輝きたる君、その世界で何を思う?   作:シュトレンベルク

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本日投稿一本目です。


その男、未知と遭遇する

「やれやれ……せっかくの祭りだというのに騒がしいことだな」

 

 触手が続け様に襲ってくるのを捌きながら魔力に引かれているのを察知したモルディアは背後に隠したレフィーヤの腕を掴み、ティオナに向かって投げる。それと同時にモルディアの総身から糸状の金光が現れる。それらが触手に認識された瞬間、全ての触手がモルディアに向かっていった。それら総てを体駆動だけで捌き、固まったところを斬り捨てようとした。しかし、視界外から迫ってきた触手を認識すると攻撃を中断し、その触手を足場に空中に跳ねた。

 

 次の瞬間、触手の1本が花開き食虫植物のような外見となった。迫り来るそれに対して何の感慨を示す気配もなく蹴り飛ばす。打撃には強力な耐性を持っている触手郡をしてミチミチという音を立てながら千切れかける程の威力の蹴打を受け、触手郡の動きが止まる。その反動で地面に降り立ったモルディアの声が響く。

 

「ウィリディス嬢、魔法の準備を!とどめは君に任せた!」

 

「は、はい!」

 

「お三方、得意な得物の種別は!?」

 

「片手剣があれば」

 

「私は大剣があると嬉しいかも!」

 

「双剣があると嬉しいけど、それがどうしたっての!?」

 

「こうするだけさ」

 

 がら空きになった片手に銀光の鎖が現れ、それを金光の糸が包み込む。形になった武器が次々と投げつけられていく。ティオナとティオネの手にご所望の武器が握られ、アイズに向けられた手に魔法陣が現れアイズの手にある砕けた剣の刀身に新たに刀身が形成されていく。更に刀身に金光が纏われていき、切れ味が上昇していく。

 

「重ね掛けだ。────起きろ、燦然と煌めく王剣(クラレント)

 

 モルディアがそう呟いた瞬間、刀身から黒金の魔力が溢れ出す。それと時を同じくして、アイズたちは自身の五体に力が溢れ出すのを感じた。少なくとも先ほどまであった疲労感は消え去り、絶好調状態と同等かそれ以上のポテンシャルを発揮できるのを確信した。

 いける、という確信が全員からしたその時、モルディアがその場から離れた。それと同時にモルディアの足元が崩れ、そこから新たなモンスター?が現れた。何故疑問系なのかと言うと、新たに現れたソレが明らかに人型をしていたからだ。よくよく見ると雌型のソレは爛々と輝く明らかに狂っている瞳をモルディアたちに向けた。

 

『ヤット見ツケタヨ、■■■!』

 

 その者の声をアイズたちは聞き取れなかった。だが、何者かの名前であることは察せられた。それに対して、モルディアは訝しげな表情を浮かべる。何故、この目の前の誰かは自分の二つ名または真名とも呼ぶべきソレを知っているのかと。しかし、そんなことは二の次だとモルディアは判断した。

 

「ここは任せても良いか?このお嬢さんは俺がご所望らしいからな」

 

「でも!明らかに1人じゃ危険です!?」

 

「だったら、さっさと倒して助けに来てくれよ英雄候補。それが出来るのが君たちだろう?」

 

『私ヲ見テ、■■■!コノ強クナッタ私ヲ!』

 

 轟音を轟かせながら吹き荒れるのは蒼色の炎。総てを燃やし尽くさんとするその業火に周囲の建物郡も燃やされそうになるが、総ての建物の表面に魔法陣が現れ炎を防いでいく。アイズたちも熱量を感じこそするが身体には何の異常もなく、モルディア自身は肉体の耐性によって受け流していた。

 この場で影響を受けていたのは例の触手花だけであり、耐えきれずに燃やされていた。炎を纏いながら苦しんでいるというある意味討伐難易度が乱高下しているその個体を他所に、モルディアとモンスターが衝突する。

 

『■■■。■■■。■■■。■■■。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■────!』

 

「水よ」

 

 モルディアの剣から膨大な量の水が溢れだし、刀身を覆っていく。モンスターの手元に炎によって棒状に形作られたソレと剣がぶつかっていく。炎と水が衝突するたびに水は気化し、更にマグマに匹敵するような熱によって爆発する。そんな爆発に照らされる熱に負けない程の狂おしい程の熱を宿した瞳を輝かせながら、凄まじい速度で振るわれるソレをモルディアは弾き受け流し捌きながらその攻撃を分析していく。その結果、一つの結論を出した。

