ロワの国の巨人騎士 ~日本国召喚異聞~   作:ありさかいずも

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国交

―ロワ王城

 

 ロワの王城は国の南西部に築かれた、中世を思わせる小さな城であった。

 その城の評議室ではここ数日、今後の方針を巡って連日のように議論が重ねられている。

 

 その最中――

 

「姫様!」

 

 評議室の扉が勢いよく開かれた。

 

「《パウ・レン》が帰還しました!」

 

 駆け込んできた兵士の声に、重臣たちが一斉に振り向く。

 

「いきなり駆け込むとは、無礼であるぞ!」

 

「無礼であるぞ」

 

 王女フェルの肩に座る妖精――ミ・フェラリオのノルンが、騎士団長の口調を真似て小さく言った。

 

「少しお黙りなさい、ノルン。――それで、内容は?」

 

 窘めつつも、フェルは兵士へ視線を向けた。

 

「《パウ・レン》が地上の国との接触に成功。国名は――クワ・トイネ公国とのことです!」

 

「……他には?」

 

 フェルが続けて問う。

 

「マエル殿の報告によれば、豊かな農地を有し、さらに――竜獣を使役していると」

 

「……竜獣? 地上界で竜獣を使役しているとは、初耳であるな」

 

 騎士団長ロル・オエンは、食糧事情よりも、職務柄その戦力に意識を向けていた。

 

「豊かな農地があるのなら、食料の輸入は十分に見込めましょうな」

 

 宰相フラン・オ・ガドが静かに言う。さすがに宰相だけあり、話題を本筋から逸らすことはなかった。

 

 フェルはしばし重臣たちと議論を交わしたのち、静かに命じた。

 

「使節団の準備を――武装は最小限に」

 

「交渉、でありますか」

 

「ええ。――ですが、侮られぬように」

 

 フェルの声は落ち着いていたが、その瞳には決意が宿っていた。

 

 窓の外――

 見知らぬ空は、どこまでも青く広がっていた。

 

 

 

―クワ・トイネ公国 マイハーク港

 

 港では、マイハーク防衛騎士団と外務局の職員たちが、使節団を迎えるための準備を進めていた。

 

 埠頭には装飾を施された馬車が並び、儀仗隊はすでに整列を終えている。周囲では、式典の開始を待つ外務局職員や騎士団員たちが、静かに言葉を交わしていた。

 

 その中で、外務局職員のひとり、ヤゴウだけが、落ち着かない様子で周囲を行き来していた。

 

「ヤゴウ殿、落ち着かれよ」

 

 黒髪を後ろで束ねた鎧姿の女性が声をかける。マイハーク防衛騎士団団長、イーネ・コルメスである。

 

「イーネ殿か。私はどうにも不安でならないのですよ。ロワという国が、本当に我が国と友好を結ぶ気があるのかどうか……」

 

「考えすぎではありませんか?」

 

「いえ、ただでさえ隣国ロウリアへの対応で手一杯の状況です。そこにつけ込もうとする勢力が、まったく存在しないと言い切れるでしょうか」

 

 イーネは、ヤゴウを気遣うように微笑み、静かに告げた。

 

「そのために、我ら防衛騎士団が、警護の名目で同行しています。不安は焦りを生みますよ」

 

 

 

 ―コォォォォォォン……

 

 低く唸るような音が、周囲の空気を震わせた。

 

 人々が音のした方角を見上げると、巨大な飛行物体が、ゆっくりと降下してくるのが見えた。

 

 さらに、その横には、人影のようなものが二つ、並ぶようにして飛んでいる。

 

「この間の飛空船……? いや、他にも何かいるぞ!」

 

「降りてくる! 急いで場所を空けろ!」

 

 

 号令が飛び、埠頭の一角が素早く開けられる。

 

 人々は緊張をはらみながら、飛来した船を迎える準備を整えた。

 

 

 二つの人影は、やがて輪郭を明瞭に結んだ。

 それは人の背丈をはるかに超える、巨人の騎士であった。

 

