実験体MM 作:柳月&独鴉
第8試合が始まるところで起こされた舞華は途中から観客席で試合を見ていた。爆豪が麗日をいたぶるような戦いをしているように見えるらしく、辞めろと観客席から声が上がるが舞華は飽きれていた。
状況は逆なのだ。圧倒的に麗日が有利であり一手でも爆豪に触れた瞬間、爆豪は無重力状態にされ下手に爆発を使った瞬間ステージ外に吹き飛んでしまうからこそ、爆豪は触れられないように隙の少ない低威力の爆破をばらまくように使用し、麗日がなんとか触れようと策を練りリスク覚悟で突っ込むことを防いでいる。
僅かなミスで敗北に直結する爆豪、触れさえすれば勝てるがその接近が出来ない麗日、互いに相性最悪の戦いに観客として見に来ている多くのヒーローが理解していない。
舞華は指導者たちからはオールマイトが現れてからは半人前以下のヒーローが多いと嘆かれ、そんなものにならないようにと何度もヒーロー活動の現場に連れていかれ、大切かつ丁寧に実を理解させる教育を受けた。その差なのかはわからないものの、少なくとも。
『いまブーイング挙げた奴、とっとと帰って転職先でも探せ。 爆豪はここまで上がってきた麗日の実力を認めて手加減してねぇんだろうが』
相澤先生は爆豪も必死なのだと理解し、アナウンスルームからブーイングを上げているヒーロー達に苦言を伝えていた。それも痛烈に。
麗日が策を練り爆発を耐え続けながら、舞華は観客席にいる為気付いているが爆豪はまだ気付いている様子はない。何度も爆発に弾き飛ばされステージを転がる麗日はずっと準備を整えている。
「油断してくれなくてありがとう! でも、かぁぁぁつ!!」
視線誘導さえも加えて低い体勢で攻撃を仕掛け続け、爆豪が破壊したステージの瓦礫がステージ上空に大量に存在したものが、麗日が重力の個性を解いた事で振り注ぎ始める。防ぐためにはどうしても爆豪は爆発を連続して上に向けて放つ必要がある状況に麗日はとうとう持ち込んだ。
手を伸ばし爆豪に駆け寄る麗日だが。爆豪は上に左腕を向け、今まで見せていないほど巨大な爆発を放ち一撃で全てを吹き飛ばした。
爆豪は落ち着きを払っているようであるが、爆発を放つ掌底の形を維持しているが左腕を動かさず、かなり無理をして最大の火力を放ったことが分かる。隠しているが痛みもかなりあるだろう。麗日は限界ギリギリまで爆豪を追い詰め、あと一歩届かなかった。
麗日は諦めず一歩踏み出したところで体力が尽き倒れ、それでも腕ではいずってまで必死に近付こうとするも意識を失った。
「麗日さん戦闘不能。 勝者爆豪君!」
ミッドナイト先生によって勝敗が宣言され第一回戦 第八試合は終わりを告げた。
第二回戦 第一試合 轟VS緑谷
ステージ上では戦う2人、変わらず何かを背負い込んだ表情を浮かべる轟、そして対する緑谷も何か覚悟のようなものが見える。
「轟がんばれよ~!」
「緑谷も諦めんな!」
クラスメイトのみんなが両方を応援しているけれど、舞華は知っている。轟は優勝さえも父親へ炎の個性をすべて否定する為の勝利、緑谷は純粋に誰かの期待に答え夢に進みたい故の勝利を、根本から目指す先が異なる。
試合開始と共に迫る氷結に対する制御を捨てた全力の緑谷の攻撃、五指を弾数にし指を弾くたびに轟の放つ巨大な氷を破壊する衝撃波は観客席のヒーロー達も絶句させた。
「なっ、なんだあの少年。 並大抵の覚悟じゃ、あんな攻撃なんてできないぞ」
「精神性はすでにプロ並みといえるのか? だが何がそこまであの子を動かすんだ」
轟も緑谷を氷結で捕らえる為には破壊を乗り越えなければならない。数手のやり合いの後埒が明かないように見せて、距離を詰め接近戦を仕掛けたように見せかけた。
緑谷は罠に乗ってしまい地面を走る氷を僅かな目隠しにされ、左手の指を潰した迎撃の前に跳躍した轟が上から奇襲をかけ、なんとか躱すも至近距離の為地面に触れた轟の手から広がる氷結に緑谷の足が飲まれかける。
指とは比べ物にならない衝撃がステージをかけめぐり、足を少しのみ込んだ氷は破壊したが緑谷は左腕を潰した。二人は何かを話しているようだが、距離がある為全ては聞こえない。それでも。
「まだ僕は君に傷一つつけられていないぞ! 全力でかかってこい!!」
緑谷の観客席に届くほどの覚悟の言葉、轟の表情が歪み怒りよりも憎しみばかりとなり無造作に走り始めた。ただ動きが極めて鈍い、体が冷えて動きが鈍っていた。
覚悟に惹かれ舞華は一つだけヒントを出す。
「緑谷ぁ! 個性を使ってんじゃねぇ! てめぇの個性はてめぇの身体だろうが!!」
舞華の声が届いたのか少しだけ舞華の方を見た後、緑谷は小さく呟きながら壊れた拳を握り締める。それと共に全身から弱い光を放ち、至近距離の攻撃を試みた轟の腹部に鋭く早い一撃が入る。
にぶい音と共に15m以上轟が吹き飛び、それでも右腕が壊れた様子が見えない。壊れない程度ぎりぎりの個性を発動させている。
僅かながら継続的に全身から発せられるエネルギーの光、緑谷の個性は増強系超“パワー”だが詳細は分かっていない。
舞華は爆炎の個性であるが、轟の半冷半熱やエンデヴァーのヘルフレイムのように体からだけの放出とは異なるように、似ていても千差万別で共通性はない。だからこそ親子で似ていても異なる“個性”なのだ。だが、緑谷のそれは舞華ならよく知っている、連接再生の個性で繋がっているオールマイトと非常に酷似したそれと舞華は気付いた。
(まさか、緑谷が、後継者?)
