輝きたる君、その世界で何を思う?   作:シュトレンベルク

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本日投稿一本目です。


その男、後輩を鍛える

 翌日、というか翌朝、ベルはズタボロになりながらもダンジョンから帰ってきた。ヘスティアはモルディアのベルを放置するという判断に怒っていたが、ベルを出迎えた際に『強くなりたい』という意思に力添えすることを決断した。そのためにも、どうにかしなければと思っていたところ。

 幸いにも、と言うべきか。ヘスティアのもとには治安維持を旨とするガネーシャ・ファミリアの主神、ガネーシャからパーティーの招待状が届いていた。ガネーシャが開くパーティーなら彼女もいるはずと思ったヘスティアは参加を決心し、一張羅のドレスを引っ張り出しクリーニングに出すところでモルディアに見つかった。

 

「ヘスティア、その服はどうしたんだ?」

 

「あ、モルディア君。えっと、ちょっとほつれているから直してもらおうと思って……」

 

「どこのパーティーに参加するつもりかは知らないが……そのドレスで参加するつもりか?」

 

「だ、ダメかい?僕の手持ちってこれぐらいしかないんだけど」

 

「フォーマルな場ならそれでも良いだろうが……参加するのは明日?それとも幾らか余裕はあるのか?」

 

「えっと、後数日ぐらいはあるけど、それがどうかしたのかい?」

 

「分かった。なら、ドレスは俺が用意するから少し待っていてくれ。くれぐれも食べ過ぎて体形を変えるとかは止めてくれよ……っと、不変の神には詮無い言葉だったな。忘れてくれ」

 

「いや、それは構わないけれど、ドレスまで作れるのかい?」

 

「布地を切って縫うだけだからな。複雑な構造の物を作るのならもう少し時間が欲しいが、単純な構造の物でよければそれほど時間はかからないさ。主神様が何かしらの覚悟を決めているんだ。力になるぐらいはしてやるさ」

 

「モルディア君……ありがとう!」

 

「構わないさ。それで?パーティーには何をしに行くんだ?」

 

「神友に、ヘファイストスに会いたいんだ。今でも正面から行けば会えるかもしれないけど、キチンとした場で会って頼みごとがしたいんだ」

 

「ふぅん……それってベル関連の話か?まぁ、聞くまでもない話だろうが。ああ、その時はエリスと俺の武器の話はしなくていいぞ」

 

「え、でも、良いのかい?」

 

「自分の武器は自分で拵えてあるし、エリスの武器は魔導に関わるもの。それは魔導士()の領分だからな。俺が用意しておくさ」

 

「……分かった。なら、エリス君の武器はモルディア君に任せるよ。じゃあ、ついでに相談なんだけどベル君の武器はどうしたらいいかな」

 

「うん?そうさな……今の武器のままはよろしくない。ナイフが悪いという気はないが、リーチの面を考えるともう少し長さが欲しい。かといってロングソードだと慣れないだろうし、ショートソードぐらいが好ましいだろうな。具体的な長さというか大きさは後で紙か何かに記しておくよ」

 

 そう言うとモルディアは自分が魔道具を下ろしている商会に赴き、布地を購入した。その時に追加発注分の注文書を受け取り、その注文を秒で片付けヘスティアのドレス作りにかかる。藍色を中心に所々で黄色を織り交ぜ、胸元にチューリップの花飾りを添えつける。

 その出来栄えをざっと確認した後、次の作業に取り掛かる。奥の工房にある開発した魔道具【複合構造型魔導炉心】の前に立つ。それは武器の精錬からモルディアの神秘を付与する工程の総てを行うための魔道具。モルディアの武具の一切を鍛造するために用いられるソレに熱を灯す。

 

 最終的にモルディアは魔道具の中から一つの木片と金属を取り出した。それはモルディアが特別に加工したモルディアの魔力によって変質した木材を切り出したソレ。特別な素材であるソレは非常に魔力の親和性が高い。そこから素材を切り出し、様々な魔導効果を刻んでいくのが魔道具師の腕の見せ所だ。しかし、モルディアはその一歩先を行く。

 モルディアの指先から金糸が現れる。その金糸が木片と金属に触れ、粒子となる。そこには確かに【神秘(ミステリウム)】があった。金光がその場を満たし、完璧を象徴する色を持ちながら断絶ではなく調和によって結びつける光の糸が紡ぎあげる力の奔流。それによって紡がれる奇蹟の姿がそこに現れる。

