輝きたる君、その世界で何を思う?   作:シュトレンベルク

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その男、オラリオに来る

 オラリオと呼ばれる都市がある。

 世界における中心点ともいわれる場所であり、巨大な大穴の上に建造された都市である。その大穴はモンスターが発生する要因であるダンジョンが存在し、100世紀以上前にはそこから発生したモンスターたちによって暗黒期と呼ばれる時代があった。

 1人の英雄がその道を切り開き、それに続くように現れた英雄たちの手により暗黒期は終わりを告げた。そんな人々を祝福するかのように天界から神々がこの世界――――下界に降りてきた。天界から訪れた神々の力によってダンジョンには蓋をされ、神から恩恵を与えられた数多の冒険者によってダンジョン攻略を行っている。

 

 そして、丁度10年前。当時、神時代の結晶と呼ばれた2つのファミリア――――ゼウス・ファミリアとヘラ・ファミリアが下界に残された三大クエストと呼ばれる3体のモンスターの討伐に挑戦した。3体のうち2体の討伐に成功し、残りの1体の討伐も時間の問題とされていた。

 しかし、最後の1体『隻眼の黒竜』の討伐に失敗。2つのファミリアは壊滅状態に追い込まれ、現在ではロキ・ファミリアとフレイヤ・ファミリアの2つがオラリオにおける2大ファミリアと呼ばれている。

 

「待たせたな、兄ちゃん。これで審査はクリアだ。ようこそ、オラリオへ」

 

 手元の本に視線を落としていた青年は声に顔を上げた。手元の本をぱたりと閉じ、座っていた椅子から立ち上がる。背中まで伸びる黒のメッシュが入った金の長髪をたなびかせながら歩く姿は、美男美女ぞろいの神々に慣れている者たちでも息を漏らしてしまうほどだった。

 

「兄ちゃんはこれからどうするつもりなんだ?冒険者になるならまずはギルドに向かうことをオススメするぜ」

 

「ありがとう、でもまずは気楽にやっていくつもりだよ。ダンジョンに潜るにせよ潜らないにせよ、結論を焦るつもりはないよ」

 

「余裕だねぇ。この都市に来る奴の多くは英雄志望の冒険者希望が大半だってのに。……もしかして、どこかのお貴族様だったりすんのかい?」

 

「いいや、そこまで高尚な家の出じゃないよ。心配せずともね。それに余裕があるわけじゃなくて、選択を急ぎたくないだけだよ。思考する余地があるのなら、急いで結論を出すべきじゃない。それが俺の持論の1つだからね」

 

「大人だな。それじゃあ、このオラリオであんたが成功できるのを楽しみにしているよ」

 

「ありがとう。じゃあ、お礼替わりじゃないけど1つ忠告を」

 

「お?なんだい?」

 

 

「――――ダンジョンでの商売女にはご注意を。クエストの後は特にね」

 

 

「っ?そりゃ一体どういう……?」

 

「可能性の話さ。実に恐ろしきはダンジョンかはたまた人なのか?それを見極めるのは難しいことだからね。それじゃあ失礼」

 

 そう言いながら立ち去っていく青年の背を見ながら門番――――ガネーシャ・ファミリアのLv.4冒険者ハシャーナ・ドルリアがこの言葉の意味を知るのはいつの日か。

 

「はてさて、俺が見た未来の道筋通りに進むのかどうかは分からないが。気のよい青年には生きていてほしいもんだな」

 

 ベンチに座って道中で購入したリンゴを齧りながらそうぼやくのは先ほどの青年だった。空を仰ぐ視線の色が黒から赤や青、はたまた金と様々な色に変化していく。視線が本に向いているため、誰にも気づかれていないのが幸いというべきなのか。見つかっていれば拉致気味に連れていかれていただろう。

 

「それにしても、ここがオラリオね。確かに神々の恩寵を受けているのがそこかしこにいる。力の大きさが分かれているのはその神の格の違いなのか、はたまた受けた当人の器の大きさなのか。面白いな。冒険者になるかどうかは置いておいて恩恵を貰うだけ貰ってみるのもアリか」

 

 その言葉はあまりにも冒険者を舐めているとしか思えない発言だった。この言葉を冒険者が聞いていたとすれば、怒髪天だったかもしれない。余りにも命を懸けてダンジョンに挑んでいる冒険者たちを嘲笑う発言だったからだ。

 英雄とは命を懸けて世界を救う者だ。ならば、その卵とも言える冒険者もまた命を懸けて何かをなさんとする者たちだ。そんな覚悟を持って戦っている彼らのことを軽く見ているといわれても青年は否定できないだろう。そもそも否定するつもりもないかもしれないが。

 

「まぁ、なんにしてもまずは腰を落ち着けるところから始めないとだな」

 

 手元のリンゴを食べきり青年は腰を上げる。歩を進める青年はふと足を止め視線を少し先へ向ける。どこかから視線を感じたからだ。その視線の先には天を突くほどの高さを持つ塔――――バベルが存在していた。青年の眼孔は開き、その瞳は黄金の色に変化していた。

 

「その不躾な視線をやめろ。不愉快だ」

 

 そう呟き視線が消えると踵を返して歩き始めた。単純に不愉快な気分になったから、向かおうとしていた場所を後回しにしようと思ったからだ。そうしてしばらく歩き回り、小腹が減ったので屋台を探しているとそこではツインテールの女神が店番をしていた。少し離れたところでは男神が店番をしており、青年は首を傾げた。

 

「やぁ、そこの君!お腹は減っていないかな?じゃが丸君はいらないかい?50ヴァリスで出来立てを提供するよ!」

 

「まぁ、多少は空いてますけど……なぜ女神が店員を?」

 

