聖戦士伝説
ロデニウス大陸 クワ・トイネ公国
エルフの聖地 リーン・ノウの森
深く、そして豊かな森。
陽の光は大木によって遮られ、大地には木漏れ日が届いていた。
小川は森を清らかに流れ、辺りには水音と、小鳥たちのさえずる声が聞こえていた。
やわらかなそよ風が吹き、肌には少し涼しく感じられた。
大気はどこまでも澄み、潤っていた。
エルフの聖地、リーン・ノウの森の入口で、ハイエルフであるミーナとウォルは客人を待っていた。
「聖地に…人間を入れるのは嫌だな」
ウォルがつぶやいた。
彼の知る限り、聖地に彼ら以外の種族が入った事はなかった。
歴史を辿っても、神話の時代、聖地が神森と呼ばれていた時代、魔王との戦いの際、最後の砦として利用されたのが最初で最後だった。
今日、緊急性もないのに、彼ら以外が聖地に入るの許しがたい。
彼、ウォルはそう考えていた。
「ウォル、客人の前で、それを言ってはダメだよ!
今日来るのは、ロワの国の人たちなんだから!
ロウリア王国の侵攻からクワ・トイネを救って、それに、襲撃から仲間を助けてるんだから!
しかも、トーパ王国では、復活した魔王をロワの騎士が倒したらしいわ」
「ミーナ、お前はのん気だな。
だいたい、ロワの騎士が倒したというが、本当に魔王だったかも怪しいじゃないか!」
コォォ…コォォォ…
二人が話していると、巨大な何かが、まるで呼吸するかのような音が聞こえてきた。
二人は音のする方向を、上空を見上げた。
「な…なんだ、あれ!?」
深い森に暮らす彼らが、初めて見るロワの国の機械。
巨大な空飛ぶ船の姿がそこにはあった。
「そ、空飛ぶ船!?」
驚く二人を尻目に、やがて、船は彼らの目の前に着陸し、船の中から数名が降り立った。
降り立った人間は、身分が高いと思われる男女一名ずつ、革鎧を着た兵士が四名。
そのうちの、身分の高そうな中年の男性が前に出た。
「ロワの侍従長、ミズル・ワウ。聖地を案内して貰えるとの事、感謝致す」
「は…はい」
クワ・トイネ公国の危機を救ってやった、という横柄な態度を予想していた2人は、彼の態度にいささか拍子抜けした。
「ではこちらに…少し歩きます」
ロワの国一行は、二人のエルフに続いた。
2時間後―
「ハア、ハア…ま、まだ着きませんか?」
調査団の一人、若い女性が息を乱しながら、ミーナに尋ねた。
ロワの国の王女、フェル・ロワである。
「もう少しで着きますので、頑張ってください」
ミーナは笑って答えた。
「だから姫様には、船に残るよう申したのです」
「船は退屈なのです、ミズル。」
「全く、姫様はいつも…」
二人はミズルと王女の遣り取りに驚いた。
主人と家臣の間で、このような会話が行われるとは思わなかったのだ。
「しかしここは凄い所ですね。羅針盤も色々な方向を向きますし、案内が無ければたどり着く事すら出来きませんわね」
フェル王女は、手のひらほどの大きさのガラス球を見ながら言った。
ガラスの中で、色の付いた針がくるくると回り続けている。
「神話の時代、魔王軍の侵攻に対して、最後の砦として使われた場所ですので。
森の声を聞けないと、迷ってしまいます」
調査団は深い森を進む。
半刻後―
一行は、草で覆われ、ドーム状なった建物にたどり着いた。
ミーナは、振り返って説明を始めた。
「この中にあるのは、私たちエルフの宝です。
知ってのとおり、神話の時代、魔王軍はこの大陸に侵攻してきました。
魔王の魔力は強く、各種族は魔王に対抗するために、種族間連合と呼ばれる連合軍を結成して、魔王軍に対抗しました。
でも、魔王軍は強かった。
種族間連合は何度も破れ、多くの猛者が散っていきました。
そして種族間連合は、エルフの聖地、神森まで追い詰められました。
魔王の目的も神森を焼き払う事だったようです。
このままでは、エルフが滅んでしまう。
危機感を募らせた私たちの神は、創造主である太陽神に祈りました。
神は願いを聞き届け、自らの使いを…白き騎士をこの世界に降臨させました。
白き騎士は、空を駆け、大地を割る巨大な剣をもって、魔王軍を討ち払いました。
太陽神の使いが使命を終えし時、白き騎士は動かなくなりました。
そして、白き騎士を残して、元の世界に帰ったと伝えられています。
私たちの先祖は、今では失われた時空遅延式魔法を使い、この先に保管しました」
ミーナは草に手をあてると、何か呪文のようなものを唱えた。
建物を覆う草は、まるで生きているかのように動くと、そこに入口が開いた。
草で覆われたドーム内に、外の光は届かないはずなのだが、その中は明るかった。
入り口を入ってすぐ、光の幕が見えた。
それが時空遅延式魔法なのだろうか?
光の幕を抜けて、一行は奥へと進んだ。
程なく、蔦の絡まった像が見えた。
神像のように祀られた、白き騎士である。
その高さは7mほど、蔦が絡まり細部の意匠は伺えなかったが、盾を持ち、頭部から伸びる一本の角と、その背にはマント状の装甲が見て取れた。
「ゲ…ゲ…」
唐突に、フェル王女が唸った。
「ゲ…?」
「…姫様、はしたのうございます」
「ゲド! 巨人騎士ゲド・ダーラ!」
「な…何で!
なぜここにあるのです!?」
ミズルが諫めるのを意に介さず、王女は大きな声を上げていた。
「いったいどういう事だ!!これは!」
「なぜ聖戦士殿の… アズマ殿の乗騎が!?」
一行の中の兵士たちの狼狽ぶりは驚くほどだった。
ミーナはロワの一行のあまりの様子に、不思議に思って尋ねた。
「どうされました?確かに、これは神話の時代からの宝で、この世界のものではありません。
ですが、何をそんなに驚いているのですか?」
ミーナが尋ねるも、ロワの国の一行は、いまだ固まっていた。
《ゲド・ダーラ》
彼らの世界―バイストンウェルにおいて、最初期に造られた巨人騎士(オーラバトラー)。
実験機に近かった《ゲド》を発展させた、名機《ダンバイン》の試作型。
騎士団長用として造られ、《サーバイン》とも呼ばれた巨人騎士であった。
そして、聖戦士アズマ。
ロワの国の聖戦士として、この《ゲド・ダーラ》を駆り、激戦の中で消息を絶った地上人だった。
「アズマ殿‥貴方は故郷に、地上に戻れたのですね‥」
物言わぬ巨人騎士を見つめながら、王女は泣いていた。
簡単な調査の結果、白き騎士、巨人騎士《ゲド・ダーラ》は、保存状態が非常に良く、適切な処置を行えば再び動くと判った。
だが、王女は言った
「この巨人騎士は、エルフの宝。それで良いではありませんか」
「それに、これを動かせる者は、もうおりません」
王女は、寂しく笑ったという。
急に思い立って書き上げたものです。
続けられるかどうかは判りませんが、よろしくお願いします。
サーバインはAura Phantasm準拠です。
オリジナル設定が入っていますが、そこはご容赦を。