輝きたる君、その世界で何を思う?   作:シュトレンベルク

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本日投稿二本目です。
前話をまだ読んでおられない方は、そちらが読み終わってからをオススメします。


その男、迷子を救う

 精霊は慣れない近接戦闘を止め、攻撃が届かないであろう空中に飛び上がる。その翼からも大量の純粋な熱量を持った羽を生み出し、それをその場にいた全員に向けて飛ばした。それは先ほどまであったモルディアに対する執着心が薄くなってきた証拠であり同時に周りに対して被害が生まれる可能性が高くなってきた事を証明していた。

 それに対してモルディアがアイズの風を纏い、水を纏った剣を振るって羽を消し飛ばし空を舞う。精霊だけの舞台だったソコに英雄が昇る。それがモルディアだけであったなら、精霊はまた歓喜の笑みを浮かべただろう。だが、その隣には寄り添うように飛ぶアリア(アイズ)の姿があった。その姿を見るだけで血管が切れそうなぐらいの憤怒の火が心を燃やした。

 

 どうして、何故、どうしてお前が、そこは私が、お前にはアノ英雄ガイタノニ、私カラ奪ウノカ、私ダケノ、私ガ見イダシタ、私ヲ見テクレタ私ダケノ英雄ヲ、ダッタラ、ダッタラダッタラダッタラダッタラダッタラダッタラダッタラダッタラダッタラダッタラダッタラダッタラダッタラダッタラダッタラダッタラダッタラダッタラダッタラダッタラダッタラダッタラダッタラ────

 

「アナタナンテ、モウイラナイ」

 

「「ッ!」」

 

 変わった。この瞬間、確かに精霊の気配が変わった。先ほどまであった誰かの意思から脱却し、精霊自身が持っていた由来の力を取り戻した。モルディアに対して向けられていた強い執着心は消え、その代わりにアイズに対する絶対に排除すると言わんばかりの敵愾心を顕にする。それと共に強い熱の嵐がその場を満たす。

 空に赤い粒子が飛び交い、その粒子がアイズによって付与された魔法を削り取らんと言わんばかりに襲いかかる。アイズ自身、それに負けんと言わんばかりに魔法の出力を上げようとするもモルディアに止められる。モルディアにはそれがどういう事象で起こそうとしているのかが分かったからだ。

 

 精霊がやろうとしているのは付与魔法の上書きだ。魔法によって付与できるのにも範囲と限界があり、精霊はアイズの魔法が独占しているそのキャパシティを自身の魔法によってオーバーフローさせるのが狙いなのだ。当然の話だが、純粋な熱量を肉体に付与などされれば、肉体はたちまち燃え盛る薪と化すだろう。

 だが、何事も使い方で化けるもの。それをモルディアは証明して見せる。何故なら彼の本領は魔導師であり、遍く神秘を解き明かす者。彼がその本領を奮っていた場所において、彼の偉業を知る者は彼の事をこう讃えた────遍く神秘の簒奪者にして新たなる神秘の創造主。

 

「何事も使いようだ。リソースの奪い合いだけが術師の戦いじゃない」

 

 魔導の先を行く者にして神秘の主──魔導王と。

 

 先ほどまであった白い風に赤い粒子が混ざり合い、両者の色を取り込んだ風へと変わる。アイズの風と精霊の火を取り込み、新たな力へと昇華させる。方向性こそ同じであれどまったく違う2つの魔法式を矛盾させずに成立させる、という奇跡をモルディアはやってのけた。

 それにアイズと精霊が眼を見張った瞬間、爆音と共にモルディアの姿が掻き消える。それに驚いているとモルディアが精霊の頭上に現れ、剣が振り下ろされる。ギリギリで気付いたのか、精霊の手元に魔力の盾が現れ防御される。

 

『ナニヲ…ナニヲシタノ、■■■!』

 

「お前の火とヴァレンシュタイン嬢の風を合わせた。燃料はお前がばら蒔いてくれたからな。一切困らなかったよ」

 

 モルディアが何をしたのか?

