様々な方々から誤字報告も届き、汗顔の至りでございます。
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これからも楽しんでいただけるように頑張りますのでよろしくお願いいたします。
この話、これまでで過去一長いです。
第一章のエピローグなのに、何故バトルシーンんより長いのか……
翌日、モルディアは店舗を貸し切り状態にしてロキとフィンの到着を待っていた。一応話し合いの形式になっているため、ヘスティアとベルも待機していた。唯一、エリスだけが自由参加だったが、険しい表情を浮かべてダンジョン探索に向かった。その後、置いてあった本が開かれているのを見てあちゃー、とモルディアは思っていたが。
ドアの呼び鈴が鳴り、そちらの方に視線を向けると、モルディアたちの予想外の人物がそこにはいた。
幾らか時間が経過した後、ロキとフィンが店の前に到着した。二人とも普段のラフな格好ではなく、きちんとした正装をしており且つフィンの手元には大きめのカバンがあった。二人の眼の先にあるその扉には『本日貸し切り』の立て札がかけられていた。
「いよいよやな、フィン」
「そうだね。迷惑をかけたことに加えて、昨日はアイズたちも助けてもらったみたいで彼には恩が募っていく一方だね」
だが、収穫はあった。アイズたち曰く、『自分たちだけでは殺されていた』と呼ばれるほどの相手をアイズたちのサポートをしつつ周囲には被害をそれほど出さずに鎮圧した。しかも死ぬしかない相手を魔法によって生存させる。とんでもない能力と言わざるを得ない。俄然やる気も出るというものだ。
「……なんでこいつらがここにおるん?モルやん」
「……はぁ。俺が聞きたい。自分の眷属たちから聞いてきたんだろうが、かなり強硬でな。かすり傷であっても女神を傷つければ何と言われるか分かったものじゃない。かたやヘスティアと同郷の神、かたやオラリオ屈指の美神ともなれば尚のことだ」
そう、店内にはアストレアとフレイヤがいた。二人はヘスティアとベルと共に談笑しており、具体的に言うとベルをからかう二人の女神とそんな二人に怒るヘスティアの掛け合いが行われていた。そんな光景にモルディアは額を抑えながらやれやれと首を横に振っていた。
「まぁ、ともあれだ。いらっしゃいませ、御二方。喫茶店【ミミル】へようこそ」
モルディアの先導に従い、店内に入店する二人。扉が閉まった瞬間、モルディアが扉に向けて指を走らせる。その指の動きが止まった瞬間、先ほどまであった空気が変化したことをベル以外の全員が認識した。ちなみにベルは顔を赤くしたままきょとん、としていた。
「これ以上介入されては話が進まなくなる。別に害意のあるものではないから安心してくれ」
「ま、そらそうやな。……それで、なんでお前らがここにおんねん?」
「あら、怖い顔をしないでほしいわね。今日の私たちはただの客よ。……今のところはね」
要するに釘を刺しに来たのだ。余計なことはするな、という警告だ。モルディアの力はオラリオのパワーバランスを容易に乱しかねない程に強大だからこそ、ソレを安易に手中に収めようと思うな、という。……まぁ、その心境にはまた別の感情があるだろうが。それに対してロキがギャーギャーと反論し、それにヘスティアが便乗し、と大変姦しい状態になっていた。
「んん、まずはお礼を言っておこう。モルディア、先日は僕たちの仲間が世話になったね。団長として感謝を述べさせてもらうよ」
「必要ないよ、フィン団長殿。あの戦いは俺も協力してもらった側だからな。寧ろ、こちらが感謝を述べなければならんな。返礼という訳ではないが、当店自慢の一品でも味わってもらおうか」
モルディアはコーヒーをサーブし、フィンはソレをありがたく頂戴する。一口味わうと、そんじょそこらの一般品とは格の違う味わいに感嘆の息を漏らす。フィンとて二大ファミリアの一角の団長として、それなりの物を飲んできた自負がある。それでもモルディアの淹れた一杯がその味に負けているとは一切思わなかった。寧ろ濃厚さで言えば勝っていると感じた。
