ロウリア艦隊南西海上
海の上を、黒い点が帯のように伸びていた。
近づくにつれ、それは次第に輪郭を得ていく。
翼膜。長い尾。空気を叩く筋肉。
その背にまたがる騎兵の姿も見えた。
黒い革鎧に、槍と弓を背負い、鞍の左右には革袋が揺れている。
飛竜騎兵―ワイバーンに跨った騎兵。
ロウリア王国飛竜騎兵、三百五十騎である。
だが、その行軍は、お世辞にも優雅とは言い難かった。
長距離飛行で疲労が積み重なり、隊列が乱れ始めていたのだ。
その飛竜部隊へ、雲に紛れて上空から接近する者があった。
鳥のような頭部と脚部。背に負ったコンバーターを、翼のように広げて飛ぶ巨人。
ロワの巨人騎士《ボテューン》である。
「隊長、いました! パンツァー(ワイバーン)の大群です!」
「まさか、パンツァーを海上で、しかも高空で飛ばすとはな……」
《ボテューン》隊を率いる騎士エイブ・ラダンは唸った。
バイストン・ウェルにおいて、飛竜騎兵―パンツァー・ドラグーンを海上、それも高空で運用するなど想定外だった。
疲労で墜落する危険に加え、撃墜された場合の救助は難しい。
さらに、パラシュートを持たない彼らにとって、高空での撃墜は即戦死を意味する。
(……常識というものについて、考え直す必要があるか)
わずかに思案したのち、エイブは命じた。
「戦闘増速。二手に分かれて襲撃、中央を分断する」
ロワの騎団の、いつもの戦法である。
二騎ずつ、二手に分かれた彼らは、隊列の最も厚い部分めがけて急降下した。
*
ロウリア飛竜隊に悲劇が襲いかかった。
突然、高空から襲い掛かる未知の存在。
射程の短い大口径オーラバルカンを乱射しながらの急降下。
急降下する巨人の体表で火花が弾けた、その瞬間―
数頭のワイバーンが血を噴き、四散した。
飛竜騎士たちはオーラバルカンの火線を浴び、何が起こったのかも理解できぬまま落ちていく。
ロワの騎士の技量は高い。
限られた数の巨人騎士を有効に用いるため、優秀な人材が集められていたからである。
中でも《ボテューン》を駆る騎士たちの腕は、頭一つ抜けていた。
《ボテューン》自体は「乗り手を選ばない」機体ではあったが、固定武装に乏しく、機動性を活かして戦うには相応の技量が必要だった。
他国では、その性質を活かしきれぬまま撃墜される例が多いという。
だがロワの騎団では、《ボテューン》本来の性能を引き出すため、特に技量の高い乗り手だけを選んでいた。
「反転! 群れの中央に飛び込め!」
一度、飛竜隊の中央を抜けた《ボテューン》は、急降下の勢いのまま上昇する。
そして今度は、大群のただ中へ突っ込んだ。
ある騎士は剣を抜き放ち、周囲のワイバーンを切り散らす。
ある騎士は巨大な槍斧―ハルバードを振り回し、暴れまわる。
そして隊長エイブ・ラダンの機体が構えていたのは、巨人騎士用の銃であった。
通称「オーラライフル」。
本来は反ドレイクの先鋒、聖戦士ショウ・ザマの駆る《ビルバイン》のために造られた装備だ。
ロワの国はその構造を参考に独自改良を施し、自軍装備として採用していた。
さらに原型は上下二連式だったものを、下段をチューブ式弾倉に換えていた。
隊長騎は一撃ごとに左手でストックを折り込み装填し、周囲のワイバーンを正確に撃ち抜いていく。
「なんて素早さだ! 振り切れない!」
「こいつら、速すぎる! 火炎が当たらない!」
「斬られる! …うわっ!」
「鳥顔の悪魔…こんな奴らに勝てるはずが…ぐあぁ!」
飛竜騎兵のある者は振り切ろうと加速し、またある者は後方に食らいついて火炎弾を浴びせようとした。
だが速度も旋回性も、《ボテューン》の敵ではない。
ある者は斬られ、ある者は打ち抜かれ、ある者は蹴り上げられた。
彼らの敗北は、隊列の中央に飛び込まれた時点で決まっていた。
同士討ちを恐れて密集を崩せず、十分な反撃ができないまま、一方的に数を減らされたのである。
やがて巨人騎士は、来た時と同様に、ワイバーンの届かぬ高空へ飛び去っていった。
この襲撃で、ロウリア飛竜騎兵は三割以上の損害を受けていた。
誰もが、目の前で起こったことを信じられなかった。
わずかな間に多数の飛竜騎兵が跡形もなく吹き飛ばされ、両断され、海へ消えていった。
「悪魔…鳥の悪魔…」
ある兵士は神経をすり減らし、うわごとのようにそればかりを繰り返していた。
彼らは恐怖した。
クワ・トイネ公国が、得体のしれない連中を味方につけたのだと。
オーラライフルは、レバーアクション式になっています。
原作のものは、上下二連、装弾数2発に見えますので…