 簡単に言えばジェットエンジンと同じ理屈である。周囲にある魔力流から純粋な魔力を抽出して取り込み、魔力を肩もしくは足裏で圧縮後即時解放することにより超高速移動を可能としている。先ほどで言えば、足裏に魔力を集め爆発して跳躍のように頭上へ飛んだ。

 だが、ここでの問題は移動の理屈ではなく、純粋な移動速度。レベル5のアイズは勿論、強化されている精霊の認知速度を上回る移動速度を見せたことである。近くにいたアイズたちですら見切れなかったのだ。地上にいるティオナたちからすれば瞬間移動と言ってもいい速度だっただろう。

 

「水よ」

 

 その言葉と共に剣から水が溢れ出すと同時に熱により水蒸気が生まれる。大量の水蒸気化した魔力が周囲を満たした瞬間、モルディアは懐から1個の魔石を取り出して魔力を流し込んでから親指で弾くように飛ばす。ソレが精霊の身体にぶつかった瞬間、臨界を迎えた魔石が爆発する。爆発の規模としては小規模でそれだけであれば何ともなかっただろう。だが、連鎖的に水蒸気化した魔力も爆発した。その爆発の規模は地上で起こっていれば、周囲一帯を木っ端微塵にしてしまえる威力だった。

 

 その威力の前にはさしもの精霊であっても死ぬことはなくとも、大ダメージは避けられなかった。モルディアですら空中での制御を失い、地面に落下しているところをアイズに拾われた程の爆発だったのだからさもありなんという話ではあるが。精霊の片翼が捥がれ、地面に叩き落とされかけるも残りの翼で地面を爆発させてその反動で着地する。そしてモルディアとアイズに視線を向けた瞬間、ティオナとティオネが襲いかかる。

 

「あたしたちを無視してんじゃないわよ!」

 

「いっくよぉー!」

 

『クッ……邪魔ァッ!』

 

 精霊の手元に魔力が集まり、先ほどまで振るっていた炎の槍が現れる。通常の金属であれば容易に熔解させてしまえる温度を持つソレとぶつかり合えばこちらが勝つ。精霊はそう思っていた。しかし、現実はそうではなかった。

 

「かったーい!」

 

「何でそういう経験が一切無さそうなのに、団長並に槍の扱いが上手いのよ!?」

 

『ナンデ…ナンデ…!?』

 

 結果は相殺。ティオナとティオネの攻撃は必殺足り得ず弾かれた。しかし、精霊の攻撃も彼女らの武器を破壊することはできず、その槍は命を奪うことは叶わなかった。精霊が動揺を隠せない中、モルディアがアイズの手を借りて地面に降り立つ。そんな2人を見て頭を振る。

 そんなことはどうでもいい、と。分からないことは考えても仕方がない。それよりも自分の大切な英雄と英雄を奪おうとする売女を殺さなければ、と。殺意にその身を投じる道を選択する。自分が何をしたかったのか、何が欲しかったのかも忘れて目の前の裏切り者を排除するために全力を投じる。

 

 吹き飛ばされた筈の片翼が再生し、そこから雨霰と言わんばかりの炎属性の魔力弾が降り注ぐ。それに対してモルディアは直ぐ様防御壁を展開し、総てを防ぎきる。その隙を突くように精霊の槍がモルディアに迫るも、アイズが受け止め弾き飛ばした。どこまでも邪魔を、と言わんばかりに歯を食いしばる精霊の腹部を高速移動したモルディアの蹴りが穿つ。

 防御も回避も許されない一撃を受け、弾き飛ばされた精霊がモルディアによって防御強化された建物に衝突する。一等級武装並に強化された建物の壁面に罅が入っているだけに、その蹴りの威力が尋常なソレではなかったことは明らかだった。ダメージで動けなくなっていた精霊に更なる追撃が入る。

 

「穿て、必中の矢────アルクス・レイ」

 

 モルディアによって防御と魔力隠蔽を施されたレフィーヤの一撃。オラリオ最強の魔導師の勲等を受ける後継者候補と呼ばれるに足る一撃を受け、その両翼は半ばから千切れ飛び片腕も損壊。脚に至っては両足共に黒焦げという有り様。人型をしているだけにかなりグロテスクと言ってもいい有り様だった。

 だが、そこで止まってしまうなら彼女らは冒険者などしていない。すぐさま追撃を仕掛ける。先ほど精霊が見せた肉体の一部の再生が現在の損傷部位に該当しないとは考えにくいからだ。今叩かなければ逆にこちらがやられてしまいかねない。4人がほぼ無傷と言ってもいいのは、モルディアが魔力によって防御膜を張っているからだ。

 

 そうでなければ精霊の放つ熱にやられて、立つことも困難になってしまう。モルディアの水によって若干低下しても尚真夏の砂漠地帯も超えるような温度なのだから、人間は少なくとも生きていられないだろう。それほどまでに過酷な環境がこれ以上続けば上級冒険者といえども何時まで持つかは分からない。そうでなくとも、地上には一般人や神々がいるのだ。早急に排除するしか選択肢はない。