「ふふっ、これは一本してやられたかな?」
「さぁ?まっ、ただの返礼だからそこまで深く考える必要もない。これで満足してもらえたなら、それに越したことはないさ」
そんな掛け合いをしていたところで、店の奥からパタパタと足音が聞こえてきた。モルディアとフィンがそちらに視線を向けると、ウルフカットの赤髪碧眼の少女がウェイトレス姿で現れた。その姿は先ほどまで姦しかった神々すらも言い争いを止め、少女の方をじっと見ていた。じっと見られていることに気付いた少女はモルディアに駆け寄り、背中に隠れた。それでも気になるのかモルディアの背越しに伺い見る姿からは一種の小動物感を感じさせた。
「その娘が件の?」
「ああ、昨日暴れていた精霊、その成れの果てだ」
「ふむ、今の姿からはそれほど危険性を感じないけれど、何かしたのかい?」
「う~ん……講義する必要はないと思うが、まぁ良いか。フィン団長殿は生存には何が必要だと思う?」
「うん?それは食事とか睡眠とか一般的な事ではなく?」
「そうだな。もっと根源的な、ソレがなければ生きているとは言えないと称することが出来るほどの物のことだ」
「……身体、かな?魂があったって、身体がなければ生きているとは言えないだろう。霊魂が現れたとしても、それは死者だ。生者じゃない。後は……そうだな。魂とか精神、とかかな?」
「仰る通り。さすがはフィン団長殿、博識だな。俺の暮らしていた地域の学問では人の生存に必要な物は三つある。
1つは肉体。これは先ほどフィン団長殿が仰ってくれたように、生者と関わるならば肉体は必ず必要な物だからだ。
1つは精神。その者をその者たらしめる代物であり、精神を持たない者はただの亡者や獣と遜色ない。生者の肉体があろうと精神がなければ、それは死者と同じだ。
最後に魂。肉体と精神を結び付けるソレであり、魂が崩壊すれば肉体と精神はその結びつきを失い消滅してしまう。冒険者風に言い表すならば、器だな。欠けたり壊れたりした器は幾ら注ごうが零れるだけ。無くなったりすれば言わずもがなだな」
「そういう意味で言えば、その少女は肉体を失いかけていたと思うけれど……今それだけ元気なのは君の魔法由来なのかな?」
「そうだな。この娘には今、何の力もない。空っぽの器だけがある状態で、そこに俺の魔力を流し込んでいるから精霊として存在できている、というだけでね」
「死にかけの命を救う……蘇生魔法とでも言ったところかな?」
「いいや、そんな大層なもんじゃないさ。1つの代価を持って1つの結果をもたらす……さしずめ転換魔法と言ったところかな?ああ、だから酒場で言った言葉は少し訂正しなければならないな」
「というと?」
「俺と黒竜がぶつかれば世界は滅ぶ、と俺は言った。だが、それは正確ではない。俺が黒竜を滅ぼすためにこの魔法を使えば、世界は滅ぶ。それが正しい言い方だ」
「……それは、何故?」
「破壊と創造は常に表裏一体。であるならば、思ったことはないか?破壊をもたらす力とは同時に創造をもたらす力だと。終末の力とは創世の力だ。であるならば、黒竜の持つ終末をもたらす力は世界を創造する力へと変わるが、創世をもたらすためにはまず世界を一度抹消してしまわなければならない。それは世界の滅びと同義だ。同じ形に再創世されたとしても、旧世界は確かに滅ぼされるのだから」
とある世界において終末と創世を司る万能の神へと至らんとした男がいた。不完全という不義を嫌い、完全足りえないのなら消すという極端に過ぎる選択を取った神。そんな完全を願った神ですら、創世を齎すためには破壊を必要とした。何かを作るためには真っ白なキャンパスが必要だからだ。それはモルディアにしても同じこと。
「
「それはまた……何とも厄介な制約だね」