 

────確かにこれは俺の槍、その模倣だ。

 

 モルディアはそう判断した。だからこそ、先ほどから呼びかけられている名前は確かに自分なのだろう。だが、ヘスティア以外には明かしていないその名前をどうして目の前のコイツは知っている?いや、そもそもコイツはモンスターなのか?それにしては理知に溢れすぎている。だが、その胸元には確かに魔石がある。それはモンスターであることの証左に他ならない。しかし、それにしては────

 

『見テ!私ヲ見テヨ、■■■!』

 

「小うるさい奴だ。もう少しおしとやかな方が俺の好みなんだがな」

 

『ッ!?』

 

 空いている片手を燃え盛る肉体に押し付け、瞬時に吹き飛ばす。強制的に開けられたスペースにソレが警戒する中、焼け焦げた片手を見下ろし思いっきり息を吹き掛ける。それだけで火傷を消し、残る痛みをぶんぶんと振ることで払う。剣を肩に担ぎ触れた瞬間に解析した情報に納得する。

 

「なるほど。人間とモンスターと精霊の混ぜ物か。肉体の強度はステイタスを持った人間────これはレベル5,6クラスか?にモンスターの魔石を埋め込んだ結果、精神汚染は精霊由来。その技能は恐らく精霊の経験を元にしてるな?」

 

『アア、アア、アア、ヤッパリアナタハ■■■!私ガ愛シタ誰ヨリモ強イアナタ!アノ男トアリアニダッテ勝ツコトノ出来ナイ絶対ノ英雄(アナタ)!私ト一緒ニナッテ!ナニモ怖クナンテナイカラ!』

 

「部分部分が狂ってるな。正気と狂気の間を反復横跳びでもしてんのか?それでどうやって俺の槍技を……いや、お前アレか。両面持ってて正気で槍技を再現しつつ狂気で身体能力を全開にして分回してるのか。器用な奴だ」

 

 モルディアでも早々やらない芸当に感心していると、モルディアが自身を見ていないことを悟ったのか精霊は憤怒を露にする。その憤怒と同等なのだろう熱が槍から放たれる。精霊としては癇癪程度の感情の発露だろうが、その力はまさしく暴力と表現するしかなく。先ほどまでは熱い以上の感想はなかったアイズたちも近寄れないほどの熱量を発揮していた。

 

『私ヲ見テ、■■■!』

 

「今の俺を見てない奴を見る理由などないだろう?過去の残影を追い求めているような奴にくれてやる時間など俺にはない」

 

 モルディアの言葉に熱量を上げる精霊。熱量と共に膨れ上がる魔力に自身以外の対魔力防御を上げる。自身の肉体の耐性を超えかねない熱量に対し、水属性の魔力を肉体に浸透させて肉体に蓄積した熱を下げていく。それで意識を持たせていく中、精霊は次の手を打ってきた。空中に飛び上がり、その背中には極大の魔法陣が現れる。

 

『焔ヨ、来タレ──』

 

 その言葉にモルディア以外に寒気が走る。その魔力量は彼女らの知る最強の魔導師リヴェリア・リヨス・アールヴに匹敵、或いは凌駕しかねない程の魔力量を感じさせる魔法。何より彼女たちが知る魔法陣(マジックサークル)よりも巨大なソレがもたらす被害がどれ程の物となるか、想像に固くはなく事実として以降の展開は彼女らの考えた通りだった。

 

『猛ヨ猛ヨ猛ヨ

炎ノ光輝ヨ

紅蓮ノ閃光ヨ

業火ノ紅華ヨ

突風ノ力ヲ借リ

世界ヲ満タセ

燃エル空燃エル大地燃エル海

燃エル泉燃エル山燃エル命

全テヲ焦土ト変エ

怒リト嘆キノ号砲ヲ

我ガ愛セシ英雄ノ命ノ代償ヲ──』

 

 何とか触手花を倒し、精霊に向かおうとする四人だったがその場を支配する炎熱の嵐を前に動けなくなる。風を纏えるアイズが向かおうとするが、それをモルディアが止める。どうしてと言わんばかりのアイズに対し、モルディアはそれまで片手で保持していた剣に両手を添える。すると剣から溢れ出す水の量が爆発的に増す。

