浮上
バイストン・ウェル―
それは、人の心の故郷。
海と大地の狭間に存在すると語り継がれる世界。
私達はその記憶を忘れて、この地上に産まれ出てしまった。
魂の安息地。
あるいは、輪廻する魂が再び生を得るための修業の場。
地上で死を迎えた魂が、最後に辿り着く場所だとも言われている。
天を抱く深海には、世界を司る妖精、フェラリオが棲み、
大地には、深い森と山々に囲まれた人々の国が点在。
大地の熱と人々の営みは、世界を支えるオーラの力の源となった。
地の底ボッブ・レッスでは、カ・オスと呼ばれる闇が静かに蠢いていた。
王侯貴族、騎士、そしてフェラリオ、それぞれが己の境界を守りながら、この世界で生きていた。
ある時―
バイストン・ウェル、アの国の地方領主ドレイクのもとに、
地上人―現代の地球人が召喚された。
ロボット工学の権威であった彼は、地上の科学技術と世界を支えるオーラの力を融合させ、オーラマシンと呼ばれる機械を、次々と生み出していった。
生命のエネルギー、オーラ力。
その力は、バイストン・ウェルに生きるすべての存在に影響を与え、中でも「強獣」と呼ばれる巨大な生物は、地上の生物を遥かに凌ぐ力を誇っていた。
オーラマシンによる、世界の支配を目論むドレイク。
その野望のため、優れたオーラ力を持つ地上人が、次々と呼び寄せられた。
剣と甲冑の中世的な世界は、オーラマシンによって、混乱の渦に呑まれいった。
小競り合いに過ぎなかった争いは、やがて戦火を広げ、バイストン・ウェルを二分する、大戦へと発展した。
二つの勢力が、まさに激突しようかという、その時。
眩い光が溢れ、全てを包み込んだ。
―浮上
無数の光の柱が、大地から天へと溢れていった。
それは、世界に混乱を招く機械-オーラマシンを拒絶する光であった。
バイストン・ウェルの全てを包み込む光の奔流が、
全てのオーラマシンを地上に放逐した。
バイストン・ウェルの小国、ロワ。
丘陵と山岳に囲まれた工房の国である。
その国はオーラの奔流に、なぜか国ごと巻き込まれた。
オーラの光は、ロワの国の大地をなぞるように広がり、やがて巨大な光の柱となって天に立ち上った。
海と大地、光と闇、未来と過去、
それらが混在する異界への回廊、オーラロード。
ロワの大地は、オーラロードを貫き、虹色の光とともに、見知らぬ世界へ浮上した。
「…まぶしい?」
男は、思わず空を見上げた。
男は、城門を守る衛兵だった。
光の奔流の中で意識を失い、今ようやく目を覚ました。
最初に気付いたのは、強い光。
彼が知っているバイストン・ウェルの空は、天全体が明るく輝いてた。
だが、今、男が見上げた空には、丸く強い光が、はっきりと存在していた。
「太…陽?」
その言葉を口にしたのは、
地上人と共に戦った騎士だった。
バイストン・ウェルに召喚された、地上人が語っていたもの。
昼と夜を分ける、「太陽」という眩しい光。
信じ難い話だった。
「…ここは」
誰かが、声を震わせた。
「地上界、なのか?」
その問いには、誰も即答できなかった。
だが、否定できる者もいなかった。
ロワの国の王女、フェル・ロワは、
城の中庭から、その光を見つめていた。
「太陽…?」
それは希望にも、不安にも見えた。