「本来は気にせんでもいい代償なんだがな。こと命や世界に関わる話はそれだけ大きくならざるを得ない、という話ではある。……さて、そろそろ本題に入ろうか。ヘスティア、ベル、それに神ロキも遊んでいないでさっさと座ってくれ!話が進まん!」
「分かったよ、モルディア君。ロキ、君はベル君にちょっかい出すんじゃないぞ」
「出さへんわ。……いや、もしかしたら出してまうかもしれへんけど、ウチは出さへんわ」
「……?それってどういう意味だい?」
「細かい話はフィンがするわ。それよりさっさと行くぞ、ドチビ。ウチはドチビはどうでもええけど、モルやんをあんま怒らせとうないねん」
そう言って席に向かうロキとそんなロキの後姿を見て首を傾げるヘスティアとその背を押すベル。関係者が席に着き、ソレを遠巻きにアストレアとフレイヤが見ていた。特に後者の女神二人の視線がだんだん鋭くなっていく。それはもう『余計なこと言いだしたら介入してやろう』と言わんばかりの視線だった。そんな二人を無視し、フィンは口を開いた。
「まずは謝罪を。この度は僕たちの仲間が君を侮辱してしまい申し訳ない。この通りだ」
「うぇっ!?あ、頭を上げてください!あの一件があったから、僕はもっと強くなろうと思えたんです!ディムナさんにそんな頭を下げられるようなことじゃないです!」
「それでも、こちらが迷惑をかけたことは事実。僕の予想が外れていなければ、君はあの後ダンジョンに行っていたんだろう?あんな軽装でダンジョンに行って、もし死んでいたりなんかすれば僕らは後悔していただろう。質問だけれど、君は冒険者になってどれくらいだい?」
「えっと、双子の妹と一緒に神様の眷属になってからなので……半月ぐらいです」
「半月なんて
「ベル、ここは大人しく謝罪を受け入れておけ。あんまり拒否しても相手に失礼だからな」
「えっと、分かりました。じゃあ、謝罪を受け入れます」
「そうか!では、謝罪の品の話なんだが、これを受け取ってくれ」
フィンはテーブルの上に持ってきていたカバンを置く。ドンと何かしらの重量物を置いた音がしたので、かなりの重量物が入っているのが窺えた。ベルはおそるおそるカバンを指さしながらフィンに訊いた。
「あの、これは一体……?」
「まずは賠償金として一千万ヴァリス。他には
「いっせ……!?」
まだまだ駆け出しのベルからすれば途方もない金額。もちろん二大ファミリアの一角である【ロキ・ファミリア】としても決して安くはない出費だ。フィン自身、しばらくは金策に努めなければならないぐらいだ。それでも、これだけの出費をするだけの価値があると思っている。
「【ヘスティア・ファミリア】団長、ベル・クラネル。こちらの提案を聞いてもらえるかな?」
フィンの堂々とした振る舞いに不安になったベルがテーブルの横に立っているモルディアを見る。それに対して、モルディアは取り合えず聞いてから考えれば?と告げる。モルディアとしては提案の内容におおよその見当はつくが、ファミリアの団長はベルなのだから団長同士の話し合いは団長と神によって決められるべきだと思っている。
「僕たちは君たちに【
「えっと、ごめんなさい。【
「【同盟】というのはファミリア間で結ばれるモノだよ。ギルドにも公表されるもので、違法性はないから安心してくれていい。基本的にはギブアンドテイクで、鍛冶師の専属契約のファミリア版だと思ってもらえれば丁度いいかな」
「つまり、【ロキ・ファミリア】側はお金や物資などを融通する代わりに【ヘスティア・ファミリア】側は何かしらの返礼をするという訳だ」
「で、でも、僕たちにはロキのところに返せるものなんかないよ?」
「ある、っていうかいるじゃないか。俺が」
そう、フィンの目的はベルやエリスを強くして【ヘスティア・ファミリア】を強化するため力を貸すから、その代わりにモルディアに【ロキ・ファミリア】強化のために力を借りたいというモノだった。モルディア自身、別にコレに乗っても構わないと思っている。正直な話、【ロキ・ファミリア】程度の面子であればベルたちに教導するのとそう大差はないからだ。というか、モルディアからすればオラリオの冒険者はどいつもそう大差ないと感じている。