 

「王剣抜刀──

此れこそは偉大なりし我が■■へと捧ぐ忠誠の剣なれば──このうねりの前にただ沈め」

 

『代行者ノ名ニオイテ命ジル

与エラレシ我ガ名ハ火精霊

炎ノ化身炎ノ女王──』

 

 かたや刀身から溢れ出していた水が急速に集束したことで、いかなる防御も両断する水刃が形成される。それはある英雄から継承したどのような敵であろうと、自身の忠義によって打倒してみせるという滅びの波濤。

 かたや膨大な魔力を手元に集束させることで、いかなる防御も融解させる程の熱量を伴った光線が形成されていく。それは英雄と共に並び立つ者が手にした、敵を絶対に滅ぼすという意思を具現化させた滅びの具現。

 

我が麗しき■■へと捧ぐ、忠誠の剣(クラレント・ブルーロイヤリティ)

 

【ファイアーレイ】

 

 極限まで集束圧縮されたウォータージェットが本来は拡散殲滅用のソレを収束させた紫色の光線と激突する。互いの攻撃が互いを喰い合うように威力を減衰させていく。互いの間にあった空間は人体が存在できるような空間ではなくなっており、太陽フレアの前に人体を晒しているような状態であり有り体に言えば一瞬のうちに水分が蒸発して熔け死ぬ以外に選択肢がないような状態だった。

 これは止める筈だとアイズは悟った。あの瞬間にアイズが突っ込んでいれば間違いなく自分は死んでいた筈だ。アイズたちを守り相手の攻撃を防いでいるモルディアの背中に、アイズがかつて見たことのある英雄の背中を幻視した。

 

 そんな中、モルディアは確信していた。このままであればこちらの攻撃が潰えるのが先だ、と。威力の大部分を減衰しているとはいえ、その脅威は未だ人間四人を殺すには十分すぎる物であり、自分が生き残れても後ろの面々は死ぬだろうという確信があった。

 モルディアは自身を英雄とは定義しない。彼は生きるもの総てを悪と定義し、だからこそ生きることには善悪は関係ないと定義している。それ故に今を生きるものが理不尽にその生命を奪われることを良しとはしない。その為ならば曝すことはなかった技能すらも衆目に曝す事を良しとする。

 

「永久の凍土をここに。

遍く生命は凍てつき。

遍く罪過が眠りについた。

汝の前に冥府がありて。

その後ろに常春の楽園を。」

 

「魔法を使いながら長文詠唱……多重詠唱(ダブル・キャスト)!?」

 

「【ウィン・フィンブルヴェトル】」

 

「しかもリヴェリア様の魔法を!?」

 

 モルディアの額に魔法陣が現れ、絶対の凍土をもたらさんと吹き荒れる吹雪によって水流の波濤を凍てつかせながら炎熱の光線を削いでいく。それによって漸く五分の状態まで持っていった。両者が攻撃を放ち終えたことで生存不可能な地獄が漸く終息する。だが、しかし、それは戦いの終わりを告げる事にはならなかった。精霊が着地すると同時に歓喜の感情を露にする。

 

『スゴイスゴイ!アナタハヤッパリ私ガ見込ンダ通リ!デモ、ダケド……ナンデアリアヲ守ルノ?』

 

「……え?」

 

『ソコニイルベキナノハ、アナタジャナイデショウ?アリア』

 

「何を、言って……」

 

「俺が守ると決める相手は俺が決める。少なくともお前がしゃしゃり出てきて何かを言う権利はない。そういうのは、きちんと理性を取り戻してからほざいて欲しいものだがな」

 

 両者の視線を斬るように剣を振るうモルディア。それに対して動揺を隠せないアイズと不満を露にする精霊。その両者の視線を受けても尚、堂々とした態度を崩さないモルディアはまさしく英雄と呼ぶべき存在だった。だからこそ、先ほどの不満は消え笑みを浮かべる精霊と未だに動揺を納めきれないアイズの姿はとても対称的だった。

 

「どうして……」

 

「うん?何かあったか?ヴァレンシュタイン嬢」

 

「どうしてあなたは助けてくれるの?」

 

「ふん、俺が助けを求める手を振り払う冷血漢だとでも?……いや、昔はそうだったけど。今は助けを、英雄を求める子供の手を振り払うほど冷徹じゃないさ」

 