「君はオラリオに来たてなのかな?神でも貧乏だったら働くさ。まぁ、僕は眷属が1人もいないから仕方ない話だけどね。君、良かったら僕の眷属にならないかい?」

 

「いいですよ」

 

「そうだよね、嫌だよね~。ごめんね、この話は忘れて……」

 

「いや、だから、いいですよって。恩恵は欲しいな、と思ってたんで」

 

「……えぇっ!?いいのかい、そんな簡単に決めてしまって!気に入らないけど、ロキのところとか興味ないのかい?」

 

「最強派閥とかそういうのに興味はありません。別に神によって与えられる恩恵が異なる、という訳ではないんでしょう?」

 

「うん。あくまでも僕らの恩恵は子供たちの器を広げるだけで、重要なのは子供たちの可能性だから」

 

「でしたら、何の問題も。それよりも女神こそ俺で構わないんですか?金を稼ぐことは協力しますけど、俺はダンジョンに潜って冒険するとは限りませんよ?」

 

「構わないともさ!それが君の選択なら僕は受け入れるよ……っと、これ以上はおばちゃんに怒られる。話は僕の仕事終わりでもいいかな?」

 

「構いませんよ。長話をしてしまいたし、とりあえずプレーン味を1つ」

 

「まいど!」

 

 代金と引き換えに商品を受け取った青年は少し離れたベンチでじゃが丸君を食べ始めた。

 

「……やっぱコロッケじゃん。でも、美味いな」

 

 しばらくして、女神の仕事が終わり青年の姿を探していると少し離れた場所で人だかりができているのが見えた。何かと思って覗いてみると、そこでは何かの作業をしていた青年の姿が見えた。何とか人だかりを抜けて進んでいくと、そこには藍色に輝く花に似た何かがあった。

 何故、花と断言しなかったのかといえば、それがまるで宝石のような輝きを放っていたからだ。明らかに自然物ではなく、人工物特有の輝きに女神も声を失った。出来栄えを確認するようにその何かを回して確認していた。ある程度納得したのか視線を上げると唖然とした女神がこちらを見ており、首を傾げた。

 

「……?ああ、これが欲しいのか?」

 

「え、えっと、いや、そういう訳じゃないんだけど……」

 

「悪いな。これはこのお嬢さんに渡す約束でな」

 

 女神が視線を向けると、そこにはキラキラと輝く目をしている少女がおり青年はその花?を少女の髪に刺した。その花は一種の髪留めだったのか、少女の髪の毛に上手く留まっていた。尚輝く少女の瞳に青年は微笑を浮かべた後、立ち上がり埃を払うようにズボンを叩く。

 

「さて、行こうか」

 

「え?ど、どこに……?」

 

「女神の活動拠点に。無いようなら適当にその辺の宿屋でも俺は構わないが、どうする?」

 

「あ、ああ、そうだね!じゃあ、僕の拠点に案内するよ!っと、その前に自己紹介しなくちゃだね!」

 

「おお、それもそうだな。俺は……モルディア。モルディアと呼んでくれ」

 

「分かったよ、モルディア君。僕はヘスティア。処女神さ」

 

 握手を交わした両者だったが、ヘスティアが気恥ずかしくなったのか手をほどいて先導し始める。その様子に笑みを浮かべながら歩くモルディアの姿は遠目から見て、照れる姪と叔父のようだったという。

 そんな二人が歩を進めた先は廃教会だった。そのボロボロさ具合に唖然となるモルディアだったが、地下スペースに案内されると少し埃っぽかったので鼻と口を押えた。

 

「汚いところでごめんね。掃除しようとは思ってるんだけど、中々進まなくてね」

 

「すまないな、神ヘスティア。少し静かにしていてもらえるか?」

 

「えっ?あ、ごめん。うるさかったかな?」

 

「いや、そういう事じゃない。こんなものかな?」

 

 モルディアが少し足を踏み込むと、モルディアの体から魔法陣が広がり居住スペースの汚れが消えていった。その光景にヘスティアは混乱していた。下界の住人が神の恩恵なしで魔法を行使するなどある種の例外なしにありえないからだ。しかも、こんな繊細な魔法など使えるはずがない。

 

「も、モルディア君!君、都市外で誰か他の神から恩恵を貰っていたのかい?」

 

 神は下界の子供たちがつく噓を見破る力がある。といっても、嘘をついていることを見破ることができるというだけなのだが。それでも強力な力であることには違いない。

 

「いいや。正真正銘、神ヘスティアから恩恵を貰えればあなたが俺に恩恵を与えた最初の神になる。それがどうかしたか?」

 

 結果、モルディアの言葉には嘘をついていなかった。

 

「いや、だとしたらなんで魔法が使えるんだい?神の恩恵なしで魔法が使えるはずがないんだよ?」

 

「ああ、そういう話か。まあ、話すのは構わないんだが先に恩恵を刻んでもらえるか?俺の予想通りなら、その後のほうが話が通じやすい気がするしな」

 

「……?分かった。けど、ちゃんと話しておくれよ?じゃあ、服を脱いでそこに寝転がって」

 

 モルディアは上半身の服を脱いでベッドに転がり、ヘスティアはその背に跨った。少し大きめな服を着ていたために分かりづらかったが、その肉体はかなり筋肉質でありそれだけでかなり強いことが感じられた。たとえ、ステータスを刻めば関係ないとはいえど。

 

 その背に神血が注がれる。新たな存在へと再臨させるために。凡弱たる只人から神への階を進むことを許された冒険者、ひいては英雄の卵へと。

 

「な、なんじゃこりゃあああああ――――!?」

 

 ヘスティアのそんな叫びを背に受けながらモルディアはこの日、ヘスティア・ファミリアの一員になった。

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