「だ、ダメだ!僕らのためにモルディア君が犠牲になるなんて容認できる話じゃない!」
「なんでや?ドチビんとこやってモルやんを除けば眷属2人っぽっちの弱小ファミリアで、モルやんに頼り切りやんけ。それがウチんとこの力使って強くなれるんやから、万々歳やろ?それにどこかしらのファミリアから干渉を受けたとしても、ウチ等がカバーしたり守ったりしたることも出来る。これは明確なメリットやと思うけどな」
「だとしても、だ!それはモルディア君1人が大変な目に遭っていい、っていう意味じゃない!というか、ロキは賛成したのか!?この【
「やかましいな!本来はウチかて賛成したないわ!ドチビの子だけならまだしも、なんでドチビまでウチが守らなあかんねん!?それやったら
「じゃあ、そうしたら良いじゃないか!」
「アホ言うな!外から見て弱い者いじめにしか見えへんし、昨日の戦いを見た後にそんな事口裂けても言える訳ないやろ!モルやん1人にウチのファミリアが壊滅させられるわ!」
アイズたちから聞いた戦いの話。その中でも極めつけだったのは一面が水で構成された世界。そんな場所に引きずり込まれれば、泳げない面子は一発アウト。泳ぎが出来る面子だろうと水面に立つなんてことはできないし、水面を凍らせようにもそんな悠長に時間をくれる訳がない。ソレ以外にも世界を創れるとすれば、最早最悪としか言いようがない。そもそも、どうやって脱出すればいいのか分からないのだから詰んでいる。
その話を聞いた瞬間にそれまで強硬に反対していたロキもフィンの案に頷かざるを得なかった。どうあがいても勝てない。ならば、懐柔する策を取るのが賢い選択だ。たとえ、それが自分にとって気に入らない相手を自分の内に入れるという選択であったとしても、その悪感情を抑えればそれ以上のリターンが返ってくるのなら子供たちのためにも我慢しよう、と思ったのだ。ロキもまた子供たちを愛する神故に。
「こちらから提供するのはお金や物資に限らない。上級冒険者との鍛錬も条項に追加しようと考えている。モルディア君であれば器用に教えられるとは思うけれど、それでは教えが偏るし対人経験を多くは積めないと思っている」
「まぁ、間違ってはいないな。それぞれの武器を持つ者との戦い方を指南してやることはできるが、中には変則的な使い方の奴もいる。そういう意味でいろんな奴と戦うというのは悪い選択ではない」
「それなら、私たちと【同盟】を結びましょう?私のところなら、多くの経験を積ませてあげられるわよ?」
「……おい、アバズレ。今はウチ等とドチビんとこの話し合いの途中や、部外者は失せぇ」
会話に乱入してきたのはフレイヤ。こういう話になるだろうと予感していた女神の1人であり、ソレを絶対に阻止したいと考えていた1人でもある。それを理解していたからこそ、非常に不快、というか面倒くさそうな表情をするロキ。事態の変化についていけないベルとヘスティアと事態は大分混沌としてきた。
「そういう訳にはいかないわ。彼の存在はオラリオにとって最も重要な存在。なにより、オッタルが何度か
「【猛者】か……やったらあいつだけ特別扱いしたっても」
「それが【
「モルやんのどこがお前の琴線に触れたっちゅうんや?」
「いろんなところよ。強いてあげるとするのならば、そうね。魂の色かしら」
「魂の色?」
「ええ。様々な色をした表面は虹のように煌びやかで、けれどその内側には新月の夜よりも黒い闇があって、でもそこから垣間見える黄金は私の心を掴んで離さない程に眩い。この下界では絶対にありえないと言い切れる、そう正しい意味で
「な、なんで、ソレを……!?」