 最速と言っても良い判断を下し行動した彼女らだったが、それでも動きは精霊の方が早かった。不死鳥が灰の中から蘇るように、自身の肉体を焔で包み次の瞬間には全快した状態で立ち上がった。これでは八方塞がりだとアイズたちが思っている中、モルディアは何も思うところはないとばかりに前に出る。

 

「随分魔力を減らしたな?槍を交えていた頃と比較すると六割減、といったところか。まぁ、あれだけ魔力をばら蒔いていれば自然の事だろうが。後何度削り倒せばお前は倒れるのかな?五回?十回?まぁ、どちらにしてもいずれは倒れるんだろうし、最後まで付き合ってやるよ」

 

『■■■…ワタシヲ助ケテハクレナイノネ……』

 

「お前が救いなど求めているのか?そもそもその言葉を吐くには些か遅すぎたんじゃないか?」

 

『アナタガイナクナッテ、ワタシ頑張ッタノヨ?他ノ英雄モイナクナッテ、ワタシタチガアノ大穴ニムカッテ、ソレデ……』

 

「……俺の知らない俺があんたに何をしたのかは知らん。英雄神話と呼ばれた時代、あんたがどんな苦痛を味わったのかも分からん。だから、今言えることはただ一つだけ────俺の前に敵意を持って立ちはだかるなら、俺の敵というだけだ」

 

『ワタシハ、ワタシハ、ワタシガ、ワタシガ、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■』

 

 精霊の精神が砕けていく。愛しの英雄に拒絶された衝撃、同胞であった筈の精霊(・・)からの裏切り、自分の邪魔をする者たち、自分を痛めつけてくる者たち。自分の思い通りにいかず、邪魔をしてくる者たちのせいで、精霊の心がグチャグチャにかき混ぜられる。既に瀬戸際にまで行き着いていた精霊の精神状態は最早取り返しのつかない状態にまで至ってしまった。

 

 翼は炎の波濤と変わり、熱量の暴力がその場を支配する。モルディアの防御を施された建物は熔け始め、アイズたちも身体中の水分が沸騰しているような感覚を感じた。文字通りの生命の危機であり、すぐさま勝負を決めなければ自分達の生命が危ういと判断したアイズたち。それに反して、モルディアは顔に手を当てて天を仰いだ。まるで身内の子供が何かをやらかしたのを見てしまったかのように。

 

 モルディアが顔から手を外して閉じていた眼を開いた瞬間、モルディアの眼光が蒼色に変化する。次の瞬間、世界が塗り変わる(・・・・・・・・)。先ほどまでいた街通りとは異なり、海のように水が満ち満ちている空間。精霊は直ぐ様空中へ飛翔し、追うようにモルディアが指を振ると周りの水が捻れ、まるで槍のような形を取った水の波濤が次々と精霊を押し潰さんと言わんばかりに襲いかかる。それらも精霊の放つ熱量によって蒸発していくが、すぐさま水へと戻り攻撃が繰り返される。

 

「四人とも、まだ行けるな?あ、心配せんでも水に沈んだりはしないよ。対象外にしてるからな」

 

「もちろん!アイズとモルディアに任せっぱなしだし、まだまだ行けるよ!」

 

「でも、あの熱の壁を出されると近寄れないのよね。いっそのこと、レフィーヤに凍らしてもらう?」

 

「やってみるのは構いませんけど、多分当たらないと思います。私じゃあ先ほどの戦闘、全然見えませんでしたから……」

 

「見えればどうにかなると?」

 

「リヴェリア様の魔法ですから、何とかなります」

 

「ふむ……分かった。では、俺がウィリディス嬢のサポートをしよう。三人はその間、アレを抑えておいてくれ。俺がこの世界を維持している間は、アレの放つ炎は君たちの障害にはならないことを確約しよう」

 

「へぇ、言うじゃない。この世界は何なのかとか聞きたいことは山ほどあるけど、今は聞かないでおいてあげるわ。アイズ、まだ行ける?」

 

「うん、行ける」

 

「よし。それじゃあ…行くわよ!」

 

 ティオナとティオネ、アイズが疾走する。モルディアは再び指を振るい、水の壁を出現させる。三人はそれらを足掛かりに精霊に向かって接近する。各々が跳躍する度に足場を消して次の足場を形成する。三人の戦乙女が暴走する精霊に立ち向かう姿はまるで英雄叙事詩の一端に記されていそうな光景だった。しかし、モルディアにそれをまじまじと見ている暇はなかった。

 

【ウィーシェの名のもとに願う。

森の先人よ、誇り高き同胞よ。

我が声に応じ草原へと来れ。

繋ぐ絆、楽宴(らくえん)の契り。

円環を廻し舞い踊れ。

至れ、妖精の輪。

どうか──力を貸し与えてほしい】

 