 

 その作業が終わり他の諸々の作業も片付けた後、ホームに帰った。時刻は既に月が中天に上るほどになっており、到着したころには皆寝ているだろうと思っていた。しかし、その予想に反してベルはまだ起きていた。それでも舟を漕いではいたが。

 

「ベル。……ベル、眠いならベッドに入れ。椅子で寝ていると体を痛めるぞ」

 

「ん……あ、モルディアさん。帰ってきたんですね」

 

「ああ。まぁ、夜も更けてきてたし戻ってきても仕方がないとは思ったんだが、一応な。それより、明日もダンジョンに行くんだろう?こんなところじゃなくて、もうちょっとちゃんとしたところで寝ろ」

 

「えっと、ごめんなさい。実はモルディアさんにお願いしたいことがあって……」

 

「うん?俺に?」

 

「はい!えっと、僕を鍛えてほしいんです」

 

「……鍛えてほしい?ステイタスは連日のダンジョン探索で順調に伸びているって聞いたけど?」

 

「ステイタスじゃなくて、技術の方を伸ばしたくて。でも、そういうのに長けているのモルディアさん以外には知らなくて……」

 

 ベルはあの酒場で悔しいと思った。何もしなくても憧れに近づけると思った自分に。後で聞いたロキ・ファミリアの第一級冒険者を圧倒したモルディアに何の努力もなく憧れた自分に。相手が遠くにいるのなら、どこまでもそれこそ死ぬ気になって走らなければならないというのに、このまま歩いていればいつかはなんて夢を見ていた自分に。

 もっと、もっともっと死に物狂いになって求めなければ。欲して走り続けなければ、その境地に至ることなど出来る筈がない。今の自分にとって見上げるのも難しいほどの高みにいる人たちの下にたどり着きたいなら、貪欲にならなければ無理だと分かるから。

 

「……そうか。じゃあ、明日の朝一から始めるか。そのためにも早く寝ろ。俺の鍛錬は厳しいからな」

 

「本当ですか!?」

 

「もちろん。お前が本気で強くなりたいと願うのなら。俺はその願いに副ってやるだけだからな」

 

 モルディアの言葉に頷いたベルが寝床に入るのを見た後、モルディアはヘスティアに秘密にしてある戸棚の奥に置いてある酒を引っ張り出した。その封を解くと空間に華やかな匂いが漂う。乳白色のソレをグラスに注いだ後に酒に再び封をして戸棚に仕舞いこみ、酒の匂いを堪能して喉に流し込む。

 

「やっぱり気分がいい時に飲む酒は美味いな。ヘスティアに教えたらがぶ飲みされかねないから、届かないところで封をしといたけど……悪くない」

 

 モルディアは笑みを浮かべる。モルディアはベルが想像もつかないほどの長い時を生きてきた。それまでの生きてきた時間は決して平坦な物ではなく、様々な障害を踏み越えてモルディアは生きてきた。そんな彼の人生の中で自分を素直に慕ってくれて信じてくれた者は本当に数少ない。

 何故なら、モルディアの立っている位置があまりにも高すぎるから。表の世界にて万能を、裏の世界にて最強を誇ったのがモルディアだった。そのために必要な努力は総て積んできたが、そんな裏の事情を知らない者たちはモルディアを天才と称え恐れた。その事情を知る者たちはモルディアの偉業を知り畏れを抱いた。

 

 彼を最初から最後まで等身大の人物として受け入れたのは、彼の最初の妻と両親ぐらいだった。最も近かった双子の兄もモルディアは違うのだと思っていた。彼の子も、その系譜に至るまでモルディアを自分と同じ人間だとは思わなかった。それをモルディアは薄情だとは思わなかった。そう思われても当然だろうという努力を彼がしてきて、その努力が実っていたからだ。

 魔導の領域では神域に到達し、武技の腕前も武神とタメを張れるぐらいの領域に至っていた。その他様々な分野も他者に追随を許さぬとまでは言わずとも、最前線を走っているような者たちと遜色ない知識と腕前を修めていた。それは他の者たちがソレのみに集中できないような環境下でも、モルディアはソレにのみ注力することが出来ていたからだ。

 