フレイヤの評価に慌てるヘスティアに対して、その場にいたほぼ全員が怪訝そうな表情を向ける。唯一の例外は眩暈を覚えたのか顔を覆っているモルディアだけである。そんな周りの反応にヘマをしてしまったことを理解したヘスティアはさらに慌ててしまう。
「おん?どういう意味や、ドチビ」
「え?い、一体、何を言ってるんだい?僕は何も言ってないよ……?」
「その言い訳はちょっと苦しすぎじゃないかしら?」
「そうよ、ヘスティア。私たち同郷でしょ?こそっと私に教えてくれないかしら?教えてくれたら私も【同盟】結んであげるわ。二人と違って平等に扱うから安心してくれて良いわよ?」
「おおい、何を良いとこ取りしようとしとんねん!そんなん許す訳ないやろ!」
「そうよ、アストレア。私たちの仲なんだし、私にも噛ませてちょうだい」
「だああ!教えられる訳ないだろ!これは僕とモルディア君だけの秘密なんだから!」
わーぎゃー、わーぎゃーと一気に騒がしくなり、一気に男性陣は爪弾きに遭い、さてどうしたものかとモルディアに視線を向ける。背中の少女もモルディアの服をギュッと掴み、そんな姿を見てモルディアはため息を吐く。一度目を閉じ開いたモルディアの眼光は翠色に変わり、指をパチンと鳴らすと次の瞬間にはその場にいた全員がどこかの草原に放り出されていた。
「姦しいのは結構だが、それじゃあ話が進まんだろ。ここからは俺が仕切らせてもらう。その前に神フレイヤの疑問に答えよう――――確かに俺はこの世界の出身ではない。とある事情でこの世界に連れてこられた異世界人だ」
「モルディア君!?話して良かったのかい!?」
「良くはないが、この面子に詰められて黙っていられるのか?」
「うっ。そ、それは……」
「まぁ、幸いにもと言うべきか。ここの面子は善神に分類しても問題ない神々だ。なにより、そんな
「……ん、まぁそうやな。そんな勿体ないことはせぇへんわ」
「次に今回の【ロキ・ファミリア】からの提案を俺は受け入れても構わないと思っている。「モルディア君!?」思っているが、今回は団長同士の話し合いだ。だから、最終決定権はベルが持っている。その上で、各ファミリアが提示する条件を整理しよう。
まず、【ロキ・ファミリア】と手を結んだ際の利点。これは先ほどフィン団長が言ったように物資と上級冒険者との鍛錬。特に前者は現状の最深階層まで行ける【ロキ・ファミリア】に分があるし、冒険者同士の協力という意味なら【ロキ・ファミリア】はそれなりにレベルが高い。
次に、【フレイヤ・ファミリア】。こちらは個人的な戦闘力の高さを評価しよう。個人戦闘力という面ではオラリオ随一であり、戦闘経験を積むならここが最適だ。まぁ、環境に適応できればの話ではあるが、その条件さえクリアできればここ以上に最短で強くなれる場所はない。
最後に【アストレア・ファミリア】。こちらも第一級冒険者がそれなりにいる有力ファミリアだ。支援という意味では二つのファミリアには劣るが、情報収集能力はこのファミリアの方が高い。それに美人揃いだし、ベルも嬉しいだろ?「モルディアさん!?」まぁ冗談だが、神アストレアもそれなりに強い神だ。恩恵があったって……そうだな、レベル3,4の冒険者よりも強い。教導も大分上手いと俺は見てる。
これだけの情報を聞いてどう判断するのか?それはベル次第だ。別に断ったって構わない。そんな事で報復を考えるほど御三方とも心は狭くないし、そもそもやらなきゃいけない事が沢山あるだろうしな」
「断っても、良いんですか?」
「もちろん。力関係とか憧れとか、この際すべて忘れろ。自分やエリスの、ひいてはファミリアのために何が必要かを考えて、その上でやっぱり嫌だと思ったら断れば良い。そんな事で誰も怒りはしないからな。そうだろう?」
「そうだね。あくまでもこれは打診だ。受けてくれるにこしたことはないけれど、最悪断られたって構わない。そうなったとしても、
「【猛者】は受けて、【勇者】からのは受けないなんて事はしないさ。何だったら今回の慰謝料で三回ぐらいは無償で受けたって構わないよ」