 その言葉にアイズは動悸を感じた。幼少の頃に憧れ、それでも現れてくれなかったから剣を手に取った。自分が英雄になるしかないとそう覚悟を決めて進んできて、でも、それでも捨てきれない英雄を希求する心。そんな心に乗り込んで手を差しのべてくる男に、アイズは希望を持ってしまう。

 

「あなたは、なってくれるの?私の英雄に」

 

「君だけの英雄になれるかなんて知らんしなれるとも思わん。俺は目の前で助けを求める者を無下に扱う気はないからだ。だが、それでも良いと、それでもこの手を掴もうと手を伸ばしてくれるのなら──」

 

 モルディアは振り返り手を差しのべる。その手は超高熱の焔に触れたことで黒く煤けており、英雄の手とは思えなかった。それでもその力強さは感じられた。彼の意思の強さをアイズは感じずにはいられなかった。ああ、この人こそ自分の願った――――

 

「俺が君を助けよう。まぁ、俺は師匠のような英雄にはなれないだろうし、君の覚悟に絶対報いてやるとは言えんが。それでも良いと言うのなら、な」

 

 その言葉にアイズの心に風が吹く。モンスターに対する復讐心がもたらす黒い風ではなく、英雄がもたらした白い風が。彼女の心を覆う暗雲を晴らす強い風が。

 

「……分かった。だったら、私も戦う」

 

「は?」

 

「あなたを一人ぼっちの英雄にはさせない。あなたを助けて、皆を助けて、私たちで英雄になる」

 

 アイズは自覚していないが嫉妬深い。なぜなら彼女の根底にあるものは幼少の自分だから。自分の英雄が自分だけを見てくれるように戦う。彼の歩む戦場に自分も肩を並べて戦えるように立ち上がる。かつてアイズの両親がそうであったように、共に並び立って戦う。そうして二人で揃って英雄になる。その為にはきっと今は自分だけでは駄目だ。だからこそ、自分には皆の助けが必要だ。

 

「だから、助けてくれる?」

 

「もっちろん!」

 

「置いてけぼりなんて、許すわけないでしょ?」

 

「私も魔導師としてアイズさんや皆さんの力になります!」

 

「俺の意見は置いてけぼりかい。まぁ、好きにすりゃいい。俺は俺の道をゆくだけだからな」

 

 そんな五人の姿が眩しかったからか。はたまたかつて共にあった■■■と自分の姿を幻視したからか。精霊の熱が高まるのを感じ、その場にいた全員の視線が集まる。その瞳に宿る狂気の色が強くなり、自身の英雄を希求する。アイズと精霊の立ち位置はいつの間にか反転していた。

 

『私ヲ見テ!私ヲ見テヨ、■■■!』

 

「見ているともさ。その上でお前を殺す。此処がお前の死に場所だ」

 

『私ヲ助ケテハクレナイノ……?私ヲ見捨テルノ?アノ時ミタイニ……私ヲ置イテイナクナルノ?ダッタラ』

 

 精霊の背中に炎熱の翼が生える。灼熱の業火を宿したソレを前にアイズたちは立ちろぎ、モルディアは静かに眼を閉じる。再びその眼を開けた瞬間、黄金に輝く眼光があった。その瞳に精霊は恐怖し、その恐怖を振り払うように力を振り撒いた。かつて隣にあって力強さすら感じたその瞳が自分に向けられている現在に、悲嘆の涙を流し自身の熱によって蒸発していくのを感じながら。

 

『アナタハ私ノモノ!他ノ誰デモナイ、私ダケノ英雄ナンダカラ!』

 

「違う。今は私の、私たちの英雄」

 

『ッ!アリアァァァァーーーーッ!』

 

英雄よ(テンペスト)】――――【どうか共に(エアリアル)

 

 振り撒かれる炎熱の嵐から身を守るように白い風が冒険者たちに流れていく。その風によって先ほどまで動くことすら辛かった身体が動くようになり、笑みを浮かべる冒険者たち。それを確認し、漸く守りを気にせずに本領を発揮できるようになった怪物。忌々しそうにアイズを睨み付ける精霊。これにて漸く戦局は冒険者有利な状態へと傾いたのだった。




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モルディアの使用リソース
・精霊との戦闘
・周辺の建物の保護
・魔力による四人の生命保護
・奥の手発動
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