短編   作:dolph

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パスワード2

 サイトは目の前にあるのに、ログインが出来ない。

 複数あるメールアドレスのメールボックスを開いてみても、SNSから送られてきたものは一つも見つからなかった。

 

 

「パソコンなおった?」

 

 翌朝、部屋でPCに向かっていると妹が入ってきた。

 

「一応な」

 

「よかったね」

 

 他人事のような言い方が気に障ったが、怒っても仕方ない。PC自体はほぼ復元できたのは確かなんだ。

 問題はパスワード。

 あちこちで作ったアカウントは問題なくログインできた。SNSだけはまったくわからない。

 そもそも、どういう切っ掛けで登録したんだったか。俺みたいなのがどーしてソーシャルネットワークなんぞに手を出したんだ?

 ブログ書くだけならブログだけのところにしておけばよかった。どっちみちパスワードを忘れればどうにもならないのは一緒なのだが。

 始めたのは確か一昨年くらい、のはず。

 「たぶん」とか「はず」が多くてまったく自信がもてない。

 

 今日も唸ること三十分。

 

 どーせブログを書いてただけだし、そのブログも半分はバイトの愚痴みたいなものだ。

 誰かと仲良くなったとか全くないし、やりこんだミニゲームがわるわけでもない。そんなことを考えたら面倒になってきた。

 

「よし、やめた」

 

 俺はあっさりSNSをブックマークから外した。

 ログインできない以上、ブックマークしていても仕方ない。

 

「あ、パソコン終わった? ちょっと借りていい?」

 

 俺がPCから離れたのを見計らって、妹が返事を待たずにブラウザを立ち上げる。

 

「いいけど、今日は変なことするなよ」

 

「大丈夫。昨日の掲示板に行って文句言ってくるだけだから」

 

 昨日の奴が今日もいるとは限らないだろうが。

 妹に常識を教えるのは誰の役目なんだ。いつか悪い男に騙されそうで心配でならない。

 

「ねえねえ! ごめんね、って謝ってくれた人がいたよ」

 

 それは絶対にからかわれてるだけだ。

 

「てか、掲示板くらいなら携帯使えよ」

 

「パソコンの方が見やすいし早いんだよ」

 

「高校行ったら親父が買ってやるって言ってるぞ。遊んでないで勉強頑張れ」

 

「うん。またあとで使わせてね」

 

 俺の妹とは思えん素直さだ。親父曰く母に似たらしい。

 妹のことはさておいて、ブログをどうするか。

 今までのSNSで別アカウントとるのは止めておいた。

 使い勝手がわかってるから便利でいいかもだが、どうせなら新しいとこでゼロから始めてみたい。

 新しいサイトは……。

 

 

 それから半年後のこと。

 妹が高校入学を決め、PCを買ってもらった。

 俺は問題なく進級。学校が変わるなら兎も角、学年が一つ上がったくらいで変わることは大して無い。せいぜい講義に専門色が強くなってきたことくらいだ。

 新たに始めたブログも投稿数が百を越え、ようやく愛着らしきものが出てきた。

 今日のお題は妹のPC。メーカー製のノートが安くなってきたなぁとしみじみ書き始めたところで思い出した。

 俺が使ってるPCの本体は、BTOで組んでもらったもの。ディスプレイとキーボードは、なんだか妙なこだわりを発揮してそれぞれ単体で買っていた。

 キーボードを裏返し、貼られているシールを見てようやっと完全に思い出した。

 

 俺は、キーボードの型番をパスワードにしたんだ。

 なんでこんな凝ったパスワードにしたんだ。

 

 早速あのSNSを開き、IDとパスワードを入力する。ログイン完了。あの日にログインできてたら嬉しさ爆発だったろうけど、今更ここに来てもやることなし。

 新しく実装されたサービスを見ると里心がつきそうだったので、ログアウトして綺麗に忘れようとしたら、赤い文字が目に付いた。

 

『新着メッセージが届いています』

 

 幽霊ユーザーにも運営はきちんと通知するんだな。

 読んで消して、ついでに退会手続きしようと思ってクリックすると、タイトルが『こんにちは』だった。

 本文は『ブログを書くのを止めちゃったんですか?』。

 

 日付はブログの最終更新日から一ヵ月後。

 差出人は初めて見る名前。ここで知り合った人なんていないんだから当然だ。

 ユーザー名をクリックしてその人のページへ飛んでみると、既に退会した後だった。




おしまい
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