「それは良い事を聞いた。という訳だし、好きに答えを出してもらって構わないよ。なんだったら話は持ち帰ったって構わない。急ぎじゃないからね」
「……いえ、答えはここで出します。少し待ってください」
ベルは何度か深呼吸をした後、フィンの瞳を見た。フィンはベルの瞳に強い覚悟を見た。同時に、彼がどういう答えを出すのかをなんとなく理解した。
「ごめんなさい。本当に魅力的な話だと思います。でも、お話はお断りさせてください」
「やっぱり、か。問題なければどうしてそういう答えになったのか教えてもらえるかな?」
「……僕はモルディアさんに貰ってばっかりで、何もお返しできてません。そんな僕たちのためにモルディアさんを利用するなんて僕は許せない。頼りっぱなしの関係を仲間だなんて言わないと思うから」
ベルの力強い言葉にモルディアは微笑を浮かべる。ベルはモルディアから貰ってばかりだと言ったが、そうではない。少なくともモルディアにとって、ベルたちと共に過ごした時間はかけがえのない物だった。長い時間を生きてきたモルディアにとって、家族のような関係と共に過ごした時間は昔日の時間を想起させる物だった。
家族と、最初の妻や子供たちと共に過ごした時間を思い出させてくれるものだった。そんなものを与えてくれたファミリアの皆をモルディアは愛している。力になってやりたいと思っているのだ。遠慮される方が悲しいとすら思う。だからこそ、ベルの言葉を嬉しく思った。モルディアに頼りにされる存在になりたいと、言ってくれたことが何よりも嬉しかったのだ。
「じゃあ、ここで御三方に提案しよう」
「どういう事や、モルやん?」
「ここからは団長同士での話し合いではなく、個人的な交渉にしようという話さ。と言っても、話は簡単。そちらがこちらに要求し、それに対するメリットを提示する。対価と要求が互いに見合っているかどうかをヘスティアを含めた三神で判断する。この際、結果は多数決によって判断される。過半数取った側の判断が通る、ということだな。この多数決を行う際、提示者が判断者に何かしらの報酬を送る行為も是とする」
「賄賂を贈るのもアリ、ということね?」
「賄賂の用意も提示者の持っている力だからな。否定する理由がない」
「も、モルディア君!?そんな自分を切り売りしなくていいんだよ!?」
「俺に対する過剰な負担はそもそも俺が拒否するさ。俺の認可を通った物だけって話だ。例えば、
モルディアの提案に三女神がそれぞれ考え込み、最終的には各々が唇の端を上げる。
「面白いやん。じゃあ、ここで一つ要求させてもらうわ」
「なんなりと」
「じゃあ、モルやん。――――モルやん手製の酒、2~3本くれへん?」
「は?」
「ロキ、一体何を……」
「フィンは知らへんやろうけどさ、モルやんがBarで提供しとる酒って全部モルやんの手製らしいんよ。そうやったよな?」
「ええ。だからこそ、Barの開店は不定期なんですけど」
「んで、販売とかは一切してへんねん。ちびちび飲むのも楽しいけど、皆と飲んで楽しみたいなって前から思うとってん。どないやろ?」
「対価は何を提示しますか?」
「せやな……ドチビの他の眷属を数日ウチで鍛えるっちゅうのはどないや?大体、2,3日ぐらい」
「ふむ……俺は問題ないと思うが、御三方のご意見は?」
「う~ん……それぐらいなら。ただし、二人ともきちんと日帰りで戻れるようにしてほしいな。もちろん、怪我なんて残さないように!」
「私も問題ないと思うわ。アストレアが問題なければ次の交渉は私にさせてもらえるかしら?」
「ええ、私は構わないわ。何を頼むかアリーゼたちと相談したいし……眷属にこの話をするのはアリよね?」
「もちろん。あくまでも対応が俺と神の間で行われるというだけの話ですから」
「それじゃあ、交渉はこれで締結ってことでええか?」
「ええ。それではメニューを取ってくるので少々お待ちを」
