実験体MM   作:柳月&独鴉

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12.体育祭準決勝 魔神VS轟・爆轟VS切島

 順調にそれぞれの個性を生かし、誰かが勝ち残り、そして負けても大きな力を見せ続けた。負けた人は悔しさをばねに更に先へ。

 そして勝敗の中でお互いの個性の弱点や欠点、そして伸ばすべき所をクラスメイトやスカウト目的のプロヒーローが理解し、そしてヴィランにも知られてしまう。

 轟と魔神、爆豪と切島がベスト4へと残った。

 

「1枠はエンデヴァーの息子で確定なんだが残りはどうする」

「インゲニウムの弟を呼びたい。 あの速さは警邏と追跡にも有用だ」

 

「あの女の子絶対とる。 グッズを出せば売れるわよ!」

「そんなん誰しもが思ってますがな。 うちの弱小事務所じゃ無理ですよって」

 

 観客席にいる先を見越し、職場体験に呼ぶ程度の軽いものであるが、それでも体験中に結果を出せばそのままインターンシップへと繋がる。プロヒーロー達はそれぞれの理由で新人を求める。

 

 

 

 

 

 轟VS魔神

 ステージ上で対峙している舞華は気分を害していた。何かを睨みながらステージに佇む轟の姿は緑谷戦と何も変わっていない。あれだけ必死に助けようとしたことをいまだに飲み込めていないようだ。

 

『準決勝戦はじめていくぜぇぇぇ! 轟VS魔神!』

『おまえ、手を抜いてるな?』

 

 試合開始の合図と共に轟の足元から氷が地面を走るように舞華に向かって迫る。瀬呂を一瞬で飲み込み凍結させたステージを覆う巨大な氷山は舞華を飲み込みステージの半分が氷で閉ざされる。

 

『おおっっとぉ! これはさすがの魔神も氷に閉じ込め』

 

 強烈な破壊音と共に氷山が砕け火柱が立ち上り急激に溶かしていく。その炎を見て轟は憎しみの表情はさらに強くなるも、それと同時に何か迷いが目にも表れていた。

 

『魔神はどんだけの炎を出してんだ!? 氷を一気に溶かしちまったぞ!』

『授業でも魔神は轟の氷を寄せ付けない炎を扱う。 周りに被害が出ない場所ならなおさらだ』

 

 強力な個性である轟の氷の力はステージの外周や地面を凍らせる。最大限の氷結攻撃はそう繰り返せるわけではなく、周囲を冷却することで動きを抑制し接近戦を仕掛けようと試みているのだが。

 舞華のアンダースローから放たれる地面を走る炎の塊によって動きを制限され、防ぐ為に氷の壁を作り出しステージ中央よりも先から近付けなくなる。

 

『第一回戦で見せた炎が地面を走る技で轟を近付かせない! それも今度は攻撃の頻度が高いぞ!』

『どうやら負担が低いようだな。 相手の轟は接近できずかなりやりにくいだろう』

 

 二試合続けて個性を抑えて使用したために舞華の調子は良くなり、加減なく爆炎を使うことができる。相澤先生もそれに気付き、アナウンスルームから小さなメモ帳を片手に、のちの授業に反映させるためじっとステージを見ていた。

 最後の一手とはいえ緑谷相手に炎を使ったが、轟は試合が始まり3分が経過してもまったく炎を使おうとしない。地面を氷結させながら迫る氷塊も徐々に弱くなり、通路という空間ではない為魔神の放つ爆炎の熱で体を温める事さえ出来ていない。

 確かに魔神は耐熱・耐火が高く炎はほとんど効かない事を言っていないとはいえ、氷結の力を十全に使うには轟自身が炎を使用して氷の力の欠点でもある自己体温の低下を防ぐべきなのだ。

 

 

 

 

 舞華は遠距離から炎を放ち牽制を続けていたが、イライラの限界に達した。都合上胸を持ち上げるように腕を組み仁王立ちになると、睨む轟を見ながら声を荒げる。

 

「炎をなんで使わない。 あたしを舐めてんのか!」

 

 舞華が冷たく言い放つも、迷いがあるのか轟は何も答えず氷を自らの周囲に展開し、そこから地面を伝わせながら舞華を凍らせようとし続けていた。

 轟は自らを起点とし接触している場所を伝うように氷結の影響を与えられる。尋常ではない氷結の出力を誇り、対象を周囲ごと凍らせたりすることを得意としている。ただし凍らせた何かを単独で飛ばしたり細かい造形を作るのは苦手としていた。接触距離ならまだしも、距離を詰めなければ実技授業と全く同じになるというのに、炎を使用してさらに一歩先へと進む様子が見られない。

 

「手を抜くなら、オレも考えがある」

 

 舞華は体操着の上のジャージを脱ぐ。観客席からはもっと脱げとか、エロいとか、デカいとか、ゆらせとか、自重していない峰田のような声が年齢様々に会場に響き渡るも構わず上着に火を放ち上に投げる。