『近接戦闘は轟の方が一歩上かぁ!? だが一撃入るごとに轟が吹っ飛ぶ!』
『技術は現状轟が上だが、超パワーの個性の緑谷の一撃は極めて重い。 力と技術の戦いになって来たな』
近接での殴り合いは僅かに轟の方が上、それでも壊れかけた右腕で緑谷は必死に戦う中、その表情は苦痛に歪むも見据える眼はぶれず、轟もまともに貰うたびに5から10m近く吹き飛ばされる凄まじい打撃。
「ヒーローに、なりたいんだ! だからっ! 全力でやってんだ、みんな!」
壊れかけた体でも一切引かない常軌を逸した緑谷の戦いに観客は無言となっていく。
そのためところどころ聞こえないけれど、心底、魂の叫びのような緑谷の言葉が競技場に響きわたる。轟は迷いが生じているのか、優先だった近接での殴り合いは轟が防戦ばかりとなり始める。
戦いながら何度も緑谷は轟に個性の事を、力の事を、ずっと伝え続けた。言葉は違っても、緑谷が痛々しいほど必死に助けを求めてくれと、轟に叫んでいる事は舞華にもわかった。
どれだけお節介のヒーローでも、手を伸ばしてくれなければヒーローはその人を助けられない。
超パワーに全身が蝕まれているのか、一歩踏み出すだけで痛みを堪えているだろう表情を浮かべる緑谷、腹部へと決まった攻撃に弾かれ、ステージギリギリで背後の氷を作る事で轟は耐えるも、飛び込んだ緑谷が突き出した拳が顔の横に叩きこまれ氷を吹き飛ばした。
「君の、力じゃないか!」
観客席にまで響く緑谷の声に、轟の左半身から炎が噴き出す。
「勝ちたいくせに、敵に塩を送るなんて……畜生。 どっちがふざけてるって話だっ。 でも、ありがとう」
轟が、緑谷に向けてとうとう手を差し出した。痛みで苦しそうに、それでも緑谷は笑顔を見せると歩きステージの反対側まで移動した。
「焦凍! やっと己を受け入れたか! そうだ、いいぞ! ここからがお前の始まり、俺の血をもって俺を越えてゆき、俺の野望をお前が果たせ!」
大声を上げるエンデヴァー。それを見た舞華が感じたのは嫌悪感、指導を受けて感謝していたが、エンデヴァーの見た事のない何かに囚われ歪んだ表情だった。
それでも、観客席にまったく意識を向けていない緑谷と轟の2人。
「俺だってヒーローに!」
「僕だって、負けられないんだ!」
2人が構えた時、舞華の眼には、オールマイトが誰に個性を継がせたのかわかった。八木さんからずっと見ていた同じ光を緑谷の右腕から、それも今まで分からない程度とは比べ物にならないほどはっきりと力強く放たれる光、舞華の中で誰が後継者なのか確定した。
だからこそ理解も出来た。緑谷はどこか危うくて、自分を犠牲にして他者を助けようとし、八木さんととてもよく似ている。
「今のありったけを!」
緑谷は壊れかねないほど右腕に光が集まり、両足のジャージが放出される力に負け、跳躍と同時にふくらはぎ周辺のジャージが引き千切れる。制御を捨て全身全霊を轟に向けて飛び込んだ。
轟は自らの正面以外全てを飲み込む巨大な氷の山を作り上げているが緑谷にそんなものはない。どう考えても分が悪すぎる。
「峰田! 覚悟決めろ!」
「なっなんの!?」
突然舞華に呼ばれ後ろ襟を掴まれた峰田は困惑しつつも、普段の慣れから無抵抗で持ち上げられた。舞華が観客席から爆炎の衝撃を利用して飛び出した後に強烈な衝撃が競技場全体に吹き荒れ、観客席の中にも飛ばされそうになる人が出るほど激しいモノだった。
『なっ、なにいまの。 お前のクラス何なの』
『散々冷やされた空気が瞬間的に高熱で熱せられ膨張したんだろう』
さすがのプレゼントマイクも困惑しつつも、ミッドナイト先生は吹き飛ばされた状態からステージに戻り、審判として判断を下す為周囲を見回す。
『競技場がなんもみえねぇ! これ勝敗はどうなった!?』
ミッドナイト先生が周囲を確認する中で噴煙が徐々に収まり、スタンドの壁にぶつかる寸前のところで舞華と峰田の2人に受け止められた緑谷の姿が見えた。
「緑谷君 場外! 勝者 轟君! 2人とも、早く緑谷君を保健室に連れて行きなさい」
叩きつけられる可能性があったために不問にされ、保健室へと運ぶように指示が出されたあと、素早く到着した救急担架ロボットに載せ通路へと戻っていった。