色々とやること溜まりすぎて気付いたら半年が経過。
中途半端かもですが投稿です。楽しんでいただければ、と思います。
ロキ・ファミリアとの修業期間が終了してから1週間が過ぎ、今ではベルとエリスの二人はステータスをメキメキと成長させていった。少なくとも、そこらの凡俗な冒険者程度であれば圧倒できる実力を身に着けていると言えるだろう。手加減ありきとはいえ第一級冒険者との戦闘にはそれだけの価値があった。
ベルとエリスのステイタス以上に戦闘経験は同レベル帯の冒険者はもとより、一つ上のレベルの冒険者ですら相手にならないだろう。それだけ自分よりも圧倒的に上位の戦闘経験を持つ相手との戦いの経験は大きな成果となる。少なくとも、彼らとの戦いで得た痛みも立ち上がった経験も二人にとっては大きな力となる。
そんな大きな経験を積めた二人はまっとうにステイタスを上昇させていた。拠点に戻って料理を作る時に二人の話を聞くのがモルディアの日課となっており、その日も同様だった。エリスとヘスティアが身支度を整えている間にモルディアはベルの話を聞いていた。
「へぇ、新しくサポーターを雇ったんだ?」
「はい。リリ、新しいサポーターの人が入ってくれたおかげで、かなり稼ぎが良くなったんです!戦闘もやりやすくなったし!」
「そら良かったな。サポート役が1人はいるだけで物事の移りがかなり楽になるからな。五人パーティーならメインアタッカー1サブアタッカー1、後はヒーラー1にサポーター2いればかなりやりやすいんじゃないか?」
「モルディアさんもパーティーで行動したことあるんですか?」
「俺はないな。そういうのを斡旋したことならあるけど、俺は俺一人で総ての役割をこなせるように技能を修めているからな。俺の技能についてこれる奴なんて、今となってはそうそういないよ」
「そ、そうなんですね……」
あまりにも余裕のある態度をしているモルディアに対して、やっぱり自分はまだまだなんだと思うベル。しかし、それも当然の話である。ベルの眼前にいるのは規格外の化け物と呼んでも遜色ない存在なのだから。
「……なんか余計な事を考えてないか?確かに、俺は周りに味方を置かなかった。それは、俺が俺を裏切る可能性を持った存在を傍に置きたくなかったからだ。そしてそういう選択をした以上、総ての事柄を俺の手で運用する必要があった。そのために必要な技量は総て会得する必要があったから、会得したってだけの話さ」
「でも、それって大変ですよね?モルディアさんもパーティーは組んだ方が良いって言ってましたし」
「うーん、まぁ、俺の立ち位置が特殊だっただけからな。詳しい事は言わない、っていうか言えないけどな。本来は頼れる奴がいるなら頼った方が良い。俺が鍛錬に使っていた時間を他人と共有できていれば、もっといろんなことが出来ただろうし。
有り体に言うと時間の無駄。ベルはかつての俺みたいな人間不信じゃないんだし、周りに頼り頼られて前に進んでいけば良いさ。それはベルの冒険なんだから、ベルのやりたいようにやればいい」
モルディアは総てを完ぺきにこなすことを自身に求めた。それはそもそも、モルディアがとある経験から人を信頼することが出来なかったからだ。モルディアが信じることが出来たのは自分では届かない存在と自身の手で想像された被造物、そして自分が身内だと認識している者たちだけだった。
今ではそういう訳でもないが、それでも人の善性を無条件で信じられるほどの良い人ではない。だからこそ、初めて出会う人間を測る習性がある。その相手が自分にとって良い相手なのか、それとも悪い相手なのかを。最早気にする必要もなくなるほどの力を手に入れたというのに、その習性を止められない辺りしょうがないな、と思っていたりする。
「それで、新しく魔法を手に入れたんだろ?暴走して美女二人と朝帰りしてきた気分はどうだ?」
「あああぁぁぁぁぁぁっ、ソレ言わないでくださいよ~!」
そう、今朝ベルはアイズとリヴェリアの二人に連れられてホームに帰ってきた。モルディアが日課にしている早朝鍛錬の最中であったため、それからずっとベルはからかわれている。流石にヘスティアとエリスの二人がいる場所ではやっていないが、それでもベルの顔から熱が去ることはなかった。
モルディア自身はベルが昨夜の段階でホームを抜け出していたのは知っていた。それでも暫くすれば帰ってくるだろうと思っていた。ルーキーとはいえ、1ヶ月はダンジョンに挑み続けているのだ。自分の限界ぐらいは把握しているだろうと考えていたからだ。
しかし、念願の魔法を手に入れた事による興奮とモルディアとの鍛錬によって上昇していた魔力により、ベルは引き際を見失っていた。それにより朝方まで戦闘をこなしてしまった。流石にそろそろと思った時は既に遅く、
普通であればそこでモンスターに襲われてお陀仏、といったところなのだろう。しかし、幸運なことに冒険から戻ってきたばかりのアイズとリヴェリアに命を救われ、ホームに帰ってきたという訳である。流石のモルディアも大爆笑不可避であったという。