 要するに振れるリソースの量が初めから違っていた。どこまでも際限なく知識を貪り、その知識を経験という形でその身に修めていった。だからこそ、モルディアは万能とすら称されるほどの存在になれた。しかし、そんな相手を対等な存在として見ることなどできないのは言うまでもないだろう。だからこそ、モルディアは目標にはなれず、ただ遠い星のように扱われてきた。

 そんなモルディアが、目標とされる。それはモルディアにとって、とても嬉しい事だった。もちろんベルが何も分かっていないから、そういう態度を取っているというのもあるだろう。モルディアの経歴を知れば恐縮して距離を取る可能性も十二分にある。それでも、一時的であったとしても、モルディアを手を伸ばしていればいつか手が届く対象なのだと思ってくれるだけで、モルディアは十分に嬉しかったのだ。

 

 思わず手を目に添えそうになり、危ない危ないと呟く。モルディアの眼は特殊なソレである。とある術式をベースにしてはいるが、その上から数十以上の魔法式が刻み込まれている。その一つが千里眼。現在以外の時間軸、即ち過去と未来を見通す力がその瞳にはある。無論、滅多にソレを使うことなどないが、今はつい見たいと思い魔力を通しそうになったのだ。

 未来とは自分の眼だけで見るものではない。肌で感じて、耳で聞いて、鼻で嗅いで、舌で味わう。文字通り、五感の総てを使って感じるものだから。未来はどうなるか分からない。だからこそ、面白い。だからこそ、何も知らない状態で感じてみたい。末路は決まっていても、その旅路がどうなるのかはまだ誰にも分からないのだから。

 

 

 

 

 

 

 空が若干白み始めている時間帯、教会外の庭にベルとモルディアは立っていた。体が痛まないようにベルが柔軟しているのを見つつ、モルディアは唇を指で叩きつつ思考していた。柔軟が終わり立ち上がったベルを見て思考を止める。

 

「よし、柔軟は終わったな?」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

「それじゃあ、まずは……何を教えたものかね。俺の戦闘能力は素のものだとそんなに高くないからな」

 

「いやいや、そんな事ないですよ!だって、あのベート・ローガさんを一撃で昏倒させたって聞きましたよ!?」

 

「それな。俺の戦闘方法っていうのは、魔力ありきなんだよ。ああ、そういう意味では講義が丁度良いか」

 

 廃教会の中から椅子を取ってきて座るベルと同じく廃教会から説法用の登壇を取ってきたモルディア。簡易的な学校のような形に、ベルは内心ワクワクしていた。

 

「まず、ベルは魔力ってどこから生まれていると思う?」

 

「えっ、魔力ですか?それは……やっぱり心臓とか頭とか?」

 

「ふむ、まぁ、間違ってもいないかな。俺の知見だが、魔力を生成しているのは肉体そのものだ。生命力と言いかえても良いな。源泉は心臓か脳かもしれないがな……精神疲弊(マインドダウン)は知っているな?」

 

「はい。魔法を使いすぎると起こる現象だって、エイナさんから聞きました」

 

「アレは生命力を限界まで魔力に転換した結果、意識を保つことも困難になる状態の事を指す……と思っている」

 

「モルディアさんは経験ないんですか?」

 

「ないよ。俺はそもそも魔力量が膨大だし、マナをオドに転換する技術も持っているからそんな事態に陥ることはないな」

 

「マナとオドって何ですか?」

 

「ん、そうさな。分かりやすく言うと、外界のエネルギーがマナ。内界のエネルギー、つまり自分の持っているものの事をオドと言う。純粋に生命力と言ってもいいが、これは生命力だけに限らない話だからな。世界のエネルギーがマナで、自分の持つ体力だの魔力だのをひっくるめてオドって認識すればいい」

 

「……モルディアさんは本当に物知りなんですね」

 

「これでも専業が研究者だった時代もあるからな。まぁ、今は気にする必要もない話だ。世界のエネルギーが分かりづらければ、そうだな。聖泉だの聖樹だの、自然界に存在する神々の力を介さぬ存在の持つ力とでも思えばいい。これは目に見えないだけで、実はその辺に幾らでもある。

ただし、これを体内に取り込むことは通常できない。何故なら、自分が持っているソレと全く異なる物を取り込むのは毒を飲むのと変わらんからだ。俺の場合は、取り込んだマナを自分の魔力と同調・変化させて取り込んでるからそんな事はないというだけ」

 

「じゃあ、その方法を僕も使えれば魔法を使えるようになったりするんですか!?」

 

