く黒髪を手で払うと、静かにその場を後にした。

 

 

*****

 

 

 ブォォォ……と、安っぽいプラスチックの筐体が唸りを上げている。

 

 そこは、駅前にある雑居ビルの4階。

薄暗いリクライニング席の個室。

フロントで購入したバスタオルを頭からすっぽりと被り、『カーテンコール』は備え付けのドライヤーで湿り気の残る髪を乾かしていた。

 

「はぁ〜……。

この辺りのホテルって春先だとすぐ予約が一杯になっちゃうんだなぁ」

 

「……結局、ここの店員さんには悪いことしちゃったけど、『異世界』から来たんですぅっ……なんて言っても」

 

ふぁぁ……。

 

「取り合ってもらえるわけないもんねぇ……」

 

 シャワールームで汗を流したカーテンコールは、結っていた薄桃色の長髪をタオルで丁寧に拭き上げると、ふにゃりと頬を緩ませる。

 

 完全防音の個室の外から漂ってくるのは、独特な芳香剤の香りと、微かなタバコの煙だけ。

 

わたしが居た世界でも見慣れたネットカフェの空気感。

ホテルもいいけど、この秘密基地っぽい狭さが、見知らぬ街に放り込まれたわたしの心を落ち着かせるのに一役買ってくれていた。

 

 眠い目を擦り、個室に備え付けられたパソコンの液晶に目を運べば、すでに日付も切り替わり、時刻は深夜の2時を回ったところだった。

 

 ……普通なら、高校生に上がったばかりの女の子がこんな時間に、それも身分証なしで利用できるような場所じゃないのは分かっているけれど、流石に何の用意もなく野宿をする危険には替えられない。

 

 

 ――だから、少しだけ魔法の力を借りました。

 

 

 フロントに足を踏み入れたカーテンコールは、魔法少女が変身前の姿を悟られないように使用している『共通魔法(コモンマジック)』の1つを使用していた。

それは、発動者の姿を誤認させ、相手の脳が問題のないものとして処理するよう「認識を滑らせる」――『認識阻害』の魔法。

 

 彼女はこの魔法の影響下に置いたフロントマンの認識を、「彼女は成人女性であり、正規の運転免許証を提示した」という認識へ置き換えることにより、正規の料金を払って、無事に個室を借り受けたのだ。

 

 

 

(店員さん、ごめんなさい……!

決して怪しいものではありませんので……たぶん)

 

 入店時のやり取りを思い返し煮え切らない思いを抱きながらも、彼女は今晩最後の作業を開始する。

 

「さてと、髪もちゃんと乾いたし……

ここからは魔法少女のお仕事の時間だね」

 

 パン、と頬を軽く叩いて気合を入れると、彼女は青白い光を放つモニターへと向き合った。

カチカチ、とマウスを操作して地図検索サイトを開くと、画面いっぱいに表示された付近の地図を目に入れる。

 

 

――見滝原市

 

 

 この街の駅で最初に見かけたその地名は、やはりカーテンコールの知るどの都市の名称とも一致しない。

……となると、ここはやっぱりわたしのいた世界とは別物だったりするのかな?

 

 彼女は思索を巡らせながら、そのデジタルな縮図の上に、『探知魔法』で突き止めた魔力の波動を一つずつ重ね合わせていく。

 

――昨日、この街に降り立ったときに感じた、あの『ざらり』とした魔力の気配。

 

「えっと、駅の東側……この商店街の裏路地あたりに2つ、だったかな?」

「後は、西側の工業地帯と……ここって病院の近くかな?危ないなぁ」

 

 地図検索サイトのピン機能を使って、魔力の反応があったと思しき場所に赤いマークをポチポチと打っていく。

 

 昼間の記憶と照合しながら、マウスを走らせること数十分。

完成した「魔力反応分布図」を見て、彼女は眉を顰めた。

 

「……どうして、一つの街にこんなにたくさんの反応が集中しているんだろう……。

この内のいくつかが、この街の『魔法少女』の魔力反応だったとしても、いくら何でも多すぎるような……?」

 

 ――見つめる画面上の三滝原市は、至る所が赤いピンにより埋め尽くされていた。

それは、まるでこの街全体が、見えない何かの呪いによって蝕まれているかのような有様だったのだ。

 

 

 ……わたしの世界の魔物は、もっと散発的で、その影には決まってエノルミータの暗躍があった。

魔物はポータルを通じてどこかから転送されてくるか、その場で生み出されるというのがお決まりのパターン。

 

 でも、この世界の「敵」は違う。生活圏の中に当たり前のように潜んでいて、じっと獲物を待ち構えているみたいな……そんな、縄張り意識を持っているのかもしれない。

 

「……この街の魔法少女の子たち、大変そうだなぁ」

 

 モニターの光に照らされた指先が、地図の中心――見滝原中学校付近をなぞる。

ポータルの中で目にしたあの光を放った子たちは、こんな包囲網の中でも、頑張って戦い続けているんだろう。

 

「……よし、決めた!」

 

 私はマウスを手離して、モニターの中の地図を指差した。

 

「まずはわたしが、この街の『お掃除』を手伝っちゃおう。

 それで、街が少し綺麗になったら……その子たちに会いに行くの。

 『はじめまして』のご挨拶は、とびっきりの笑顔でしたいもんね!」

 

 敵の配置は分かった、地形もバッチリ。

後は、――『私』が「舞台」に上がるだけ。

 

 薄暗い部屋の中で、『魔法少女』は悪戯っぽく笑う。

 

「待っててね……この街の魔法少女さん。

 あなたたちのステージを邪魔する悪い子たちは……『カーテンコール』が、片っ端から退場させてあげるから!」

 

 

 

 

 

……ふぁぁぁ………。

 

「――とりあえず、今日のところはおやすみなさい!」

 

 




ちょっとずっと書き進めて何とか2話目完成です。

Geminiくんにシチュエーションや独自設定を投げながら少しずつ物語を肉付けしていきましょう。
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