「まったくお馬鹿だねぇ。魔法に憧れるのは結構だけど、きちんと線引きはしておけよ」
「うぅ……分かってますよぅ」
「それで?それだけの事をしたんだ。自分の発現した魔法の事については分かったのか?」
「あ、はい。それは大丈夫です」
「それは何より。じゃあ、これから魔法に籠める魔力や武器に応用したり、いろんなできることを探っていかないとな」
「モルディアさんは本当に色々考えてますよね。魔法ですよ?」
「魔法だって道具の、手札の一つ。何が出来るのか、どこまで出来るのか。それを考えずにいると後々、困ったことになるぞ?戦いの中で重要なのは自分に何が出来るのか、周りを利用すればどのようなことが出来るのか?ソレを把握し、戦いに活かすことが出来れば大抵の事は何とかなるさ。だからこそ、手札の確認が必要なんだよ」
「モルディアさんは本当にいろんなことを考えてるんですね」
「考えずに勝てるほど、接戦と呼ばれるような戦いは勝てないぞ?ステイタス任せで勝てる戦いばかりじゃない以上、戦略や戦術は考えてしかるべきだ。それもせずに冒険なんて夢のまた夢だぞ」
「でも、エイナさんが言ってました。冒険者は『冒険』をするべきじゃない、って」
「そりゃ、見解の相違だな。普段から冒険をするべきじゃない。冒険とは試練だからな。でも、普段から無理をするな、っていう意味じゃない。自分よりも強い敵と戦うからこそ得られる経験がある。それはベル自身、よく分かっているだろう?」
「……はい。今なら分かります」
「よろしい。自分と同格、あるいはそれ以下の相手と戦う事を無意味という訳じゃない。多対一の経験は無駄じゃないからな。それでも強敵との一対一の戦いはそれ以上の価値がある。自分の中にある壁を超える良い機会だからな」
「モルディアさんも似たような経験があるんですか?」
「――――あるよ。たった一度きりだが、俺が文字通り死力を尽くして戦ったことが。俺はあの時以上の激戦を経験したことがない。その経験は俺の考えを大きく変えたよ」
「モルディアさんでも、ですか?」
「どういう意味だよ。それまでの俺は試練に意味なんて見出さなかった。如何なる事柄であれ、俺にとっては踏破できる枠組みのソレでしかなかった。そんな俺が強敵と立ち向かい、ソレを打ち破る経験を得られた。どれだけの月日が過ぎようとも、あの戦いの経験は俺の中に色褪せることなく残っている」
「……どれだけ強かったんですか?」
「この都市の冒険者の総力を結集したとしても、勝てない程にかな。オッタル君はそれなりの実力者だけど、あの程度なら軽くあしらわれるだけだろう。俺が死力を尽くさなければ勝てない相手というのは、それだけの存在だという事だよ」
「じゃ、じゃあ……モルディアさんはオッタルさんに勝てるんですか?」
ベルの言葉にモルディアはきょとんとした表情を浮かべた。少しするとモルディアは笑い始める。ベルはそんなにおかしなことを言ったのだろうかと思っていると、落ち着いたモルディアが口を開く。
「あぁ~、面白かった。俺が誰かに勝てるかどうかなんて問われるの久しぶりすぎだったからつい、な。俺は俺が負けると思った事はないよ。そりゃあ、若いころはどうやって勝つんだよ?と思うような相手もいたけど、とある地点に到達して以降はそんな事考えたこともなかった」
スープが入った鍋を掻きまわしながらモルディアはそう口にした。その視線の先には鍋も何も映ってはいなかった。ただ自分が求める物のために懸命に駆け続けていた昔日の日々を思い出していた。ベルは背越しにモルディアを見ていたために気付くことはなかったが。
「そうなんですか?」
「俺が目指したのはとある極点。誰しもが口にして、けれど決して目指そうとはしないその極点を俺は目指した。その必要があったからだ。その極点に類する場所にまで到達できなければ、俺の目的を達成することが出来ないと思っていたからだ。まぁ、その目的自体は別の形で成就してしまったんだが……。
ともかく、常人はもとより、奇人も変人も天才も馬鹿も誰しもが諦める極点にたどり着いてしまった時点で、俺に敵などいようはずもなかった。どんな強敵も、どんな怪物も、神でさえも、俺にとっては払えてしまえる障害でしかなかったんだよ」
「神様も、ですか?」
「この下界に降りてきた神々ではなく、本来の全能を振るう神ですら俺の敵じゃない。ヘスティアのような戦い向きじゃない神はもとより、武神戦神ひいては破壊神でさえも。俺は総てを下し、最強の位に到達したんだ」
モルディアの言い分にベルは何も言うことが出来なかった。神々という天上の存在でさえ敵わない存在というのがイメージできなかったからだ。ベルはヘスティアを、引いては神という存在を尊敬している。だからこそ、そんな存在よりも上位にいるというのがイメージできないのだ。
「分からないか?まぁ、無理もない話だが。俺のいた環境はそれだけ特殊だった、という事だよ。ベルの参考には欠片もならないから、考えなくていいさ。重要なのは、自身が向かい合うべきものをはき違えない事だ。ベルが『英雄』を志すのなら、試練から逃げてはいけない。そうだろう?」