 それはレフィーヤ・ウィリディスにのみ許された魔法。冒険者に与えられた魔法という名の奇跡、通常は最大でも3つしか与えられないその奇跡をレフィーヤは条件付きで無制限に使用することができる。同種族(エルフ)の所持する魔法であり詠唱や効果を理解しているという条件さえ守られていれば、如何なる魔法であれコピーすることが出来る。だからこそ、彼女は神々からこの二つ名を────【千の妖精(サウザンド・エルフ)】という名を送られたのだ。

 

【エルフ・リング】

 

 これこそ彼女にのみ許された【召喚魔法】(キセキ)。続けて紡がれるは彼女の師にして偉大なる王族(ハイエルフ)の紡ぐ魔法。時すらも凍てつかせる絶対凍土をこの地に呼び寄せる魔法。

 

【終末の前触れよ、白き雪よ。

黄昏を前に風(うず)を巻け。

閉ざされる光、凍てつく大地。

吹雪け三度の厳冬──我が名はアールヴ】

 

「準備は良いか?」

 

 モルディアの問いにレフィーヤは首肯する。それを見たモルディアはレフィーヤの眼を塞ぐように手を添える。レフィーヤはその行動に動揺するも、魔法の維持は切らさなかった。モルディアは内心でその自制心の高さに感心しつつも、レフィーヤに魔力を流し込む。発動待機状態を維持している魔法には干渉せず、レフィーヤの肉体特に眼球関連の機能に強化を加えていく。

 

「よし、眼を開いて良いぞ」

 

 モルディアの言葉と共に眼を見開いたレフィーヤの眼は、まるで光を受けた湖面のように輝いていた。そんな状態のレフィーヤは、アイズたちや精霊の一挙一動がまるでスローモーションで動いているかのように見えた。それは先ほどまで眼で追うことすら困難だと思えていた高速戦闘だとは到底思えないほどに。

 

「全員の動きはきちんと捉えられているな?……よし、なら後は自分のタイミングでやってみると良い。安心しろ、たとえ失敗したとしても俺たちがカバーするからな」

 

 モルディアは誰よりも魔導と神秘の深淵に触れてきた。その一点に置いては他の冒険者や神々すらも追随を許さないと自負している。そんな彼だからこそ、レフィーヤの瞳に映る感情がどういうものなのかを理解していた。本当に美しいものを見た時の人の表情を、自分がまったく知ることのなかった世界に触れた感動を、今彼女は体感しているのだと理解できたから。その邪魔をしたくはないとモルディアは素直に思った。

 

【ウィン・フィンブルヴェトル】

 

 丁度アイズたちが離れた瞬間に放たれた絶対凍土の波濤が精霊に襲いかかる。アイズたちの相手をすることに集中していた精霊に防御することは叶わず、巨大な氷柱の中に捕らわれる。地面であった水面は完全に凍りつき、アイズたちの息が白くなっていく。先ほどまで暑いを通り越して熱いとまで言えた環境から若干寒いと言って良い環境への変化に、誰しもが身体を震わせた。

 通常であれば、これで終わり。如何なる生物であれ、周りの環境事氷漬けになどされれば生きることは叶わない。そう、通常であれば(・・・・・・)。しかし、彼女は精霊。神々が下界へと賜せた英雄を助け世界を救うための神秘の結晶故に、この結果も自然の事だった。

 

 氷柱に亀裂が奔る。奔った亀裂の中から焔が溢れ出す。これを放置すれば先ほどまでの二の舞となる。後輩が生み出してくれたこの絶好のチャンスを彼女らが見逃すはずがない。モルディアはそんな彼女たちの動きを理解し、凍りついた水を操作し彼女たちの足場を構築する。作り上げられた足場を跳躍の勢いで粉砕しながら、精霊たちに接近するアイズたち。間近まで迫った瞬間、氷柱が爆砕されると同時に炎の奔流が溢れる。

 

「リル・ラファーガァァァァーーーーッ!」

 

「これでーー」

 

「終わりなさい!」

 

『■■■、■■■■■■■■■■■!』

 

 アイズが穴を開き、二人がその穴を広げる息の合った三人のコンビネーション攻撃が精霊に直撃する。四肢を完全に砕き、五臓六腑に至るまでグチャグチャに掻き乱した攻撃を受け、それでも尚精霊は生きていた。いや、正確に言うのであれば生かされていた。

