ロワの国、王都ロワ。
丘陵を削って築かれたこの城郭都市は、朝から不穏な空気に包まれていた。
「通信、全滅です!」
王城にある通信室で、叫び声が上がった。
「ナの国、応答なし!」
「ラウの国も同様! 通信塔の機械は正常ですが…どこも応答がありません!」
まるで世界の縁に遮られているかのように。
「先程の光、やはりオーラロードを抜けたのですか…」
ロワ城、評議の間。
王座に座る少女―フェル・ロワは、静かにそう呟いた。
彼女の周囲には、侍従長、宰相、騎士団長、そして技術者らが揃っていた。
「確定ではありませんが……」
騎士団長が言葉を選びながら話す。
「星の位置、気候、オーラの流れ、…すべてが、以前と一致しません」
「ナの国やラウの騎団からは?」
「全部隊からの通信途絶。オーラレーダーの反応もありません」
フェル王女は、小さく頷いた。
「……我が国だけが、切り離された可能性が高い、ということですね」
沈黙が落ちた。
この国は、小国であった。
豊富なのは鉱山資源と、数多くの強獣、オーラマシンの製造技術。
―だが。
「食糧の備えは?」
その問いに、宰相が硬い表情で答えた。
「平時換算で…三十日」
「戦の際は?」
「十日が限界です」
小国ロワの最大の弱点。
農地は少なく、食糧の大半をナの国、ラウの国からの輸入に頼っていた。
その“友好国”が、消えた。
「王女殿下」
宰相が続けた。
「このままでは、民の動揺は避けられません。すでに市場では―」
「買い占めが始まっていますね」
フェル王女は、ため息をついた。
「…想定内ですね」
彼女は立ち上がり、広間の中央にある地図台に歩み寄った。
そこには、今朝描き直されたばかりの地図があった。
空白だらけの地図である。
「幸い、我々にはオーラマシンとその技術があります」
「しかし、それで空腹は満たせません」
宰相の言葉は、現実を突いていた。
「ええ」
王女は微笑む。
「だからこそ、です。もし、ここが地上だとしても、食料を売ってくれる国はありましょう」
王都ロワ郊外。
工房―機械の館では、オーラマシンの生産が止まり始めていた。
材料はあるが、売る相手がいないのである。
職人たちの不安は、確実に広がっていた。
城の練兵場では、衛兵たちが噂話を交わしていた。
「ナの国が、消えた?」
「すぐに食糧が無くなるらしいぞ…」
混乱は、静かに、しかし確実に進行していた。
ロワの国の遥か南の空、雲の上を進むものがあった。
淡いグリーンの物体は、亀かカブトムシを思わせる有機的な曲線を描き、各部には砲や機関砲が備えられていた。
オーラシップ《パウ・レン》である。
「オーラの流れが妙だ…やはりオーラロードを抜けたのか?」
狭い艦橋に立つ、艦長マエル・クッラは、無意識にオーラの流れを探っていた。
風は穏やかで、おかしな気配もしない。
だが、世界そのものに違和感を感じていた。
「艦長、オーラ力が…不安定です」
「オーラ・コンバーターの不調か?」
「オーラ・コンバーターは正常。ただ…船が妙に軽い気がします」
操舵士の報告に、艦内がざわついた。
《パウ・レン》は、ロワの国が保有する数少ない飛行艦、オーラシップである。
全長五十六メートル、最高速度三百二十キロ。
オーラシップとしては最初期の物である。
そのため、戦闘能力は低く、設計もすでに旧式の部類に入っていた。
彼らの任務は、突如として島国になってしまったロワの国の、周辺の探索だった。
ロワは、もともとはラウの国の北方の、海に面した国であった。
だが、国全体を包んだ光が晴れた後、周囲を海に囲まれた島になっていたのである。
当然、国中が混乱した。
丘陵と森、山岳地帯からなるロワの国は農地が少なく、鍛冶や手工業に力を入れていたため、農産物の多くを近隣のナの国やラウの国から輸入していた。
《パウ・レン》が派遣されたのも、早急に農産物の入手先を探すためであった。
「間もなく雲の切れ目に入ります!」
「警戒を厳に!ドレイクのオーラマシンが出るかもしれん!」
彼らは自分たちの敵もまた、この世界に出ていると考えていた。
瞬間、視界が一気に開けた。
遠くに見える大きな陸地は、やはりバイストン・ウェルの地形ではなかった。
「…地形が違うな」
「地図との照合は不可能です。既知の空域ではありません」
「やはりここは、地上なのか…」
通信手は、出航して以来、無線機の操作を続けていた。
鉱石ラジオに毛の生えた程度とはいえ、近くに友軍が居れば、応答があるはずである。
だが、相変わらず応えるものはなかった。
ナの国、ラウの国の、いずれも返答がなかった。
そのときだった。
「前方、地上に街が見えます! …城郭都市です!」
見張りが叫ぶ。
雲の先に、海に面した石造りの街が見えた。
無数の塔に色とりどりの旗が翻り、城壁には弓兵や兵士の姿があった。
《パウ・レン》はナムワン型のオーラシップです。
騎団の語は、PS版「聖戦士ダンバイン~聖戦士伝説」から。
オーラマシンを使用する部隊、とでも解釈してください。