輝きたる君、その世界で何を思う?   作:シュトレンベルク

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結構難産でした……


第13話

 ベートが気絶して戦闘続行不可能状態になってしまったので、ガレスとティオナの二人がエリスとベルの相手をすることになった。モルディアはレフィーヤから上着を受け取り羽織りなおす。その頃にはモルディアの表皮を覆っていた氷は消えさっていたが、低下した気温まではすぐには元には戻らなかった。

 

「凄まじいね……魔法の人工再現、それもアレンジを加えるか。これも下界の未知と言うべきだろうね」

 

「俺から言わせれば、古代から失われた技法でしかないがな。古代の時代であれば、エルフだっていろんな魔法を使えただろう。だが、神の恩恵頼りになったから失われてしまった。俺のやり方は少し違うが、それと似たような物さ」

 

 そう告げるモルディアの右手の親指に炎が、人差指に水が、中指に風が、薬指に氷が、小指に雷が宿る。腕を振るとその全てが弾けて消える。その光景にアイズが目を輝かせ、レフィーヤが目を丸くし、フィンが手で隠した口元の笑みを深くさせる。

 

「……モルディア殿、聞いても良いだろうか?」

 

「なんだろうか、アールヴ殿?」

 

「そのような他人行儀な呼び方でなくていい。貴殿さえ構わなければ、名前で呼んでくれ」

 

「……分かったよ、リヴェリアさん。それで、何が聞きたいんだ?」

 

「貴殿は我々とは違う方法で魔法を使っているというのは分かった。もし支障がなければ、理論をお聞かせ願えないだろうか?もちろん、私で出来る謝礼はさせてもらうつもりだ」

 

「謝礼、ね……」

 

「ああ、なんでも構わないぞ」

 

「………………あまり淑女がなんでも、というべきではないと思うがな。まぁ、良いさ。どうせ教えたってすぐに会得出来る訳じゃないからな」

 

 モルディアの手元に球体状の魔法陣が現れ、ソレからフィンたちはおろかリヴェリアでも読み取れない文字群が空気中に流れ出る。ソレ等がモルディアごとアイズたちを包み込み、結界を構築する。構築した瞬間の光の強さに目が眩んだ一行が再び目を開くと、そこはどこかの教室になっていてモルディア以外が椅子に座っていた。

 

「今のは俺が眼球内で保存し演算している術式――――世界構築の術式だ。結界とは世界と世界を区切るもので、そこに様々な要素を付加させることで世界を構築する。その術式を構成する世界を定義する文字の事を、俺は『力ある言葉(レリクス)』と呼んでいる」

 

「『力ある言葉』?」

 

「そう。君たち風に言えば神聖語が近いだろうか?言葉には力が宿るものだが、俺の言っている物はもっと根源的なモノに作用する力。それは世界であったり、集合無意識と呼ばれるモノだったり……まっ、様々なモノに作用するという事だけ理解してくれればいい」

 

「はぁ……?」

 

「専門的な説明をするとなると、いろんな事を話さないといけないからな……権能とか概念とか言っても分からない事だらけだろうし、俺もその説明をするのは面倒だからな」

 

「えっと、大変ですね……?」

 

「いや、これは理解しようとする君たちが大変なだけ。俺が話しても理解できない話を延々とされても頭が痛くなるだけだろう?事実、アイズ嬢は既にちんぷんかんぷんという顔をしているしな」

 

「……ごめんなさい」

 

「謝る必要はない。この話は難解だから、理解できる奴の方が希少だ。まぁ、ソレを差し引いても分からなくなる速度が早すぎるがな。勉強は苦手か?」

 

「……はい。ダンジョンに潜ってる方が楽です」

 

「まぁ、ステイタスという形で視覚化されている分、成長が実感しやすいものな。だが、勉強も悪い物じゃない。先ほどまで分からなかった問題が解けた時の感動は一入だぞ?ちなみにどんな勉強法をしてきたんだ?」

 

 そう言ってアイズから聞き出した勉強法にモルディアは呆れていた。ひたすら知識を叩きこみ、間違えたら何故間違えたのかを懇々と叩きこむというスパルタすぎる勉強法だったからだ。まるで試験に備えて勉強を叩きこまれる教育にモルディアは苦笑を隠せなかった。

 

「……なるほどな。確かに効果的だろうが、それじゃあ勉強は嫌いになるな」

 

「では、モルディア殿はどういう教育を行うんだ?」

 