「まぁ、理論上は?」

 

 モルディアの言葉にベルは目を輝かせる。英雄に憧れるベルにとって、魔法は憧れでもあるからだ。ずっとエリスの事を羨ましいなと思っていただけに、自分も魔法を使えるかもしれないという事実には胸を膨らませずにはいられなかった。そんなベルを見て、モルディアは気まずそうに眼をそらす。その目の輝き具合に言いづらいなぁ、と思わずにはいられなかったからだ。

 

「ただ、これだけ使えても魔法使えないけどな」

 

「えっ!?」

 

「この技術はあくまでもマナをオド、つまり世界の魔力を自身の魔力に転換する技術。後々で魔力を身体能力に上乗せ転換させる技術を覚えたら使える技術だけど、今は何の役にも立たない」

 

「そ、そんな~……」

 

「ただし。魔法の術式を自分で構築させることが出来れば、話は別だ」

 

「へ?」

 

 ベルが呆気にとられているとモルディアが右手を上げる。その掌の上に青い光を放つ魔法陣が現れ、次の瞬間には水球が現れる。ベルの眼が見開かれるのと同時に地面に向けてデコピンで飛ばし、地面をへこませて消えた。それを見た後、驚きっぱなしのベルの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。暫く撫でられた後、モルディアを見上げる。

 

「そもそも、ステイタスに魔法が発現しただけで何故魔法が使えるのかを考えたことがあるか?」

 

「えっと……ないです。だって、そういうモノなんじゃないんですか?」

 

「冒険者はそれで良いだろうがな。研究者はソレではいけない。そうなるという結果よりも何故そうなるのかという原因や過程を重視しなければならないからな。それで話に戻るが、ステイタスで魔法が発現した時点でその肉体に魔法や魔法発動に必要な因子が刻まれている、というのが俺の見解だ」

 

「……ごめんなさい。あんまりよく分からないです」

 

「良いよ、分からんくて当然だからな。と言っても、見解が総てでもあるんだがな。目には見えない規模で魔法の式が肉体に刻まれ、詠唱と魔力をトリガーとして魔法を発動させる。理論としてはこれだけ。詠唱の長さは術式規模の補完が理由だろうな」

 

「補完ってなんですか?」

 

「完璧にするために補うってこと。エリスが使う魔法【ノウム・ヴァニア】のようなシンプルな魔法ほど短く、逆にアールヴ殿が使う魔法のような規模が大きい魔法、あるいは複雑な術式効果を持つ魔法ほど詠唱が長くなる傾向があると俺は見ている。これは体内に刻まれた魔法陣の量によって影響しているんだろうな。

複雑な術式や大規模な効果をもたらす術式は、それだけ広範囲の魔法陣を必要とする。だが、肉体に刻まれた分では発動に到底足りない。だからこそ、肉体にある発動に必要な因子を起点に魔法陣を構築する。そこで術式効果がシンプルな物はエリスみたいに一節で済んだりする。だが、アールヴ殿みたいな魔法はそれだけでは足りないんだ」

 

「じゃ、じゃあ、リヴェリアさんみたいな高位魔導士が魔法を無詠唱で使おうと思ったら、どれぐらい魔法陣が大きくなるんですか?」

 

「ん?そうだな……このオラリオの半分ぐらい覆えるサイズじゃないか?」

 

「お、オラリオの半分?そんなに大きいんですか!?」

 

「そりゃあな。確か、アールヴ殿の魔法は三種三段階の魔法だったから、最大開放となればオラリオを覆えるぐらいでかいだろうな。ちなみにさっきの魔法は【水球】【質量】【飛ばす】の因子を持っていれば使える。無詠唱で使えるシンプルな魔法だ」

 

「……じゃ、じゃあ、エリスの魔法は?」

 

「エリスのは恐らくだが、【音】【付着】【衝撃】と後は【解放】、【破砕】もかな?これぐらいなら詠唱いらなそうだけど、エリスは体が小さいからな。一節とは言え詠唱が必要なのはその辺りが関係しているかもな。まぁ、面白い魔法だとは思うよ」

 

「面白い、ですか?」

 

「ああ。エリスの魔法には拡張性があるからな。魔法式に干渉する術さえ身に着けられれば、超長文詠唱に匹敵する威力の魔法を使えるようにすらなるだろう。俺が保証してやるよ」

 