「おう。じゃあ、裏メニュー持ってきてぇな」
ロキの言葉にモルディアの動きが止まる。裏メニューがなんであるのか分からない面子がほとんどであり、何故モルディアの動きが止まったのかが分からなかった。それに対し、動きの止まったモルディアは鼻で笑うかのように息を吐く。
「はめてくれましたね、神ロキ」
「確認を怠った自分のミスやろ?ウチはちゃんと、
「ええ、ええ。ですから、今回は何も言いません。ただし、次からはこうはいきませんからね?」
「だって、こうでもせんとモルやん裏メニュー飲ませてくれへんやん。造っただけ言うて飲ませてくれへんの大分拷問やったで?」
「そう言われると、どうにも言い返せませんね」
やれやれ、と言いながら指を鳴らす。すると世界が砕け、元の喫茶店の中に戻ってきた。モルディアはカウンターの中に入ると、立てかけてあったメニュー表を取り出してロキに渡した。ロキはソレを受け取りながらひゃっほーう!と大喜びしていた。
「モルディア君、裏メニューって何なんだい?たまに飲ませてくれてたのとはまた別ってこと?」
「ああ。ヘスティアにたまに渡してたのは普通に作った酒の上澄み。店としては出来が良すぎて提供できないと判断したもので、神ロキが今見ているのとは別。裏メニューっていうのは俺が最初から最後まで魔力操作を行って作られた酒――――神酒だ」
「し、神酒ぅ!?それって
「……?神酒は別にソーマだけじゃないだろ。アムリタもネクタルも神酒だ。他にもいろんな原料とかで様々な神酒を造ってはいるんだが……」
「だけど、なに?」
「効能が強すぎてな。一般人、というか神々以外は飲んじゃいけない代物になってしまった。一応、高位冒険者なら耐えられるかもしれないけど、オススメはしないな」
「なぁ、モルやん!このクヴァシルってなんや!?」
「
「ちょっと、待ってくれるかい?何が30倍だって?」
「思考速度が。しかも能力のオンオフが効くから、酒が体に残っている間は効果が持続する。その代わり、切れた瞬間にそれまで酷使した脳のダメージが行くからあんまり効果の多用はオススメしない。しかも加速しているのは思考速度だけで、身体能力とかはなんも変わっていないから逆にイライラするかもな」
モルディアが言っているのがあんまりにもとんでもなさ過ぎてフィンは唖然としていた。人の肉体を超強化する酒。それは確かに神酒といって遜色ない代物だろう。そんな物を軽く造ったと言えるとは異世界の技術力とはそれほどまでに高いのか、と疑問に思っても仕方のない話だろう。
「まっ、こんな物を造れるのは俺ぐらいでこれでも劣化してるんだけどな。元の場所で作っていた酒はこんなデメリット持ってなかったからな」
「モルディア君、それ何のフォローにもなってないと思うよ……ところで、その本は何?モルディア君が書いたのかい?」
「おう。もう何の効力も持ってないけど、それでも良ければどうぞ」
「ありがとう。ところで、これは何の本なんだい?」
「
「へ?」
「
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!?なんだい、それ!?」
「細かい理論まで説明する気はないけど、多分エリスが使ったみたいだし帰ってきたらステイタス更新して見なよ。多分、なんか生えてると思う」
「なんか、って君ね……」
「はぁ……頭と胃が痛くなってきた」
「同情するよ……僕も頭痛くなってきたし」
そっと鎮痛作用のあるお茶を出してくるモルディアにどの口がと思いつつも、ありがたく口にするフィンとヘスティア。上機嫌のロキとロキが選び終わった後の裏メニューを見てきゃいきゃい騒ぐアストレアとフレイヤ。そんな周りを見て顔を合わせたベルと肩をすくめるモルディアと、その場は再び混沌に包まれるのだった。
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