「俺か?俺はその子が興味を持つ分野から教えてやる。疑問を持ち、それに対してどういうアプローチを取るのが正解なのか?その過程にこそ勉強の楽しみがあると思っているからな。回答とか結果が大事じゃないとは言わないけど、それだけ叩き込んだって成長とは言えないし、何より次がない。それじゃあ、頑張りたいとは思えないわな」

 

「そう言うのは簡単だが……」

 

「もちろん、俺は幼少期の頃のアイズ嬢を知らない。そんなアイズ嬢の世話を任された君の心痛を知らない。今の状態からも察せられるが、大層君たちの心を痛めるような行動をとっていたんだろう。そんな彼女のためなら効果的な教育であったことは否定しない。そのおかげで彼女はこうして生きていられるんだろうからな」

 

 モルディア自身、見る限りアイズが無茶ばかりする娘だという事は察せられた。自分が望む結果のためならばどんな事でもやろうとしてしまう。それは否定できないだろうことが見て取れたからだ。自分の身内にもそういう事をしていた娘がいただけに、その心境は察するのは容易だった。

 

「俺は痛い目を見るまで好きにやらせたけど、中々そういう訳にはいかないものな。まぁ、今から行う授業で多少なりとも勉強が好きになってもらえるように頑張るとしようか」

 

 そう言いながらモルディアは黒板に文字を書き連ねていく。暫くすると、ソレが一つの魔法陣(マジック・サークル)となっているのが分かった。普段まじまじと見ることはないソレに興味が惹かれる一行。

 

「これはアイズ嬢の魔法を俺が発動する場合に必要な魔法陣だ。必要な要素は【風】・【付与】・【強化】だな。だが、俺がこれを使っても君と同等の出力にはならない。それは何故だと思う?」

 

「えっと……分からないです」

 

「これが君の血統によって発現したものだから、だな。おそらくだが、君は少し特殊な出自だろう?それも風にまつわる種族……そうだな、遠い親戚にエルフか風精霊(シルフ)の血縁でもいるのかな?ともかく、その血の影響を強く受けている。有り体に言い換えるとするなら、君はその血を授けてくれた誰かにとても愛されているんだろうな」

 

 モルディアの言葉はアイズに強い衝撃を与えた。その言葉はアイズの中に確かにある昔日の残響、思い出となってしまった過去を思い出させるに足るものだった。確かに愛を受けた。最後にはアイズを置いて離れていってしまったけれど、アイズは確かに両親に愛されて、祝福されてこの世に生を受けたのだ。

 

「あの、精霊は子供を造れないと思うんですけど……」

 

「ん?この世界ではそうなのか?俺の理論上であれば、肉体を受けた総ての生命は次代を生み出す力を持っている筈だけど……まぁ、そういう訳じゃないんなら、相方が特別だったんだろうな」

 

「特別、ですか?」

 

「エネルギー生命体である精霊を受肉させ、その身に生命を宿す力を与える。そういう能力を持っていたんだろうな。まるで無形に有形を与えるように、な」

 

「どうすればそんな事が出来ると思う?」

 

「そうさな……一つは単純にそういうスキルを持っていること。まぁ、これは態々説明するまでもないだろう。もう一つは膨大な生命力を持つこと。自身の膨大な生命力を精霊に分け与え、神々の恩恵のように器を作る。それを行うことが出来れば、確かに肉体を形作ることが出来るだろう」

 

「だが、ソレを行えば……」

 

「もちろん、寿命が削れる。自分が本来持っている器を削って別の器を作る、という意味だからな。成功すればまだマシで、失敗すれば器を授けられた相手は死ぬ。それほどまでに危険な賭けで、互いに深い愛情と信頼がなければまずできない事だろう」

 

 少なくとも、モルディアはその選択を行える者に敬服の念を向けるだろう。たとえどれだけ短い生であったとしても、共にありたいと時代を紡ぎたいと思える相手に出会えたという事なのだから。モルディアのように小さな一つに拘泥している訳でもなく、相手に自分の総てを捧げる覚悟を持てる様には尊敬の念を向けざるを得ない。

 

「おそらくだが、その両者ともに短命ではあっただろう。だが、その二人は間違いなく幸せだっただろうな。それだけは間違いなかっただろうと思うよ」

 

「それは、どうして、ですか……?」

 

「当然だ。本当に心の底から『この相手になら自分の総てを捧げても良い』と思える相手に出会えて、愛する子孫を残すことが出来たのだから。君は自分の命を当然のモノと思わない方が良い。君の命は途轍もない奇蹟、その延長線上にあるモノだという事を自覚した方が良いぞ?」