 

「平等院鳳凰堂 極楽鳥の舞」

 

 舞華の声と共に燃え上がっていたジャージの上着をコアに巨大な火の鳥が形作られ、轟を見下ろすようにその大きな炎の体で舞華の後ろに降り立った。

 観客席からは歓声と共に極々一部から燃えるのは嫌ぁぁぁぁと聞いたことがある声が響くが舞華は気にも留める事はない。

 

「ふざけた事しかしないなら、こちらもふざけたことしかしない。 それでも」

 

 本当の鳥ならば甲高い声を上げただろう動作をしたのち、舞華が轟に指先を向けると大きく羽ばたきながら炎の鳥は飛び立ち、体当たりするように通過するとステージ際まで弾かれ轟の体が燃え上がる。

 

「あぁぁぁ!」

 

 轟は氷の巨塊を生み出し盾とするも、その盾ごと轟を飲み込み炎が全身を焼き、蹲ると巨大な氷柱を作り出して周囲の火を消し、自らの表面にも薄く氷を作る事で炎を消し止める。

 

「轟、追い詰めるのは難しくないんだよ。 お前がどういう覚悟で、どんな地獄を見たかは知らないけれど」

 

 一歩ずつ踏みしめるように試合ステージの中央まで舞華は歩く。

 

「クラスメイトがヒーローになる為全力を尽くし、お茶子ちゃんは気絶するまで死力を尽くした。 そして爆豪もそれに全力で答え、緑谷が体をぶっ壊しながら必死に叫んで手を伸ばした。 そんな状態のあとでくそふざけた事しかしない奴に」

 

 戻ってきた極楽鳥を体操服の上着に戻し握りしめる。

 

「怒りの感情を、持たないわけないだろうが! てめぇあたしの炎の先に誰を見て戦ってやがる! お前の前に、あたしが来たんだ! あたしを見ろぉ!!」

 

 舞華は上着を投げ捨て、両腕を左右に開きながら体操着の背中部分を吹き飛ばすように爆炎を噴き出し大声を張り上げる。観客席からは歓声と共に一気に場が盛り上がった。

 

 

 

 緑谷と轟戦の時は声を上げたエンデヴァーは何も言わず、目を細めながら事の成り行きを見守っていた。エンデヴァーは舞華を知らないわけではない。

 日本において炎熱系トップヒーローであり、保護されたばかりの頃は未熟で無理やり強化された個性の制御もまともに出来なかった舞華であったため、エンデヴァーにとって先輩であったヒーローに頼まれ、渋々とだが危険が無いよう舞華に制御の指導をしている。

 親としては焦凍を応援したくもあるが、しかしヒーローとしては実験体として扱われた子が無事成長した事を喜びたくもあり、総じて一切口出しをせずじっと見守っていた。

 

 

 

 轟は何かを噛み締めながら立ち上がる。

 

「……まだ納得は出来ねぇ。 だが使わねぇのは卑怯だってのは分かった。 加減は出来ねぇ、覚悟をしてくれ」

 

 氷の半身だけではなく、橙色の炎を左半身から噴き出し急激に熱量が増していく。セメントス先生が作った耐熱性の高い試合ステージが徐々に溶け始めていた。

 

「お前を曇らせたもの、全て焼き祓ってやる!」

 

 舞華は背から噴き出していた爆炎を抑え構える。一方轟はステージの外周全てを大氷塊で覆い尽くし、急激に気温が下がり緑谷の時に使った温度差を利用した爆圧攻撃をするようだ。

 急激に温度が下がり大気の密度が上がると共に氷の中に閉じ込められ、そして超高温によって閉じ込められた氷が一気に溶けると共に熱による膨張と引火によって生じた衝撃がステージを全体を覆い観客席を爆風が駆け巡った。

 

『緑谷を吹き飛ばした大技! これは魔神も耐えられなかったかぁ!?

『それはどうだろうな。 予備動作が長い為に魔神は十分に備えていたように見えたが』

 

 ステージを覆う煙が収まり、見えてきたのは衝撃に吹き飛びもせず、まるで生贄として吊り下げられたかのように両手首を頭上で合わせ全身に炎を纏う舞華だった。

 舞華は自身の炎によって氷を溶かし、ほぼ同じ規模の衝撃をぶつけ完全に相殺していた。余りにも長い準備時間、現象が単純な熱膨張の大規模化、発動方法が超高熱の炎となれば、ステージ外周に広がっている氷を使うのは難しい事ではなかった。

 

「終わらせる!」

 

 舞華は何かを引き千切るように左右に腕を開きながら纏っていた炎を消し去り、自らの衝撃で体を痛めている焦凍に舞華は低い姿勢で走り拳を振りかぶった。

 

「眼を背けるな!」

 

 腹部・下顎・鳩尾・頬・胸部・脇腹と連続して殴打。

 

「前を見ろ!」

 