「やっぱり、そう、なんですか?」
「もちろん。いいか、ベル。いくら逃げたって良い。最後には勝つべき時に勝て。ソレが出来れば立派な英雄さ」
「モルディアさんはそういう人たちを見たことがあるんですか?」
「英雄だなんて呼ばれるような輩が、そうそういると思うか?……と、言いたいところなんだが。あるよ。へこたれて、くじけて、膝を折って……それでも最後には立ち上がり、重要な場面で勝利を収めた英雄みたいな連中を俺は数えきれないほど見てきた。そういう意味では、ベルはまだピカピカの新入生って感じだな」
多く見てきた英雄候補たち。決して一筋縄でいくものばかりではなく、一癖も二癖もある者も決して少なくなかった。その実力は世界に名だたる者たちに連なるほど高く、モルディア自身その成長を楽しそうに眺めていた。そんな者たちが乱立するほどにはモルディアのいる世界は危険にあふれている証左でもある。
「いいか?ベル。お前も英雄を志すのなら、その胸に刻んでおけ。
たとえどのような状況であろうとも。己の進むべき道は己で決めろ。他者の意見など聞くな。他者が定めた道など無視しろ。たとえその道がどれだけ人道に反していようと、自分の理念に適わないのなら。そんな道は無視して、自分のやりたいようにやれ。
ソレが出来るようになってこそ、本当の英雄の道だ。他人に認められたいなどと思うな。自分の道を他人に認めさせる。ソレが出来て、ようやく一端の英雄候補だ」
自分が英雄だなどとモルディアは口が裂けても言わない。それでも、彼の背中を見た者たちが、彼の視線を受けた者たちがそうだったように。自分の個我を貫く者こそが英雄だ。誰かの視線でぶれてしまうような輩は
認めてもらうのではなく、自分の道を貫くことで他人に自分を認めさせる。その程度のことも出来ずに、英雄候補になどなれる訳がない。思えば自分も振り回されたモノだと笑いがこみあげてくる。まぁ、笑っているモルディアをベルは不思議なモノを見るように見ていたが。
「ベル。まだ発展途上のお前に言う事じゃないが、命を思う事と試練から逃げる事は違う。英雄を志すのであれば、決して逃げてはいけない時がある。向かい合わなければいけない時がある。それを、はき違えるなよ?」
モルディアがそうだったように、数多の英雄と呼ばれた者たちがそうだったように。英雄と呼ばれる人種は自分の描く未来を手にするために全力を尽くす。その有様がそうではない者たちを魅了し、魅了された人々の手で英雄として担ぎ上げられる。英雄候補の持つ強い輝くが周りを動かすのだ。
「モルディアさんも同じだったんですか?」
心なしか目を輝かせているベルに対して、モルディアは困ったような表情を浮かべる。そんなに変な事を言っただろうかと思うベルに対して、モルディアの心中はそうではないと断言していた。だが、まっすぐに真実を告げる事が正しい事なのだろうか?と思っていた。
ベルは夢に焦がれる子供だ。星に憧れて天文学を目指したり、歴史に憧れて考古学者を志したりする、一部分のみを見てその道をひた走る子供だ。その道の悪い部分を知らず、駆け抜けようとしている子供だ。だからこそ、告げて良いのか悩んでいる――――自分は自分の邪魔になるモノを排除するために力をつけたのだという真実を。
「……まぁ、そうだな。俺は他の英雄候補たちとは違うが、結局自分のやりたい事をするために力をつけた、という点では変わりないかもな。俺には俺の目指すべき目的と極点があり、そこにたどり着くために必要な事をやってきた。結果として、そんな俺に希望を抱く者もいたが、そんな事は俺のあずかり知らぬところだ。
俺は俺のやりたいこと以外に興味はない。他人が俺にどんな希望を抱こうが知った事じゃない。今ではその事を理解している者も出来たが、昔……それこそ俺が若い頃はそんな事も分からない奴が山のようにいた。そして、そういう奴に限って何故、と問うてきたものさ」
「それで、どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたもないよ。知った事かと切り捨てた。
そう言いながらモルディアは器に完成した料理を盛っていく。ベルはモルディアのそんな背中を見ながら英雄というモノがどういう存在なのか、朧気ながら見えた気がした。だからこそ、もっと努力しなくては、と思った。憧れの背中に追いつくためには、まだまだ自分は力不足だと思えたからだ。
「さぁ、持って行ってくれ。ちゃんと栄養を考えて作ったんだから、味わって食ってくれよ」
「もちろんです!モルディアさんのご飯は何時も美味しいですから、沢山いただきます!」
「ははっ、嬉しい悲鳴だな。そうだ、食って成長して強くなれ。日々の積み重ねこそが、オマエを強くするんだからな」
モルディアはそう告げると、先に食卓に着いていたエリスとヘスティアと共に食卓を囲む。穏やかに、和やかに進む食事の時間の中でモルディアはどうしたものかと思考に沈むのだった。