 

「私、ワタシはお父さんとお母さんに捨てられた訳じゃないの……?」

 

「……ああ。君の両親はきっと君と長くはいられないのを自覚していたんだと思う。それでも、君に生きていてほしかったんだと思う。俺はね、生命の誕生とは一つの奇跡だと思っているんだ。その道程が理解されていても、そうなるのは奇跡だとね」

 

「どういう意味だ?」

 

「生命はオスの種と雌の卵によって生み出される。だが、それで生まれるのは本来ただの肉袋だ。だが、そこに魂が生まれ、精神を育て、また新たな生命を生み出すというサイクルを作り出す……これは無から有を生み出す奇蹟に等しいと思っているんだ。その魂を生み出すという行為は一つの秘蹟だ。

魂が輪廻するというシステムがこの世界にはあるが……ならば、誕生する生命が輪廻している筈の魂の数を上回った場合はどう説明する?その理屈では説明できなくなってしまう。それに、輪廻する魂の原初、始まりはどこから生まれたのか、という話になってしまうだろう?」

 

 モルディアにとっては最も原始的な奇蹟とは生命そのものだった。そして、永遠の課題であり解明するつもりのない奇蹟でもあった。魂の所在など、解明するだけ野暮というモノだ。どこから流れ、どこから生み出されようとその場にあるという以上の意味はない。そう思うからこそ、モルディアは魂を見ようとはしないのだ。

 目の前にいるのが誰の魂かなど心底からどうでも良い。たとえ、最後には自分を裏切ることを運命付けられている魂だろうと、それまでの道程が幸せなモノであればそれで良い。それ以上に重要な物がどこにあるだろうかとモルディアは告げる。

 

「重要なのはかつてどうあったかではなく、今どうあるのかだ。由来不明?心底どうでも良い話だ。たとえ、相手の経歴が何も分からなくたって相手と共にあることが幸せならば、それ以上に求めることはない。そうじゃないか?」

 

「それはそうかもしれないですけど……中々そういう訳にもいかないんじゃないですか?」

 

「皆欲しがりさんだな。まぁ、そんなもんかもしれんがな。ともかく話がそれたな。魔法は自身が発現するモノだけでなく、その血縁はたまた魂を由来とした物もあって、それは術式を模倣しただけでは再現できない物もあるという事だ。様々な魔法を再現できるとしても、それだけの話なんだよ」

 

「だけど、様々な魔法を再現できるというのはすさまじい才能だと思うけれど?」

 

「こんな物は術理さえ理解していれば、幾らでも再現できるんだよ。それこそ、リヴェリア殿にだって再現は可能だろうさ。重要なのは術式の本質を理解する事。その術式がどのような本質を持っているのか、そしてその本質をどのように再現できるか?話はたったそれだけで、そこから先は当人の努力次第さ」

 

 至極簡単そうに言うが、ソレを研究するだけで一生を費やす術者がどれだけいるのかモルディアは理解していない。何故なら、モルディアにとってそんな領域は既に踏破した道だから。その技量がないのなら、技量を埋められる何かを手に入れるべきだと思っている男なのだからさもありなんと言ったところかもしれないが。

 

「ちょっといいかしら?」

 

「うん?なんだろうか?何か気になる事でもあったか?」

 

「あったって言うか……ちょくちょくこの世界とか言ってたけど、どういう意味なのかしら?」

 

「……俺の素性について話していないのか?」

 

「個人の事情をベラベラと喋るつもりはないよ、たとえ同じファミリアの一員だとしてもね」

 

 モルディアはフィンのその対応に律儀な事だと思った。モルディアからすれば自身の素性を明かしてこなかったのは単純に誰にも聞かれなかったからだ。自身の素性が神々にとっては面白いものだとしても、それ以上に意味はない物だと思っていた。他の世界の出身だからといって、ソレがどれほどの意味を持つだろうかと思ったからだ。

 

「そうか。まぁ、別に秘密にしている訳でもないし別に話してもらっても構わなかったがな。簡潔に言うと、俺はこの世界の人間ではない。別の世界から来たという過去を持つだけの男だ。それ以上の意味はないし、今教えている技術にも再現性がないわけじゃない。ヘスティアから教えてもらった神聖語でも同じことが出来たからな」

 

「はい……?この世界の人間じゃないって言った?」

 

「ああ。俺はこの世界の出身ではない。まぁ、どうでもいい話さ。そんな事に大した意味はないし、その事実が何かしら影響を与える訳でもない。向こうの座標が分からない以上はすぐには帰れないしな」