 轟は痛みで顔を歪ませながら反撃をしようとするも、舞華は左右に大きく両腕を開きながら爆炎を宿し、焦凍の体操服の襟を両手で掴み爆炎を接触距離で何度も叩き込む。

 

「ヒーローに、なりたいんだろうが!」

 

 舞華の頭突きは言葉と共に焦凍に当たると同時に爆炎をまき散らし、焦凍は衝撃によってステージ外のまで吹き飛んだ。

 

「轟君場外! 勝者 魔神さん!」

 

 観客席からは歓声と共に ミッドナイト先生によって勝敗の宣言がされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆豪VS切島

『さ~て始まるぜ! 個性硬化の切島! 対するは敵を全て吹き飛ばしてきた爆豪だ!』

 

 試合開始と共に硬化の個性を発動させひたすらの近接戦闘。戦闘センス抜群の爆豪は掌底の形をした攻撃で爆破を狙い、棘のある硬化した物体と化した切島の拳を避けると躊躇なく小規模の爆発が脇腹に叩きつけられ、僅かながら体勢がぶれた切島に対して腹部・胸部・顔・肩、連続し撃ち込まれ爆発音が競技場に響き渡る。

 防御型の個性ではないのなら、その小規模の爆発でさえ一撃で仕留められるだけの威力を持つ。

 

「効かねぇっての、この爆発さん太郎が!」

 

 だが爆発の煙の先には硬化によって無事な切島が現れ、拳を握り締め爆豪を笑みを交えながら睨み観客席は派手な戦いに歓声を上げる。

 切島は硬化の個性で身を硬め、防御せずに拳を振るい、時には手刀で攻撃を続ける。その間に何度も爆豪の掌底から繰り出される小爆破を受けるも、硬化の個性によって効果は見られない。

 しかし4分ほど試合が経過したところで何度も繰り返していたカウンターが入り、今度は切島が痛みで顔を歪めた。

 

「てめぇ速攻で攻め続けている間ずっと気張ってんだろ! そんなんじゃそのうち綻びがでるわ!」

 

 個性の連続使用に限界が来たと判断した爆豪、今度は連続した爆発を叩き込み、個性が揺らいだ場所に爆発が叩き込まれるたびに切島は痛みに表情を浮かべ足元が揺らぐ。

 

「どどめぇ!」

 

 爆豪が扱う中で対人では限界とも言える中規模爆発。それ以上となれば大爆破で溜が必要であり反動の覚悟がいる。

 叩き込まれぐらりと倒れかけるも、足を肩幅以上に開きながらふんばり切島は耐えた。

 

『おぉっと! 終わったと思ったら切島耐えたぁ! ナイスガッツ!』

 

「こちとら、連日の特訓で魔神と梅雨ちゃんにぶっとばされ焼かれ続けたんだ。 この程度じゃまだおちねぇぞ!」

 

 気合を入れ直し全身余すところなく硬化の個性を再び纏う。切島は後の試合を一切考えないがむしゃらの前進攻撃。爆豪の読みではすぐにほころびが出るはずが、特訓で得た緩むたびにすぐに再発動する個性。小爆破では効果がないと中規模の爆破を構わず叩き込むも、切島も一切引かず爆破されながら繰り出される拳が爆豪に叩きこまれる。

 

「くそがぁ!」

 

 歯を食いしばり真正面から殴りに行く切島、僅かな再発動で生じる間隙に小爆破が顔面に叩きこまれるもそのまま押し切り爆豪の胸部に拳が撃ち込まれ、さすがに一歩下がり爆豪は痛みを堪える表情を浮かべた。

 

「退っかねぇ!」

「がぁぁ! 上等だ!」

 

 大振りとなれば切島の拳や蹴りは避けられ、カウンターで何発も爆破が叩き込まれるも、それも耐えながらひたすらに前進しながら拳を振るう切島。観客席からはその個性の頑強さと精神力に歓声が上がる。

 圧倒的勝利こそが爆豪にとって重要故に卑怯な真似はしないが、勝つ為に各所の硬度・引き締め方・動きなど観察を続けながら小爆破の攻撃を続け、4歩跳躍するように下がる事で距離を爆豪は取った。

 

「てめぇの硬さは分かった! これで吹き飛べやぁぁ!」

 

 両掌を切島に向けほぼ全力の爆発、麗日の瓦礫落としを防いだ以上の、強烈な弾ける音が爆豪の両腕から発せられた。ステージの半分を覆い観客席まで衝撃が届く爆発によって切島はステージ外、観客席フェンスに叩きつけられてもまだ硬化していたが、一歩フェンスから踏み出したところで個性が解け地面に倒れた。

 

「くそが、手間ぁかけさせやがって」

 

 爆豪限界の最大爆破、悪態は着くが馬鹿にはしない。ここまで耐えられたのは予想外だったが、自らが一歩先に成長した実感もあった。凶悪な笑みを爆豪は浮かべながら吹き飛んだ切島を見ていた。

 

『勝者 爆豪君!』

 

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