 短文詠唱の魔法で超長文詠唱級の魔法に匹敵する威力など出せるはずがない。それは今までの下界での普通。詠唱が長ければ長いほど、強力な魔法であるというのが常識だからだ。だが、そんな常識こそモルディアが鼻で笑う筆頭だった。

 

「常識っていうのは思考の停止だ。皆がそうだと言っている――――だから何?何時だって革新をもたらすのは常識から外れた思考や技術を持つ奴だ。ベル、冒険者が未知を既知に変える者ならば、革新をもたらす奴は既知を未知へ昇華する事が出来る奴の事を言うんだよ」

 

「僕には想像もつかないです」

 

「初めから出来る訳ないだろ?言われてすぐにできます!なんて事言われたら俺は泣くぞ。俺がどんだけ時間と労力をかけてこの技術を修めたと思ってるんだ。そもそも、まずベルは魔力を扱えるようになるのが先さ」

 

「そ、そうですよね。魔法を覚えるまでお預けかぁ……」

 

「いや、そんなことはないけど。魔法覚えてなくたって魔力は扱えるよ」

 

「え?でも、僕は魔力持ってないですよ?」

 

「んな事はないよ。冒険者であれば、誰だって魔力持ってるさ。認識できるかできないかの差だけでな」

 

「ど、どういう事ですか?」

 

 ベルはモルディアの言っている意味が分からなかった。魔法を覚えて、魔法を使うようになって漸く魔力のステイタスは伸びていくものである筈だ。だが、モルディアは冒険者であれば誰でも魔力を持っていると言う。モルディアの言うことは本当だと信じているベルの脳は混乱しきっていた。

 

「よく考えろよ、ベル。お前たちは誰からステイタスを刻んでもらった?」

 

「えっと、神様です」

 

「そう、神。超越存在の血を受け(・・・・・・・・・)お前たちは冒険者になる。超越存在(デウスデア)と呼ばれる彼らの血はこの世界屈指の神秘だ。その神秘を受けたお前たち冒険者が魔力を持っていない訳がないだろ?ただ、魔法を使う者より圧倒的に少ないだけだ」

 

「少ない……」

 

「そう。俺が魔力を全身に満たせるほどあるのに対して、ベルは恐らく掌に集められるぐらいしかない。少なくとも魔法の術式を使うにはまったく足りない。せめて腕一本分は魔力を集められるようにならないとな。そうだ、理論も良いが折角だし魔力を認識する訓練でもするか」

 

「そ、そんなのあるんですか!?」

 

「ある、というか割と力業だけどな。俺の魔力をベルの体に流し、俺の魔力と反発する自分の魔力を認識するというもので繊細さも何もない技だし。でもまぁ、最初の訓練ならこれだろ。よし、じゃあやるぞ。最初は不快だろうけど耐えろよ」

 

 モルディアはベルの腕をつかみ、そこから魔力を送り込む。すると、ベルが顔を歪ませる。本来、他人の魔力、いや人に限らず自分以外の力を受け入れることなどできない。そういうスキルを持っているか、ソレを無害化する技能を持っていない限りは。

 だが、生物の体には抵抗する力がある。今回で言えば流れ込んでいるモルディアの魔力に対して、ベルが持っている魔力が抵抗していた。モルディアなら一息で消し去れる抵抗だったが、ベルにとっては唯一と言ってもいいよすがだった。だからこそ、ソレを強く認識することができた。

 

「分かったか?」

 

「……はい。今なら分かります。これが僕の、魔力」

 

「ん、要領が良いな。キチンと魔力を一点に集中できている。この分なら魔力のみでの身体強化も覚えられそうだな。だが、今日はとりあえずここまでだな」

 

「っ!僕はまだいけます!」

 

「いやいや、時間だって。まだ朝食の支度完全には終わってないし、ヘスティアたちがそろそろ起きる時間だろ?あとはダンジョンで色々と試してくると良い。知識で終わるのではなく、ソレを自身の肉、つまり知恵に変える番だ。なに、習得して悪い技能じゃないよ、それは」

 

 そう太鼓判を押して登壇を片付けに行ったモルディアの背をベルはじっと見ていた。ベルよりも圧倒的に広い知見と技能、それを惜しむこともなくベルに教える度量の広さ。もともと尊敬していたが、最早憧れ(・・)と言ってもいいほどの領域にまで成長していた。そんな人に教えてもらったんだから頑張らないと、と決意を新たにしていた。




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