 燐光を吐きながら降下した騎士は、逆関節の脚をたわませ、静かに着地する。

 続くもう一体も、同じ所作で降下を終えた。

 

 陽光を受けて淡く煌めく銀のエングレーブ。

 鋭い二本の角を備えた鳥のような頭部に、昆虫めいた翼。

 甲殻類を思わせる滑らかな曲線で象られた鎧装。

 

 その姿は異形でありながらも、どこか精悍な風格を湛えていた。

 

 

 人々は息を呑み、誰もが声を失っていた。

 

 遅れて、上空の飛空船がさらに下降を始める。

 腹部に刻まれたハッチが静かに開き、長いタラップがせり出した。

 

 巨人の騎士がタラップへと歩み寄り、その根元で直立不動となる。

 まるで儀仗兵のごとく、両手で剣の柄を握り、剣先を大地に突き立てたまま、動かぬ姿勢を保った。

 

 やがて、船内の闇の奥から、一つの影が姿を現す。

 

 淡い緑の礼装に、儀礼用の軽鎧を重ねた姿。

 その人物は、静かに一段ずつタラップを降りてきた。

 

 夜を思わせる水色の髪を肩先で切りそろえた、凛とした若き女性――王女である。

 

 続いて、甲冑を身にまとった護衛の兵士たちが後に続く。

 足音は整然と響き、誰一人として無駄な動きを見せない。

 

 埠頭の空気が張り詰めた。

 

 王女は地面に降り立つと、ゆるやかに前を見据える。

 その表情には、微笑とも覚悟ともつかぬ、静かな強さが宿っていた。

 巨人の騎士と飛空船、そして異国の王女――

 

 人々は、いままさに歴史の節目を見ているのだと感じていた。

 

【挿絵表示】

 

 

 

―首都クワ・トイネ

 

 

「クワ・トイネ公国首相、カナタです」

 

「フェル・ニ・ロワ。ロワの国を治めております」

 

 二人が交わす言葉は、この世界の共通語と、バイストン・ウェルのコモン語。

 本来であれば、互いの言語は交わらぬはずだった。

 それにもかかわらず、意味は正確に伝わり、理解が成り立っていた。

 

 それは、この世界に満ちた魔力の作用なのか。

 あるいは、オーラの力が思念と言葉を媒介しているのか。

 まるで見えざる意思が、二つの世界を静かに結びつけているように思われた。

 

 会談は慎重に、しかし友好的に進められた。

 互いに背負う事情を理解し合おうとする空気が、評議室を満たしていく。

 そして、この世界が地上界ではないということも、会談の過程で明らかになった。

 

 こうして、ロワの国とクワ・トイネ公国の間で、次の合意が取りまとめられた。

 

・クワ・トイネ公国は、ロワの国に食料を輸出する。

・ロワは鉄製品や鎧、武具、工房機械を輸出する。

・ロワは鉄道馬車の整備などを担い、クワ・トイネ公国の技術発展を援助する。

・ロワとクワ・トイネ公国は、国交樹立に向けた協議を継続する。

 

 

 ロワの港に備蓄されていた武具や機械類は、もともとラウの国やナの国から発注され、納品のあてもなく倉庫に眠っていた品々であった。

 他国に提供することについては、生産ギルドとの間で少なからぬ反発もあったが――

 

「無用のまま朽ちさせるよりは、役に立てるべきだ」

 

 

 バイストン・ウェルのオーラマシンと、それを操る者たちは、その全てが地上へと放逐されるはずだった。

 だが、小国、ロワの国だけは、地上―地球とは異なる世界に浮上した。

 

 その理由は、誰にも判らなかった。




オーラシップ《ローゼナ》の名称は、小説「オーラバトラー戦記」のゼィス級《ミィゼナー》から頂いています。

港に降り立った巨人騎士は《ボテューン》は、本作では普通の《ボチューン》です。
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