 

「帰るつもりはあるんだ」

 

「そりゃ、もちろん。俺の生きる世界はこの世界ではなく、向こうの世界であるという事実は変わらない。俺には俺の役割がある。俺以外には果たすことのできない俺だけの役割がな。どれだけの才人が集おうとも成すことのできない、俺だけの役目。それを放棄してこの世界で生きていくことは残念ながら俺にはできない話だ」

 

 モルディアは知っている。如何なる凡愚・才人・天才であろうとも自分の役割を代わる事はできないと。いや、自分だけではない。誰であろうと自分以外の他人の役割を代わる事など出来はしない。何故ならば、それぞれが違う存在であるからだ。違う存在が違う存在の代わりとなる事はできない。至極当然なその理屈を、誰しもが勘違いしてしまうソレをモルディアは理解している。

 

「俺がこの場にいる誰の代わりにもなれないように。誰も俺の代わりになる事はできない。だから、俺は帰るよ。俺が果たさなければならない俺の役割を全うするためにね。とはいえ、そんなすぐに帰るつもりもない。この場にいる大半が死ぬまでは、この世界にいるつもりだよ」

 

「貴殿は普通の人間に見えるが……そんなに長寿なのか?」

 

「何年生きているか、なんてのはもうとっくに忘れてしまったがな。だが、少なくとも君たちが死ぬまで俺が死ぬことはないよ。俺にはちょっとした宿業があるからな」

 

「意味がよく分からないんですけど……?」

 

「う~ん、こればっかりは説明が難しいからなぁ。そうだな、強いて表現するのであれば――――【最果ての王】という表現が正しいかもしれないな。いろんな肩書を俺は持っているけれど、総評として俺を表現するのならばその呼び方が合っているかもな」

 

「君はどこかの王族なのかい?」

 

「いんや。俺に治める領土はない。導く民はいない。俺は何も持たない。俺の手にあるモノは世界を変えられる力だけ。その力以外には俺の手元に残るモノはない。他にはただ記憶として俺の魂に刻み付けられていくだけ。それでも俺は時の果てまで存在する【王】なんだ」

 

 フィンたちにはモルディアの言う言葉の意味は分からなかった。だが、モルディアはフィンたちの視点から見ても只者ではないことは容易に察することが出来た。モルディアに課せられたあまりにも大きな役割。決して逃れることは出来ないソレの到来を彼は待ち続ける。様々な別離と出会いを繰り返しながら、まるで積もる雪のただなかに立ち尽くす迷い子のように。

 モルディアに課せられた役割はそれだけ。たった一つの目的のために、那由他の果てまで死を剝奪されるという宿業を背負った。多くの出会いと多くの別れを経験してきたモルディアにとって、この会話すら時の果てまで続く旅路の道中に過ぎない。

 

「んで、今の役目は君たちの教師役な訳だが。次は実践と行こうじゃないか。この中で神聖語を理解できているのは?……リヴェリア殿とアイズ嬢か。じゃあ、二人には魔法陣の構築の仕方を。他の三人には魔力による肉体強化のやり方を教えようか。これで多少なり要望には応えられるだろう?」

 

 モルディアが空中に手をかざすとその先に魔法陣が現れ、そこから人間大の人形が落ちてくる。その人形を受け止め魔力を流し始める。すると人形の肉体に幾何学模様が刻み込まれ、見る見るうちに人形が人間の形を取った。

 背中まで届く黒髪に金色の瞳を持つ女型の人形。その総身から発せられる魔力はレフィーヤに匹敵、あるいは凌駕しうるかもと感じられるほどだった。神々に『馬鹿魔力』と揶揄されることもあるほどに大量の魔力を有するレフィーヤに、である。

 

「魔力の運用の仕方はこちらにやらせることにするよ。女性の方が多いからそちらにしたが、フィン殿には我慢してもらいたいな」

 

「教えてもらえるだけ温情というべきだし、そもそも元は人形だし、別に気にしないよ」

 

「そうか。ティオネ嬢も悪いが我慢してくれ。君に殴られたらこの人形壊れるから」

 

「やらないわよ。私を何だと思ってるの?」

 

 無論、モルディアの造る物がただの人形な訳がない。これは内部に刻み込まれた人造魂魄をモルディアの魔力によって励起させた人形であり、その能力は人と比較しても遜色ない。つまり、モルディアは人体を創造したのと同じことをしたのだ。ちなみにフィンは『もう彼なら何でもできるだろう』と思考を放棄していた。