 魔石から供給され続ける魔力が彼女に死を許さないから。正気を失い狂気に身を委ねた彼女は、今もダンジョンの奥深くにいる最も光を渇望する■■に浸食されてしまっているから。だから、どれ程痛くとも辛くとも止まりたくとも、止まることが出来ない。そこに彼女自身の意思はないから。だからこそ────彼は剣を掲げる。

 

「王剣解放。

此れこそは偉大なりし我が■■へと捧ぐ忠誠の剣なれば──このうねりの前にただ沈め」

 

 掲げられしは英雄の剣。いかなる不浄をも流し清め、いかなる呪いも浄化せし聖水の奔流。原罪を背負いし■■を束ねた■■へと捧げられた■■の忠義、その集大成とも言える剣。大勢の民たちのためではなく、自身が敬愛し忠義を捧げた■■のために奮われた唯一にして無二、その生涯において最強の名を送られた男の■■。

 

「我が麗しき■■へと捧ぐ忠誠(クラレント・ブルーロイヤリティ)」

 

 凍りついた地面がその一歩で粉砕される。ダイヤモンドダストをその身に纏いながら、英雄が行く。アイズもティオナもティオネも追撃は不可能。しかし、数秒あれば精霊は肉体を全快させるがレフィーヤに追撃する余裕はないし、精霊自身がレフィーヤを警戒するのでもう一度同じ手は打てない。それはモルディアも同じことだ。だからこそ、今。この瞬間に勝負を決めるしかない。

 

 それを理解していたからこそ、モルディアは待っていた。精霊が全ての攻撃を潜り抜け、意識の隙間が出来る瞬間を。モルディアという存在を、その脳裏から消し去る瞬間を。意識の隙間を潜り抜け接近したモルディアが剣身に凝縮された水の圧力によって盾に使われた焔と化した翼ごと魔石を両断する。

 

 これで終わり。後は塵に還る彼女を見送るだけかと思われたが、モルディアは見てしまった。彼女の瞳を、モルディアに向けて飛ばされてしまった腕を伸ばす姿を、そして何より言葉にならずとも動く唇の動きを。この時ばかりはモルディア自身、自分の多芸さに舌打ちすらしたくなった。この時、彼女の口はこう紡いでいた。

 

『助けて、■■■』

 

 その瞳は迷子のようで。愛する人を、心の底から信頼している人を探し続ける子供のようで、その姿が自身の記憶にあるとある姿を幻視してしまって。だからこそ、無意識の内に剣を離して手を伸ばした。まだ自分には出来ることがあるのだから(・・・・・・・・・・・・・・・・)、全力を尽くさないのは、この迷子の手を取らないのは、この子供から眼を離してしまうのは違うだろうと行動する。

 魔石に触れた瞬間、膨大な焔が逆流してくる。その焔は人間一人灰塵と化すには十分すぎるほどの熱量を持ち、それを受けたモルディアがどうなったのか彼女たちは想像してしまった。しかし、そんな彼女たちの想像に反してモルディアは生きていた。無論、無傷という訳にはいかず魔力で強化されていた上半身の服は襤褸屑となり果て、その肉体には重度の火傷が刻まれていた。それでも、彼は自身の傷に一切の感心を払わなかった。

 

【我が身は烈日。

遍く万象を照らす光輝なれば────

最果ての極光よ、滅亡と新生を謳え】

 

 彼の背後には2つの魔法陣が現れ、同時に時計の針のような何かが物凄い勢いで順回転と逆回転していた。次第に回転は落ち着き始め、最終的には頂上を指し示した状態で停止した。これぞ終末の時、万象に訪れる最果ての時。ここに結末は綴られた。

 

【■■■■■■■■■■■■■■】

 

 その時、モルディアが何と言ったのか?その場にいた誰もがモルディアの言葉を理解することが出来なかった。その場にいた四人が分かったのはモルディアと精霊を中心に巨大な光が広がったことと、同時に水の世界が崩壊し元の場所に戻ったこと。そして、モルディアの腕の中で赤い髪色の少女が眠っていたこと、それとそんな少女を見て安堵の表情を浮かべるモルディアの姿だけだった。

 

 色々と言いたいことはあった。あったが、今はとりあえず地面に寝転がりたいぐらい疲れたという感想しかなかった。そんな四人の姿にモルディアは静かに苦笑を浮かべるのだった。




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モルディアの使用リソース
・精霊との戦闘
・周辺の建物の保護
・魔力による四人の生命保護
・奥の手発動
+
・アイズと精霊の魔法制御
・世界構築と維持(結界)
・レフィーヤの身体強化
・奥の手発動(一発目)
・奥の手発動(二発目)

次回で一巻目の内容終了です。
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