 さらに言えば今は生殖機能の一切を保有していないが、後付けすることも出来る。しかも、相手の遺伝子を100%引き継いだ子供を造ることも出来る。相手が相手なら爆受け間違いなしの代物である。ちなみに魔力と共にモルディアの知識も限定的にダウンロードしているため、そこらの相手には負けない実力を持っている。

 

「マスター、ご用命をお伺いします」

 

「魔力運用のレクチャーを。やり方は分かるな?」

 

「はい。お任せください」

 

 モルディアはフィンたちの相手を任せると再び指を鳴らす。すると教室からグラウンドのような場所にリヴェリアとアイズは立っていた。前方には的のような人形が置いてあり、魔法を試すための場所なのだろうというのが窺えた。

 

「さぁて、まずは魔力の流し方から始めようか。その次は術式構築の方法だ。そんなに時間もないだろうし、巻きで行かせてもらうよ。ついてこれるだろう?」

 

「期待に応えられるように努力させてもらうよ」

 

「頑張る」

 

「良い返事だ。とはいえ、これから教えるのは向こうで教えている魔力の流し方とは些か異なるんだがな」

 

「そうなん、ですか?」

 

「そう。向こうで教えているのは自身の魔力を体内で意識的に動かし、特定部位の強化を行うという手法だ。こちらで教えるのは脳に魔力を流し込み、脳内で構成された魔法を発動するという手法。これが出来れば詠唱なしで魔法を発動させる、なんて手法も可能になる」

 

「……ソレ等は同時に併用も可能なのか?」

 

「結論から先に言えば、可能だな。実際、俺は常に身体全体に魔力を流しつつ、何時でも脳に魔力を流し込んで魔法を発動可能な状態にしている。この鍛錬の便利なところはどこでも修練を行える、という点だ。それに脳に魔力を流し込み続ければ、演算能力……物事を判断できる能力が上がる。これが出来れば、戦闘も優位に行えるだろうな」

 

「……!頑張ります!」

 

「よろしい。とはいえ、この技能を習得できれば身体強化の方も出来るようになるだろう。後で伝えるつもりではあるが眼球の強化は俺の許可なしには行わないようにな」

 

「何故だ?レフィーヤと貴方の言葉を鑑みれば、相当な戦力強化になると思うが」

 

「再生可能な人体とは異なり、眼球は再生不可能部位だからな。それに露になっている部位の中でもひどく繊細な部位だ。強化幅が大きいのは、それだけ繊細な部位だからという理由もあるな。下手すれば眼球が破裂する。これはどの部位でも同じ話だが……眼球は脳に近い部位だからな。下手すれば脳も破裂して死ぬ。君たちも重々気を付けるように」

 

「我々は大丈夫なのか?」

 

「そんな下手な教え方するもんかよ。君たちにはきちんと脳の保護を行いつつ、術式構築の手段を手に入れてもらう。俺がこの手法でどれだけの時間を過ごしてきたと思っているんだ?少なくとも、君の爺さんよりも長い年月を俺は生きているんだ。この技法は完全に習得しているさ」

 

 モルディアはそう言いながら笑う。エルフがどれだけ長命であるのか分かっているのだろうかとリヴェリアは思ったが、それが嘘ではないのだろうと思わせるだけの重みがモルディアにはあった。疑うよりもとりあえず信じてみようと思わせる程度には。

 それから暫くの間、モルディアと人形による特別授業が行われた。夕方ごろになるまで鍛錬は行われ、外の状況を理解していたモルディアの手で結界が解かれその日の授業はお開きになった。

 

 帰宅しようとしたところ、食事に誘われたモルディアたちはご相伴に預かることになった。その頃にはベートも目を覚ましていたが、遠くで食事をとっていた。ベルはそんなベートに近寄り礼を言ったことで【ロキ・ファミリア】一向に気に入られ、可愛がられていた。エリスも女性団員たちに囲まれていた。

 そんな二人の様子を見て微笑を浮かべるモルディア。この暖かな光景すらモルディアにとっては過去の情景にしかなりえない。それを理解していて尚、モルディアはその光景を記憶に焼き付ける。そうして積み上げていった記憶こそが、自身の価値になると思っているが故に。

 

 食事の後、エリスに『何をしていたのか』と問われた時、モルディアはこう返した。

 

「内緒だ。知りたければもっと強くなれ。俺の心配がいらなくなるぐらいに、な」




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